社会に関連する膨大なデータの相関をAIが分析した結果をながめる番組。
アプローチも結果も面白く、思い込みによる硬直した議論を打破する上で画期的ツールになりそうだ。
特にNHKの誘導をかわすマツコの冷静な分析が素晴らしかったけど、バナナにこだわるのはまずいって(笑) (注:バナナについては一番最後に!)
■AIの提言がなかなか面白い。
1.健康になりたければ病院を減らせ
2.少子化を食い止めるには結婚よりもクルマを買え
3.ラブホテルが多いと女性が活躍する
4.男の人生のカギは女子中学生のぽっちゃり度
5.40代ひとり暮らしが日本を滅ぼす
それぞれに、ああそういう見方があるんだね。どうも背景にはこういうことがあって、だからこういうことの影響が大きいのか、なんて気付きがあって、あたらしい視点が誘発される。
■具体的にどういうアウトプットが見られるかといえば、下図のとおり。
例えば、「健康になりたければ病院を減らせ」というのは【病院数】が減少すると連動して変化する項目が抽出され、【65歳以上死亡者数(男)】が減り、【趣味・娯楽平均時間】が増える、という具合。
うーん、なるほどね。
具合の悪い人のために病院を増やすという受け身の対策よりも、病院を減らすことで逆に社会に出ていく人が増えていくという今までになかった逆回転の発想。
それもありだね!
という感じ。
■その一方で、【病院数】が減少すると、【バナナの購入額】が増え、【50m走女子】のタイムがよくなる。なんて、もう、さっぱり分からないものまで出てくる。
しかも、この手の複雑系ではリンク(腕)の多いノード(結節点)、いわゆる「ハブ」がそのネットワークの重要なカギを握るものだけど、それから考えれば、【バナナの購入額】は【65歳以上死亡者数(男)】より影響力を持つらしい(笑)。
この図に相関係数をつけてもらえるといいんだけど、やっぱり複雑すぎて、全貌を正しく理解するためには表現方法を研究する必要がありそうだね。
そこがうまくできないと、【風が吹けば、桶屋が儲かる】的な理解になって、ああ、景気をよくするためには風が吹いたときに砂塵が舞うように舗装道路はやめればいいんだね、みたいな変な話になってしまうわけだ。
■それが強く出てしまったのが
【少子化を食い止めるには結婚よりもクルマを買え】
だと思う。
【少子化】減少―【工業製品付加価値】増―【高額工業製品購買額】増
ってなリンク構成だったかな。
それをもって、クルマという【高額工業製品】を買うと、【少子化】が止まる、というのはおかしいよね。
【結婚数】との相関関係がないのは、経済的余裕がない、ということだろうと想像できて、車が売れれば、経済的余裕も上がって子供を作れるようになる。
という解釈なんだけど、それってアベノミクスの思想と同じで、企業が儲かればお金が消費者に回ってきて消費が回復する、という過去の幻想にとらわれた発想でまったく説得力がない。
■だって、90年代初頭にバブル崩壊の余波が世間に流れ出し、そこから今の長期デフレにつながっているわけだけど、その間にクルマは一気にハイブリッド車が普及して、車種もセダンからミニバン、SUVに切り替わり、クルマ以外でもパソコンはものすごい勢いで普及し、ブラウン管のテレビは消え去り、携帯も一人一台の時代になって、さらにスマホにほぼ買い替えられた。
でも、デフレは変わらない。
何が起きたかと言えば、価格破壊だ。
新しく生活に入り込んできたパソコンにしても、80年代のデスクトップなんて30万円以上したよね。それが今ではかなりの性能のパソコンでも3万円で手に入る。
ハイブリッド車だって、別に500万円で買っているわけではなくて、クルマの値段は高くても200万円台という構図は変わらない。そのなかで高付加価値が進んでいるのだ。
クルマはまだ国産優位だから、シャープみたいな事態には陥らないけれど、これからEV化、自動運転化というなかで多業種や中国なんかもどんどん参加していく構図のなかで、自動車業界でのシャープが現れてきてもおかしくはない。
ようするに、今後、自動車に再び買い替えブームが訪れても、それ以外の、パソコンとかスマホみたいな【新しい何か】が我々の生活に入ってきたとしても、それによって【消費マインド】は変わらないし、【少子化】を食い止めることにもならない。
今回のAIのデータの評価にこの20年間の社会構造の変化が織り込まれている様子は無くて、それを評価分析するのは人間の仕事だ。
AIのはじき出した【構図】の裏を想像しなくてはならなくて、それを怠って、データを鵜呑みにすれば、【風が吹けば、桶屋が儲かる】のわなに容易にはまってしまうのだ。
■では、これを踏まえて、今の日本を少し眺めてみよう。(グラフはクリックして拡大してみてください。)
●まずは、生きていけないほどの極貧について。
最近、貧困化が叫ばれてるから、【餓死者数(死因:食料不足)】と【ホームレス】の推移を調べてみた。
これをみるとバブル崩壊で餓死者は4倍にはね上がり(それでも80人)、2000年くらいを頂点にして2010年にはバブル期くらいにまで低下している。
ホームレスについては、昼間に目視で調べているから実数は考えないとしても、傾向としては2003年から2017年まで5分の1ちかくまで減少している。
どうやら極貧のピークはバブル崩壊直後10年くらいにあって現在はそれが解消に向かっているようだ。
・餓死者数(死因:食料不足)推移
(出展:厚生労働省「人口動態調査」より、こころーたすさん作成)
・ホームレス数推移
(出展:厚生労働省「ホームレスの実態に関する全国調査結果」社会実情データ図録さん)
●次に「苦しさ」について
でも、時代の閉そく感は言われていて年間3万人の自殺者がでていて大変な事態だと言われていたが、そこはどうか。
自殺者については、1978年から1982年まで2万人くらいだったのが、1983年から1988年のバブルの時代に2万5千人近くに増加、その後1991年まで2万人近くまで低下して、1993年から徐々に増加、1998年に一気に3万3千人に跳ね上がる。その後3万人越えの高止まりが続き、2009年から低下し始め、2015年には2万4千人と、1993年あたりの低いレベルに戻った感じだ。
どんな社会でも自殺者はいると考えると、まあ通常の状態に近くなってきたと言えそうだ。
これはちょっと予想外だった。バブル崩壊と直接リンクしているわけではないし、リーマンショック直後から自殺者は安定的に減り続けている。
これって貧困の固定化っていう常識と違うよね。
・自殺者数推移
(出展:警察庁自殺統計データより厚生労働省作成)
●で、「なんで自殺したの?」と調べてみると、どうも構造的な変化が起きているみたい。
ピークの2009年(リーマンショックまっさかり)と低下の真っ最中の2014年を比較してみる。
2009年 2014年 差
健康問題 15,802人 12,920人 ▼2、882人
経済問題 8,377人 4,144人 ▼4、233人
家庭問題 4,117人 3,644人 ▼ 473人
勤務問題 2,528人 2,227人 ▼ 301人
ここから見えてくるのは、全体の半数近くを占める健康問題での差は比較的少なく、圧倒的に経済問題を理由とした自殺が減少している。2014年時点でピークの頃の半分以下ということだ。
経済的に追い込まれて、っていう人はまだまだ多くて、つらい格差社会が続いているという印象は、このデータからは受け取れない。
・自殺原因推移
(出展:警察庁自殺統計データより内閣府作成)
●景気について
じゃあ、経済の実態ってどうなのよ。
何しろ食っていけるかどうかの話だから、まずは失業率である。
バブル崩壊直後の2%ちょいから増加し始め、2003年にピークの5%越え、ITバブルで一旦下がるものの、2008年のリーマンショックで5%に戻る。
けれど、それからの回復は順調で現在の失業率は3%くらいで1988年のバブル期と同じレベルになっている。
これって自殺者の推移とピタリとあてはまる。
すごいね。
【自殺者数】と【失業率】の相関関係はかなり強いといえるだろう。
もちろん、失業率に就職活動をしていないニートは含まないけど、食っていければ自殺するほどではない、ということだろう。
・失業率推移
(出展:IMF - World Economic Outlook Databases (2017年4月版)より、世界経済のネタ帳さん)
●で、次に生活保護受給者数を見てみる。
生活保護受給世帯は長らく60万世帯くらいで低かったけれど(ひと世帯の人数が多かったから受給人数は多かった)、景気拡大とともに1985年のバブルのピークで80万世帯くらいに拡大、バブル崩壊で増加すると思いきや、ここでも【自殺者数】、【失業率】と同じく低下に転じ、1995年頃から増加、ここから違うのは一貫して2014年まで急増が続く、というところ。
2014年には受給者の増加は止まったようで、現在は減少に転じているかもしれない。
問題はその内訳で2004年と2014年を比較すると、全体の増加率が1.6倍、高齢化世帯1.6倍、母子家庭1.2倍、障害者世帯1.3倍に対して、その他の世帯≒稼働年齢層、つまり働いている世代の家庭で3倍に膨れ上がっているということだ。
失業率は改善しているのだから、働いてはいるもののかなり収入が少ない、ということだ。
だが、それも増加率はマイナスに転じているから、定収入世帯は安定期から解消に向かいつつあると読める。
2016年の数値を見ると総数は若干増えて最高値だけれど、高齢者の増加(全体の51.3%←2014年、47.2%)が原因で、そのほかの世帯は減少している。
生活保護に関しては、経済格差とか不況の影響というよりも、高齢化による構造的問題というシンプルな構図になったようだ。
・生活保護受給者数
(出展:社会・援護局 保護課 資料H27年)
●経済指標について
アベノミクスが大好きな、GDP成長率、インフレ率、日経平均についてみてみよう。
GDP成長率は1988年のバブル最盛期に7.15%を記録、その後、0~2.5%が続き、リーマンショックで-5.4%と下げて、反動で+4%を記録したものの(あれだけ下げれば当然だよね)、その後、現在まで1%あたりをふらふらしてる。
インフレ率に関しては、1988年以降、3%を超えることはなく、2014年に瞬間的に3%を記録するが、基本ー1~1%で推移。
日経平均については、バブル崩壊以降、マクロに見れば2万円から1万円のレンジ相場で、アベノミクスで日銀が必死に買いに走ってもどうしても2万円から突き抜けることはない。アメリカのNYダウがリーマンショック後も復活して最高値を更新し続けているのとは対照的だ。
・経済成長率推移(日本、GDPベース)
(出展:IMF - World Economic Outlook Databases (2017年4月版)より、世界経済のネタ帳さん)
・インフレ率推移
(出展:IMF - World Economic Outlook Databases (2017年4月版)より、世界経済のネタ帳さん)
・日経平均株価推移(長期)
●これをどう見るかというと、リーマンショック後の2009年から失業率も自殺数もバブル期のレベルまで一定率で回復している一方で、こういったマクロの経済指標にはそことの相関は強くない、というところだろう。
少なくとも働く世代の極めてつらい状況は、リーマンショックを最後に長いトンネルを脱した。
GDPも、デフレも、日経平均も、実は、さほど関係なくて、それなりに何とか生きていく道は開け始めているように見えるのだ。
給料は安くても、仕事さえあれば、このデフレの時代だから贅沢さえしなければ、まあまあ生きていける。
リーマンショックで膿を出し切った日本社会は低賃金、低消費に完全にシフトして安定してる。少なくとも飢え死にしたり、住む家さえないなんてことは無くなりつつある。
アベノミクスが上手くいったとか、失敗だとか、政府や偉そうなエコノミストがぐちゃぐちゃやっているあいだに、日本人はしなやかに、したたかに、時代に沿った生き方を選んびとったのだと言えるだろう。
はっきり言えば、日経平均なんてどうでもいいのだ。
むしろインフレになったら困る、余計なことをしないでくれ、というのが正直なところだろう。
●じゃあ、もともとの【出生率】と【自動車販売台数】についてみてみよう。
1970年代に2を割った【合計特殊出生率】はじりじりと下がり続け、2006年の1.26を最低値として2015年の1.45まで回復してきた。
経済的なものが理由なら最低値はタイムラグも考えれば2009年以降になるだろう。
【自動車国内販売台数】でいえば、その頂点は1990年であり、長い目で見ると今回の番組のAIの見方が、ここ10年、20年の短期的視野である可能性が見えてくる。
経済成長とか、景気ってのは出生率にはあまり関係ないのだろう。
・合計特殊出生率推移
(出展:厚生労働省「人口動態調査」より内閣府作成)
・国内自動車生産台数推移
(出展:日本政策投資銀行資料 2005)
(ガベージニュースさん)
■では出生率2を達成したフランスはどうか。
フランスは1994年を変曲点に上昇に転じている。確かに1994年に経済成長率の回復があるけれど、それ以降の変動に対する相関は見られない。
・合計特殊出生率推移 日本、フランス比較
・フランス経済成長率推移
(出展:IMF - World Economic Outlook Databases (2017年4月版)より、世界経済のネタ帳さん)
■フランスの出生率を上げた理由が子育て世代の女性が働きやすい環境を国家を上げて徹底的に作り上げた、という話らしく、じゃあ、日本はどうなのかと調べてみれば、以下の通り。
・年齢階層別就業率(女性、日本)
(出展:総務省統計局 )
確かに1993年には30歳になると女性の半数は職場を離れていたのだけれど、2013年には70%が働き続けている。
うちも共働きでひとりっ子。このグラフで言う2003年の世代である。
男女雇用均等法は1986年施行、1997年に一部改正して女性の休日出勤、深夜残業の規制がなくなった。
女性が働くのは当たり前であり、なんで女が会社を辞めてキャリアをあきらめなきゃいけないんだ、という意識が浸透した時代なのである。
もちろん、バブル崩壊以降の非正規雇用拡大に伴う旦那の収入減で、女性も働き続けないとやっていけないという構図もあるだろし、それが重なっての30代前半女性就業率70%なのだろう。
■「日本死ね」
じゃないけど、確かにジジババと離れて暮らす共働きでの子育ては日本ではとても難しいのは実感だ。
女房にはかなり無理させました。ごめんなさい。
少子化は、成熟した社会が女性の仕事による自己実現が当たり前になったときに絶対に起きる問題なのだ。それが避けられない社会構造の問題ならば、それを前提としたうえで社会構造の方で変わっていかなければならない。
バリバリの個人主義のフランスは85%の女性就業率なのだそうで、それで出生率2%が維持できてるフランスは本当にすばらしい。
「クルマを買いなさい」
とか、言っている場合ではないのだ。
でも、まあそれはAIのせいではなくて、読み取る側の問題だろう。
あえて突飛なアイデアを選んでみましたというのは分かるし、今回に限っては、そんなに目くじらを立てることでもないかと思う。
■出生率とか、高齢化とか、たぶんかなり重大な問題なんだけど、【今】という断面だけに意識を向けると、実はそんなに悪くない時代なんじゃないかな、と思い始めてきた。
経済ニュースばかり見てるからか、一向に出口の見えない日本経済なんてフレーズが脳みそに定着してしまっていて、今って、最悪の時代とつい思ってしまう。
でも、飢え死にする人はあんまりいないし、自殺者数も通常に戻ってきて(いや、一人でもいたら悲しいけどね)、給料は安いけど仕事はとりあえずあって、食ってはいける。
昔みたいに海外旅行行ったり、新車買ったりは出来ないけど、逆に、クルマも売っぱらって維持費もいらないし、浮いたお金でうまいもの食いに行って、それをFacebookにアップして、それでまあ満足かな。
っていう価値観だったら、別に不幸せでもないだろう。
■今回の番組で後半、集中的に取り上げたのは
【 40代ひとり暮らしが日本を滅ぼす】
という、有働アナにとっても自虐的なテーマ。
でもさ、確かに『孤独』って、ネガティブな部分もあるけど、まあ、それでいいんじゃないのかな、と思っている人に無理にあがけというのも酷な気がするよね。
上に書いたみたいに、「必死になって高い給料もらえる会社に入って、バリバリ働いて偉くなりたい」って価値観が消えてきて、「まあ、ほどほどに生きていければいいんじゃね?」となるならば、少子化や、独居老人の問題も含めて自然と解決に向かうんじゃないだろうか。
フランスみたいな国家が前面に出て引っ張るやり方もあるけど、「空気」を大事にする日本とは少し違うかもしれないし。
田舎で暮らそうとか、
シェアハウスとか、
どうも、そういう「空気」が生まれてきてるよね。
そうしたら自然と今の日本に蔓延している『孤独』も解消されていくんじゃないだろうか。
たぶん、背水の陣の地方からそれを具現化する仕組みが生まれてくるのだと思う。
もう、40代、50代で十分若いからどうぞ来てください、みたいな。
国が頑張るとしたら、そういう地方の努力の邪魔をしないで自由にやらせて、黒子に徹して支援することだと思う。
そういう意味で、この番組が地方自治体を回ってきた姿勢は素晴らしい。
こういうのは中央官庁じゃできないよ。
■あと、マツコがこれからは農業だと思うと鋭いことを言ったのには驚いたけど、ロケで全国いろいろ回って見たり話しをしたりしてるからそういうことが出てくるんだね。
今回はAIの中でのリンクの話だったけど、日本国中で、いろんなアイデアのリンクがつながると、凄いことが生まれそう。
例えば、今回NHKのAIが作ったリンクを掲示板に張って、日本全国のいろんな人が困ってることとか、それに対するアイデアとか、提示された不思議な関係性に対する実体験に基づく考察だとかが、重層的に書き込めるような仕組みが作れれば、それが思いもよらない成長をしそうだね。
なんか、ぐぐぐだと書いてしまってけど、結論としては、超弩級の可能性を秘めたプロジェクトだと思うので、NHKさん、頑張ってください。
■ところで、【ラブホテルの数】と直接の相関が気になる【バナナ購入数】だけど、調べてみたら1989年に「朝バナナダイエット」なるブームがあって、これが原因臭いね。
・バナナ購入数量推移
(出展:総務省 家計調査)
女性が元気になる→ダイエットが気になる→バナナが売れる
ということじゃないのかな。
だから【病院数】とか【ラブホテルの数】と直接の相関が出てくる。
マツコの淫靡な想像は外れ(笑)。
調べてみると、納得のいくデータが見つかるから面白いね。普通じゃ思いつかない。
でも、バナナを売れるようにするのが大事じゃないってのは分かるよね。
結局、女性がいかに元気で楽しく暮らせる社会をつくるか、ってこと。
うーん、おっさんとしてはちょっと微妙な結論だけど、まあ、たぶん正しいんだろうね。
さっそく女房にバナナを買い与えることにしよう。
<2017.07.23 記>
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