« ■【書評】『魂の退社』 稲垣えみ子。「仕事」とは何か。豊な生活が生んだ罠。 | トップページ | ■【ドラマ評】『富士ファミリー 2017』、木皿泉。新しく生まれ変わる魔法の言葉は「おはぎ、ちょうだい」。 »

2017年1月 4日 (水)

■【映画評】『カウボーイビバップ 天国の扉』。プロット完璧、作画完璧、アクション完璧、でも。

テレビアニメの枠でありながら映画的世界を構築した伝説的作品、カーボーイビバップ。その22話と23話のあいだに位置する物語である。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.94  『カウボーイビバップ 天国の扉』
     監督 渡辺信一郎 脚本 信本敬子 公開:2001年9月
   出演: 山寺宏一 石塚運昇 林原めぐみ 多田葵 
       磯部勉 小林愛他

Photo

■あらすじ■
賞金首のハッカーを追っていたフェイは、タンクローリーの爆発テロに巻き込まれる。だが、それは単なる爆発ではなく謎のバイオテロの序章なのであった。

バイオテロの首謀者は不明、だがそこには3億ウーロンもの莫大な賞金がかかり、ろくなものが食えないスパイクたちは、その首謀者を追う。背後に浮かぶ巨大製薬会社と火星陸軍の影。そしてタイタンの戦場で死んだはずの男が走査線上に浮かび上がる。

T8

■カウボーイビバップは1998年の作品。

ルパン三世(1stシリーズ)を彷彿とさせるハードボイルドな作品世界と菅野よう子のジャズを中心とした天才的楽曲、センスとかっこよさにあふれた完全に大人向けアニメだ。

それが凝縮されているのがオープニングである。テーマ曲’Tank!’のスリリングさとカットの切れの良さが最高にかっこよく、惚れてしまう。これは何十回見ても飽きない。

10_2
11_3
12
13

時は2071年、位相差空間ゲートにより太陽系に版図を広げた人類だが、中身は相も変わらず。犯罪組織を逃れた男スパイクと警官あがりのジェットは賞金稼ぎで食い扶持を稼いでいる。そこに天才犬アイン、コールドスリープの後遺症で記憶喪失になった女フェイ、身寄りのない凄腕ハッカーのどこからみても少年のような少女エドが加わり、惑星航行船ビバップ号での珍道中、というお話。

スパイクの過去に関わる本筋のシリアスな話だけでなく、時にSF、時にスリラー、時に大人のラブストーリー、時にギャグといった具合になんでもありの自由さが、まさに’セッション’感覚であって、骨となるハードボイルドテイストがしっかりしているから可能なその広がりが、この作品の魅力なのである。

5

■さて、映画である。

オープニングからビシビシと志が伝わってくる。

完全に映画をやろうとしている。

もともとテレビアニメというより、僕らが小さい頃にわくわくしながら覗き見た「探偵物語」のような大人のドラマを、そして香港マフィア映画のようなかっこよさを目指した作品である。

そのさらに先に挑もうと、もう全力で映画をしようとしている。テンポも、カットも、光の当て方も、実に映画なのである。そして、それは成功している。もう、実写でいいんじゃないかというクオリティである。

中身のプロットも、きわめてしっかりしていて、冒頭の石橋蓮司の説教強盗のシーンを含めて無駄なものは一切なく、そぎ落とされ、必要最小限のカットをきっちり組み上げていくだけでなく、想定外のテンポで物語りが展開していくあたり、実に小気味いい。

終盤に大きく物語りが広がっていくのだけれども、まったく破綻はなく、そのハリウッド映画的盛り上がりは安心してみていられる。それは、今回の主人公であるヴィンセントの人物造形とその背景がしっかりしていて、物語の底流にその孤独がテナーサックスのように常に流れているからである。

T1

■さらに、今回の映画で注目すべきはアクションである。映画館だもん、アクションでしょう、とばかりに格闘、ガンアクション、超高速ドッグファイトが繰り広げられる。

もちろん、スパイクとヴィンセントとの2度にわたるガチバトルもスリリングで素敵なのだけれど、さらに素晴らしいのはエレクトラの格闘シーン。

スパイクの飄々としたジークンドー炸裂で、モップ技も含めて、アニメでここまで魅せるかねえ、と感心しきりなのである。

T9_2
T2_2

■だが、この「天国の扉」には感心はあっても感動がない。

魂を揺さぶられないのである。

TVシリーズのSession25,26を見た後だったからだろうか、あの心の震えをどうしても要求してしまうのだ。

それがない。

いや材料はある。ヴィンセントの置かれた状況は、夢の中にいるようなものだという意味でスパイクのそれとオーバーラップし、カウボーイビバップの骨格部分に触れるからだ。

たぶん映画にこだわり過ぎたのではないか。映画としての要素は完璧なのだけれど、その結果、スパイクも、ジェットも、フェイも、その映画の部品として埋もれてしまったのではないか。

カウボーイビバップはその名の通りフリージャスのセッションなのである。

スパイクとジェットとフェイとエドとアインが、それぞれの心のままに奏でるリズムとメロディーの自由な重なりが生み出す楽しさや、しみじみ感なのである。

残念ながらこの映画に欠けているのはその要素だ。

この作品で登場するスパイクがスパイクである必要性、ジェットがジェットである必要性、フェイがフェイである必要性、それがない。

そこをもし掘り下げていたならば、ファンとしては号泣ものになっただろうだけに非常に残念。

もちろん、単品の作品としては絶品なのだが。。。。

T7

                      <2017.01.04 記>


■カウボーイビバップ 天国の扉
 

■カウボーイビバップTV版 DVD BOX
 


■カウボーイビバップ サントラ1 
今、これを聞きながら書いてます。最高にかっこいいアルバムです!!

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

T3

■STAFF■
<TV版> 原作 - 矢立肇
監督・構成 - 渡辺信一郎
シリーズ構成 - 信本敬子
キャラクターデザイン - 川元利浩
メカニカルデザイン - 山根公利
セットデザイン - 今掛勇
色彩設計 - 中山しほ子
美術監督 - 東潤一
音楽 - 菅野よう子
音響監督 - 小林克良
音響効果 - 倉橋静男
文芸・設定制作 - 鳥羽聡
舞台設定 - 河森正治・佐藤大
プロデューサー - 南雅彦、池口和彦
アニメーション制作 - ボンズ
  
<劇場版> 監督・絵コンテ - 渡辺信一郎
脚本 - 信本敬子
アクション絵コンテ - 中村豊、後藤雅巳、出渕裕
ウエスタンシーン絵コンテ - 岡村天斎
メカニック作画監督 - 後藤雅巳
アクション作画監督 - 中村豊
美術監督 - 森川篤
色彩設計 - 中山しほ子
撮影監督 - 大神洋一
編集 - 掛須秀一
音楽 - 菅野よう子
音響監督 - 小林克良
プロデューサー - 植田益朗、南雅彦、高梨実
エグゼクティブプロデューサー - 吉井孝幸、角田良平

■CAST■
スパイク・スピーゲル - 山寺宏一
ジェット・ブラック - 石塚運昇
フェイ・ヴァレンタイン - 林原めぐみ
エド - 多田葵
 
ヴィンセント・ボラージュ - 磯部勉
エレクトラ・オビロウ - 小林愛
ラシード - ミッキー・カーチス
リー・サムソン - 上田祐司
レンジィ(強盗) - 石橋蓮司

 

●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

*********************************************

■ Amazon.co.jp ■
■【書籍】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【書籍】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

■【DVD】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【DVD】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

|

« ■【書評】『魂の退社』 稲垣えみ子。「仕事」とは何か。豊な生活が生んだ罠。 | トップページ | ■【ドラマ評】『富士ファミリー 2017』、木皿泉。新しく生まれ変わる魔法の言葉は「おはぎ、ちょうだい」。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/208704/64720509

この記事へのトラックバック一覧です: ■【映画評】『カウボーイビバップ 天国の扉』。プロット完璧、作画完璧、アクション完璧、でも。:

« ■【書評】『魂の退社』 稲垣えみ子。「仕事」とは何か。豊な生活が生んだ罠。 | トップページ | ■【ドラマ評】『富士ファミリー 2017』、木皿泉。新しく生まれ変わる魔法の言葉は「おはぎ、ちょうだい」。 »