« ■【映画】『パシフィック・リム』 続編、こんなイェーガーやだ! | トップページ | ■【社会】『日本会議の研究』の黒塗り部分。これは一つの日本民主主義の歴史の記録である。 »

2017年4月 8日 (土)

■【映画評】『ゴースト・イン・ザ・シェル』、押井作品では見ることの出来なかった、人間としての草薙素子の物語。

押井守のような小難しい映像体験は期待するだけ無理。そう思って観たのが良かったのか、想定外の満足感を得ることが出来た。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.98  『ゴースト・イン・ザ・シェル』
           原題: Ghost in the Shell
          監督: ルパート・サンダース   公開:2017年4月
       出演: スカーレット・ヨハンソン 他

011  

■あらすじ■
ミラは、テロによって両親を失い、自らも脳以外の損傷をうけてしまい、義体とよばれる機械の体に脳を移植された。記憶のない彼女は、その超高性能の義体を活かし、対テロ組織である公安9課という組織に配属され、新しい人生を歩み始める。それから1年、公安9課は人形使いと呼ばれる謎のハッカーによるサイバーテロに立ち向かうことになるのだが。

001

■ゴースト(自我、魂)とは何か、それはどこに発生するのか、機械やサイバー空間に意識は発生するのか?

それが攻殻機動隊の中心となるテーマである。

押井守は『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』、『イノセンス』でその表現に成功し、全世界の表現者に影響を与えたわけだが、それは非現実を現実として受け入れさせるアニメという表現手段ならではのことである。

それを実写でやろうとすれば、時々日本のダメ映画にあるようなセリフが浮き上がった自己満足映画になるか、『2001年宇宙の旅』のような眠たい思索映画になってしまうのが関の山だ。

そこを分かっていたのかどうかは分からないが、この作品はさっぱりとそこを割り切って「物語」に徹したのが良かったのだろう。

■正直、オープニングで駄作を覚悟した。

導入で映し出される未来都市の映像は『ブレードランナー』の完全なる劣化コピーだったからだ。

だが、それに続くミラ・キリアンの義体化のシーンはCGをうまく使ったクリーンな映像で、ああ、これはいけるかもという期待は、その後裏切られることはなかった。

もちろん、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』、『イノセンス』を混ぜ合わせた今回のストーリーは、先に述べたように攻殻機動隊の核心を突くものではない。悪く言えば、薄っぺらで深みがない。

けれども裏返せば、それはシンプルということであり、エンターテイメントとしては大切な素性なのであり、見終わった後に疑問を残さない清々しさは、さすがハリウッドと思わせる。

009

■ただ引っかかるところもある。

一番の問題は、なぜミラ・キリアンの義体には乳首がないのか、ということだ。

エロい視点で言っているのではない。

完璧な人体の模倣である義体の裏に強靭な機械がある。その裏腹な構造が、義体というものをまとった人間が果たして人間と呼べるのか、という重要な問題を観る者の感覚に訴える源泉となるからだ。

契約の問題なのか、年齢指定の問題なのかは知らないが、あのような分厚いスーツにはもはや繊細な肉体を感じさせるものはなく、感覚的に、スーパースーツ的なものと無意識に受け取ってしまう。

この損失はかなり大きい。

■もちろん、スカーレット・ヨハンソンの演技は良かった。

だが、それを感じるのは、「人なのか、機械なのか」、「凄腕の作戦遂行者なのか、己の実存に疑いを抱く悩める女なのか」、という裏腹な存在である「少佐」としての演技ではなく、後半、物語が動き始めてからの人間としてのヨハンソンの演技なのである。

それに拍車をかけたのが彼女の「スーツ」だったということだ。

「ゴースト」とは何か、という攻殻機動隊の本論を捨てて、自我がある前提の上での「私は誰なのか」、「作られた記憶は現実なのか」という、一段浅い部分での問いかけに留めたことによる重大な副作用がここに露呈する。

映画を観るまで知らなかったのだけれど、本作には桃井かおりが出演していて、彼女が登場する後半部分から、この映画はギューっと音を立てて締まってくる。

それはまさに、この映画が「自我とはなにか」という「哲学」の映画ではなく、「物語」の映画であることを指し示している。

その意味も含めてこの映画のMVPは桃井かおりだと思う。

それぐらい桃井かおりは素晴らしかったし、スカーレット・ヨハンソンが一番輝くのも桃井かおりとのからみのシーンなのである。

私がこの映画に価値を見出すのはまさにその一点なのだ。

002
008

■その他の出演者でいうならば、一番の注目は、「世界の」北野武だろう。

たけしが演じる荒巻は公安9課の課長で、暴力装置である課員に対し、政治権力をうまくかわしながら渡り合う頭脳と意志を持ったキャラクターだ。

しかしながら、たけしはたけしだった、というのが結論。

英語のセリフは苦手だから、と日本語で押し通したのが効いて、特別な存在としてうまく描かれているのだけれども、一番輝くのはやはり暴力シーンなのである。やはり、たけしが含む「狂気」こそが、唯一にして最大の魅力ということだ。

良くも悪くも、荒巻ではない、北野公安課長なのであった。

まあ、外国人には受けるのだろうし、悪くはないと思う。

004

■公安9課の面々も、及第点だろう。

バト―をロシア人にした感覚もいい。私物の兵器で多脚戦車をやっつけるとか、もう少し活躍してほしかったが、目の義体化の経緯というおまけもあって、まあ満足か。

トグサは、もう少し弱そうでいい気もするが、さほど鼻につかない、というかあまり物語にからんでこないことのほうが残念。

今回は字幕で観たのだけれど、荒巻以外はアニメでの声優が起用されているようで、吹き替え版も楽しめそうだ。

 

   
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

012

■悪い企業をやっつけて主人公が自分を取り戻す、という極めて単純なお話なのだけれど、攻殻機動隊としてどうか、という問題を置いてしまえば素直に楽しめる。

何しろ相手はクゼである。

少佐らしくない恋バナである。

しかも、お母さんである。桃井かおりである。

いい感動をいただきました。

まあ、こういう単純な攻殻機動隊もあっていいかも、と思いつつ、帰ってから『攻殻機動隊』と、『イノセンス』を見返してみて、うーん、深さに関しては2桁くらい違うなあ、としみじみ実感。

押井守の凄さに改めて感心いたしました。

013
タチコマ見たかったな~。

                      <2017.04.07 記>

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

■STAFF■
監督  ルパート・サンダース
脚本  ジェイミー・モス
     ウィリアム・ウィーラー
     アーレン・クルーガー
原作  士郎正宗 『攻殻機動隊』
製作  アヴィ・アラッド
     アリ・アラッド
     スティーヴン・ポール
     マイケル・コスティガン
製作総指揮  石川光久
          藤村哲哉
          野間省伸
          ジェフリー・シルヴァー
音楽   クリント・マンセル
      ローン・バルフェ
撮影   ジェス・ホール
編集   ニール・スミス
      ビリー・リッチ

■CAST■
少佐 / ミラ・キリアン / 草薙素子 - スカーレット・ヨハンソン(田中敦子)
バトー - ピルー・アスベック(大塚明夫)
荒巻大輔 - 北野武
オウレイ博士 - ジュリエット・ビノシュ(山像かおり)
クゼ・ヒデオ - マイケル・ピット(小山力也)
トグサ - チン・ハン(山寺宏一)
ラドリヤ - ダヌーシャ・サマル(山賀晴代)
イシカワ - ラザラス・ラトゥーリー(仲野裕)
サイトー - 泉原豊
ボーマ - タワンダ・マニーモ
カッター - ピーター・フェルディナンド(てらそままさき)
ダーリン博士 - アナマリア・マリンカ(加納千秋)
素子の母親 - 桃井かおり(大西多摩恵)
素子 - 山本花織
ヒデオ - アンドリュー・モリス
赤い着物の芸者 - 福島リラ
トニー - ピート・テオ
オズモンド博士 - マイケル・ウィンコット(広田みのる)
リー - (坂詰貴之)
大統領 -(乃村健次)

●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

*********************************************

■ Amazon.co.jp ■
■【書籍】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【書籍】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

■【DVD】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【DVD】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

|

« ■【映画】『パシフィック・リム』 続編、こんなイェーガーやだ! | トップページ | ■【社会】『日本会議の研究』の黒塗り部分。これは一つの日本民主主義の歴史の記録である。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/208704/65120985

この記事へのトラックバック一覧です: ■【映画評】『ゴースト・イン・ザ・シェル』、押井作品では見ることの出来なかった、人間としての草薙素子の物語。:

« ■【映画】『パシフィック・リム』 続編、こんなイェーガーやだ! | トップページ | ■【社会】『日本会議の研究』の黒塗り部分。これは一つの日本民主主義の歴史の記録である。 »