« 2016年1月 | トップページ | 2016年7月 »

2016年3月

2016年3月13日 (日)

■【書評】『資本主義の終焉、その先の世界』榊原英資、水野和夫。いま、最大の国難の時期にあって我々はどう動くべきなのか。

歴史が幻想だとしても、現在を読み解く鏡という意味では強力な武器になる。

■ポイントはシンプル。

現在の世界経済はゼロ成長の時代に入った。投資が隅々までいきわたり、もう投資先がなくなってしまった世界はゆっくりと成長を前提としない仕組みを模索していくことになる。というものだ。

中世の地中海経済は開拓先がなくなり、ブローデルが「長い16世紀」と呼ぶ停滞の時代に入った。金利は2%を下回り、紀元前3000年のシュメールで金利が生まれてから最低の値。そして、現在はその長い16世紀をさらに下回るマイナス金利の時代である。

マクロでみれば金利=投資効果であり、現在において投資にメリットはない。

■2000年頃に躍り出たBRICsはインドを除き大幅に減速。残された投資先はアフリカだが人口的にもうま味はなさそうだ。

我々は経済のパイを地理的に拡げる限界に到達した。資本主義は利益を収奪する「周辺」を失った。

リーマンショックの原因となったサブプライムローンは、そんな地理的限界を国内の中間層に切り替える試みで、無審査の低金利で中間層から「未来」を収奪し、中間層を抹殺していった。

小泉改革以降、新自由主義に舵を切った日本も派遣社員の拡大で中間層からの収奪に忙しい。

それはそうだ。

1%以下の低金利時代。投資しても利益が出ないのに、ROE(自己資本利益率)8%を要求するならば、社員の賃金を下げる、購入コストを買いたたくなどをして、出金をセーブするしかないからだ。購入コストの低下は、下請け企業の更なる賃金低下を招く。

経済産業省主導の国民からの収奪は続き、中間層は疲弊していく。そういう構図にある。

■アベノミクスで経済が回復したと安倍首相は胸を張るが、第1の矢である金融緩和の結果は、株価が上がり、円安で輸出企業が潤っただけで、株価上昇で儲けたのは海外投資家であり、企業の利益はデフレ下では投資に進まず内部留保が膨らむだけなのである。

第2の矢の財政出動は、いくらやってもデフレは解消しない。それはそうだ。購入意欲の源泉である給与所得が上がらないのだから高いものを買おうなんて思う人は誰もいない。

インフレ目標2%なんていうのはまったく意味不明で、実体経済の主体である国民の気持ちがまったく分かっていない人間の理屈なのである。

第3の矢である成長戦略については未だに具体的姿が見えないが、榊原と水野も否定的だ。その根拠は、成熟してすべてがいきわたった世界において物欲を刺激する新たな「商品」は生まれない、というところにある。

これについては、少し疑問があり、後述する。

■この本が出たのは2015年12月25日。年明けの未来を見通していたかのようである。

翌、2016年正月明けの株式市場は上海市場の暴落に引きずられて連日の株安。一時はドル110円、日経15000円割れに至る。

現在、17000円越えまで戻しているが、明日の日銀黒田会見、水曜日のFRBイエレン会見次第でさらに上げるかもしれないが、先週木曜日のECBドラギ会見の乱高下をみるとそうも楽観できないだろう。

中国の中間層が確立できない状態での低成長下は中国が次の時代のエンジン足り得ないことを意味しているし、原油バブルの崩壊はアメリカのシェール革命投資の焦げ付きを意味する。また、欧州を牽引するドイツは外需主導であり中国やアメリカの影響を直接受ける構図であり、ドイツ銀行の不安はぬぐえない。

日本はマイナス金利で不動産バブルを期待するが、実体を伴わない覚せい剤的なものだと分かっているから、何かの破綻が起きればその余波を受けてはじけるのは目に見えているので、ババ抜きゲームの感を否めない。

もう、世界経済の失速は始まっている。あとはどうランディングするかだ。

最悪なのは選挙対策として、今、日銀がやっているような無理な買い支えである。反動が起きくなるだけであり、本当に急落するときに下落率の減速させる本来のオペレーションが出来なくなるのではないか、それを心配するのである。

■日本における低成長時代は江戸時代の中~後半にも見られた。徳川の平和が訪れ、一気に生産性が向上。豊かになった日本は生産性向上の限界を天井に長期の停滞期に入る。

だが、その時代は文化が満ち溢れた時代であり、これからの日本は今の低成長を前提として維持しながらそういった時代をめざすのだと二人は語る。

けれども、内部で完結していた江戸時代と、原油や原材料、食糧を輸入に頼る今の日本では構図が異なる。

今、日本が低成長を維持できているのはかろうじてアメリカと中国の経済が維持されているからだ。

そこそこの内需があるものの、製造業はいまだに外需に頼っているのだ。

世界が購入余力を失った時、日本がどうなるか。想像するだに恐ろしい。

だから、アベノミクスの第3の矢は成長戦略から産業革命戦略に読み替える必要がある。

世界経済に左右されない強固な国造りをしなければならない。

■今、まさに国難である。

明治維新になぞらえれば、いまは開国の舵を切った幕府に対する不安が高まった安政の大獄の頃だろうか。これから動乱が始まるのである。

明治を打ち立てた幕末の志士たちは世界の知を己の血に取り込むことで日本の独立を守った。

今回は、世界に渦巻く金融至上主義の断末魔から国民経済を守るというオペレーションだ。

まだ体力があるうちに次の手を打たなければならない。

いくつかヒントがあるように思われるので列挙しておく。

 

①AI、ロボット技術の推進

少子高齢化は避けられない。国内消費を支える国内生産を維持するならば、体力的に厳しく安価な労働力が不足する。

そこで移民だ、と考えていたが、欧州をみればどうも良い選択だとは思えない。

そこで日本がリードするロボット技術で解決するのだ。今の技術なら自動車の組み立ての完全自動化も可能だろう。

農業にしても、AI化で相当なことができるはず。生産の効率化で食糧需給の問題も一気に解決したい。農家は土地を提供してそれに応じたリターンを得ればよい。

ともかく国内生産の高コスト問題が賃金だとするならば、完全自動化がひとつの答えになるだろう。

問題は雇用だが、高齢化福祉をはじめとする社会保障に活路を見出してはどうかと思う。これは③で述べる。

 

②エネルギー革命

原油の輸入に頼らない社会をつくる。

自動車は近い将来EV化するだろう。そうすれば、住宅との組み合わせで日中、夜間はEVに貯めた電気を使い、深夜はEVの充電に充てる。そうすれば電気需要の安定化、効率化を図れる。

問題の発電は何かの革命が必要だが、そこにこそ研究開発投資と人財の投入が必要だと考える。

かつて消えていった夢の技術である常温核融合はどうなったのか?

量子力学の世界は日進月歩である。膨大なエネルギで量子状態を作り出す今の核融合のアプローチは極めて効率が悪く、その一方でわれわれ生体の仕組みの中に量子状態を作り出すメカニズムがあることが分かってきている。例えば光合成がそうだ。

常温核融合のポイントは、金属結晶格子の中に取り込んで水素原子間の距離をつめることにある。その程度の距離では量子状態にはならない、というのが現在の理解だが、生体が量子状態を生むメカニズムを紐解くことで、不安定的にしか再現できなかった常温核融合をコントロールする技術が生まれるのではないだろうか。

 

③地域でつくる人のつながり

①で生産する仕組みができあがり、②でエネルギーが確保されれば、基本的にシステムは回りだす。

だが、この仕組みは拡大を指向しないエコシステムであるがために労働市場と賃金の縮小を生む。

どうやって国民は自分の食い扶持を稼いでいくのか。

①、②の仕組みで利益を得るのは企業である。

その企業に参加できるものは生きていけるが、それ以外の人間は収入の手段を持たないことになる。

いったい我々はなにをもっているのか?

たぶん、その答えは社会的安定なのだと思う。

これが現代日本が持つ最大の価値である。

いま、私に答えはない。

だが、人と人とを分断し、能力主義、自己責任という宗教を布教してきたのが資本主義だとするならば、その逆のところに答えがあるのではないだろうか。

歴史をひも解き、ヒントを探す手もあるかもしれない。

 

いずれにしても、時間が無い。

あと10年の間に次の道筋が描けなければ、子供が社会に出るときに日本の秩序は崩壊しているかもしれない。

だから、ただ危機感をもつだけでなく、自分に何かできることが無いか、それを模索中なのである。

                            <2016.03.13 記>

■資本主義の終焉と歴史の危機

2014年3月刊。この本に先立つ水野和夫の本。

彼の主張とロジックはこの本の方が本質に触れている。

むしろこちらを読むべきだろう。

 

■資本の世界史  資本主義はなぜ危機に陥ってばかりいるのか ウルリケ・ヘルマン

2015年10月刊

資本主義の起源をイギリスの産業革命とし、貨幣経済と資本主義を峻別する論。

資本主義の本質は投資に対するリターンの拡大であり、ゆえに拡張が資本主義そのものである。

新自由主義は、実体を伴わないその行き過ぎた拡張主義ゆえに破綻する。経済危機に対しては実体経済への投資が必要でケインズ流の大型財政出動と高率の累進課税が最良の選択である、とする。

産業革命以降、我々は指数関数的な成長をしてきた。

その成長と危機の歴史が分かりやすく解説されていて、とても勉強になった。

けれども、だからといってこの低成長の時代にケインズ流が通用するかどうかは疑問である。

それを差し引くにしても、資本主義の本質に迫る良書だと思う。

●にほんブログ村● 
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

 

■過去記事■
■【書評】ひつじの本棚 <バックナンバー>
 

*********************************************

■ Amazon.co.jp ■
■【書籍】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【書籍】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

■【DVD】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【DVD】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2016年1月 | トップページ | 2016年7月 »