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2017年10月25日 (水)

■【映画評】『マイマイ新子と千年の魔法』 片渕須直監督。千年のつながりに気づくとき、身近な死がやわらかく心の中に降りてくる。

Amzonで配信されているのを発見。早速視聴!ああ、このぐっとくる感じ。やっぱりいいですよ。片渕さん!

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.112  『マイマイ新子と千年の魔法』
          監督: 片渕須直 公開:2009年11月
       出演: 福田麻由子 水沢奈子 森迫永依 他

Title

■あらすじ■
戦後10年ごろの周防の国、山口。田園風景の広がる町に空想力の豊かな小学三年生の少女、新子が住んでいた。おじいちゃんから、ここは千年前にここにあった都とつながっているんだと教えてもらった新子は、おでこのつむじのマイマイをなでながら、千年前の人たちが待ちゆく姿を目の前に浮かび上がらせてはひとり楽しんでいた。

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そんなある日。都会から転校生の貴伊子と出会い、ともに空想のなかで遊ぶようになる。その千年前の都には独りぼっちのお姫様がいて、ふたりは彼女の寂しさに心をめぐらす。。。

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■『この世界の片隅に』の、すずさんの世界から10年くらい後。広島のお隣の山口でのお話。

片渕監督は、この映画のイベントでのふとしたきっかけにより、こうの史代さんを知り、『この世界の片隅に』に至ったのだという。

実に運命的な作品だ。

そして、『この世界の片隅に』のあとに、この『マイマイ新子』を観ると、あの映画の要素のほとんどがすでに詰まっていることに驚くのである。

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おおらかで毎日をたのしく駆け回るこどもたち、けれどその底流には暗くて重いものが流れていて、それを知ってか知らずか、川は流れ、草はそよぎ、雲は流れ、蝶がひらひらと遊んでいる。

原作はまったく違えども、『この世界の片隅に』の世界観そのものだ。

いや何しろ新子のお母さんがまるですずさんの10年後のようで、ありゃー、やってしもうた、とは言わないものの、不意に見せる彼女のおとぼけ具合に、ついほっこりしてしまう。

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■そして、この物語の重要な要素は、1000年前のお姫様。

いると思っていた同じ年頃の娘は病によってすでになく、遊び友達のいないお姫様はひとり寂しく過ごしている。

そして、彼女が切り刻んで流す赤い色紙が1000年の時を超えて、新子と貴伊子たちのもとに金魚というかたちとなって現われる。

新子と貴伊子が夢想する1000年前のさびしいお姫様は実在し、その想いがふたりのもとに流れ着くのだ。

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■あこがれのひづる先生曰く、きっとそれは諾子というお姫様で、いま我々の知る清少納言であるということをひづる先生が開いた本が教えてくれる。

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普通の物語りならば、夢であれ、現実であれ、この寂しい歴史上のお姫様と二人を引き合わせ、困難に立ち向かう構図となろう。

しかし、1000年の時は金魚のひずると貴伊子の一瞬の夢以外に交わることはなく、この物語はあくまで現実をたどっていく。

この抑制こそが、逆に1000年という時をそのままに感じさせる。

はるか昔から、諾子の生きた平安時代を通り過ぎ、新子と貴伊子の頬を撫でて、われわれの今に、そしてこれから先に続く未来に。

流れていく時間というものを、ずっと自然は眺めてきた。

われわれが空や山々や草原に遊ぶ虫たちやせせらぐ川を眺めるとき、自然はそこに永遠を見せてくれる。

物語の終盤に、われわれが生きていく上でそれがどういう意味を持つのかを、言葉ではなく、感情として悟る。

 

『枕草子』 清少納言

春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。

夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほかにうち光て行くもをかし。雨など降るもをかし

秋は夕暮れ。夕日の差して山の端いと近うなりたるに、烏の寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず。

冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

小川をせき止め、小さな池を作ることで子供たちは絆を深める。

金魚のひずるを祝いはしゃぐのだが、貴伊子の失敗でひずるは死んでしまう。

という、もう一つのテーマがここで提示される。

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■貴伊子にとって記憶にすら残っていない母の死。

みんなが頼る年長のタツヨシ。

生き返ったひずるを見つけるべく、みんなを引っ張るタツヨシだったが、そのタツヨシが信じる強い父の象徴である木刀の裏に潜む影は、残酷な「死」という形で彼をどん底に突き落とす。

ここで物語は大きく暗転する。

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■みんなに信頼される警察官であったタツヨシの父が、ばくちと街の女に入れあげ、借金を返せずに自死を遂げる。

そのことを知った新子は夕闇が迫る中、タツヨシのもとに向かう。

 
バー・カルフォルニアの女をやっつけてやろう!
 

タツヨシと新子の大人の世界に対する決死の殴り込みは、その悲壮さがかえって愛らしい。

繁華街に潜り込むふたりの覚悟が滲み出すシーンはとても素敵だ。

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大人の世界と子供の世界の断絶。

しかし、タツヨシの父の死を知った大人たちは、その垣根を取り払って二人にこころを開いて見せる。

戦後10年の時代において、死というものは当たり前にあっただろうが、それ故に、分かり合える共通語でもあったのだろう。

タツヨシがずっと抱えていた強い父へのあこがれと、弱い父への反発は、父の死を受け入れることで解き放たれる。

暗い小川のなかで、新しいひずるを見つけ出す。

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■一方、貴伊子は夢の中で諾子と重なりあり、自分がたどった道を諾子に歩ませ、村の子供にこころを開かせる。

ここでは貴伊子と新子の物語を追いかけるように1000年前での再話が行われ、時間というものは一方的に流れるのではないことが示される。

1000年前の諾子の時間も、今を生きる貴伊子の時間も、そして貴伊子の母が生きた時間も、同時に並行して流れているのだ。

記憶とか、想いをよせることがある限り、それはずっと寄り添うように流れている。

貴伊子は言葉ではなく、気持ちとしてそのことに気づくのである。

そして、ひずるの墓を史跡のそばにつくることで、ひづるは永遠に生きるよね?とおじいさんに問うた新子への答えが、ここで提示されるのだ。

タツヨシにとっての父の死、貴伊子とっての母の死、新子にとっての大好きなおじいちゃんの死。

死は、死として厳然とあるのだけれど、その思い出がある限り、その人の人生は決して死ぬことはない。自分に常に寄り添い、生き続けるのである。

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そして新子と貴伊子、諾子と古子の1000年の物語は重なりあり、続いていく。それは、わたしたちの物語りであり、未来の子供たちの物語りでもあるのだ。

ただただ自然がそれを眺めている。

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                      <2017.10.25 記>

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【関連記事】

■【マンガ評】『この世界の片隅に』。こうの史代。 小さな記憶の欠片たちの物語。

 

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■STAFF■
原作:高樹のぶ子(「マイマイ新子」マガジンハウス・新潮文庫刊)
監督・脚本:片渕須直
キャラクターデザイン・総作画監督:辻繁人
演出:香月邦夫、室井ふみえ
 
画面構成:浦谷千恵
作画監督:浦谷千恵、尾崎和孝、藤田しげる
メインアニメーター:川口博史、今村大樹
美術監督:上原伸一
美術:桐山成代、今野明美、野崎佳津、岡田昌子
色彩設計:橋本賢
撮影監督:増元由紀大
CGディレクター:矢山健太郎
編集:木村佳史子

音楽:村井秀清、Minako "mooki" Obata
音楽プロデューサー:岡田こずえ
主題歌:「こどものせかい」コトリンゴ(commmons)
挿入歌:「Sing」(作詞・作曲:Joe Raposo、編曲:村井秀清、歌:杉並児童合唱団)

山口弁監修:森川信夫
山口弁指導:久野道子
翻訳協力:兼光ダニエル真
草笛演奏:河津哲也
後援:山口県/防府市/山口県教育委員会
協力:山口県フィルム・コミッション
支援:文化庁
エグゼクティブプロデューサー:丸田順悟
チーフプロデューサー:高谷与志人
プロデューサー:岩瀬智彦、市井美帆、松尾亮一郎
共同プロデューサー:二方由紀子、赤瀬洋司
アニメーション制作:マッドハウス


■CAST■
青木新子:福田麻由子(主人公の少女)
島津貴伊子:水沢奈子(東京からの転校生)
千年前の少女・諾子:森迫永依
青木長子:本上まなみ(新子の母)
青木光子:松元環季(新子の妹)
青木小太郎:野田圭一(新子のおじいさん)
青木東介:竹本英史(新子の父)
青木初江:世弥きくよ(新子のおばあさん)
鈴木タツヨシ:江上晶真(頼れる兄貴分)
シゲル:中嶋和也(新子の友達)
ヒトシ:川上聡生
ミツル:西原信裕
一平:冨澤風斗
タツヨシの父:瀬戸口郁
バー・カリフォルニアの女:喜多村静枝
オヤブン:関貴昭
四郎:海鋒拓也
ひづる先生:脇田美代(山口放送)
庶務課の藤原:阿川雅夫(防府市役所)
千古:奥田風花
多々良権周防介:小山剛志
清原元輔:塚田正昭

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