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2016年8月20日 (土)

■【映画評】『シン・ゴジラ』。非日常的災厄の向こうににじむ、この国への想い。

映画館に2回足を運ぶのは珍しい。いや、ほんと2回ぐらい見ないと消化できないんだもん。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.87  『シン・ゴジラ』         
      監督: 庵野秀明 公開:2016年 7月
       出演: 長谷川博巳  石原さとみ 他

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■ストーリー■
突如、東京湾から現れた怪獣は都内に侵入、街を破壊して去っていった。未だかつてない事態に混乱するなか、怪獣の正体を突き止め対策を立てるべく政府内にタスクチームが立ち上げられる。だが、その結論も出ない状態でさらに巨大化した怪獣が再び上陸してくる。自衛隊の決死の防衛ラインも突破され怪獣は首都中枢部へと侵攻していく。

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■さすが我らがアニメ・特撮ファンの神様、庵野秀明!僕らが観たいゴジラを完璧に作り上げてくれた。庵野と樋口のタッグなら完璧とは思っていたがそのさらに上を行ってくれたのである。この感動は平成ガメラを超えるものである。平成ガメラが特撮怪獣映画としての最高峰ならば、庵野ゴジラは特撮怪獣映画の枠組みを超え、世界に通用する日本独自のエンタメ映画の方向性を示した傑作といえよう。

■今回のゴジラは原点回帰である。初代の持つ、脅威、畏れ、といったものをまとったゴジラだ。

いらないものはそぎ落とし、圧倒的な量の情報を猛烈なスピードで叩きつけてくる。時代を経ていく中でゴジラにこびりついてしまったものをすべて洗い流し、今、この日本で現れるゴジラとは一体どういうものなのか、ゴリゴリと描いていく。

くわしくはネタバレ以降に書くこととするが、初めて姿を現した超生物の眼が映像として映し出された瞬間、ああ、もうこれはダメだ。われわれのこころも常識もまったく通用しない。と悟ってしまう。

■不条理な災厄とはまさにそういったものであり、東日本大震災を経た我々は、そのことを知っている。

では、その災厄にわれわれ日本人はどう立ち向かうのか。

メルトダウンと放射能漏えいに恐怖した日本在住の外国人のように逃げる先はない。日本という島国に住む我々は、ここに踏みとどまり、立ち向かっていくしかないのだ。

怪獣映画としての圧倒的な映像の素晴らしさ、徹底的なリアリズム、キャストの濃密な物量、効果的で胸をゆさぶる音楽。

けれども、その底流に流れる作者の想い。メッセージなどという軽いものではない、血の出るような濃くうずくような想い、それこそが、この映画の根幹なのだと思う。

庵野は、どうしろとは言わない。

 
 私は好きにした。君たちも好きにしろ。
 

ゴジラを日本に差し向けたと思われる博士のメッセージだ。

これは、今の日本に住む我々に対する庵野の想いそのものなのだ。

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■【特撮】

じらすことなく序盤から登場する巨大怪獣。

東京湾から実をくねらせながら川に侵入してくる両生類的巨大なやつ。ぐりぐりの目玉は理解を拒絶し、狂気を映し出す。かわいらしさと気持ち悪さは紙一重だ。

敵怪獣か?と思いきや、こいつはゴジラの進化の過程である第二形態。

上陸したこいつがゴジラ第三形態に変態するシーンには驚かされた。こういうところもうまい。

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ゴジラ第四形態の上陸。

これぞゴジラ、というシーン。

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昼間、というのがいい。

日常に侵入してくる異常性。怪獣映画の定番である。

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この尻尾のシーン。『巨神兵東京に現る』(東京都現代美術館で2012年7月10日より開催された展覧会「館長 庵野秀明特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」にて公開された特撮短編映画。)を思い出した。

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タマ作戦。

都心へのゴジラ進攻に対する多摩川を絶対防衛ラインとする自衛隊の総力戦。

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ずしずしと進むゴジラに対し、ヘリのバルカン砲、大口径弾もミサイルも通じず。F-2から投下される爆弾もゴジラを止められない。多摩川縁に配置された戦車からの砲撃、遠距離からの対地ミサイル攻撃。

ゴジラの強さがわからないから探りながら火力を強化していくところがいい。とりあえず戦闘機からロケット打っとけ、戦車並べとけ、という雑さがない。

えー、これでもだめなの?感が大事なのだ。

だがこれまでの定番怪獣映画のような反撃はゴジラはしない。ただ歩くだけ。

ただ歩くだけなのだけれども大災害。

かえって分かりやすい。

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さて、都心に侵入したゴジラに対する米軍の攻撃。

B-2から投下されるバンカーバスター(敵の作戦本部がある地下壕を破壊する爆弾)に身をえぐられ大きく流血するゴジラ。

そして凶悪化。ここからの怒涛の展開には声を失った。

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惑星を割るイデオンソードのごとき、圧倒的な破壊力。

このあと投下されたバンカーバスターとB-2を破壊すべく背中から全方位熱線を放つのだが、これもまたイデオン。やはりゴジラは神なのか。(庵野はどれだけイデが好きなのか!)

イデオン以降のアニメではある種、定番になった大規模破壊シーンだが、特撮でやった例は無いのではないだろうか?

ここまでの最高の破壊シーンはガメラ3の渋谷激闘だと思う。樋口は自らを超えたといえよう。

ともかく荘厳な音楽とともに破壊されていく首都東京のシーンは永遠に歴史に残るものだろう。

ここで重要なのはゴジラはここまで熱線を吐いていない。積極的攻撃を行っていないこと。自らの破壊の危機が攻撃能力を目覚めさせる。

良く考えればアメリカへの痛烈な皮肉にもとれるシーンだ。

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エネルギーを使い果たし、動きをとめたゴジラ。

矢口たちはゴジラの原子炉としての冷却機能を逆手にとったヤシオリ作戦(やまたのおろちに酒を飲ませるあれ)を決行。

失敗すれば東京に核弾頭を撃ち込まれるという緊張感のなかのわりに明るいのがいい。

新幹線爆弾に、在来線爆弾。

やりたい放題。

この明るさが、後半の軽さにつながるのだけれど、むしろ主役はゴジラではなく日本人なのだ、ということを伝える意味で特撮がフェードアウトしていくのも狙いなのだろう。

うまくいっていると思う。

庵野恐るべし。

■【キャスト】

恐ろしいほどの物量作戦。役柄をもらった俳優がこれだけいる映画も珍しいだろう。それでいて全員のキャラクターを描ききっているから素晴らしい。

甘利昭似の大臣とか、宮崎駿似の御用生物学者とか、くすりとさせるところもツボをおさえている。

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総理を演じる大杉連。

え、今決めるの?聞いてないよ!とか、巨大生物は自重でつぶれますので上陸できません、と言ったとたんに怪獣上陸。言っちゃったじゃないか!とか、かなりいい味。

あっさり死んじゃいます。

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防衛大臣を演じる余貴美子。

きっぱりした感じが、カッコ良かったです。

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臨時総理の平泉成。

ひょうひょうと非常時の総理をこなす。アメリカを筆頭とする諸外国の核弾頭使用を認める苦しい立場を演じる。

ヤシオリ作戦を認める場面で、そろそろやりたいことをやってもよろしいのでは?という赤坂官房長官のことばに、これまたひょうひょうと応じるシーンが魅力的。

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タスクチームの生物学者を演じる塚本晋也監督。

楽しそう。

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環境省の課長補佐を演じる市川実日子。

すでに自重を支えています、巨大生物は上陸するかもしれません、と空気を読まない役人らしからぬ発言をしたり、ゴジラのエネルギーは核分裂だとか、信じられないほんとのことを分かっちゃう頭のいい人を上手く演じた。

いい役者さんです。

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主人公、矢口官房副長官を演じた長谷川博巳。

超抜擢された若い政治家。若さゆえの情熱がこの映画を引っ張っていく。

冷静な政治家、赤坂との対比がうまく機能していた。赤坂(竹野内豊)がいなければ、この人物に現実実を与えることはできなかったろう。

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そして、石原さとみ演じるパターソン米特使。

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こんな若くてかわいい特使がいるわけないじゃんという一番現実味のない役柄でありながら、最後まで説得力がなく、それでもしらけずに物語に没入できたのは、石原ひとみ本人の努力がけなげでかつ嫌味がなかったからだろう。

かわいらしいひとです。

■【音楽】

音楽の鷲巣詩郎はエヴァの音楽をつけたひと。

作戦進行のシーンでエヴァで使った音楽が流れるが、これが意外にあっている。話のテンポがいいからだろう。

首都破壊の場面の楽曲の荘厳さはすばらしい。

 

あとはやはり伊服部昭オリジナルの楽曲。へたにいじくらずに使ったのがいい。

エンドロールでながれるのも分かってる感じ。いろいろ難しい話もあるけど、やっぱり僕らは怪獣映画が大好きなのだ。

 

怪獣大戦争のマーチをくちずさみながら気分よく映画館を出た。

                      <2016.08.19 記>

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■STAFF■
総監督  庵野秀明
監督    樋口真嗣
准監督  尾上克郎
脚本    庵野秀明
特技監督 樋口真嗣
特技統括 尾上克郎
製作    市川南
エグゼクティブプロデューサー
       山内章弘
プロデューサー 佐藤善宏 澁澤匡哉 和田倉和利
撮影    山田康介
照明    川邉隆之
美術    林田裕至 佐久嶋依里
美術デザイン 稲付正人
装飾    坂本朗 高橋俊秋
録音    中村淳 整音 山田陽 音響 効果 野口透
編集    佐藤敦紀 
音楽    鷺巣詩郎
       伊福部昭
VFXスーパーバイザー 佐藤敦紀
VFXプロデューサー   大屋哲男
ゴジライメージデザイン 前田真宏
ゴジラキャラクターデザイン 竹谷隆之
ゴジラアニメーションスーパーバイザー 佐藤篤司
特殊造形プロデューサー 西村喜廣
総監督助手 轟木一騎 助監督 足立公良
自衛隊担当 岩谷浩 製作担当 片平大輔
(B班)撮影 鈴木啓造 桜井景一
(B班)照明 小笠原篤志
(B班)美術 三池敏夫
(B班)操演 関山和昭
(C班)監督 石田雄介
(C班)助監督 市原直
(D班)撮影  摩砂雪 轟木一騎 庵野秀明
(D班)録音  摩砂雪 轟木一騎 庵野秀明
(D班)監督  摩砂雪 轟木一騎 庵野秀明



■CAST■
長谷川博己  矢口蘭堂(内閣官房副長官・政務担当)
竹野内豊  赤坂秀樹(内閣総理大臣補佐官・国家安全保障担当)
石原さとみ  カヨコ・アン・パタースン(米国大統領特使)
高良健吾   志村祐介(内閣官房副長官秘書官[防衛省])
大杉漣   大河内清次(内閣総理大臣)
柄本明   東竜太(内閣官房長官)
余貴美子  花森麗子(防衛大臣)
市川実日子 尾頭ヒロミ(環境省自然環境局野生生物課長補佐)
國村隼   財前正夫(統合幕僚長)
平泉成   里見祐介(農林水産大臣)
松尾諭   泉修一(保守第一党政調副会長)
渡辺哲   郡山(内閣危機管理監)
中村育二  金井(内閣府特命担当大臣[防災担当])
矢島健一  柳原(国土交通大臣)
津田寛治  森(厚労省医政局研究開発振興課長)
塚本晋也  間(国立城北大学大学院生物圏科学研究所准教授)
高橋一生  安田(文科省研究振興局基礎研究振興課長)
光石研  小塚(東京都知事)
古田新太  沢口(警察庁長官官房長)
松尾スズキ  早船(フリージャーナリスト)
鶴見辰吾  矢島(統合幕僚副長)
ピエール瀧西  郷(タバ戦闘団長)
片桐はいり  ベテラン官邸職員の小母さん
小出恵介  消防隊隊長
斎藤工   池田(第1戦車中隊長)
前田敦子  カップルの女
浜田晃   河野(総務大臣)
手塚とおる 関口(文部科学大臣)
野間口徹  立川(資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課長)
黒田大輔  根岸(原子力規制庁監視情報課長)
吉田ウーロン太 町田(経産省製造産業局長)
橋本じゅん 東部方面総監幹部幕僚長
小林隆   山岡(統合部隊指揮官)
諏訪太朗  田原(東京都副知事)
藤木孝   川又(東京都副知事)
嶋田久作  片山(臨時外務大臣)
神尾佑風  越(新政務担当総理秘書官[外務省])
三浦貴大  新人記者
モロ師岡  警察庁刑事局長
犬童一心  古代生物学者
原一男   生物学者
緒方明   海洋生物学者
KREVA   第2戦車中隊長
石垣佑磨  芦田(第2飛行隊第1小隊長)
森廉     避難民
野村萬斎  ゴジラ モーション

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