■愛煙家に対する厳しさが加速している。かつては家の中で吸わせてもらえないかわいそうなお父さんの代名詞であった【ホタル族】たちも、マンションのお隣さんの苦情にあって、ベランダでも吸わせてもらえない時代になってしまった。会社も全面禁煙で、いったいどこで吸えばいいんだ!という話である。
まあ、その問題に関しては後で戻ることとして、自分の健康についてである。
やれ肺がんだ、やれCOPDだ、と世の中が脅しにかかっている。
肺がんについては複合的な要因があるだろうから、まあ、置いておくとして、COPDである。これはもう、逃げも隠れもできない明らかなタバコの害だと、本人も理解している。
酸素ボンベを引っ張って、鼻から管をたらしながらトボトボ歩いているおじいさんを見るにつけ、うーん、いつかはやめなければと心に誓うのである。
■けれど、ふと気が付いた。
おかしいぞ。
僕が子供の時代(昭和40年代、50年代)には、こういうおじいさんってまったく見なかったよな。
いやいや、寿命が延びたカラじゃん、なんていう人もいるだろうけど、寿命が延びた一番の理由は赤ちゃんや子供の死亡率が劇的に下がったからで、お年寄りも長寿になっているのは確かだとしても、COPDカートを引きずるおじいさんは70歳くらいに見えるから、これくらいの年寄りは昔も普通に生きていたのである。
そこでCOPDの死亡率を調べてみた。
【出展】一般社団法人 日本呼吸器学会HPより
■これは思った以上に驚きである。
2002年の死亡者は、1966年の死亡者の実に5倍以上なのである。
COPDより先に亡くなるケースも多かっただろうけれども、男女差の大きさを考えると喫煙の影響と考える方が自然で、これは明らかな急増である。
なんとなく、「昔はCOPDの人って見なかったよな」という感覚は、データにおいても正しかったのだ。
ならば、その理由は何か。
昔の人はタバコを吸わなかった?
馬鹿を言ってはいけない。
バカバカ吸っていた。猛烈に吸っていた。四六時中、どこでも吸っていたのである。
タバコがCOPDの原因ならば、まったく訳がわからない。
他になにか理由があるのではないだろうか。
と、考えていてると。。。。
そういや、昔の人は両切りだったな。
■両切りとはゴールデンバットとか、ショートピースとか、フィルターが無くて吸うと唇に葉っぱがくっついて大変な、あれである。
フィルター付きのタバコが広まった正確な時期は良く知らないが、時代考証の入った映画とかを見る限り、戦前は辞書を破って葉っぱを巻くようなシーンがあるし、兵隊さんが戦時中にいとおしそうに吸うたばこは紙巻だが両切りのように見える。
たぶん、かなりの確からしさで、戦後に海外から入ってきた【洋モク】と呼ばれるものがフィルター付きの走りだろうと思われる。
で調べてみると、いわゆる【洋モク】のフィルター付きのデビューは1952年のケントを皮切りに、L&M、ウインストン、マルボロと1955年までに出そろって、日本では1957年にホープ、1960年に’労働者のたばこ’ハイライトのという感じで、予想通りなのであった。
■いや、いや、でもそれは1950年代の話で、グラフの急増は1976年から始まって2002年でさらに増加でしょ?
と思いきや、
COPDでの死亡者は40代から指数関数的に急増する。吸い始めが二十歳で徐々に本数が増えていくことを考えると原因にさらされてから死亡に至るまで20年あまりの年月が必要ということだ。
つまり、そこには20年程度のタイムラグがある。
そこで先ほどのグラフの横軸の年代から20年を引いてみると、その増加のスタートは1956年。
見事に【洋モク】が出そろった時期と符合する。
ではフィルター付きのタバコがCOPDの原因と言えるのか?といえば、これではまだ、単なる偶然、という可能性もあり、因果関係がはっきりしなければ何とも言えない。
しかしながら因果関係を立証するには素人では荷が勝ち過ぎるので、あくまでも可能性としての仮説を提示するにとどめたい。
なぜフィルター付きタバコがCOPDを悪化させるのか。
そのヒントにたどり着くには、【胸の奥まで吸わなければ大人じゃない】という、わけのわからない指導を会社の先輩から受けた記憶に立ち戻らねばならない。
■学生時代には、かまやつひろしの曲なぞを聞いて【ゴロワースを根本まで吸わなけりゃだめだ】なんて両切りにチャレンジしたものの、さすがにきつくて、まあこれで勘弁してよとロングピースを吸っていた。
けむりを口に含むと濃厚で、芳醇なタバコだった。
けれど会社に入ってから上司に言われたのである。
「オマエ、ふかすだけで胸にケムリを入れてないだろ。子供だな。」
で、思いっきり吸い込んださ。
当然咳き込んだ。
でも悔しいから吸い込んだよ。我慢して。
それからだんだん吸うのがきつくなって、とうとうマイセンの3mmにたどり着いて今に至る。
吸うのは肺の奥まで。思いっきり。
じゃないと満足できない体になってしまったのだ。
■COPDは肺の奥の奥の末端にある肺胞で炎症がおこり、それが慢性化して起きる病気だと言われている。
ならば、肺の奥までタバコのケムリが到達しなければCOPDにはならないはずである。
要するに私の仮説は、両切りの時代には、タバコとはゆったりと口に含んでくゆらせ、鼻腔で味わうものであり、COPDを発症するに至るリスクは極めて低かったのではないか、ということだ。
一方、フィルターで抵抗のあるタバコを強く吸引すれば、すっと肺の奥にケムリがなだれ込む。
強いフィルター付きのタバコをくゆらすことも可能だけれど、胸の奥まで吸い込むのが男だ、的な迷信もあって、タバコとは、せわしなく吸引するものとなってしまった。
急に吸い込めば火種への流入空気量も増加して燃焼温度も増加するだろうし、よくわからないけれど、発生する物質に変化があっても不思議ではない。
さらにフィルターが濾しとるのは粒の大きな粒子であって、微細な粒子は何の抵抗もなく肺胞にたどり着くという寸法だ。
■これがCOPD急増の原因だと断定するつもりはない。
あくまでも私の立てた勝手な仮説である。
けれど、もしこれが正しいとすると、実にまずい。
1990年代だったと思うが、健康志向でタール1mgのタバコがはやり始めた。
今や、ヘビーなタバコを吸う喫煙家の方が珍しいくらいのマイルド志向。
しかし、1mgのタバコが健康にいいなんて思っている素人は最早かなり少なくなっているとは思うのだけれど、この仮説の通りならば、むしろ低タール、低ニコチンのタバコの方がやばい。COPDへの地獄の新幹線チケットとなる可能性すらある、ということだ。
■低ニコチンタバコであれば、体は早く!早く!とニコチンを求めケムリを急速に肺胞に導こうとする。低タールだから刺激もすくなくて肺胞ちゃんも、まあ、その時は受け入れてくれる。
けど、ケムリに含まれる物質は肺胞を強く、容赦なく攻撃するだろう。
原因はニコチン、タールだとは限らないのだ。
と、するなら紙巻タバコにフィルターがついた事例と同じように、低タール、低ニコチンタバコが、COPDの第二の急増要因になってもおかしくないということだ。
どこかの医療サイトをみると2020年には男性の死因の第3位はCOPDになるらしい。
その25年前はというとそれは1995年で、まさに低タールたばこが一般に広まっていった時期に当たる。
うーん、予想よりずっとCOPDの死亡者が増えそうなんだけど。。。。こういう予想は外れてくれた方がよいのかもしれない。
■さて、時代は受動喫煙防止である。2020年の東京オリンピックに向けた全面禁煙である。
そういう時代背景の中ですっかりおなじみなったのが電子タバコのiQOSだ。
開発したフィリップモリス曰く、有害物質の9割をカットなんだそうで、実際部屋の中で吸っても家族から文句も出なかったから、まあ、少なくとも周囲への影響は少ないのだろうな、と思われる。
けれど、吸っている本人への影響はどうだろうか。
確かにニコチンは入ってくる感じなんだが、圧倒的に物足りない。
たぶん悪いものは少ないんだろうけれど、タールを感じない物足りなさで、つい胸の奥まで吸い込んでしまう。
あ、これって!!
もしかすると、一定の吸引力でのフィリップモリスの測定実験に対して、実際に思いっきりiQOS吸引してみると有害物質ってものすごく増えるんじゃないだろうか。
いや、さっき試したときも少し咽たし、長年タバコを吸ってきた感覚的に健康に影響がないという気はあまりしない。
むしろ、吸い込みすぎがCOPDを悪化させたりやしないか、というのが心配のポイントなのである。
ハツカネズミの実験データでは、肺の炎症レベルで言うと、タバコからIQOSに切り替えた個体は、無喫煙マウスのレベルにすぐに低下するらしい。
とはいえ、実験なんて、主張したい内容に向けて如何様にもなるんだし、その研究機関にフィリップモリスの息がかかってないなんて誰もいえないだろう。
■私の仮説が正しいかどうかは分からないけれど、妙な確信めいたものはある。
このままマイルドなタバコを吸い続けるのはCOPDの観点から、極めて危険であるということだ。
タバコを吸い始めて早30年。
そろそろCOPDに襲われてもおかしくない時期である。
そういえば、最近、肺に痰がたまってゼロゼロする。
もしかしたら、もうダメかもしれない。
でも禁煙なんて出来そうもないし、
仕方ない。
明日から両切りのピースでも試してみようか。
タバコは肺に吸い込まない。
濃厚な香りをくゆらせる、
なんとかそういうやり方で許してもらえないものだろうか。。。。
<2017.05.16 記>

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