■【映画評】 『ブラス!』確かに彼らは演奏が上手い。けれど、それがどうしたというのだ。
音楽映画もイギリス人が作ると、こういうことになるのね。
●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
No.104 『ブラス!』
原題: Brassed Off
監督: マーク・ハーマン 公開:1996年11月
出演: ユアン・マクレガー
ピート・ポスルスウェイト 他
■あらすじ■
1990年。ヨークシャーの炭鉱町。サッチャー首相の新自由主義的政策のもと、炭鉱は閉山の危機に瀕していた。組合と経営サイドの話し合いにより、存続か、閉山で退職金をもらうかの投票を組合員で行うことになる。
そんな騒ぎの中、この町の歴史のあるブラスバンドにある若い女グロリアが訪れる。彼女の腕前に驚いたメンバーは、全英ブラスバンド選手権の決勝に進めるのではないかと期待しはじめるのだった。
■社会派である。
炭鉱は完全な斜陽産業であり、その陰りが町全体を覆いつくしている。バンドの男たちもすっかりやる気を失っている。消えゆく仕事だということは分かっていて、でも20年も30年も命を懸けて続けてきたこの仕事をすてることが出来ない。ずるずると貧しくなっていき、それがまた、彼らの自信を消し去っていくのだ。
そこに現れた救世主のグロリア。
彼女の存在により、自信を取り戻したバンドのメンバーはついに決勝へと進む。
だが、グロリアの仕事は彼らに敵対する会社側のアナリストだったのだ。
男たちのこころはばらばらになり、投票によって炭鉱の閉鎖も決まってしまう。そんな中でもぶれることなく音楽に対する姿勢を貫いてきた指揮者のダニー。しかし、彼の息子も借金のせいで家財道具をすべて奪われ、家族も彼のもとを去って行ってしまう。
そんなとき、ダニーがついに倒れる。炭鉱で粉塵を吸い込み続けたことによりダニーの肺はボロボロになっていたのだった。
■サッチャリズムがイギリス経済を立て直したのは事実だが、その陰で膨大な失業者があふれかえった。
それは、この20年の金融業を中心とした経済成長によって潤うアメリカの影で、海外移転によって職を失ったデトロイトをはじめとした工場労働者たちを思わせる。
トランプに投票した彼らは、そこからの復活を期待している。
けれど、この映画の登場人物たちのように、決して救われることはないだろう。
もう、「終わっている」のだ。
大切なのは、生きる勇気と希望だ。
それは決して新しい仕事を与えられるとか保障をうけるとか、そういうことではなく、自ら誇れる何かを持てるかどうか、なのだと思う。
■ラストで優勝コメントをするダニーは、
優勝カップを拒絶し、演奏が上手くても、生きる希望が持てないならば、何の意味があるんだ!
と、訴える。
絶望した息子が死のうとした、そんな世の中で、一体どういう誇りが持てるのか。
■このダニーの演説は、いかにもイギリス映画らしい直截的なメッセージである。
その言葉は、ここまでの物語をたどってきた我々の胸に強く響く。
けれど、演説のあとで、いらない、とダニーが断った優勝トロフィーをメンバーが奪い去り、楽しみながら「威風堂々」をパレードで演奏する姿もまた、いや、むしろその姿こそが彼らの真実であって、清々しいラストとなっている。
まさに、そこに「誇り」があるのだ。
それは安定した暮らしができること、とはまったく別のことなのである。
<2017.05.08 記>
■STAFF■
監督 マーク・ハーマン
脚本 マーク・ハーマン
製作 スティーブ・アボット
音楽 トレヴァー・ジョーンズ
撮影 アンディ・コリンズ
編集 マイケル・エリス
■CAST■
ダニー ピート・ポスルスウェイト
アンディ ユアン・マクレガー
グロリア タラ・フィッツジェラルド
フィル スティーブン・トンプキンソン
ハリー ジム・カーター
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