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2017年1月 6日 (金)

■【ドラマ評】『富士ファミリー 2017』、木皿泉。新しく生まれ変わる魔法の言葉は「おはぎ、ちょうだい」。

「わたし、ここにいていいんですか?」

「いいんだよ。っていうか、もういるし。」

なんてセリフで泣かせてくれた富士ファミリーが帰ってきました。

またしても、正月早々泣かせてくれます。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
番外編  『富士ファミリー2017』
          作:木皿泉 放映:2017年1月
       出演: 薬師丸ひろ子、小泉今日子 他

■あらすじ■
富士山のふもとにある古びたコンビニ「富士ファミリー」。そこには偏屈な笑子バアさん(片桐はいり)と前回やっとの思いが実を結んで結婚した長女、鷹子(薬師丸ひろ子)、近所で旦那と子供との家庭をもった三女、月美(ミムラ)、結婚して東京から戻ったのにそもまま急死してしまった次女、ナスミ(小泉今日子)の幽霊がいる。ナスミの旦那で若い女、愛子(仲 里依紗)と出来ちゃった結婚をしてしまった日出男(吉岡秀隆)、鷹子の旦那、雅男(高橋克己)などのレギュラーメンバーに新しいバイトのぷりお(東出昌大)を加え、今年も明るく、そしてしみじみとしたお話が展開する。

Photo

■木皿泉は夫婦コンビの脚本家で、『すいか』、『野ブタ。をプロデュース』、『セクシーボイスアンドロボ』、『Q10』などを手掛けた作家だが、人間のあったかい心の機微をゆるく、それでいて力強く描く天才である。

そしてこの富士ファミリーもまた、しみじみ心に染みてくる作品なのである。

■今回のお話のテーマは新しく生まれ変わるということ。

ナスミは前世のこだわりを捨てさって生まれ変わることを決意し、鷹子は世界的に有名になった占い師である幼馴染みのキイちゃん(YOU)が中学生のころに予言した「2016年の大みそかに鷹子はこの世を去る」という内容を昔の日記に見つけてオロオロし、月美は叱り飛ばしたら幼い息子が口を聞けなくなったと途方に暮れる。

そこに、この歳になって友達がいないと気づいた笑子バアさんが老人麻雀クラブで出会った喧嘩友達(鹿賀丈史)との戦時中の思い出話や、師事していた教授(萩原聖人)が論文のデータ偽装でスキャンダルになり大学の助手の仕事を失ったバイトのプリオ君が今までの人生の意味を見失ってしまう話や、前世の思いをいっぱい背負った新米幽霊のテッシン(羽田圭介)がナスミにからかわれながら荷物を捨てていく話などが折り重なり、新年にふさわしいそのテーマが浮かび上がっていく。

キーワードは「おはぎ、ちょうだい」だ。

ナスミが生まれ変わってもわかるようにと笑子に伝えた合言葉だ。

富士ファミリーは、笑子が作ったおはぎを売るのが恒例なのだが、そこに向けてすべてが収斂していくさまは、本当に手練れだなあ、と感心するのだけれども、そのラストがもう、猛烈に心を揺さぶって、久しぶりに声をあげて泣いてしまいました。。。

■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■おはぎちょーだい絡みでいえば、月美の息子、大地と笑子のシーン。
   

仏壇に飾ってあるナスミの写真を見る大地に笑子が言う。

「お前のお母さんのお姉さんだよ。もう死んじゃったの。」

「でも大丈夫、人間はみんな生まれ変わる。人は何回でもやり直せるんだよ。」

「新品の人間になる魔法の言葉を教えようか。」

「おはぎ、ちょうだい。だよ。」

店で買い物をする月美のもとに戻った大地は、「おはぎ、ちょうだい」とおはぎを買っている月美の姿を見て母親に抱き着く。

「おかあさん、生まれ変わったんだね!」

口を聞いてくれた息子に驚き、思わず抱きすくめる月美。
   

ちょっとしたことが切っ掛けで、それが大きなおできにようになってしまって、どうにもならなくなってしまう。

けれど、人は他人との日々の関わりのなかで変わっていく、生まれ変わっていく。その関係性の連鎖が人生なのだ。

■愛子に気を使ってナスミの着ていた服を処分しようとする日出男。愛子は、それに激しく抵抗し、ナスミがかわいそうだと、ナスミのことをなかったことにするなんて不公平だと、自分のコスプレの洋服も捨てると言い出す。

「忘れちゃうんだよね、そんなのイヤだ!」

私が今、この富士ファミリーで日出男や笑子バアさんや鷹子たちに囲まれて暮らしている今が、いつかこの洋服のように忘れ去られ、捨てられてしまう、そういうことに抵抗して売るのだ。

結局、ナスミの小さいころの体操着は愛子と日出男のかわいい赤ちゃんの洋服に作り直されることになる。

過去は消えていくものだけど、形を変えて伝わっていくものだというメッセージだ。

これも人間の関連性のなかで息づく、生まれ変わりのひとつの形である。

■そしてラストである。

キイちゃんと遊んではいけないと母親に言われ、それを知ったキイちゃんは鷹子のもとから去っていく。その時のキイちゃんの心の傷は、2016年の大みそかに鷹子がこの世を去るというウソの予言の形で大きな呪いに育ってよみがえる。

そのころのことを思い出し、そのときのキイちゃんの気持ちに寄り添うことで自らの力で呪いを解いた鷹子。そのもとに尋ねてきたキイちゃんに「あなたの呪いは解けたの?」と問う鷹子。

自分を必要だと思ってくれる人がいれば、呪いは解けるんだよ。

鷹子が自分のことを本当に思ってくれていることを知ってキイちゃんも救われたのだ。

キイちゃんを見送った鷹子のもとに、おはぎづくりで忙しい店の方から、「鷹子さん、ちょっと来て、あれどこにあったっけ?」と呼ぶ声がする。

そこで、普段気づかない生活のなかで、自分も必要とされているのだと気づくのだ。それはとてもうれしいことで、これさえあれば生きていけるのだと。

「ほんとだ、自分を必要だと思ってくれる人がいると、どんな呪いも解けるよね。」

その後ろに鷹子を心配してそばにいたナスミが悲しい顔で立っている。
 

ここで爆泣。

だって、ナスミはもうこの世にいなくて、自分は見守ることしかできなくて、みんなの日々の生活には関わっていないから、必要ともされていない。

なんて残酷なシーンだろう。

鷹子が自分の幸福に気づいた、そこで間髪入れずに示されるナスミの悲しい現実。

鷹子の笑顔から切り替わるピント。

遠く立ちすくむナスミ。小泉今日子の全身からほとばしる悲しみは、そのさりげなさ故に、ものすごい力で迫ってくる。
 

そして、おはぎづくりに忙しい家族のみんなの姿に心が落ち着きかけたところで最後の一撃。

おはぎのパックをひとつくすねて店の前にひとりですわる笑子。ナスミのためのおはぎだ。笑子はもうそこにはいないナスミに語り掛ける。

 
「もう生まれ変わったのかい」

「みんな力になってくれるかい」

「いじわるな奴はいないかい」
 

なんていうやさしさなんだろう。書いていてまた涙があふれてくる。

ナスミも、死んでいった人もまた、必要とされている。

  

ありがたいことだなあ。

なにが?

生まれてきたことだよ。

 

                      <2017.01.06 記>

■DVD 富士ファミリー(2016版)

迷惑をかけるためだけに生まれた介護(され)ロボットとしてマツコロイドも出演。笑子バアさんとのからみで、迷惑をかけるだけに生まれてきたのにも意味はある、いるだけですごいことなんだって、セリフが深すぎです。


■木皿泉 しあわせのカタチDVDブック
NHKBSで放送された木皿泉夫妻を追ったドキュメンタリー。NHKがふたりにショートドラマの脚本を依頼し、その創作過程を出来上がったショートドラマを挟み込みながらたどっていく。

夫、和泉努は妻の妻鹿年季子とコンビを組み『すいか』が評価されてこれからというところで、脳溢血になり介護が必要な体になってしまう。妻鹿はそんな和泉に寄り添いながら、ずっと和泉とふたりで創作活動を続けてきたのだ。

TVカメラのレンズを通して見えてくるその姿は決して単純な夫婦愛などではなく、ここまで仲が良くても、どうしても人間はひとりなのだ、という事実であって、だからこそ、ふたりなんだ。それが愛というものなのだと、しみじみと感じ入り、自然と涙があふれてくるのであった。

 

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