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2017年6月24日 (土)

■【書評】『同調圧力 メディア』 森達也。議論を封殺する自民党を民主主義の敵と批判し、そこに異を唱えないメディアを腰抜けと罵る我々も実は同罪なのだ。

本書は『創』に連載された森達也の「極私的メディア論」を2010年7月号から2017年4月号までまとめたものである。

森達也の視線は、ぶれることなく、今日現在へとつながっていく。日々のニュースの洪水につい忘れてしまうが、過去の出来事は確実に現在につながっているということを改めて思う。

■8年の間にずいぶんといろいろなことが起きた。

ここで取り上げられている「事件」を挙げてみよう。

2010年: オウム裁判

2011年: 尖閣問題、9.11後のアメリカの過剰反応、東日本大震災と福島原発事故

2012年: 3.11の余波、『靖国』、『ザ・コーブ』抗議活動

2013年: 自公民大勝利・第2次安倍政権発足、北朝鮮ミサイル騒動、特定秘密保護法、天皇の政治利用

2014年: 日本版NSC構想、音楽家代作問題、憲法改正論議、福島原発の風評被害、集団的自衛権論議、 朝日新聞慰安婦報道ねつ造問題

2015年: 仏・反テロデモ、ISによる後藤健二さん・湯川遥菜さん殺害、川崎・中一少年殺害事件、安全保障関連法に対する自民選出憲法学者違憲判断、安全保障法案可決、シリア・イラク難民問題

2016年: 安倍政権のメディアへの圧力と放送法による電波停止論議、選挙権18歳化と自民党による「学校教育における政治的中立性についての実態調査」、共謀罪/テロ等準備罪法案、トランプ米大統領選勝利

2017年: テロ等準備罪法案可決

■基本的に森達也の主張は変わらない。「思考停止」に対する警鐘だ。

それは本当だろうか、という疑問を持ち、自分なりに情報を集めて自分の頭で考える。

2010年から現在に至る道筋を追いながら、日本の社会が「テロ」、「北朝鮮」などの脅威にあおられながら、「思考停止」のまま流されていく様子がリアルタイムで語られていく。

ここでは「思考停止」は「同調圧力」と集団に視点を変えた形で継続される。

そこに浮かびあがるのは「不謹慎」というような一見常識に沿った形での猛烈な社会圧力の強化だ。

集団に対して異なる主張をするものに圧力をかけ、修正を迫る一種の暴力である。

オウムによる地下鉄サリン事件によって我々の社会に埋め込まれた毒薬がじわじわと効果を発揮していく。森達也が懸念した通りになった。

■危機を感じた集団は、イワシにしろ羊にしろ群れをつくって集団としての運動を開始する。統制の乱れは個体の死ばかりではなく集団へのリスクを高める。その集団としての本能が我々にも作用し始めているのかもしれない、と森は考察する。

日本だけではない。イギリスのEU離脱、フランス大統領選挙、もちろんトランプ大統領の登場。これらはポピュリズムの文脈でまとめられるが、そのポピュリズムの根幹にあるものが「不安」だということだ。「不安」をうまく煽って(羊の群れを)誘導するものが政権を取る時代である。

しかし、森達也はさらに踏み込んでくる。

16年3月号の『私はチッソであった』という記事である。

■水俣病で父を失い、家族や自分の健康を阻害され、チッソを訴え続けていた人が、ある日提訴を取り下げる。

「自分がチッソの立場であったら、私がチッソの社員であったらということを考えずに生きてきた。出た結論は私も同じようにしたであろう、ということだった」

社会によって「悪」と断定されたものに対し、この世の中は容赦がない。

確かにそれは「悪」なのかもしれないが、弱いと見るや徹底的にそれを叩く姿勢は傍から冷静にみれば気持ち悪いものである。

例えば朝日叩き。

私自身、朝日新聞の行為は許せないし、批判的である。

けれど、それで朝日新聞の存在を全面的に否定するというのはやり過ぎ、ということだ。

大切なのは、その問題の発生した構造を明らかにして二度とそういうことが起きないような努力を社会が行うことだ。

■家計学園問題以来、安倍政権の雲行きが怪しい。

ようやく「社会」が安倍政権の独善に気づき、急速にその批判に舵を切り始めている。

衆参両院の過半数を抑えていることを背景に、議論を封殺したまま物事を決めていき、異論を発するものは警察力まで動員して排除しようとする。

こういう政権が憲法改正などと主張しているのだから流石に世の中も危機感を感じ始めたということだ。

私もその尻馬に載って記事を書き散らしたりなぞしている。

けれど、『私はチッソであった』の観点からするならば、排除すべきは安倍晋三と首相官邸や自民党総本部の面々ではなく、彼らにそういう動きをとらせた「構造」である。

もちろん、安倍政権による憲法改正には断固反対である。

憲法改正を目的にした9条改正なんて意味不明だ。

■だから継続して批判的目で見ていくのだけれども、そういうことを可能にしてしまった「この世の中を覆う空気」がなぜ発生して、3.11を経験してもなお消えることなく、むしろ強化されてしまったのか。

どうすれば、その「空気」に「水を差す」ことが出来るのか。

そこがまさに考えていくべきポイントだ。

「オウム信者に対して敵対していた右翼団体や周辺住民のうち、彼らに直接接触した人たちは無条件の排斥をしないようになる。」という趣旨のことを森は語るのだが、そこにヒントがあるのかもしれない。

大切なのは直接顔を突き合わせた対話である。顔や素性さえ見えないSNSでの主張の氾濫がこの空気の醸成を推し進めているのだろう。

いまさらこの流れを止めることはできないが、世の中のみんながその特性を知っているかどうかできっと変わってくるにちがいない。

■この雰囲気は戦前にそっくりだ。

という声をニュースでたまに聞くようになった。

たぶんそれは正しい。

ならば、我々が「なぜ戦争を起こしたのか」と前の世代を問い詰めるその追及を自分自身にも向けなければならない。

何故、止めることが出来なかったのか?

と、次の世代に問われて答えに窮することのないように。

                        <2017.06.24 記>

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【参考記事】
【「空気」の研究】 山本七平。決して古びることのない本質的日本人論。

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・・・中村健治の読みもあながち間違っちゃいなかったということだね。

 
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