■【演劇評】『ウエスト・サイド・ストーリー』@東急シアターオーブ。アメリカの虚構と矛盾と、そして生きる力。
うーん、映画より数段感動した。想像の遥か上!
音楽も、ダンスも、照明と美術の演出も最高!
●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
番外編 ブロードウエイ・ミュージカル
『ウエスト・サイド・ストーリー』
原題: WEST SIDE STORY
音楽: レナード・バーンスタイン 初演:1957年
2017年7月公演 渋谷ヒカリエ・東急シアターオーブ
出演: ケヴィン・ハック(トニー)、
ジェナ・バーンズ(マリア) 他
■あらすじ■
ニューヨーク、ダウンタウン。
ポーランド系移民の少年グループ、ジェット団と、プエルトリコ移民の少年グループ、シャーク団の縄張り争いの緊張が張り詰めている。そんな中、ダンスパーティーで元ジェット団のトニーとシャーク団リーダー・ベルナルドの妹・マリアは出会い、一瞬にして恋におちる。
■まず度肝を抜かれたのが、演者の肉体。
ダンスとかバレエってほとんど見ないので、ああ肉体って迫力あるなあ、というのが第一印象。ミュージカルって歌だけじゃないんだね。
この強靭でしなやかな肉体群が生み出すキレッキレが最高に『クール』なのである。
けれどそのダンスは、もちろん、音楽も歌も最高に素晴らしいんだけど、何よりも引き込まれたのは美術と照明が作り出す美しさ。情感あふれる演出だ。
『トゥナイト』のシーン。
夢のような美しさ。音楽と歌声と溶け合って、ああ、と没入する。
■『ロミオとジュリエット』を下敷きとした物語構成はとてもシンプルでわかりやすいものなのだけれど、シーンのひとつひとつがヴィヴィッドで、物語よりも場面そのものに意味がある。舞台ってそういうものだよね。観ているその瞬間がすべて。
そういう意味で度肝を抜かれたのは『サムウェア』。
リフとベルナルドが死んだあと、急に差しはさまれる白い場面だ。
背景は取り払われ、白いホリゾントの前でポーランド移民とプエルトリコ移民が和解のダンスを繰り広げる。
その希望も夢でしかないのだけれど、
このシーンで浮かび上がる希望は確かなものであって、このあとの悲劇的結末も、この希望ひとつによって救われる。
こういう構造を持ち込むことが可能なところが舞台の素晴らしさなのだと改めて思う。
■この物語を眺めるとき、どうもトニーに没入することができない。マリアもしかり。純粋なのだろうけれど、どうしても人物像が浅く感じてしまう。それが若者ということなのかもしれない。
その一方でアニタを始めとするプエルトリコの女たちは、そのスパニッシュ訛りの英語もあいまって、とてもリアルだ。
『アメリカ』。
希望に夢ふくらませ、不安を国において渡ってきた憧れのアメリカ。
実際にはあとから入ってきた移民に対する偏見や差別という現実に直面するわけで、この『アメリカ』という楽曲がきわめて皮肉に用いられている。
トランプ大統領下の不寛容なアメリカ。
『ロミオとジュリエット』の許されざる恋の物語の姿を借りて、自由を標榜しながらも、その社会構造のなかに不寛容が入り混じるアメリカの矛盾。
それは初演の1957年から60年経った今日においても根深く横たわっている、というよりもより一層色濃く表れているのだ。
だからこそ、その回復不可能とも思われる矛盾のなかで、アニタたちの生きる力強さがより前面に押し出される。
それが、アニタ達に感じる奥深さの源泉なのである。
物語はバッドエンドではあるし、現実世界もうまくはないだろう。
けれども、それでも、希望を胸に強く生きるアニタ達にわれわれは希望を見るのだ。
たぶん、それは『サムウェア』で提示される「白い希望」よりも強いリアリティをもって僕らの背中を押してくれる。
そう、そういうことなのだ。
<2017.07.17 記>
うーん、正直なところ映画には途中までまったく乗れなかった。
ジェット団の子供的な部分と俳優たちがどうもかみ合わない。
ところが、リフが死んで浮足立つジェット団のなかで頭角をあらわしたアイスが『クール』を歌いだすシーンに少年たち独特の狂気を感じ、そこから急に面白くなった。
ここ、凄かったなああ。
うつらうつら観てたんだけど、ここで一気に目が覚めた。
アイスを演じるタッカー・スミスが一瞬見せる悪魔のような瞳のぎらつき。
この一瞬だけで価値があると思います。
■STAFF■
原案・演出・振付 ジェローム・ロビンス
音楽 レナード・バーンスタイン
脚本 アーサー・ロレンツ
音楽監督・指揮 ドナルド・ウイング・チャン
演出・振付 ジョーイ・マクニ―リー
■CAST■
ケヴィン・ハック(トニー)
ジェナ・バーンズ(マリア)
キーリー・バーン (アニタ)
ランス・ヘイス(リフ)
ヴァルドマー・キニョーナース-ヴィアノエヴァ(ベルナルド)
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