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2016年7月17日 (日)

■【映画評】『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』 これでもか、これでもか、と繰り出される笑いのリフが、そこはかとない泣きの主旋律を際立たせるのだ。

思いっきり元気をもらって、久しぶりにブログを書きたくなった。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.86  『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』
          監督: 宮藤官九郎 公開:2016年7月
       出演: 長瀬智也   神木隆之介 他

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■ストーリー■
高校の修学旅行のバス事故で地獄に落ちた大助は恋する同級生・ひろ美に未練たらたら。地獄のバンド・ヘルズのリーダー赤鬼キラーKたちに励まされながら転生を繰り返し、ひろ美の人生に近づいていく。

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■ID2を見に行くつもりだったのだけれど、ついついこっちに惹かれてしまった。正解である。

この映画は映画館で見るべき映画だ。

高レベルの爆音のライブを体感するという意味もあるが、何よりこの映画が演劇的空間を作り上げているからだ。

ストーリーに脈絡は無く、面白い!と思う方に突っ走っていく。ついていけないものは容赦なく置き去りだ。

日本映画に多い、味わい深い文脈といったものを追いかけるのが好きな連中は、それを読み取ろうと心をはたらかせるのだろうが、そのような凝ったものは存在しない。

あるのは緩急のリズム。バンドのシーンだけでなく、この映画自体が音楽であり、リズムとメロディーを楽しむものなのだ。

それは音楽のライブ、演劇の持つ劇場的なものであり、映画館というお手軽なレベルでの、理性の残る余地のある非日常の枠組みさえ越えてしまう性質のものなのである。

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■とはいえ、急ばかりでは疲れてしまう。

大事なのは、緩むこと。緩さの中での何気ないメロディーだ。

その意味で長瀬智也というのは抜群のキャステイングだ。歌姫も、原ちゃんも、本人は真面目なのだけれど、周りから見るとどこかおかしみがある。

その味わいこそが、この映画の主旋律なのである。

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■物語は大助のものでありながら、長瀬が演じる赤鬼・キラーKことスタジオパンダのアルバイトである近藤さんの切ない物語に大きく迂回する。

むしろ、近藤さんと死神こと亀井なおみの物語に、大助が引き込まれていく。

大助はひろ美と再び会う事に恋焦がれて毎週金曜日の輪廻転生を迎えるわけだが、いやおう無しになおみとその息子の人生を眺めることになる。何しろ復活の場所がいつも同じ便器なのだから(笑)。

そして、今や赤鬼となってしまった近藤の愛した人と自分の息子に対する想いというものが、歌として大助の、そして見る者の胸を揺さぶる。

歌というのはとても強いもので、

あなたがいれば地獄も天国♪

あなたがいなけりゃ天国も地獄♪

という単純なことばが強く沁みわたってくるのである。

忌野清志郎が 愛し合ってるかーい♪ と呼びかけるときの、言葉以上の意味がそこに伝わってくるのである。

■そして大切なのはそのテーマをそのまま語らないことだ。

くだらない、あまりにくだらない話。

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大助が転生するインコは母親にキスされそうになり、ザリガニはなおみの息子におしっこをかけられ、あしかは地上の年月により大人になってしまったひろ美に飛びつこうとして脳挫傷、犬は本能に負けてひろ美の足に交尾しようとする。

しまいには人間に転生できる!と思ったら精子からかよ!しかも自慰かよ!(大助を追い越していく中村獅童(笑))

その一方で地獄でのじゅんこのバンド「デビルハラスメント」との抗争。

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そして、秘技、コードH!

とても指がとどかないそのコードを、あーでもないこーでもない、とみんなで議論しているシーンが一番くだらなく、面白い。

それは、常にそこに真剣さがあるからだ。

宮藤官九郎の面白さの神髄はそこにあるのだと思う。われわれはみんなおバカなんだと。一生懸命がんばればがんばるほど面白くなってしまう。。。

くだらないけど、ばかばかしいけど、それでもなお、真剣だからこそ愛おしくて、どうしようもない本当の愛がそこにはあって、笑ってしまうようなものなんだけど、なぜか涙がこみ上げてくる。

まったくどうしたんだろうねえ、さっきまで腹をかかえて爆笑してたのに。

それこそがメロディーの力なのだ。

これでもか、これでもか、とエッジの効いた笑いのリフを繰り返し、そこに主旋律がそこはかとなく流れ込む。

スラッシュメタルの王道だ。

■その主旋律は近藤となおみの深い想いであり、また大助の、そして「安産祈願」のお守りを死ぬまで手放さないひろ美の想いである。

天国でなおみとその息子に、近藤の歌を届けることができた大助は、再びインコになってすっかり年老いたひろ美のところにたどり着く。

そして二人は念願のチューをする。

理屈などない。これはステージだ。演劇だ。プロットなんてクソくらえだ。

だって、若いままのふたりがチューをしなければ、収まらないだろ?みんなこのメロディーを聞きたかったんだろ?じゃあ聞かせてやるよ!

いいか、これが永遠だ!!

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                      <2016.07.17 記>

【補記】

■ゲスト最高!
じゅんこの両腕、マーティ(日本好きだね!)とROLLY
神様Charと挑戦者よっちゃんw
憂歌団の木村充揮もかっこよかった!

Guest

■神木隆之介ももちろんよかった。大きくなってもかわいいよな。

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■森川葵。なんかやられちゃうよね。魔力があるよな。素敵です。

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■STAFF■
監督・脚本:宮藤官九郎
プロデューサー:宇田充、長坂まき子、臼井央
音楽プロデューサー:安井輝
撮影:相馬大輔(J.S.C.)
照明:佐藤浩太
美術(地獄):桑島十和子
美術(現世):小泉博康
装飾:西尾共未
録音:藤本賢一
VFXスーパーバイザー:道木伸隆
カラーグレーダー:齋藤精二
音響効果:岡瀬晶彦
編集:宮島竜治(J.S.E.)
音楽:向井秀徳
主題歌作曲:KYONO
スタイリスト:伊賀大介
衣裳:荒木里江
ヘアメイクディレクション:山﨑聡
ヘアメイク:百瀬広美、風間啓子
特殊メイク・造形:中田彰輝

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■CAST■
キラーK(近藤善和):長瀬智也
関大助:神木隆之介
亀井なおみ:尾野真千子
手塚ひろ美:森川葵
COZY:桐谷健太
邪子:清野菜名
和田じゅんこ:皆川猿時
修羅:シシド・カフカ
松浦:古舘寛治
鬼姫:清
えんま校長:古田新太
手塚ひろ美(37歳・47歳):宮沢りえ
大助の母・よしえ:坂井真紀
ひろ美の娘:山田杏奈
仏:荒川良々
神:瑛蓮
MOJA・MJ:みうらじゅん
鬼ギタリスト:Char
ジゴロック挑戦者:野村義男、ゴンゾー
じゅんこA:マーティ・フリードマン
じゅんこB:ROLLY
地獄の軽音楽部:快速東京
唄うたいの小鬼:木村充揮
鬼警備員:関本大介
緑鬼:ジャスティス岩倉
牛頭:烏丸せつこ
馬頭:田口トモロヲ
鬼野:片桐仁
黄鬼:小泉博康
OMEN藤本:藤本賢一
アナウンサー:平井理央
我慢汁:中村獅童

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●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

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