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2017年4月16日 (日)

■【映画評】『ムーンライト』 月の光に照らされて黒人は美しいブルーに染まる。

美しい詩のような映画である。

物語そのものではなく、登場人物の表情とまなざしが、こころの髄に染みわたる。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.100  『ムーンライト』
           原題: Moonlight
          監督: バリー・ジェンキンス 公開:2017年3月
       出演: トレヴァンテ・ローズ  マハーシャラ・アリ 他

Title

■あらすじ■
マイアミのスラム街に育った少年の人生を、幼少期(リトル)、高校生時代(シャロン)、青年期(ブラック)、の3部構成で描く。

華奢で内またのシャロンは友達からオカマだとひどいイジメを受けていた。その姿をみたヤクの売人の元締めのフアンは彼を助ける。シャロンの母親はシングルマザーで薬物中毒であり、まともにシャロンを育てることができず、フアンは愛人のテレサとともにシャロンの面倒を見るようになる。はじめは心を閉ざしていたシャロンだが、フアンとテレサの愛情に心を開くようになっていく。

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■静かで、朴訥な映画である。

しかし、その敢えて被写体深度を浅くして焦点がぼやけた画面とカメラワークの見事さ、そして何よりマイアミの風景とそこに写り込む黒人の美しさ!それだけで十分にすばらしい映画である。その美しさが、あまり詳しく語られない黒人たちの内面を表出させ、観る者のこころに何かを深く刻み込むのだ。

はっきり言ってしまえば、結論めいたものが提示されるストーリーではない。

けれど、実際のところ、それが人生なのである。

そういう自己主張が希薄であるからこそ伝わってくる深さが、本命の「ラ・ラ・ランド」を押しのけてアカデミー賞の作品賞に選ばれた理由であろう。

■人生の輝きという意味で、ヤクの売人のフアン(マハーシャラ・アリ)が最高にかっこいい。

決して誇れた仕事をしているわけではないが、キューバからアメリカに亡命してきて、それでもつらい過去として忘れるべき故郷の母親や近所のばあさんへの想いはおき火のようにこころの深いところで燃え続けている。

近所のばあさんが、夜中に海で走り回る少年時代のフアンをつかまえて、満月の光に照らされると黒人は青い美しい色に染まるんだよ、という。

それは黒人であることへの誇り。社会的に貧しい地位に押し込められていても、黒人は本来的に美しい、という自己承認なのだ。

現実のシャロンはヤク中のどうしようもない母親と、ゲイであるかもしれないという自分への不安を抱えて、浮き上がる筋道も見えない。

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けれど、それでも黒人として自信をもって生きて行っていい。

人生は他人に決めさせてはいけない、自分で選び取り、作り出すものだとフアンは教え込む。

それが後のシャロンの背骨となり、生きていく力を与えることになるのだ。

■高校生になった第二部で、そのフアンはすでに過去の人となっている。何が起きたかについては最後まで語られない。

高校生になってもシャロンはさえないヤツで、ドレッドヘアのジャマイカかぶれの同級生にいつもいじめられている。

そんな中で幼馴染のケヴィンだけは、彼に普通に接してくれる。

友達思いのケヴィン。

しかし、それは「男同士」の微妙さを含むもので、海辺で二人きりになったときにその思いが行動として示される。

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■これを単なるゲイと言っていいのか。

ケヴィンは女も大好きなので、いわゆるバイセクシャルというべきところなんだけれども、この微妙さは、そういうカテゴライズする考え方とはまったくそりが合わない。

まさに「男同士」。

中高と男子校で育ったために、その微妙なニュアンスが分かってしまう気がして、逆にこわい。

通常は、その気持ちを押しとどめてしまうものなのだけれど、 しっかりと描いてしまう。

でも、これがないとそれに続くケヴィンの裏切りのシーンの深みも表層的なものとなってしまうから、ここで普通の男は避けて通るこの「思い」を正面からとらえたのは正解なのだと思う。

■ゲイとか、バイとか、人間は名前をつけてそれらを自分と違う別のものとして排除し、そこにも権利があるとか口では聖人ぶったことを言うのだけれど、要するに差別を区別に切り替えただけで本質的な違いはない。

実はノーマルだと思っている我々にもそういう心の動きがあって、男同士の友情があるときに、実はそれと切り離せない関係にある。

それを認める根源的な恐ろしさからの逃避なのだ。

その恐ろしさゆえに、それを真正面から認めないままに、男同士の友情には独特の深さがあるのだと思う。

だからここではっきり言ってしまおう。

この映画のテーマは決して「ゲイ」を描くことではない。もっと、もっと普遍的なものだ。

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■さて、ケヴィンの裏切りのあと、シャロンはある事件を起こして少年院に送られる。

その後の青年期のを描いた驚きの第3部についてはネタバレ以降で。

 

   
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

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■げーっ!

シャロンがマイク・タイソンになってる!!

たくましい肉体。金歯。バリバリにやばい黒人である。

耳たぶに輝くダイヤのピアスはシャロンは、憧れのフアンになりたいという強い思い証しである。

弱々しかったいじめられっ子が肉体改造によって自信をつけるのは、マイク・タイソンやアーノルド・シュワルツェネガーに見ることが出来る変身の王道だが、それでフアンやテレサのような強い、包み込むような愛を獲得できたかといえば、まだ道半ばなのである。

少年院の仲間に誘われてフアンと同じヤクの売人の道に入り、そこでのし上がった。

けれど心は空虚なままだ。

■そこに、テレサから電話番号を聞いたというケヴィンから突然の連絡が入る。

アトランタからマイアミに帰るシャロン。

途中で母親が収容されている施設に寄るのだが、このシーンもグッとくる。

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ヤク中でボロボロになり、クスリ欲しさに子供のカネさえむしり取る、ひどい母親であったこと。その母親を避け、見放したシャロン。

親子の間のこのどうしようもない現実は、けれども親子それぞれにとって血のつながりが決して切れない、その思いもまたどうしようのなく強いが故に、あまりにも切ない。

それを痛いほどに感じさせるシーンである。

きれいな結論はない。

どうしようもないことを、どうしようもなく描くこと、そこが人生に対する誠実さとして表れているのだと思う。

■どうしようもない想い。

それは、かつて高校の狭い社会のなかで自分の身を守るためにシャロンを裏切ったケヴィンと、それを痛いほどに理解していて、それでもその裏切りに傷ついたシャロンの二人についてもいえる。

再び出会った二人は、最終的に体を預け合って抱き合うことしかできない。

ふたりの関係は、言葉がなんとかしてくれるようなものではなくなってしまっているのだ。

まとわりつく二人の視線は、同じ「男同士」であっても、『ブロークバック・マウンテン』で描かれたような肉体で求めあい、確かめるものではない。

さらに深く、根源的な、生き別れの、そしてもう決してもとには戻ることの出来ない自分の片割れにすがりつくような、そういう切ない悲しみが、その男同士が抱き合う姿には流れているのだ。

 

■この映画には、種明かしもなければ、カタルシスに導くようなエンディングも用意されていない。

人生には、そのようなものは用意されていない。

シャロンも、ケヴィンも決して満たされているわけでも、幸せな人生に包まれているわけでもない。

けれど、他人に決められたものではない、自分で選んだ道をそれぞれに歩んでいる。

この事実ひとつが、この映画の導入でフアンが語った「美しさ」そのものなのだと思う。

世界中の万人に共通することかどうかなんて知ったことではない。

ただスラムに生きる黒人にとって、黒人は美しい、と確信をもって、それを礎にストリートでの決まりきった人生から脱却して自分の道を自らの足で歩んでいく。

そこに月の光を浴びた、本来の黒人の美しさが現れてくるのだと、このあまりにも美しい映画は語っているのだ。

ただ一言、

Black is beautiful!

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                      <2017.04.16 記>

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■STAFF■
監督   バリー・ジェンキンス
原案   タレル・アルヴィン・マクレイニー
原作   タレル・アルヴィン・マクレイニー
      ;In Moonlight Black Boys Look Blue"
音楽   ニコラス・ブリテル  
撮影   ジェームズ・ラクストン  
編集   ナット・サンダース    
      ジョイ・マクミロン  

■CAST■
大人のシャロン / 「ブラック」 - トレヴァンテ・ローズ
ティーンエイジャーのシャロン - アシュトン・サンダース
子どものシャロン / 「リトル」 - アレックス・ヒバート
  
大人のケヴィン - アンドレ・ホランド
ティーンエイジャーのケヴィン - ジャレル・ジェローム
子どものケヴィン - ジェイデン・パイナー
  
ポーラ - ナオミ・ハリス
テレサ - ジャネール・モネイ
フアン - マハーシャラ・アリ
テレル - パトリック・デシル

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