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2017年1月

2017年1月30日 (月)

■【予告編】『ブレードランナー2049』 アンドロイドは30年をどう生きたか?

ブレードランナーの続編、ブレードランナー2049が10月末に公開になる。

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■製作総指揮は前作で監督を手掛けたリドリー・スコットであり、正統な続編とかんがえていいだろう。

舞台は2049年のロサンゼルス。前作の30年後だ。

世界はある危機に瀕していて、そのカギを握る人物として前作の主人公であり、ラストでアンドロイドの女とともに逃亡した男、リック・デッカード(ハリソン・フォード)の行方を追う、という物語のようだ。

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■暗い、湿った、濡れそぼった世界観に加えて、今回は破滅を意識させる荒廃した世界観も加わるようで、また新たな感覚を覚えることだろう。

前作のファンの関心はリック・デッカードの正体にいくのだろうが、まあ、正直それはどうでもいい。あくまでもテーマは『人間とはなにか?』という問いであり、続編である本作でもそこが重要な問いになるであろう。

原作のP・K・ディック 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のもう一つの重要なギミックであるエンパシーボックス(地球に残された人たちがはまる共感装置)が使われるなら、前作で語りきれなかった本質にさらに迫ることができると思うのだが、さてどうだろう。

 

まあ、あまり期待しすぎることなく10月を待とうと思う。

                       <2017.1.30 記>

【予告】

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残念ながら、ショー・ヤングの出番は無いようで、、、、まあ、おばさんになっちゃったからね、仕方ないね。。。

【関連記事】

【ブレードランナー】。暗闇を切り裂く光。人間らしさとは何か。

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2017年1月17日 (火)

■【書評】『三流の維新 一流の江戸 「官賊」薩長も知らなかった驚きの「江戸システム」』 原田伊織、明治批判は良いのだけれど、いまいち見えない次世代に活きる江戸時代発の新しさ。

『明治維新という過ち』で話題をさらった原田伊織の新刊である。

趣旨は、明治維新以降に否定的に扱われている江戸時代こそ、あたらしい社会のカタチを模索する今後の世界が参考とすべき素晴らしい時代だった、というものだ。

面白い読み物であった。けど、どうも尻すぼみなんだよね。

■まず、著者は明治維新をおこした勤皇の志士たちはテロリスト集団であり、尊王の意識などまったくない連中だと断じる。

明治政府にしても、江戸時代の遺産によってやっと運営できたもので、連中のやったことといえば「王政復古」の号令のもと「廃仏毀釈」をすすめ、日本独自のものとして開花した仏教文化を破壊するなど、どこぞやのテロ国家と変わらんということを説く。

通読して思うのは、どうも一神教や共産主義のような排他的な一元的価値観に縛られたものが嫌いでしかたないのだな、ということだ。

結局、勤皇の志士たちの思想を源泉とする一元的価値観に支配されてしまった日本は、世界を敵にまわした戦争に突入し、この国を破滅に導いたという歴史観には、なるほどと膝をたたくものがある。

著者は、勤皇の志士や明治という時代をことさら美化する司馬遼太郎を敵視するが、その司馬遼太郎自身が日本軍という組織のなかで自らが苦しめられたその価値観と明治が連続するその矛盾を感じているのかもしれない。その意味でも正鵠を得た見方ともいえるだろう。

■そこはよい。だが、本論の江戸時代発の提案が希薄なのだ。

本書では乱暴狼藉が支配した戦国時代と対比させることで、「元和偃武」に始まる江戸時代がいかに平和で平穏な時代であったかを参考とした文書を羅列しながら説得力をもって説いていく。

江戸時代の街道はしっかりと整備され、一人旅も安全で、庶民も自由に旅に出ることが出来た。それは幕府の威信をかけたものであったこと。

人口分析からみると江戸時代の人口に変化がなく静的な社会という見方があるが、実は人の移動がダイナミックに行われた活力にあふれた社会であったということ。

鎖国は、外国人を拒絶する狭量な姿勢から生まれたものではなく、戦国時代に戦乱の中で生け捕りになった日本人を奴隷としてアジアに売りさばいたスペイン人、ポルトガル人たちを追い出し、同時に日本侵略の先兵として日本の既存の価値観を否定し破壊するキリスト教宣教師たちを排除する、その国防の観点から生まれた制度だということ。

このあたり、実に面白いし、勉強になる。

■けれども、だからどうなのか、という話なのだ。

原田伊織は明治を否定した。

一元的価値観という意味では戦後の資本主義社会も「合理」という意味で同じであり、そこに破綻が生まれているとしている。

だからこそ、感覚的な「中世」と合理的な「近代」の中間にある「近世」という世界でも独自の存在となる時代であり、250年の他に類を見ない平和を維持した「江戸時代」に一体なにを見、そこから引き出すのか、そこを語らなければ論理が収束しないのだ。

明治ダメ!ほら、江戸って素敵でしょ?

に留まってしまっては、単なる読み物に終わってしまう。

実際、江戸時代にポスト資本主義のヒントが隠れていると私自身思っているので、どうしてもそこを期待したくなってしまうのだ。

 
まあ、そこを差し引くとしても、今までの価値観をひっくり返すお話がいっぱい載っているので、それはそれで非常に魅力的なのは間違いなく、一読して損することはない。

 

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                    <2017.01.17 記>

■過去記事■
■【書評】ひつじの本棚 <バックナンバー>
 

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2017年1月13日 (金)

■【社会】『この世界の片隅に』<祝>キネ旬ベストテン1位獲得!でもNHK以外スルーって。。。

昨年のアニメ映画では『君の名は。』が日本を席巻したが、その陰でほのぼのと咲いていた『この世界の片隅に』がキネマ旬報ベストテンの1位を獲得、『となりのトトロ』以来2度目の快挙なのだそうだ。

上映館も一気に拡大なのだそうで、この素晴らしい作品を一人でも多くの人に見て欲しいと心から願う次第である。

しかし、NHK以外のテレビでの『この世界の片隅に』の露出がきわめて少ないのは、何故だろう。

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■声優として主人公のすずを演じたのは、声優初挑戦の「のん」 さん。

実は『あまちゃん』で日本を元気にした能年玲奈さんなのである。

芸能ネタには疎いので、この映画を見た後に知ったのだけれど、所属事務所とのトラブルで干されてしまっているそうなのだ。

「能年玲奈」で仕事ができないので「のん」なのだそうで、能年玲奈は本名なのに意味不明なのだけれど、まあ、そういうことだ。

 

なるほど。。。

レプロエンターテイメントって事務所がどれだけの力をもっているのかは知らないけれども、飛ぶ鳥を落とす勢いの新垣結衣も所属しているようで、その神経を逆なでにしたくないとううテレビ業界の思惑が透けて見える。

くだらない。

実にくだらない。

■『この世界の片隅に』は、おっとりした性格の主人公すずが淡々と緩やかに生きていくその日常をていねいに描くことで、その後、急激に激しくなる爆撃の中で起きた残酷な悲劇、終戦のときに抱えた激情、そしてそこから「この世界の片隅」に生きていこうと彼女が思えるまでの物語りであって、すずの声優が鍵を握った映画であると言っても過言ではない。

能年玲奈なしで、この映画は成り立たないのだ。

これで、オスカーでも取ったらTV業界は掌を返したように、彼女をほめたたえるのだろうか?

 

まあ、そんなことはどうでもいいか。

ともかく、素晴らしい作品があって、それがちゃんと評価されるところでは評価される。

それにSNSや口コミで広がった評判で、上映館も拡大していっている。

やはりテレビの時代は終わりなのかもしれない。

<過去記事>
■【映画評】 『この世界の片隅に』。タンポポが、野にささやかに咲くように。 

Photo

                         <2017.01.13 記>

 

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2017年1月 9日 (月)

■【芸術】小説家という職業、うまくいかない人生に対する絶望、そして私は、

昨日の読売に、小説家同士の対談が載っていた。

そのなかで、

「小説家は最後の職業だ」

ということばがあって、それが印象的だった。

要するに、うまくいかない自分の人生に対するどうにもならない絶望があって、そこからの最後のあがきが小説家という仕事だというのだ。

■小説家には2種類あると思う。

ひとつは、例えば東野圭吾のように作品を量産できる、いわゆるストーリーテラー。

お話の世界観と登場人物から、自然と物語が立ち上がっていく。

なったことがないので想像に過ぎないが、売れっ子小説家のインタヴューなんかを総合すると、そんなイメージだ。

もうひとつは、今回の発言主の直木賞作家、葉室麟さんのような、魂を削って小説を生み出すタイプ。

たぶん、夏目漱石なんかは、こっちだと思うのだが、血反吐を吐きながら原稿用紙に向かい、己のなかのどうしようもないもの、認めたくないものを外在化することで、その救済をおこなうような、そして読む者はその見える形になった救済の物語りに魂を震わす、そういう作家だ。

想像するだけで恐ろしい生業である。

■2年前のことである。

わたしは深い絶望のなかにいた。

死にたいと思った。

仕事は順調で、仲間にも恵まれ、必要ともされていたし、

家族はあたたかく、

そこそこ豊かな暮らしを楽しんでいた。

けれど、こころのなかに自分でもわけの分からない、どうしようもないものがあって、

恥ずかしいことだけれど、大学の同期の連中と飲んでいるときに、死にたいとつぶやいてしまった。

■大丈夫だよ、と心配してくれる優しい仲間のなかで、ひとり鋭く切り込んでくるやつがいた。

 

いまの自分に納得がいかないんだろ。

やりたいことがあるんだろ。

文章、書けばいいじゃん。

 

そいつは大学で研究をしてる男で、昔から、かっこよくて、運動もできて、女子にもてもてで、でも、べろんべろんに酔っぱらうのが大好きな、素敵なやつなんだけど、そいつが、ちゃんと俺の目をまっすぐ見てそう言ってくれたのだ。

ありがたかった。

救われた気がした。

■それから、すぐ会社をやめて、なんてことはしなかったけど、哲学者の私塾に少し通ってみたり、自分なりの幸福論についてまとめてみたり、次の人生に向かって少しだけでもなにか準備をしていると、なんだかほんのり明るいものが見えてきた。

そうすると不思議なもので、シナリオのプロットらしきものがいくつか頭に降りてきて、なんとなく書き留めていたら、去年の夏の盛りに、ちょうどそれにあったシナリオコンテストが目に留まり、それに向けて一本だけ書いてみた。

そんな急ごしらえのシナリオが入選するはずもないのだけれど、実際に書いて世の中に対してチャレンジしてみたということは、「おまえは風呂屋の桶だ、ゆうばっかりだ」とおやじにからかわれてきた身からすれば、大きな一歩だと思うし、自信にもなった。

引き続きこのブログで、書くことで生まれる新しい発見を味わいながら、今年からしっかりシナリオの勉強を始めようと思う。

小説も気になるし、その構想もなくはないのだけれど、この胸の奥にどろりとたまった黒い澱は、もう少しそっとしておこうと思う。今はまだ、大人しくしてくれているから、無理に引っ張り出して棒切れで突く必要はないだろう。

年が明けて数え50になる。いい区切りだと思う。

少し遅くなったが、新年の抱負ということで。

 

                        <2017.1.9記>

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2017年1月 8日 (日)

■【社会】NHKスペシャル『ばっちゃん ~子どもたちが立ち直る居場所~』 さあ、遠慮せず食べんさい。

久しぶりに地に足の着いた、いいドキュメンタリーを見た。

非行に走る孤独な子供たちに寄り添う、おばあちゃんのお話なのだけれども、どの子供にとっても大切なことはあって、それが何かというヒントを与えてくれる。いや、ちゃんとした親になり切れない僕らにとっての癒しにもなる。そういう作品だ。

N
NHKスペシャル ばっちゃん ~子どもたちが立ち直る居場所~
【放送】2017年1月7日(土) 午後9時00分~9時49分
【再放送】2017年1月14日(土)午前0時10分~0時59分(13日深夜)

■万引き、かつあげ、売春。

お腹がへってるときに考えることちゅうたら、それしかない。

いままで何十年も子供たちにご飯を食べさせてあげさせてきた中本さんはそう言い切る。

そうやって300人もの子供たちと関わってきた。

みんな、親にまともに面倒を見てもらえず、お腹をすかせた子供たちである。

あたたかいごはんを食べて、安心する。

そんな当たり前のことが、ない。

あたたかいごはんは家庭そのもの。その代わりを中本さんはつとめてきたのだ。

■けれど、みんながみんなすぐに悪さをやめるかと言えば、そういうことはない。時間のかかる子もおる、と中本さん。

実際、小学生のころから’ばっちゃん’のもとに通い続けた少年は、結局14歳で少年院へ行き、1年以上をそこで過ごした。

出所した少年は環境を変えさせたいという親の希望で(やっかいばらいなのかはわからないが)、ばっちゃんのいる広島から、遠く離れた土地へ移され、そこで16歳の身で自立しなければならなくなる。

その少年の心の支えは、やはり、ばっちゃんだ。

ばっちゃんは、怒るけれども、見捨てはしない。

少年はそのことをちゃんとわかっている。

だから安心して、落ち着いて、自分の未来を思い描くこともできるまでになった。

■一人暮らしの部屋。ディレクターの前で少年がいう。

昔は、ばっちゃんのところは食堂だと思ってた。

お腹がすいたら、ばっちゃんのところにいけばごはんが食べられる。ただそれだけ、ということだ。

子供たちに感謝されるのがうれしいんですか?と問われて、ばっちゃんも言う。

沼に石を投げたって、ぼちゃんって答えるのに、こどもらは何をしてあげたって返事もしない。

何か言え!って言ったら、

なんて言っていいかわからない。

ありがとう、くらい言え、というと

ありがとうって言えばいいの?って、どうしようもないだろ?

■生まれたときから’家庭’を知らずに育った子供は、何もわからないのだ。

だから、あたたかいごはんを準備して、

それが分かるまで、いや、それが分からなくたって、待っている。

それは母親の姿そのものだ。

そして、かつては「ばっちゃんの家は食堂だ」と思っていたと言った少年は、今では、ばっちゃんのところが、’自分の家’なんだと、居てもいい場所なんだと分かっていて、もう、この子は安心だな、という気にさせられる。

■何もいいこともない、つらいばっかりだという中本さんにディレクターが聞く。

なぜ続けられるんですか?

そう、何度も同じことを問われた中本さんはこう答える。

 
こどもに面と向かって、助けて!って言われたことのない人にはわからんかも知らんね。

 
その深いことばを聞きながら、 

自分の目の前で、ガラの悪そうな見知らぬこどもが助けを求めてきたときに、わたしはどうするんだろう。

なんてことを考えたときに、

その場にならないとよくわからないけれども、少なくとも自分のこどもには、あたたかい居場所があるようにしてあげよう。

と逃げてしまう自分の愛の器の小ささに驚きつつも、

まあいいか、と変に開き直り、

少し落ち着いた気分になるのであった。

                    <2017.01.08 記>

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■【予告】『エイリアン:コヴェナント』。プロメテウスの続編が9月に公開!

映画『エイリアン』の前日譚である『プロメテウス』の続編が公開される。

Title

予告を見る限り、プロメテウスのラストでエンジニアたちの星に向かったエリザベスの話ではなく、悪夢の星LV-223にまた新たな犠牲者たちが訪れる筋書きのようである。

フェイスハガーもビッグチャップも出てくるようだけど、どうやってエッグができたのかとか、それ以外に出てくる生物兵器(?)との関係とか、いろいろ気になるところ。

エンジニアの星の話は、新しいエイリアン3以降につながるのかとか、そこでエリザベスの再登場なのかとか、妄想は尽きない。

タイトルのコヴェナント(Covenant)の意味は契約で、The Covenantとなると「神とイスラエルの民との聖約」の意。

エンジニアとわれわれ人類の関係からすると、これはとても意味深なタイトルだ。

まあ、単にLV-223に降りてきた探検隊がエイリアンに襲われるだけだったら『エイリアン』の焼き直し(LV-426だが)になっちゃうので、予想外の展開が待ち構えているはずで、座席から飛び上がるような驚きを期待しよう。

監督は引き続きリドリー・スコット。

アメリカ公開は5月で、日本公開は9月の予定。

おーい、同時公開してくれよ!待ちきれないよ!

<予告>

<記事>
【プロメテウス】新たなる物語の序章。


【DVD】プロメテウス

【DVD】プロメテウス+エイリアンシリーズBOXセット

                      <2017.01.08 記>

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■【映画評】わたしの魂に刻み込まれた映画BEST10

眠れぬ夜、Amazonを徘徊していて、ああ、この映画懐かしいななんて感慨にふけっていたら、よし、BEST10でも作ってみるかと思い立った次第。

 

■第10位 『ウンタマギルー』 1989年

監督: 高嶺剛  主演: 小林薫、戸川純

現代とおとぎばなしの境目の時代、幻想とエロス漂う、運玉の森の義賊ギルーの物語り。

PARCOの時代である。ファッションは文化ときわめて密接に寄り添っていた。

そんなスノッブな感覚をぶち破り、わたしの知らない沖縄の奥底にただよう魂に触れたような、そんな映画であった。

誤解を覚悟で言うならば、沖縄は日本ではない。

けれど、だからこそ愛すべきものなのだと、そう思う。

DVDはいまだに発売されない。もう見られないのかね。

戸川純のチルーにもう一度会いたい、、、、

 

■第9位 『ミツバチのささやき』 

      1973年スペイン公開 1985日本公開

      監督: ビクトル・エリセ 主演: アナ・トレント

内戦終結後のスペイン。村にやってきたフランケンシュタインの映画を見たそのあとに、少女アナは、廃墟で傷ついた兵士に出合う。

ヨーロッパ映画は旅である。

いや、映画はすべて体験という意味で旅になぞらえることができるのだけれど、ヨーロッパ映画には、その国の空気とか匂いとか、そういうものがゆったりと流れていて、本当の意味で旅に来た感覚に陥るのである。

シネ・ヴィヴァン六本木っていう空間は、そこに文化的スパイスを振りかけてくれたのかもしれない。

アナ・トレントの瞳がとてもかわいい。

 

■第8位 『田園に死す』 1974年

      監督:寺山修司 

「これは私の記録である」。寺山修司の歌集をベースとした演劇的、自伝的作品。

寺山修司の本に出合ったのは高校時代。

若い世代を煽るその背後に常にもの悲しさがあって、そこに惹かれていた。

天井桟敷の舞台を体験することができなかったのが残念でたまらなかったが、この映画を小さな小屋で見ていると、なにかその空気を味わえたような気がして、かなり高揚した気分になったのを覚えている。

かつて日本にはATG(日本アート・シアター・ギルド)という映画会社があって、反商業主義の芸術作品を世に生み出してきた。ATGっていうだけで、なんか俺ってゲージュツ的って気分に満たされたのものなのである。

 

■第7位 『ニューシネマパラダイス』 1988年イタリア

       監督: ジュセッペ・トルナトーレ

第二次大戦中のシチリアではじまる、映写技師のアルフレードと映画館で育った少年トトの成長を、大人になり、映画監督として成功したトト自身の回想で描く。

エンニオ・モリコーネの音楽にのせて、映画への愛情のこもった映像で描きあげる。

そこで人生と映画は重なり合い、思い出は暗い映画館の中で銀幕に浮かぶ陰影となる。

シネスイッチ銀座でこの映画を見た当時、わたしは大学生であったが、いま見るとまた違った感慨を得られるだろう。

ちなみに、ディレクターズカット(完全オリジナル版)はクズなので見てはいけない。

延々と年老いたものの業を垂れながす地獄につき合わされ、美しい記憶はすべて台無しにされるからだ。

プロデューサというものが、いかに作品としての映画に大切な存在なのかを知る好例である。

 

■第6位 『惑星ソラリス』  1972年 ソ連  

      監督: アンドレイ・タルコフスキー

海の惑星ソラリスの宇宙ステーションからの通信が途絶えた。調査に向かった心理学者がそこで見たものとは。

静かで、美しくて、それゆえに人間の心の奥にあるものが、恐ろしくも、切なく悲しく、浮かび上がる映画である。

スタニスワフ・レムの名作SFの映画化作品だが、その、まったく人間とことなる体系に属する知生体との深淵な物語を、詩的な世界へと昇華させている傑作だと思う。

監督はソ連の巨匠アンドレイ・タルコフスキー。

この人の映画を見るには強い精神力が必要だ。

『ソラリス』はまだ耐えられるが、『ストーカー』ではかなり厳しく、『ノスタルジア』は絶対に抵抗不能。

絶対に寝てしまう。

キューブリックの『2001年宇宙の旅』、ヴィスコンティの『ベニスに死す』をはるかに超える催眠映画だと言えば想像がつくだろうか。

<記事>
【惑星ソラリス】。胸を締め付ける望郷の想い。

 

■第5位 『ライトスタッフ』 1983年 アメリカ

       監督: フィリップ・カウフマン

人間を宇宙に送り出すマーキュリー計画に選ばれたライトスタッフ(正しい素質) を有する宇宙飛行士たち、その一方で、そこに選ばれなかった敏腕テストパイロット、チャック・イェーガーは実験機での超音速、高高度記録を狙い続ける、その挑戦する男たちの熱い物語。

高校時代は戦闘機が大好きで、とくにF-104が好きだったから、イェーガーが銀色に輝くNF-104で高高度に挑戦する姿にはもうシビレまくっていた。

航空機ファンにとどまらず、少年のこころを持つものにはたまらない、あまりにもかっこよすぎる映画である。

ああ、いつかスミソニアンへ。

 

■第4位 『野獣死すべし』 1980年

       監督: 村川透 主演: 松田優作

頭脳明晰でクラッシック音楽を愛する物静かな青年は、実は連続強盗犯であった。彼に惹かれていた女は、偶然その犯行現場に居合わせるのだが。

この映画は、終盤のリップ・ヴァン・ウィンクルのシーンに尽きる。

強盗犯(松田優作)を追った刑事(室田日出男)が、夜行列車のボックス席で男に拳銃を突きつけられるシーンだ。

強盗犯の男は外信部の記者で、幾多の地獄の戦場を目の当たりにしたために、狂気の世界に入り込んでしまっている。

その男が刑事に突きつけた銃でロシアンルーレットをやりながら語り掛ける。

リップ・バン・ウインクルの話って知ってます?

いい名前でしょ・・・リップ・バン・ウインクル。

彼がね、山へ狩りに行ったんですよ。山へ狩りに・・・

松田優作は、狂気をそのうちに秘めた俳優であった。

それは、『太陽にほえろ!』のジーパンの「なんじゃこりゃ!」の記憶から始まるのだが、続く『探偵物語』での魅力も、その狂気による部分が多かったのだと思う。

遺作となった『ブラックレイン』では、その狂気は触れば切れる日本刀のように研ぎ澄まされたものとなっていた。

こういう俳優は、もう二度と出てこないのではないだろうか。

永遠に語り継がれるべき俳優である。

 

■第3位 『エイリアン』 1979年アメリカ

       監督: リドリー・スコット 主演: シガニー・ウィーバー

宇宙貨物船ノストロモ号は救難信号をキャッチし、ある惑星に降り立つ。そこには巨大で異様な異星人の建造物があり、そこに産み付けられた卵状のものに顔を近づけた乗組員は、、、、

光と闇。雨と霧。

リドリー・スコットの世界は常にその幻想的美しさに包まれている。だが、それは暖かいものではなく、常に何らかの緊張感をはらんでいて、それがドラマに奥深さを与えているのだ。

わたしはリドリー・スコットの世界が大好きだ。

キネマ電気羊の名前でわかる方もいるかと思うが、高校時代に「思索」というものを教えてくれたSF作家のP・K・ディックが好きで、彼の『アンドロイドは電気羊の夢を見るのか?』を原作とした『ブレードランナー』を挙げたいところなのだけれども、その原作と、シド・ミードのデザインを持っていしても、決して『エイリアン』を超えることはできない。

高倉健と松田優作の『ブラックレイン』も捨てがたいが、やはりどうしても『エイリアン』なのだ。

それほどの完成度を『エイリアン』は持っている。

細部まで凝りに凝った設定と、次から次へと予想を超えて展開するプロットと、何度も見てそれが分かっていてもびっくりしてしまう演出と、それに応えるシガニーたち役者の演技、リドリーの魔術的な映像と不安をあおる音楽。

しかし、それだけでは最高のSFホラーであって、『エイリアン』が唯一無二の作品である所以は、H・R・ギーガーの作り出した悪夢世界にある。

ビッグチャップは最も完成された生命体とされているが、ぞの造形美はほかの追従を許さない。

というわけで、わたしの部屋には何体ものビッグチャップのフィギュアが並んでいて、女房と娘の眉をひそませるのである。

<記事>
【エイリアン】観る者の心をつかんで離さない、認知を超えた悪夢。

 

■第2位 『サンタ・サングレ/聖なる血』 

      1989年イタリア・メキシコ

       監督: アレハンドロ・ホドロフスキー

サーカスの団長の妻は、夫の浮気をなじったのを逆上され、ナイフでその両腕を切り落とされる。その息子は、それ以来、母親の両腕の代わりとなって生きていくのだが、彼が青年となったとき、そのまわりに近づく女性が次々と殺されるようになり。。。。

この映画のテーマは魂の救済だ。

美しく、それでいてわかりやすく、力強い、その救済のシーンほどの解放感を他に知らない。

アレハンドロ・ホドロフスキーは『エル・トポ』とか、『ホーリー・マウンテン』とか、わけの分からない強烈な映画を撮る作家だが、ストーリーがあるこの作品においても、その意味不明な映像の持つ力は健在で、至る所にちりばめられた象徴が、ラストシーンで一気に昇華される構図となっている。

結局、大切なのはストーリーそのものではなくて、そこから受ける印象なのだ。それが観る者の体験となり、没入した感覚がどう動くのか、どう動かせるのか、それが映画の肝なのだと思う。

『サンタ・サングレ』は、その意味で最高の体験を与えてくれる。

だが、とても残念なのは、この作品のマイナーさだ。

ネットで検索しても、Wikiの次の2番目に、この弱小ブログの記事が出てくるほどで、ほとんどの人がこの映画の存在を知らないのだ。

とても衝撃的で刺激が強い作品なのだけれども、映画好きの人には是非一度は見てもらいたい映画なのである。

<記事>
【サンタ・サングレ/聖なる血】心を揺さぶる魂の解放。

 

■第1位 『生きる』 1952年 監督: 黒澤明 主演: 志村喬

風采の上がらぬ市役所の課長がガンを宣告され、人生を取り戻そうとする物語。

死を目の前に突き付けられた志村喬の迫力に圧倒される作品である。

特に、いまだにいろいろなドラマなどでオマージュとしてなぞられる「ハッピーバースデー」のシーンには魂を根本から揺さぶられる。

「生きる」とはどういうことなのか。

わたしは本当の意味で生きていなかった、などと人は簡単に口にするけれども、本当に生きる、本当に生きているってどういうことなのだろうか。

この作品は前半に主人公の生きた姿を、後半に彼が亡くなった後の葬儀の場で彼についてまわりの人たちが語る姿を描くのだけれども、その構成に、黒澤明がつかんだ答えがあるのかもしれない。

いずれにしても、人生の節目に何度も見返したい作品である。

<記事>
■【 生きる 】。「無音」の迫力。「映画」とは「体験」なのだ。

 

 

■【結論】10本じゃ無理。。。。

『ブルース・ブラザーズ』も、『天使にラブ・ソングを・・・』も、『黒いオルフェ』も、『炎のランナー』も、『地獄の黙示録』も、『羊たちの沈黙』も、『ローマの休日』も、『雨の訪問者』も、『竜二』も、『野生の証明』も、『麻雀放浪記』も、『蒲田行進曲』も、『ゆきゆきて神軍』も、『サイン』も、『パンズ・ラビリンス』も、『マッドマックス 怒りのデスロード』も、『トレマーズ』も、『アンドロメダ・・・』も、『ガメラ3』も、『ブルークリスマス』も、『ジーザス・クライスト=スーパースター』も、『やぶにらみの暴君』も、うーん、次から次へと大切な映画が湧いてくる。

今度はちゃんとテーマを決めようかと思う。

名画座と名乗るからには、かつての文芸坐のように、○○特集なんて銘打って企画記事でも書いてみますかね。

                       <2017.01.08記>

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2017年1月 7日 (土)

■【社会】トランプ次期大統領、トヨタのメキシコ新工場にNO WAY!ゲームのルールが変わり始めているのに気づかないお馬鹿さんへ。

5日、トランプ次期大統領がツイッターでトヨタのメキシコ新工場に、「ありえない!米国に新工場を建てろ!さもなくば高い関税を払え!」という強いメッセージを表明した。

20170107

■今朝の日経には、「恫喝政策、危うい拡大」、「ツケは米自身にまわる」なんていう感情的な見出しが並んでいる。

もう完全にトランプの術中にはまっていることに気づかないのだろうか。

保護貿易によってグローバル企業がどれだけの損失をこうむるかなんて、トランプは知り尽くしている。トランプは敏腕ビジネスマンであって、でたらめばかりを言うおばかなオジさんではないのだ。

むしろ、グローバル企業の論理知り尽くしているからこそやっかいなのである。

■NYダウが2万ドルにもなろうか、失業率も最低、賃金の指標も上昇、という好景気なのに、一向に生活が良くならないアメリカ市民。その不満を背景にトランプは大統領に選ばれた。

当然、彼らの思いに応える責任がある。

その手段がツイートというのが実に巧妙だ。

公式な声明ではないそのツイートに世界中が反応して、自ら大統領として政治的な動きを取らずとも、勝手に動いてくれる。

グローバル企業は、いろいろな先読みをして、結果、NAFTAを解消せずに、その実を収穫することができるだろう。トランプの狙いは、そういうことなのだ。

■グローバル企業も、その提灯記事を書き散らす日経も何か勘違いをしている。

自分たちがいままで動かしてきたゲームのルールがいつまでも通じると思い込んでいるのだ。

世の中には絶対的なものなど存在しない。

そして、もうすでにゲームのルールは書き換えられつつあるのだ。それが形としてあらわれたのが、既存勢力がまったく予想できなかった、去年のBREXITであり、トランプ当選なのである。

トランプはゲームのルールが変わっていることを察知している。そのうえでの行動なのだ。

■メキシコ、中国、日本からの製品に高関税をかければ、アメリカの物価があがって消費者に打撃を与えるのだと日経の記事はいう。

自由貿易は国民のためなのだ、と今まで言い続けてきた理屈である。

それはある意味ただしいのだけれど、じゃあ、デフレが続いて日本人の生活が豊かで安心できるものになったのか、という質問にはどう答えるのだろうか。

モノが安ければ、それでいいのか。

フォードの小型セダン、フュージョンをアメリカで生産した場合、新車のコストが14万円あがるのだそうだが、別に必要なら払えばいいし、今のクルマが動くなら乗り続ければいい。

生きていくうえで必要のないものなら、高ければ買わなくていい、それだけのことだ。

しっかりと、国内の雇用と給与水準が確保されてこその安心感が必要とされている。

グローバル経済の儲けとは相反する、その価値観に舵をきる時代の要請があってのトランプの行動なのである。

決して、それは上品とは言えないが、少なくとも今の変化に対応しようとしている、その意味では、アメリカは最良の選択をした。

今のところはそういう判断だ。

しばらくはお手並み拝見というところである。

                   <2017.01.07記>

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2017年1月 6日 (金)

■【ドラマ評】『富士ファミリー 2017』、木皿泉。新しく生まれ変わる魔法の言葉は「おはぎ、ちょうだい」。

「わたし、ここにいていいんですか?」

「いいんだよ。っていうか、もういるし。」

なんてセリフで泣かせてくれた富士ファミリーが帰ってきました。

またしても、正月早々泣かせてくれます。

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番外編  『富士ファミリー2017』
          作:木皿泉 放映:2017年1月
       出演: 薬師丸ひろ子、小泉今日子 他

■あらすじ■
富士山のふもとにある古びたコンビニ「富士ファミリー」。そこには偏屈な笑子バアさん(片桐はいり)と前回やっとの思いが実を結んで結婚した長女、鷹子(薬師丸ひろ子)、近所で旦那と子供との家庭をもった三女、月美(ミムラ)、結婚して東京から戻ったのにそもまま急死してしまった次女、ナスミ(小泉今日子)の幽霊がいる。ナスミの旦那で若い女、愛子(仲 里依紗)と出来ちゃった結婚をしてしまった日出男(吉岡秀隆)、鷹子の旦那、雅男(高橋克己)などのレギュラーメンバーに新しいバイトのぷりお(東出昌大)を加え、今年も明るく、そしてしみじみとしたお話が展開する。

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■木皿泉は夫婦コンビの脚本家で、『すいか』、『野ブタ。をプロデュース』、『セクシーボイスアンドロボ』、『Q10』などを手掛けた作家だが、人間のあったかい心の機微をゆるく、それでいて力強く描く天才である。

そしてこの富士ファミリーもまた、しみじみ心に染みてくる作品なのである。

■今回のお話のテーマは新しく生まれ変わるということ。

ナスミは前世のこだわりを捨てさって生まれ変わることを決意し、鷹子は世界的に有名になった占い師である幼馴染みのキイちゃん(YOU)が中学生のころに予言した「2016年の大みそかに鷹子はこの世を去る」という内容を昔の日記に見つけてオロオロし、月美は叱り飛ばしたら幼い息子が口を聞けなくなったと途方に暮れる。

そこに、この歳になって友達がいないと気づいた笑子バアさんが老人麻雀クラブで出会った喧嘩友達(鹿賀丈史)との戦時中の思い出話や、師事していた教授(萩原聖人)が論文のデータ偽装でスキャンダルになり大学の助手の仕事を失ったバイトのプリオ君が今までの人生の意味を見失ってしまう話や、前世の思いをいっぱい背負った新米幽霊のテッシン(羽田圭介)がナスミにからかわれながら荷物を捨てていく話などが折り重なり、新年にふさわしいそのテーマが浮かび上がっていく。

キーワードは「おはぎ、ちょうだい」だ。

ナスミが生まれ変わってもわかるようにと笑子に伝えた合言葉だ。

富士ファミリーは、笑子が作ったおはぎを売るのが恒例なのだが、そこに向けてすべてが収斂していくさまは、本当に手練れだなあ、と感心するのだけれども、そのラストがもう、猛烈に心を揺さぶって、久しぶりに声をあげて泣いてしまいました。。。

■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■おはぎちょーだい絡みでいえば、月美の息子、大地と笑子のシーン。
   

仏壇に飾ってあるナスミの写真を見る大地に笑子が言う。

「お前のお母さんのお姉さんだよ。もう死んじゃったの。」

「でも大丈夫、人間はみんな生まれ変わる。人は何回でもやり直せるんだよ。」

「新品の人間になる魔法の言葉を教えようか。」

「おはぎ、ちょうだい。だよ。」

店で買い物をする月美のもとに戻った大地は、「おはぎ、ちょうだい」とおはぎを買っている月美の姿を見て母親に抱き着く。

「おかあさん、生まれ変わったんだね!」

口を聞いてくれた息子に驚き、思わず抱きすくめる月美。
   

ちょっとしたことが切っ掛けで、それが大きなおできにようになってしまって、どうにもならなくなってしまう。

けれど、人は他人との日々の関わりのなかで変わっていく、生まれ変わっていく。その関係性の連鎖が人生なのだ。

■愛子に気を使ってナスミの着ていた服を処分しようとする日出男。愛子は、それに激しく抵抗し、ナスミがかわいそうだと、ナスミのことをなかったことにするなんて不公平だと、自分のコスプレの洋服も捨てると言い出す。

「忘れちゃうんだよね、そんなのイヤだ!」

私が今、この富士ファミリーで日出男や笑子バアさんや鷹子たちに囲まれて暮らしている今が、いつかこの洋服のように忘れ去られ、捨てられてしまう、そういうことに抵抗して売るのだ。

結局、ナスミの小さいころの体操着は愛子と日出男のかわいい赤ちゃんの洋服に作り直されることになる。

過去は消えていくものだけど、形を変えて伝わっていくものだというメッセージだ。

これも人間の関連性のなかで息づく、生まれ変わりのひとつの形である。

■そしてラストである。

キイちゃんと遊んではいけないと母親に言われ、それを知ったキイちゃんは鷹子のもとから去っていく。その時のキイちゃんの心の傷は、2016年の大みそかに鷹子がこの世を去るというウソの予言の形で大きな呪いに育ってよみがえる。

そのころのことを思い出し、そのときのキイちゃんの気持ちに寄り添うことで自らの力で呪いを解いた鷹子。そのもとに尋ねてきたキイちゃんに「あなたの呪いは解けたの?」と問う鷹子。

自分を必要だと思ってくれる人がいれば、呪いは解けるんだよ。

鷹子が自分のことを本当に思ってくれていることを知ってキイちゃんも救われたのだ。

キイちゃんを見送った鷹子のもとに、おはぎづくりで忙しい店の方から、「鷹子さん、ちょっと来て、あれどこにあったっけ?」と呼ぶ声がする。

そこで、普段気づかない生活のなかで、自分も必要とされているのだと気づくのだ。それはとてもうれしいことで、これさえあれば生きていけるのだと。

「ほんとだ、自分を必要だと思ってくれる人がいると、どんな呪いも解けるよね。」

その後ろに鷹子を心配してそばにいたナスミが悲しい顔で立っている。
 

ここで爆泣。

だって、ナスミはもうこの世にいなくて、自分は見守ることしかできなくて、みんなの日々の生活には関わっていないから、必要ともされていない。

なんて残酷なシーンだろう。

鷹子が自分の幸福に気づいた、そこで間髪入れずに示されるナスミの悲しい現実。

鷹子の笑顔から切り替わるピント。

遠く立ちすくむナスミ。小泉今日子の全身からほとばしる悲しみは、そのさりげなさ故に、ものすごい力で迫ってくる。
 

そして、おはぎづくりに忙しい家族のみんなの姿に心が落ち着きかけたところで最後の一撃。

おはぎのパックをひとつくすねて店の前にひとりですわる笑子。ナスミのためのおはぎだ。笑子はもうそこにはいないナスミに語り掛ける。

 
「もう生まれ変わったのかい」

「みんな力になってくれるかい」

「いじわるな奴はいないかい」
 

なんていうやさしさなんだろう。書いていてまた涙があふれてくる。

ナスミも、死んでいった人もまた、必要とされている。

  

ありがたいことだなあ。

なにが?

生まれてきたことだよ。

 

                      <2017.01.06 記>

■DVD 富士ファミリー(2016版)

迷惑をかけるためだけに生まれた介護(され)ロボットとしてマツコロイドも出演。笑子バアさんとのからみで、迷惑をかけるだけに生まれてきたのにも意味はある、いるだけですごいことなんだって、セリフが深すぎです。


■木皿泉 しあわせのカタチDVDブック
NHKBSで放送された木皿泉夫妻を追ったドキュメンタリー。NHKがふたりにショートドラマの脚本を依頼し、その創作過程を出来上がったショートドラマを挟み込みながらたどっていく。

夫、和泉努は妻の妻鹿年季子とコンビを組み『すいか』が評価されてこれからというところで、脳溢血になり介護が必要な体になってしまう。妻鹿はそんな和泉に寄り添いながら、ずっと和泉とふたりで創作活動を続けてきたのだ。

TVカメラのレンズを通して見えてくるその姿は決して単純な夫婦愛などではなく、ここまで仲が良くても、どうしても人間はひとりなのだ、という事実であって、だからこそ、ふたりなんだ。それが愛というものなのだと、しみじみと感じ入り、自然と涙があふれてくるのであった。

 

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2017年1月 4日 (水)

■【映画評】『カウボーイビバップ 天国の扉』。プロット完璧、作画完璧、アクション完璧、でも。

テレビアニメの枠でありながら映画的世界を構築した伝説的作品、カーボーイビバップ。その22話と23話のあいだに位置する物語である。

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No.94  『カウボーイビバップ 天国の扉』
     監督 渡辺信一郎 脚本 信本敬子 公開:2001年9月
   出演: 山寺宏一 石塚運昇 林原めぐみ 多田葵 
       磯部勉 小林愛他

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■あらすじ■
賞金首のハッカーを追っていたフェイは、タンクローリーの爆発テロに巻き込まれる。だが、それは単なる爆発ではなく謎のバイオテロの序章なのであった。

バイオテロの首謀者は不明、だがそこには3億ウーロンもの莫大な賞金がかかり、ろくなものが食えないスパイクたちは、その首謀者を追う。背後に浮かぶ巨大製薬会社と火星陸軍の影。そしてタイタンの戦場で死んだはずの男が走査線上に浮かび上がる。

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■カウボーイビバップは1998年の作品。

ルパン三世(1stシリーズ)を彷彿とさせるハードボイルドな作品世界と菅野よう子のジャズを中心とした天才的楽曲、センスとかっこよさにあふれた完全に大人向けアニメだ。

それが凝縮されているのがオープニングである。テーマ曲’Tank!’のスリリングさとカットの切れの良さが最高にかっこよく、惚れてしまう。これは何十回見ても飽きない。

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時は2071年、位相差空間ゲートにより太陽系に版図を広げた人類だが、中身は相も変わらず。犯罪組織を逃れた男スパイクと警官あがりのジェットは賞金稼ぎで食い扶持を稼いでいる。そこに天才犬アイン、コールドスリープの後遺症で記憶喪失になった女フェイ、身寄りのない凄腕ハッカーのどこからみても少年のような少女エドが加わり、惑星航行船ビバップ号での珍道中、というお話。

スパイクの過去に関わる本筋のシリアスな話だけでなく、時にSF、時にスリラー、時に大人のラブストーリー、時にギャグといった具合になんでもありの自由さが、まさに’セッション’感覚であって、骨となるハードボイルドテイストがしっかりしているから可能なその広がりが、この作品の魅力なのである。

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■さて、映画である。

オープニングからビシビシと志が伝わってくる。

完全に映画をやろうとしている。

もともとテレビアニメというより、僕らが小さい頃にわくわくしながら覗き見た「探偵物語」のような大人のドラマを、そして香港マフィア映画のようなかっこよさを目指した作品である。

そのさらに先に挑もうと、もう全力で映画をしようとしている。テンポも、カットも、光の当て方も、実に映画なのである。そして、それは成功している。もう、実写でいいんじゃないかというクオリティである。

中身のプロットも、きわめてしっかりしていて、冒頭の石橋蓮司の説教強盗のシーンを含めて無駄なものは一切なく、そぎ落とされ、必要最小限のカットをきっちり組み上げていくだけでなく、想定外のテンポで物語りが展開していくあたり、実に小気味いい。

終盤に大きく物語りが広がっていくのだけれども、まったく破綻はなく、そのハリウッド映画的盛り上がりは安心してみていられる。それは、今回の主人公であるヴィンセントの人物造形とその背景がしっかりしていて、物語の底流にその孤独がテナーサックスのように常に流れているからである。

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■さらに、今回の映画で注目すべきはアクションである。映画館だもん、アクションでしょう、とばかりに格闘、ガンアクション、超高速ドッグファイトが繰り広げられる。

もちろん、スパイクとヴィンセントとの2度にわたるガチバトルもスリリングで素敵なのだけれど、さらに素晴らしいのはエレクトラの格闘シーン。

スパイクの飄々としたジークンドー炸裂で、モップ技も含めて、アニメでここまで魅せるかねえ、と感心しきりなのである。

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■だが、この「天国の扉」には感心はあっても感動がない。

魂を揺さぶられないのである。

TVシリーズのSession25,26を見た後だったからだろうか、あの心の震えをどうしても要求してしまうのだ。

それがない。

いや材料はある。ヴィンセントの置かれた状況は、夢の中にいるようなものだという意味でスパイクのそれとオーバーラップし、カウボーイビバップの骨格部分に触れるからだ。

たぶん映画にこだわり過ぎたのではないか。映画としての要素は完璧なのだけれど、その結果、スパイクも、ジェットも、フェイも、その映画の部品として埋もれてしまったのではないか。

カウボーイビバップはその名の通りフリージャスのセッションなのである。

スパイクとジェットとフェイとエドとアインが、それぞれの心のままに奏でるリズムとメロディーの自由な重なりが生み出す楽しさや、しみじみ感なのである。

残念ながらこの映画に欠けているのはその要素だ。

この作品で登場するスパイクがスパイクである必要性、ジェットがジェットである必要性、フェイがフェイである必要性、それがない。

そこをもし掘り下げていたならば、ファンとしては号泣ものになっただろうだけに非常に残念。

もちろん、単品の作品としては絶品なのだが。。。。

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                      <2017.01.04 記>


■カウボーイビバップ 天国の扉
 

■カウボーイビバップTV版 DVD BOX
 


■カウボーイビバップ サントラ1 
今、これを聞きながら書いてます。最高にかっこいいアルバムです!!

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■STAFF■
<TV版> 原作 - 矢立肇
監督・構成 - 渡辺信一郎
シリーズ構成 - 信本敬子
キャラクターデザイン - 川元利浩
メカニカルデザイン - 山根公利
セットデザイン - 今掛勇
色彩設計 - 中山しほ子
美術監督 - 東潤一
音楽 - 菅野よう子
音響監督 - 小林克良
音響効果 - 倉橋静男
文芸・設定制作 - 鳥羽聡
舞台設定 - 河森正治・佐藤大
プロデューサー - 南雅彦、池口和彦
アニメーション制作 - ボンズ
  
<劇場版> 監督・絵コンテ - 渡辺信一郎
脚本 - 信本敬子
アクション絵コンテ - 中村豊、後藤雅巳、出渕裕
ウエスタンシーン絵コンテ - 岡村天斎
メカニック作画監督 - 後藤雅巳
アクション作画監督 - 中村豊
美術監督 - 森川篤
色彩設計 - 中山しほ子
撮影監督 - 大神洋一
編集 - 掛須秀一
音楽 - 菅野よう子
音響監督 - 小林克良
プロデューサー - 植田益朗、南雅彦、高梨実
エグゼクティブプロデューサー - 吉井孝幸、角田良平

■CAST■
スパイク・スピーゲル - 山寺宏一
ジェット・ブラック - 石塚運昇
フェイ・ヴァレンタイン - 林原めぐみ
エド - 多田葵
 
ヴィンセント・ボラージュ - 磯部勉
エレクトラ・オビロウ - 小林愛
ラシード - ミッキー・カーチス
リー・サムソン - 上田祐司
レンジィ(強盗) - 石橋蓮司

 

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