■【マンガ評】『大純情くん』、おおらかで希望に満ちた、懐かしき松本零士の世界。
『銀河鉄道999』のエッセンスはすべてここにあるんだよねえ。
■松本零士といえば、『銀河鉄道999』と『戦場まんがシリーズ』が大好きだった。
でも、小学校6年生くらいのころかな、大純情くんのなぜか3巻だけを持ってて、何度も何度も読んでた記憶があって、特に、学校で物野けじめを待っている先生の話が好きだったなあ。
いま改めて全3巻通して読んでみると、なんだろう、あんまりカッコつけていない素直な松本零士がにじみ出ていて、なんともしみじみする。
未来都市のビル群のなかで取り残されたような古い町並みが残った地域のなかの、そのなかでもさらにボロいアパートの四畳半に住む一人暮らしの中学生、物野けじめ。
そこに突如として姿を現し、金言がつまった『古代催眠術大辞典』のページを開いたまま去っていく謎の美女、島岡さん。
『大純情くん』に登場する、けじめと島岡さんは、明らかに鉄郎とメーテルだ。
この作品が書かれたのが1977年、『銀河鉄道999』と同じ年に連載開始。
どちらの構想が先なのかは知らない。
でも、話がシンプルなだけに、『大純情くん』は実に素直にぐっとくる。
後半、けじめが住む四畳半のある世界が、どういう世界の上に存在しているのかが次第に明らかになっていくのだけれど、ああ『銀河鉄道999』の構想はすでに出来上がっていたのだな、と今にして思う。
そこのスリルもいいのだけれど、一番いいのは、けじめがいろいろな不思議に遭遇しながらも、まだ世界に疑いを持っていない一巻目。
こういう昭和の心情的懐かしさにしみじみしてしまうのは、年を取った証拠かな。
■そして何より、島岡さんが開いてくれている『古代催眠術大辞典』のページにかかれている心に染みる言葉たち。
夢、人生、友情、男ということ。
これが松本零士だよね。
できると信じていることは
ときとしてできることがある
できないと信じていることは
絶対にできはしない
(ナピカ・マナムーメ)
食えるときに 食え
なぐれるときに なぐれ
これが満足して 生涯を
終えるための基本だ
(メキシコの大山賊 エルブラント クエス クワントス 1822年没)
なにもせず笑う者よりも
なにかをして笑われる者のほうに
いつの日か 勝利はおとずれるものだ
これが 万世万物の真理というものだ
(藤原明衡 治歴二年 (1066)没)
だれにも手出しのできないところがこの世にはひとつだけある
それは人の心のなかだ
そこはその心の持ち主の自由の天地だ
(ヘルマン・ヘッケラー/自由詩人/1774)
人の涙を見て わらう者は
いつか地獄で なく日がくる
人の涙を見て 心で涙をながす者は
人の涙に おくられて
やすらかに この世をさる
(B.C.1020 バクダードにておもう アラメド・アブドゥラ)
悔しさが男を作る
悲しさが男を作る
みじめさが男を作る
復讐心が偉大な男を作り上げる
強大な敵がお前を真の男に作り上げる
(三葉機と共に散った大ドイツ帝国不滅の飛行軍人 マンフレッド・フライヘル・フォン・リヒトホーフェン)
男の友情はお金では買えないものだ
男が男の血と汗と心で戦いとるものだ
そういう友情こそ
命にもまさる とうといものであると
わたしは信ずる
わたしはそのためになら
死んでもよい
(ハンニバルとともに アルプスをこえるとちゅう死んだ勇士 レオヌス・プラクトゥルスの日記より)
この世に痕跡をのこして死ぬとき
人は満足して眠りにつく
しかし人生という目に見えない足跡が
いちばん とうといものだ
(即身仏となった名僧 深海山)
そして、
とおく 時の輪の接するところで
けじめと島岡さんは汽車に乗る。
<2017.07.24記>
【単行本】大純情くん 全3巻 松本零士 マガジンKC
KC版、3巻目巻末に収録されている短編、『秘蝶の谷』も、希望に満ちていて素晴らしくいいです。
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