ちょっと遅くなったけど、久しぶりの爆問学問。
今回のテーマは、デザイン思想。
■ 爆問学問『爆笑問題のニッポンの教養』(番組HPより)
FILE070:「シンプル最高/再考」 2009.4.28放送
武蔵野美術大学基礎デザイン学科教授、
日本デザインセンター代表、原 研哉。
■アートは’私はこう思う’、
というのに対して
デザインは’共感してもらいたい’。
という原さんの言葉が、わたしの中でずっと居座っていたもやもやを一気に晴らしてくれた。
■芝居をやっているときには’自己満足’と’観客の受け’との戦いであったし、
工業製品の設計をしている今でも、相変わらず’自己満足’と’販売成績’との戦いの日々なのである。
■芸術作品を作り上げる過程でそこにいるのは’わたし’と’対象’だけであり、その対峙のなかから’アート’が生まれてくる。
一方、「デザイン」を作り出そうとする段で欠かすことが出来ないのは’他人の目’である。何故かならば、デザインの本分は’相手に伝える’ことにあるからだ。
もちろん、このブログを書いていることも含めて、私が目指すのは他の人が喜んでくれることであり、常に「デザイン」だ、ということだ。
ああ、すっきりした。
■けれど、そのアプローチは世界共通というものではない。
だから、演劇にしても、クルマの設計にしても、そういう’アイデア’になかなか至らないのである。
■ユーラシア大陸を東を下にして90度傾けると日本は世界の一番下にいて、ヨーロッパだとか、インドだとか、中国だとか、そういったさまざまな文化があたかもパチンコの玉が釘に跳ね返りながら落ちてくるようにニッポンにむけて集まってくる。
そういう雑多な文化の影響を受ける環境のなかで、日本は銀閣寺を象徴とする独自の「シンプル」を生み出した。
■ドイツ製のナイフと日本の板前さんが使う柳刃包丁の比較が分かりやすかった。
手の形に添って力が入りやすいグリップをデザインするドイツ製ナイフの機能美。工業製品をつくる者にとってとても分かりやすいアプローチであって、かくありたいという指針であったりもする。
その一方で、柳刃包丁のにぎりはなめらかな楕円の棒であって、過剰な情報を一切そぎ落とした、原さんの言うエンプティ(空っぽ)なのである。
皮肉なことに、その’空っぽ’が板前さんの超絶的技巧を支えているのだ。
■ドイツの機能美は「使い方」を規定する。
デザインをコミュニケーションと捉える原さんの見方でいうならば、一方通行の投げ込みでキャッチボールの楽しさ、豊かさが無い、ということになる。
決してドイツ流が悪い、といっているわけではない。私も機能美が大好きだ。理由をもったカタチにワクワクする性質なのである。
■けれども、何かを生み出して誰かに分かってもらおうとしたときに、しっくりとくるのは’空っぽ’の柳刃包丁のアプローチなのだ。
すべてを規定してしまわない。
すべてを伝えない、伝えようとしないからこそ伝わるものなのである。
逆説、或いはパラドックス。
けれども、そうだよな、と深くうなづいてしまうのは私が日本人だからなのであろうか。
議論をしていて時々「正論を吐く」ひとに出会うのだけれど、確かにあなたは正しいけれども絶対に共感なんかするものか、と思ったりする。
そういう感覚に近いのかもしれない。
■要するに’残された余地’、’間(ま)’が無いのである。
太田が紹介してくれた、「おもろい夫婦」のミヤコ蝶々さんの話もそれを補強してくれる。
すべては、’間(ま)’ なんですよ。
人の’間’と書いて、人間。
時の’間’と書いて、時間。
世の’間’と書いて、世間。
漫才だけじゃない、ぜんぶ、’間’なんです。
こころにすっと入ってくる、いい例えだと思う。
蝶々さん、すごい人だったんですね。
■さて、「シンプル」をテーマとした割りには随分と長い文章になってしまった。
まったくいつもこんなんなんで、まだまだ修行が足りないのだ。
けれど、文章における「間」というのは読み手が認識する’行間’とかそういったもので、ことさらシンプルに「イイタイコト」に絞り込む駿台の小論文的アプローチは’点数’は取れるかもしれないが、味わいとしてはどうだろう、とも思ってしまうのである。
ここでいう’味わい’を感じてもらいたいのはもちろんこれを読んでくださっているアナタである。
■だから、そういうリズムを心がけているつもりなのだけれど、どうなのかな。
アナタに’いい味わい’と感じてもらえているかをリアルタイムで直接知ることが出来ないのがもどかしい。
文章を書くひとは皆、同じ悩みを抱えているに違いない。
だから、
いつも、あらゆる可能性に覚醒していること。
という、原研哉さんのアドバイスがとてもうれしい。
大切なのはテクニックではなく、こころの在り方なのである。

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<2009.05.11 記>
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