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2017年7月18日 (火)

■NHK海洋アドベンチャー タラ号の大冒険2「太平洋横断 サンゴの危機を救え!」、せっかくの素材が台無し。地球温暖化の恐怖を煽るNHKの品の無さにあきれる。

海洋アドベンチャー タラ号の大冒険2「太平洋横断 サンゴの危機を救え!」
NHK総合 2017年7月17日(月) 午後10時00分放送

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■2003年以来、10年以上世界の海をめぐりながら地球温暖化の調査を進めてきたアルミ合金製船体を持つ帆船タラ号。

この番組は今回タラ号がサンゴ礁の生物多様性調査を行うべく日本に訪れたその記録である。

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■タラ号による地球温暖化調査はファッションブランドを率いるアニエス・ベーが起こしたプロジェクトなのだそうで、地球温暖化についての意識を高める上でも素晴らしいことだと思うし、こういう番組でその活動を紹介することはとても有意義だ。

実際、日本近海で起きているサンゴの白化現象や、生物相の変化の現状が紹介されて入て、あらためて問題の根深さに気づかされる。

けれども、そういった事実をダイレクトに伝えるだけでいいものを、NHKはどうも過剰な演出をしたくて仕方ないらしい。

■一番問題なのは、海底からCO2が噴出してPHが6を割って酸性になっている海域を映し、そこが魚が一匹も生息しない死の海になっていると強調する。

なるほど、通常の海域のPHが8近くで、0.1のPH変化が海洋の生物相に影響を与える、というのは大きな問題であり、我々人類が排出するCO2の4割を海洋が吸収しているらしいということから考えれば、我々自身の問題として提起されるべきものである。

けれど、海底からのCO2噴出に我々はまったく関係ない。また海底からのCO2噴出が地球温暖化の主要要因でもないだろうし、影響は周辺数百メートルに領域にとどまっている。

たしかに番組のナレーションで明確に言っているわけではない。

しかしこの編集の仕方は、我々が化石燃料を使い続けることによって、日本の海もこういう死の海になってしまうんだよ。という暗黙のメッセージを伝えているのである。

言葉を追えばうそをついていないだけに極めて悪質なミスリードだ。

■さらに、2億5000年前に起きた生物種の9割が死に絶えたとされるペルム紀末の大量絶滅の原因としてシベリアの火山噴火による地球温暖化という説があると紹介した上で、現在のCO2排出量はこの時を上回ると言われている。なんて脅しをかけてくる。

いやいや、原因は特定されていないようだし、百歩譲ってCO2の排出量が原因だとして、地球の気候システムに与える要素が全く異なるのだから猛烈で大規模な火山活動とわれわれの排出ガスを単純に比べても意味はないだろう。

海底からのCO2噴出による死の世界のあとに、これを持ってきて畳みかける演出は、極めて恣意的で、吐き気すら覚えるものである。

まじめにサンゴの死滅と取り組んでる人たちや、科学的にものごとをとらえようとしているタラ号のメンバーに対して、とても失礼な態度だと思う。

■NHKは一体、何を伝えたかったのか。

結局、このままでは地球は大変なことになりますよ、というメッセージを伝えるために無理な演出を付け足したようにしか見えないのだ。

それに比べて、7/16(日)放送のNHKスペシャル 「シリーズ ディープ・オーシャン 南極 深海に巨大生物を見た」の徹底的に事実を並べようとする科学的態度は、同じ演出をするにしても、なるほど凄いなと素直に受け入れられるものであった。

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この番組でも地球温暖化の影響は話題になっていて、南極の深海で生物が巨大化する理由の一つに、氷点下の海流に取り囲まれているのでサイズの大きな捕食生物の侵入を防いでいる、ということを上げ、それに対して南極の深海にいままで住むことのなかったタラバガニが侵入していて、さらにそのカニ(タラバはヤドカリの仲間だけど。。)が海底生物を捕食するシーンまで映してみせる。

こういう、「いままでに起きていなかったことが起きていて、それはこれまでの自然のおおきな仕組みやメカニズムに変動が起きている証拠なのだ」的なアプローチは、IPCCのような、「このままCO2排出を続ければ2100年に平均気温が何度上昇」などといった単なるデータの羅列よりもずっと効果的に問題意識を励起するのである。

「タラ号」も確かにデータの羅列ではない演出手法ではある。けれど論理の筋が通っているか、という意味で、「タラ号」と「深海」は似ているようで180度異なる姿勢であるといえるだろう。

■先日の北九州の継続的集中豪雨の被害といい、ここ数年の異常気象はあまりにも度を越している。

日本近海の海水温の上昇がどうやら影響しているようである。

きっと、今年も超大型の台風に注意しなければならないだろう。

その原因が地球温暖化なのかどうかは、わたしには分からない。

けれども、北極圏の氷が溶けだす量が増えて、冷たい海水の塩分濃度が減ることにより、太平洋や大西洋の深層海流の駆動力が落ちているという説が本当ならば、こういうことも起きるだろう。

知りたいのはそういうことなのだ。

何もNHKに難癖をつけて、地球温暖化の影響はない、なんて主張したいわけではない。

問題が深刻なだけに、実際に起きている小さな事実、現実の積み重ねと、それを説明できる大きなシステムの解明が重要なのであり、今回のえせドキュメンタリのような恣意的に心配を煽るだけの番組は害でしかない、と言いたいだけなのだ。

事実を自分の目で確かめるという「タラ号」の志がまぶしいくらいに素晴らしいだけに、本当に残念な番組であった。

                      <2017.07.18記>

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