« ■【社会】米軍、ISにMOAB投下。喧嘩上等、トランプ節炸裂。 | トップページ | ■【映画評】『ムーンライト』 月の光に照らされて黒人は美しいブルーに染まる。 »

2017年4月16日 (日)

■【映画評】『天然コケッコー』、みんな忘れているかもしれないけれど世界はこんなにも音と光に満ちているんだ。

これほど幸せに包まれる映画は久しぶりだ。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

       No.99  『天然コケッコー』
          監督: 山下敦弘  公開:2007年7月
       出演: 夏帆  岡田将生 他

011

■あらすじ■
島根の田舎の小中学校全生徒6名の分校に東京から主人公の右田そよと同じ学年の中二の男子生徒が転校してくる。その小さな分校と小さな町での卒業までの日々を描く。

013
012

■純朴な、かわいらしい女の子。

その子とキスをしたくて仕方がない男の子。

恥ずかしくてむずがゆく、居心地が悪くなるような、中学生の恋の物語、、、ではない。

穏やかな自然とゆったりとした人たちと分校の家族のような仲間のなかで、そよが日々を過ごしていく。ただ、それだけの物語りである。

カットに派手な演出はなく、BGMすらほとんどない。

けれど、退屈することはなく、すーっと引き付けられ、見入ってしまう。

不思議な映画だ。

■いや、むしろ、映像の演出や音楽がないことがこの映画の力強さなのかもしれない。

そよそよと流れる風。

あふれる光。

映画の音楽は、状況や心情を煽るように映像に重ねられ、観るものの心を動かすものだが、それらを一切封印して電源を落として目をつぶり、すーっと一息ついて耳をすます。

その時に広がる光景こそが、この映画のすべてなのだと思う。

田舎の日常を描いたほのぼのとした映画の顔をしているが、実はきわめて革新的な作品だ。

それも革新のための革新ではなく、みんな忘れているかもしれないけれど世界はこんな音と光に満ちているんだという強いメッセージを、そよのやさしいまなざしを使って控えめに、けれどしっかりとくりかえしくりかえし語り掛けてくる。

それにわたしは、すっかり、やられてしまったのである。

■序盤、分校の子供たちが山を抜けて海へと歩いて向かうシーン。

  
 耳に手を当ててみんさい、

 ほれ、山の音がごーごー聞こえるけえ。

006

そこに、このメッセージのヒントが提示されている。

そしてさらに、そよが修学旅行で東京へ行って、人混みにあてられ、巨大な建造物群に圧倒されながらも、耳に手をあててみると、同じようにごーごーと音が聞こえてくる。

もしかしたら、ここでもやっていけるかの知れない。

002

こういう映画を見て、ああ田舎はいいなあ、なんてつい思ってしまうのだけれども、そうではなくて、新宿の喧騒の中にいても、すーっと一息いれて、耳を澄ませてみれば、そこにも心を満たしてくれる音や光にあふれているのだ。

この世にあふれる素晴らしいものを聞いていないのは、見ていないのは自分自身だ、ということだ。

■終盤、卒業間際になって、そよは思う。

  
もうすぐ消えてなくなってしまうとおもやぁ、

些細なことが急に輝いて見えてきてしまう。

010 009 007008001004

■いままで自分を包んでいた幸せの一つ一つが輝きを放ち、いとおしさが増してくる瞬間。それは中学生から高校生になる、そこで失われてしまうものがあってそれが突きつけられる卒業、という場面にシンクロして最高のシーンを作り上げる。

卒業おめでとうのキスをして、ひとり教室に残る、そよ。

そして思い出のつまった教室の備品のひとつひとつに指を触れていき、最後に黒板に向かってひと際思いのこもったキスをする。

005

■そよが去ったあと、カメラはゆっくりと教室をまわっていき、窓辺の暖かい光の差し込むカーテンの裾からはさくらの花びらがやわらかく吹き込んでくる。

なつかしさとやさしさとあたたかさに包まれる幸福感。

音楽の一切を廃した映像の強さはこれほどのものなのか。

今まで見たどんな芸術映画よりも、今まで見たどんなドラマチックな映画よりも、こころをに何かを満たしてくれるシーンだと思う。

いい映画を拾ったな、と、今、とても幸せな気分なのである。

014

                      <2017.04.16 記>

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村


【DVD】天然コケッコー
   

【原作漫画】『天然コケッコー』 くらもちふさこ
読んでませんが高校進学以降の話もあるようです。
 

■STAFF■
監督:山下敦弘
脚本:渡辺あや
原作:『天然コケッコー』 くらもちふさこ
撮影:近藤龍人
美術:金勝浩一
照明:藤井勇
録音:小川武
編集:宮島竜治
音楽:Rei harakami
主題歌:くるり「言葉はさんかく こころは四角」
音楽プロデュース:安井輝
音響効果:中村佳央
漫画技術指導:あべまやこ
企画監修:鳥嶋和彦
企画:前田直典
プロデューサー:小川真司、根岸洋之


■CAST■
右田そよ:夏帆
大沢広海:岡田将生
お母ちゃん(右田以東子):夏川結衣
お父ちゃん(右田一将):佐藤浩市
田浦伊吹:柳英里沙
山辺篤子:藤村聖子
右田浩太朗:森下翔梧
田浦カツ代:本間るい
田浦早知子:宮澤砂耶
篤子父:斉藤暁
シゲちゃん:廣末哲万
松田先生:黒田大輔
美都子(大沢君のお母ちゃん):大内まり
田浦のじっちゃん:田代忠雄
右田家の祖母:二宮弘子
右田家の祖父:井原幹雄
篤子母:中村朱實
渡辺先生:渡辺香奈
岩崎先生:岩崎理恵

 

 

●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

*********************************************

■ Amazon.co.jp ■
■【書籍】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【書籍】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

■【DVD】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【DVD】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

 

|

« ■【社会】米軍、ISにMOAB投下。喧嘩上等、トランプ節炸裂。 | トップページ | ■【映画評】『ムーンライト』 月の光に照らされて黒人は美しいブルーに染まる。 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ■【映画評】『天然コケッコー』、みんな忘れているかもしれないけれど世界はこんなにも音と光に満ちているんだ。:

« ■【社会】米軍、ISにMOAB投下。喧嘩上等、トランプ節炸裂。 | トップページ | ■【映画評】『ムーンライト』 月の光に照らされて黒人は美しいブルーに染まる。 »