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2017年5月 4日 (木)

■【書評】『失われてゆく、我々の内なる細菌』マーティン・J・ブレイザー。 抗生物質がもたらす脅威。仕組みを理解し、それを乗り越える科学。

なぜ花粉症やアトピーの子供が増えたのか。それは幼児期における抗生物質の投与によって体内の常在細菌の多様性が崩れ、これまで人間が仕組みとして持っていた免疫の過剰反応を抑制する機構がうまく育たないことによるものだった、という衝撃的な内容。

おい、もう子供育っちゃったよ。。。。

■本書でも一章を割いて警告をしているが、一般に抗生物質の害は、耐性菌を生み出すこととされる。

抗生物質に対して生き残った細菌は、その耐性が強化されていき、「アメリカだけで年間200万人が抗生物質耐性菌に感染し、2万3千人が死亡している」(米、疾病予防管理センター)のだという。

これはこれで大きな問題なのだけれども、本書で扱うのは我々の体のシステムとしての問題だ。

■ヒトの皮膚、消化管、鼻、耳、膣などには細菌が住み着いている。

ヒトの体は30兆の細胞からなるが、人と共にくらし、共に進化してきたこれらの常在細菌の数は100兆個。しかもその種類は1000万種という多様性をもっている。

彼らは人間の体に間借りしているだけではなく、害を及ぼす細菌が繁殖するのを抑えたり、人間の体細胞とやり取りをして免疫系のバランスをとったり、脳細胞と同じ数の神経細胞をもつ腸管を通して脳の成長にも関与する。

いわゆる共進化というやつである。

抗生物質はこれらヒトマイクロバイオームと呼ばれる内なる生態系を破壊する。

■第二次大戦後、抗生物質は我々の命を救ってきた。

コレラ、肺炎、ジフテリアなどなど。

抗生物質がなければ、感染症で死亡する子供の数が激減することはなかったろう。

けれども抗生物質の普及と反比例するように、子供のアレルギー症状が急増していく。

花粉症、食物アレルギー、セリアック病、クーロン病。

それだけでなく逆流性食道炎、若年性糖尿病、肥満、自閉症といったものも猛烈な勢いで増加している。

一般に相関関係は必ずしもその原因を意味しない。

テレビの普及と交通事故の増加は社会の発展において相関関係があるが、原因と結果を結ぶ因果関係はない。

世の中のとんでも本は、これらの「相関関係」から原因を決めつけるが本書は違う。

細菌について研究を続けてきた著者とそのグループは、実験による検証や膨大な調査データの地道な分析から相関関係から予測される因果関係を検証して見せる。

■中心となるのはピロリ菌。

胃がんの原因として忌み嫌われている菌である。テレビの健康番組でも芸能人の胃からピロリ菌が検出されたと大騒ぎして、早期除菌を強く勧められたりする。

実はピロリ菌は人類の胃のなかに普通にいた細菌なのだという。

ところが上水道や下水道が完備され、糞便を通したピロリ菌の感染経路が遮断されたために、現代の文明社会ではピロリ菌の保菌者が激減しているのだそうだ。

ピロリ菌は胃壁に炎症を起こす。

これは検証された因果関係。

ピロリ菌保菌者に胃がんが多い。

これは相関関係。

ところがピロリ菌が無い人には問題がある。

ピロリ菌は確かに炎症を引き起こす。だが、これに意味がある。

防衛反応を指揮するリンパ球であるT細胞には、促進的に働くものと抑制的に働くものがあって、ピロリ菌による胃壁の炎症を「通常」と認識した免疫系は抑制系の免疫系を育てる。

逆に言えば、ピロリ菌による胃壁の炎症を持たずに育った人は抑制系の免疫の成長が未熟で、「異物」に対して過剰な反応を見せる。

それが花粉症であり、アトピー性皮膚炎であり、喘息であり、食物アレルギーなのだ。

■肥満も腸内細菌との関連がある。

我々が食べてる家畜。これらは日本とアメリカにおいては抗生物質の投与が行われている。これは病気にならないため、と思っていたのだが、抗生物質の投与が成長を促進することがその理由であることを初めて知った。

抗生物質によっては腸内の細菌の種類は半減する。細菌は酵素やホルモンの分泌にも関連していて、細菌叢をかく乱されたからだは無駄に脂肪や肉をため込むようになるのだ。

しかも驚くべきことに幼児期に抗生物質にさらされ、腸内細菌のバランスをくずした人はその後抗生物質を与えられなくなり細菌叢が戻ったとしても、太りやすい体はもとに戻らない。

実験とは予想外のことが分かるから面白い。

■さらに自閉症との関連も語られる。

人の心は腸にある。という話もある。

「腹の虫」などというし、腹の調子によって気分はずいぶんと影響を受けるのを我々は良く知っている。

腸内の神経細胞は脳と同じだけあり、常に連絡を取り合っている。

脳は脳だけで機能しているわけではないのだ。

そして腸内細胞は腸の神経細胞と情報のやり取りをしているという。腸内の細菌叢によって脳への情報伝達の内容もそこから育つシステム自体も決定されるということだ。

つらいことや心苦しいことがあると腹が痛くなる。

もし、腸が「こころ」の窓だとするならば、その成長過程で腸と脳をつなぐシステムに異常があれば、そこに自閉症が生じたとしても不思議ではない。

■ヒトの腸内細菌はどのように生じるのか。

実は胎児には腸内細菌は存在しない。

出産時に産道を通るときに母親の膣の中の細菌を飲み込み、皮膚に付着させるのだ。

そこから、いろいろな細菌を親とか兄弟とか環境からとか受け取って独自で多様な細菌叢を形作っていく。

著者は、その意味で「一番最初の母親からの贈り物」を阻害する帝王切開を批判する。

母親の膣の中の乳酸菌を一番はじめに腸内に取り込むことができなかった子供の免疫的、ホルモン的、神経的な成長を心配するのだ。はじめが肝心ということだ。

■うちの子供が帝王切開だったからというわけではないが、あまりに批判的なのもどうかと思う。帝王切開によって出産の危険が低くなっているのも事実なのだ。

同じように抗生物質についても全面的に問題視することは、もはやできないだろう。

要はバランスで、なんでもかんでも抗生物質(たとえばウイルス性のインフルエンザには抗生物質はまったく意味がない)という風潮はやめるべきだろう。

大切なのは知ることである。

それによって対処が変わってくるからだ。

著者は対応として、帝王切開においては膣内ガーゼ法といって膣内細菌を新生児に与えるやり方や、腸内細菌については糞便注入という健康な細菌叢をもつ人の糞便を腸内に移植する方法などを提示する。

後者などは、かなり抵抗があるが、効果は絶大らしくもっと「受け入れやすい」形で発展することが望まれる。

過去に戻るのではなく、仕組みを理解した上で、新しいカタチを創造する。

それが科学なのだ。

                <2017.05.04 記>

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