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2017年4月19日 (水)

■【映画評】『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』 「事実」は必ずしも「真実」を映さない。

もちろん、泣きましたよ。でもね、ちょっと薄っぺらいんだよなあ。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.102  『LION/ライオン 〜25年目のただいま〜』
           原題: LION 
          監督: ガース・デイヴィス 公開:2017年4月
       出演: デーヴ・パテール  ルーニー・マーラ 他

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■あらすじ■
インドの貧しい町に住む5歳の少年は駅で兄にはぐれ、迷い込んだ回送列車で遠く離れた町で迷子になってしまう。孤児院に収容された少年はオーストラリアの夫婦に引き取られ、立派な大人に成長する。しかし、あるきっかけで故郷でいまだに自分を探しているはずの母と兄の記憶がよみがえり、Google Earthを使って生まれ育った町を探し始める。

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■迷い込んだカルカッタの街は、サル―のような孤児が山のようにいて、人さらいも横行、孤児院も孤児であふれかえりひどいありさま。

このあたりが、どこまで1990年頃のインドの真実のどこまでを表しているのか分からないけれど、かなりの迫力と説得力をもったパートだ。

インドの空気に触れたいというのが、この映画を見た理由のひとつだったので、その意味では満足である。

後半は、青年になったサル―が、25年前の別れを思い出し、故郷にたどり着くまでを描くのだけれど、Google Earthを使ってそこに迫る4年の月日と、それに寄り添う彼女の甲斐甲斐しさがアクセントとなり、ストーリーとしては申し分ない。

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本作は実際にあったことをもとにしたストーリーである。

その事実もあいまって、終盤、サルーがGoogle Earthで幼いころの記憶を取り戻していくシーンや、母親との再会のシーンは、否が応でも感情は盛り上がり、ほとんどの観客は頬を涙で濡らすことになる。

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■うまくできた話だし、実話だし、感動するし。

だから評判も実にいい。

けれど、私は思ったほどには心を動かされなかった。思いっきり心の準備をしていたにも関わらずである。

何故か。

要するに薄っぺらなのである。

泣いておいて何を、というところだが、涙を流すことと話の厚みによる深い感動はまったく別の話なのだ。

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■ポイントは、サルーを引き取ったオーストラリア人の夫婦との関係にある。

使命感に突き動かされて生きるこの夫婦は、インドの孤児が置かれている状況に心を痛め、実際に自分の子供をつくることができるにも関わらず、それをあきらめ、サルーと、もうひとり、自閉症気味のマントッシュを引き取った。

そして二人にあふれるような愛を注ぎ、大人になるまで育て上げたのだ。

実にいい話なのだけれど、まともな生活を送ることができないままマントッシュは今、幸せなのか、一見、立派に育ったサルーも、結局、自分の過去に引きずられてしまうのだけれど、奇跡的に故郷にたどり着いたにせよ、そこに至るまでの彼は幸せだったのか。

妻はアル中の父親との過去があり、心に深い傷をもっている。

それゆえの使命感。

でも、それはみんなを幸せにしたのだろうか。

■インドには何万人もの孤児がいて、その中から二人を救い出し、不自由のない生活と愛を与える。

やれることからやっていこう、という行動主義的観点からみれば、「正しい」ことだろう。

決して、意味がないとか、自己満足だとは言うまい。

けれども、サルーにとってみればマントッシュへの愛着と、その自閉症的なコントロール不能な部分に対する苛立ち、そして自我か確立していくなかでの育ての親に対する過剰な反発。そんな、とっても大事な部分がほぼすっ飛ばされている。

そこに直面した両親の心の葛藤は通常の親よりもかなり複雑なものであるはずで、そこを描かないで、どうする、ということだ。

■確かに、成人したマントッシュの存在は、そういった家族の過去を映し出す役割を果たしてはいるが、そういった葛藤をマントッシュに押し付けてしまい、サルーは、きわめて「よいこ」で、彼の危機は過去の自分に集約されてしまう。

この単純化が、物語をきわめて底の浅いものにしてしまうのだ。

育ての父も、母も、サルーも、いい人過ぎるのである。

要するに「お行儀がいい」。

たぶん、これが「事実」に基づいた物語であり、関係者が今まさに生きている、そのことによる限界なのだろう。

「事実」を連ねても、「真実」は見えない。

この家族の「真実」を見ようと思えば、触れられたくない部分に分け入っていかなければならない。

その「真実」が、人の心を動かすのだ。

■そういう意味で、実の兄のグドゥは、「事実」しか並べられていないにも関わらず、深く、その「真実」が伝わってくる。

実の母との対面で知った、グドゥの「真実」は、観る者の心に深く突き刺さる。

たぶん、この映画で一番心を動かされたのは、このシーンだ。

「真実」は、人生のリアルを感じたときに、観る者それぞれの心の中に生まれるものなのである。

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                      <2017.04.19 記>

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■STAFF■
監督 ガース・デイヴィス 
脚本 ルーク・デイヴィーズ
原作 サルー・ブライアリー、ラリー・バットローズ
 『25年目の「ただいま」 5歳で迷子になった僕と家族の物語』
音楽 フォルカー・ベルテルマン、ダスティン・オハロラン
主題歌 「Never Give Up」(シーア)
撮影 グリーグ・フレイザー
編集 アレクサンドル・デ・フランチェスキ


■CAST■
デーヴ・パテール    - サルー・ブライアリー
サニー・パワール   - 幼少期のサルー
ニコール・キッドマン  - スー・ブライアリー
ルーニー・マーラ     - ルーシー
デビッド・ウェナム     - ジョン・ブライアリー
ディープティ・ナヴァル
ディヴィアン・ラドワ

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