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2015年8月 8日 (土)

■【映画評】『バケモノの子』。その胸に空いた穴を埋めるモノは・・・。

『おおかみこどもの雨と雪』で子を思う親のこころを描いた細田監督は、さらにそれを深化させ、親になるとはどういうことか、それをこの作品で描き切った、のだと思う。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.80  『バケモノの子』
          
          監督: 細田守 公開:2015年 7月
       出演: 役所広司 宮崎あおい 染谷将太 他

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■ストーリー■
母親を交通事故で亡くし、親戚のもとから飛び出した9歳の少年・蓮は、渋谷でバケモノの世界に迷い込み、そこで熊徹というバケモノの弟子になる。一匹オオカミで生きてきた熊徹は、九太の扱いに戸惑うが、次第にふたりは心を通わせ、絆を深めていく。17歳になったある日、九太はバケモノの世界から渋谷の街へと彷徨い出る。人間の世界で高校生・楓と出会うことで九太は人間としての人生を取り戻していく。だが。。。。

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■ネットの評判は二分している。かなりの酷評が目立つ。

曰く、少年時代の話は引き込まれるが、青年期からの話でついていけなくなる。女子高生とのロマンスなんて余計な話だ。

こういう人たちには伝わらなかったんだね。残念ながら人を選ぶ映画というものはある。その人の価値観、人生観によって、ひっかかるべきところにひっかからない。ひっかかる人のツボにはまる内容であればあるほど分からない人にはさっぱり分からなくなる。

この物語の導入は、バケモノの世界から始まり、九太(蓮)がそこに迷い込み、その世界で生きていく。そいういうところから始まる。

だから千と千尋を想起して、そういうフォーマットの映画だと思い込んだ瞬間に罠にはまるのかもしれない。それゆえの失望なのかもしれない。

■素直に、この物語に没入できなかった人は、バケモノ界と人間界を行き来する、このとても乱暴な展開に覚めてしまったのであろう。

だが、その一見乱暴に見える展開も、バケモノ界と人間界が心の在り方という意味では地続きである。そこを無意識ながらにでも受け入れるならば、そこに違和感を感じることは無かっただろう。

この作品は現実の人間の苦しみの根源であるこころの穴を埋めるものについて語るものであって、我々の論理が通じない異世界を描き出すことで日常の化けの皮をはぎ取るという類のものではない。

あくまでも主は現実であり、熊徹たちの世界も、現実世界の深部を探るためのツールであるがゆえに、むしろ現実世界の本質が純化したカタチでそこにある。

九太を見守る熊徹も多々良も百秋坊も、熊徹のライバルである猪王山も現実の人間の純な感情を持って生きている。

そこを素直に受け入れられるかどうかが分かれ道なのだろう。

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■今まで一人で育ち生きてきた熊徹には欠けているところがあり、それゆえに宗師に弟子を取れと言われ、しょうがないと人間の子と暮らし始める。

はじめは戸惑いながら不器用に接する孤独な二人が、お互いを認め、不器用なりにも関係性を深めていく。師匠と弟子、親子、とくくることが出来ない、もっと本質的な愛がそこにある。

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その新しい関係性が、九太だけでなく熊徹自身を変えていく。そこに前半部の本質があり、そこに感情移入が出来なければ、たぶん終盤の感動に入り込むことは不可能だ。

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コトバにすることが難しい、師匠の、親の子供への愛。コトバにした瞬間に、その意味が定型的なツマラナイモノ、説教くさいものとなり、だからこそコトバを排除した映画という物語を通して初めて伝える事のできるもの。それこそが細田監督が伝えたかったことなのだ。

■人間は弱く、誰しも胸に穴を抱えていて、成長するに従って、その胸の穴はさらに大きくなっていく。

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楓がそうしようと決意したように、型にはめようとする親から離れて本当の自分を探しだし、その穴を埋めていこう。そういう自分探しの罠にはまるものも多い。

だが、どこにも「本当の自分」なんてものはなく、それ故に決して胸の穴は埋まることはない。

唯一、その胸の穴を埋めるのは愛である。どんな人間であろうと関係ない、私の子供。それをいとおしみ、その苦しみの穴を埋めようと思う、無条件の親の愛である。

その愛に気付き、受け入れること。そのことによって人は初めて成長し、愛を知る「親」となることができる。

それがこの映画のメッセージなのだと、私は思う。

 
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■


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■だから、楓の存在は、甘いロマンスのヒロインなんかじゃない。そこにあるのは子供としての蓮を愛おしく思う親の愛の芽生えである。

自分の胸の穴と同じものを蓮のなかに感じ、お守りを授ける。その愛。

決して一人では気づくことのできなかった、その愛を、楓は蓮を通じて知ることが出来る。「バケモノの子」は決してバケモノと子供の心の交流を描いた作品ではない。欠けたものを抱えた人の心。そこに寄りそう愛の物語なのである。

それゆえに楓はこの物語において決して外すことのできない存在なのだ。

その愛は、終盤において蓮から一郎彦へとつながっていく。この愛の連鎖に希望がある。

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■一郎彦は、猪王山に拾われた人間の子。親を慕い、お父さんのようになりたい。だけど人間の子である一郎彦は牙も生えなければ、鼻も伸びない。

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親を尊敬し、そうなりたいと思うのにそうなれない。僕はいったい何者なのか。その想いのなかに一郎彦の胸の穴が深くなっていく。

楓の想いとは対極的ではあるが、これも成長期にかかえる人の心の穴のひとつのカタチだ。

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■完璧な人格者で心身ともに最強の猪王山であっても、一郎彦の心の穴に気付くことはできなかった。

いやむしろ完璧であるが故に、そこに気付けない。

これもまた親子の悲劇である。

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次の宗師を決める戦いにおいて、熊徹は実力では劣りながらも九太という存在に支えられ、ついに猪王山を破る。

絶対である父の負けを受け入れられない一郎彦は、その胸の穴に呑み込まれ、破壊神と化してしまう。

その時はじめて、猪王山は己のおごりを知るのだ。猪王山の一郎彦を想う愛には、彼の心の穴を埋める力が無かったということだ。

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■九太=蓮を追って人間界に入り込んだ一郎彦は巨大なクジラの影となる。それは人間の心の闇そのものだ。

それは現実世界でも、異常な事件として時折われわれを恐怖させるものの裏に潜むものである。

この闇にわれわれはどう向き合えばよいのか。

それと対峙した蓮は、己の中に取り込み、一緒に滅するしかないと意を決する。

心の穴には心の穴で。

だが、それで問題が解決するのだろうか。大なり小なりの心の穴を皆が抱えたこの世の中で、闇を闇として扱い、葬り去ることが、解決につながるのだろうか。

細田監督は否と答える。

心の穴を埋めるのは、無条件に相手を包み込むような、親が子供に与えるような、大丈夫、お前は生きていていいんだよ、と全肯定する愛なのだ。

熊徹は剣に宿る神として転生し、九太=蓮の心の穴に入り込む。それは全肯定され、生きていいぞ、と励まされ、生きていいんだ、という自信につながる力である。

その力が、一郎彦の闇を貫き霧散させる。

九太=蓮を支えた楓のお守りは、一郎彦の腕に結ばれ、そこに愛の連鎖という可能性が示される。

闇を斬るのは闇ではない。

深く、温かく、包み込む、愛なのである。

親が、親となること。温かい世の中を再構築していく道は、われわれひとりひとりにとって、とても私的なところにあるのかもしれない。

                       <2015・8・08 記>

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■STAFF■
原作・監督・脚本 - 細田守
キャラクターデザイン - 細田守、山下高明、伊賀大介
作画監督 - 山下高明、西田達三
美術監督 - 大森祟、高松洋平、西川洋一
音楽 - 高木正勝
色彩設計 - 三笠修
CGディレクター - 堀部亮
美術設定 - 上條安里
衣装 - 伊賀大介
編集 - 西山茂
録音 - 小原吉男
音響効果 - 赤澤勇二
音楽プロデューサー - 北原京子
企画・制作 - スタジオ地図

■CAST■
熊徹(くまてつ) - 役所広司
九太(きゅうた)/蓮(れん) - 宮崎あおい(幼少期)、染谷将太(青年期)
楓(かえで)     - 広瀬すず
多々良(たたら) - 大泉洋
百秋坊(ひゃくしゅうぼう) - リリー・フランキー
宗師(そうし) - 津川雅彦
猪王山(いおうぜん) - 山路和弘
一郎彦(いちろうひこ) - 黒木華(幼少期)、宮野真守(青年期)
二郎丸(じろうまる) - 大野百花(幼少期)、山口勝平(青年期)
チコ - 諸星すみれ
九太の父 - 長塚圭史
九太の母 - 麻生久美子
賢者 - 中村正、沼田爆、草村礼子、近石真介

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