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2016年12月 3日 (土)

■【マンガ評】『この世界の片隅に』。こうの史代。 小さな記憶の欠片たちの物語。

今、読み終えました。

絶対に泣くと思ったのに、、、

しかし、・・・・なんだろう、このすっきりした気分は。

■とてもおおらかで、やさしく、かわいらしい物語がつづく。

天然で、一生懸命な、すず。

おとうさん、おかあさん、おばあちゃん、すみちゃん、鬼いちゃん。

周作さん、お義父さん、お義母さん、お義姉さん、晴美ちゃん。

隣組のみなさん。

リンさん。

哲さん。

■だが、呉への空襲がはじまっても、それでも続けてきた「普通」の生活も、爆撃が残した時限爆弾で晴美ちゃんと、そのやわらかくちいさな手を握っていた右手を失ったとき、すべてが狂い始める。

 
嘘だ。
  

目の前のやさしさも、笑顔も、すべてが歪んだ嘘にまみれたものに見え、でもそれは自分が歪んでいるからだとわかっていて、その宙ぶらりんな中に、すずは落下していく。

それでも、それでも、懸命に生きたのに、終戦の玉音放送ですべてが終わりになってしまう。

道に転がる死体には目をつぶりながら精一杯、普通を守ろうと頑張ってきたのに、今更何を言っているのか。

悔しさに震えながら泣き崩れる、そんなすずのあたまを、やさしい右手がなでてくれる。

それに、すずはふと我にかえるのだが、何が起きたのか、ここではまだ気が付かない。

■終戦のどたばたが少し落ち着きを取り戻し、すずは隣組の刈谷さんと衣服を食料に交換してもらうために遠出をする。

その帰り、行き倒れになった広島の被災者が自分の息子だと気づくことができなかったという、刈谷さんの壮絶なことばに触れたとき、すずは気づくのだ。

 
なんでうちが生き残ったんかわからんし

晴美さんを思うて泣く資格は うちにはない気がします

でもけっきょく うちの居場所は ここなんですよね

生きとろうが 死んどろうが 

もう会えん人が居って

うちしか持っとらん それの記憶がある

うちはその記憶の器として 

この世界に在り続けるしかないんですよね

晴美さんとは一緒に笑うた記憶しかない

じゃけえ 笑うたびに思い出します

たぶんずっと 何十年経っても
 

このシーンのすずの晴れやかな顔。

 
この世界で 普通で まともで居ってくれ

わしを笑うて思い出してくれ

それが出来んようなら忘れてくれ
 

哲が、すずに残していった記憶が、すずをそこに導いてくれる。

そこに差し込むさわやかな光に、震えるシーンだ。

■あのとき、泣き崩れるすずのあたまをやさしくなでたのは、失ってしまった彼女自身の右手だったのだ。

その右手は、これまで生きてきた彼女のたいせつな、ひとつひとつの思い出とともにあった存在なのだ。

軍艦を見に行きたいという晴美ちゃんの手をにぎり、

リンさんにすいかやハッカ飴の絵を描いてあげ、

小学校6年生の波間にはねるうさぎを描いたその右手は、もう、すずの右腕にはないけれど、

ずっと、そこにあり続けていたのだ。

■人は、記憶として生きている。

それは比喩でもなんでもなく、だれかの記憶として生きているものなのだ。

この世界の片隅で、周作にみつけてもらい、その記憶として、すずは立派に生きている。

それはちいさな、切れ切れの愛。

そのちいさな記憶の、ちいさな愛の重ね合わせで、この世界は出来ているのだ。

  

だれでも この世界で そうそう居場所は無うなりやせんよ

 

死んでしまえば記憶は消えるとリンさんは言ったけど、リンさん自身は消えたとしても、幼い頃、おじさんの家で出会った座敷わらしの記憶とごたまぜになりながら、すずに寄り添いながら生きている。

戦争で、いっぱい人が死んだけれど、何万人とか何十万人とか、そういう統計学から離れたところで、その亡くなったひとりひとりが、それぞれに関わり合った人たちの記憶の欠片となって、生き続けているのだ。

生きてる人も、死んでしまった人も、会うことがなってしまった人も、みんな。

                       <2016.12.3 記>

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