■【書評】『教えてみた「米国トップ校」』 佐藤仁 著。 アメリカ大学事情の姿を借りた【知】の現場をめぐる人間論。
日本の知力は決して負けていない。
それを支えているのは、経済的にも社会的にもどうでもいいことに対する好奇心と、それを許容するおおらかさである。
【新書】教えてみた「米国トップ校」 (角川新書) 2017/9/8
佐藤 仁 (著)
■アメリカを動かすトップエリートたちを輩出し続けるハーバードやプリンストンといった一流大学は世界大学ランニングで万年低評価の東大なんぞより格段に素晴らしい大学だと我々は信じ込んでいる。
曰く、
・入学はやさしいが卒業は難しい
・討論形式の授業は日本の退屈な講義に勝る
・異彩を放つ人材の宝庫
しかし、東大を出てハーバードで修士をとり、現在は東大で教えながらプリンストンでも教鞭をとる佐藤仁氏は、本書でその常識を打ち壊す。
そこに描かれ米国エリート校の実態は、高校時代の成績がオールラウンドでトップクラスを維持しながらも入試の論文でアピールするための「経験」獲得に汲々とする受験生、入学したらしたで就職のために大学での成績ばかりを気に掛け、それぞれの主張はあるがどこか似たような雰囲気の学生たち、というものだ。
■その一方で、役に立たないことでも学ぶことが出来、相互扶助でギスギスしない、風変わりな個性を醸し出す学生をも包み込む東大のおおらかさが示される。
しかも論文の構成力などから考えて、決して東大の学力が劣っているわけではなく、全般に少し冷めていて突破力のある学生が少ないという性格の差があるだけだ。
佐藤氏は、それを自らの経験を交えながらも学者らしくデータを示しながら論理的に解説していく。
しかしながら氏はそういった「データの数値」を構成するひとりひとりの生徒にもまなざしを向ける。それは決して体験した者にしか語れないものだし、それ故にそこいらの評論家には決して真似をすることのできない深みがそこに横たわる本質をしみじみと伝えてくれる。
しかもその手法によって、アメリカと日本の社会的、文化的背景が肌身の感覚として立ち上がってくる。ここにおいて本書は単なる「アメリカエリート大学受験情報本」という枠を大きく逸脱し、アメリカの圧倒的パワーの裏に潜む「孤独」や、日本が守るべき強みとしての「寛容」が描き出される。
そしてそれはらせんを描くように「【知】とは何か」という高い地平で再び大学論に舞い戻る。
大衆受けのする「キャッチー」なテーマに隠して本来語りたいことを密かに語る、そういう小気味いい、ある種の狡猾ささえ感じさせる展開であり、氏の戦術的知性がうかがえて面白い。
■今回あぶりだされた
「グローバリゼーション全盛の世界における【知】の問題」と「日本の大学が担うべき役割」
というテーマはあまりに重要で深い問題であり、これについては次回作でさらに掘り下げて語っていただきたい内容である。
たぶん、その鍵となるものは氏が本書で見せた「【データ】を構成するひとりひとりの生きざま」に対するまなざしに関わるものであり、それ故に、日米の大学比較という表層の論議以上に著者が語るにふさわしい内容だと思われるからだ。期待して待つ。
<2017.10.31 記>
この記事は、2017.9.14にAmazonに投稿した内容を加筆修正したものです。
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