■【絵画】ダリ展・国立新美術館。少年サルバドールの心象風景。
ダリは、どうもわざとらしくて好きになれず、いままで敬遠してたんだけど、まあ、まったく見ずに拒否るのもどうかと思い、いつものごとく展示終了間際に国立新美術館へ足を向けた。
■やはり、予想通り、ダリは私の思い込みとは異なる人のようだ。
わたしの中の勝手なイメージでは、奇をてらい、中身に乏しく、俗物的な彼の作品をシュルレアリスムなんて呼ぶのは言語道断である、というもの。
『魔術的芸術』を読んだときにでもブルトンに植え付けられたのか、とも思うが、いやいや、そもそも、やわらかい時計とか、足の長い象とか、どうでもいいでしょ的な感覚があって、もともと肌にあわない。そこにブルトンの論だったような気がする。
で、若い頃から晩年までの作品を一挙に並べた今回の展示を体感した感想はというと、なんだ「普通の人」じゃんか、というものだ。
■若い頃は印象派の流れの上で修業を積み、そこから反抗的にピカソの後追いをし、そして独自のダリ世界にたどり着く。
彼の描く情景は確かによくわからない悪夢的世界で、意識の解釈のフィルターを感じさせる「企画力」が、かえって絵画そのものへの没入を妨げるように思われる。わたしの先入観はここでは一旦肯定される。
けれども、それらのなかで時々こころをぐいとつかむ作品があって、そこにはダリのシュルレアリスム手法であるダブルイメージとか偏執狂的批判的活動とかのイメージは描かれているのだけれども、その背景には常にスペイン、カタルーニャの荒野が広がっていて、実はそれこそがダリの本質であり、やわらかい時計も、足の長い象も単なる飾りに過ぎないのではないか、或いは傷つきやすい本質を守るための鎧なのではないか、と、そこに至るのである。
つまり、ダリの心には常に少年時代の重荷として荒野が広がっていて、それを覆い隠すためのシュルレアリスムだったのではないか、ということだ。
<オーケストラの皮を持った3人の若いシュルレアリストの女たち>1936年、ダリ32歳
遡れば、美貌であったという妹を描いた若い頃の作品は、本来は誇らしいであろうその美貌を隠して常に後ろ姿なのである。
愛するものを直接描くことを拒否しているのか、そもそも描くことができないのか。
サルバドールという死んだ兄の名を受け継いだ少年の奥底で、いつまでも自分を認めることができないような、この絵からは、そういう荒涼とした心情がただよってくるのである。
■ダリは1934年に年上の人妻であったガラと結婚し、第二次大戦中にアメリカに渡る。
そして1945年、広島、長崎に原爆が投下され、科学技術が現実を追い越したことに衝撃を受ける。
それはダリにとって、シュルレアリスムの敗北であったのかもしれない。
そして、今日の一枚。
《ポルト・リガトの聖母》 1950年
キリスト教に帰依し、ガラとともにスペインに戻ったダリは、精神的支柱であるガラを中心に描いた宗教画に至る。
かつてダリを支配したギミックは影を潜め、安定と不安の精神世界が直接的に描かれている。
この大作を、しばらくぼんやりと眺めていた。
マリア的に描かれたガラに抱かれた子供はダリ自身であるのだろう。
そしてガラの胸にも、ダリの胸にも大きく四角い窓が開いている。
これは初期の作品で背後の建物によく描き込まれていた窓と同じものなのではないか。その窓は決してぽかりと空いた穴の虚しさではなく、希望とか永遠性とか、そういう意味合いのなかでの「青空ののぞく窓」なのだ。
そうしてみたとき、ガラのこころとダリのこころは、窓を介して連続し、一体化し、永遠である。
ここにおいてやっと、われわれはダリのやすらぎを見るのだ。
<2016.12.8 記>
私が独りでいることは決してない。いつだってサルバドール・ダリといるのが習慣なんだ。信じておくれよ、それは永遠のパーティーってことなんだ ―サルバドール・ダリ
■うれしいことに、『アンダルシアの犬』も上映されていた。
中学3年の時以来かな。
目を剃刀で切り裂くファーストシーンはやはり衝撃的。
笑ったのは、主人公が女性を襲おうとして追い詰めるシーン。彼は獣の死骸を乗せたピアノを引きずっているのだけれど、引きずっているのはそれだけでなく、キリスト教の坊さんが2人、しかも生きたまま!!これは面白い。芸術ではなく、ギャグとしてだけど。
そんな感じで映画としては、やはりいまいちだと思うが、「若さ」、という点で、やはり素晴らしい作品だと思う。
<映画 アンダルシアの犬>1928年
監督ルイス・ブニュエル 脚本ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリ
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