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2015年7月

2015年7月21日 (火)

■【映画評】『ターミネーター:新起動/ジェネシス』。心の通わないプロットもスカイネットの仕業なのか?

I'll be back!!

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.79  『ターミネータ:新起動/ジェネシス』
           原題: Terminator Genisys
          監督: アラン・テイラー 公開:2015年7月
       出演: アーノルド・シュワルツェネッガー  エミリア・クラーク 他

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■ストーリー■
2029年、「審判の日」から30年以上に渡る人類とスカイネット率いる殺人機械群との戦いは、ジョン・コナーに率いられた人類側の勝利に終わった。窮地に陥ったスカイネットはジョンの母親サラ・コナーを殺害することで彼の存在自体を抹消すべくタイムマシンでターミネーターT-800を1984年に送り、人類側もそれを阻止すべく志願したカイル・リースが送り込まれることになる。しかしタイムトラベルの瞬間、カイルはジョンが何者かに背後から襲われるのを目撃して、転移する。そして、転移中、「スカイネットはジェニシス」「審判の日は2017年」といった謎の光景を見る。

■言わずと知れた名作ターミネーター/ターミネーター2のリブート作品。

物語は、もう話は知ってるでしょ、とばかりに未来の戦場から始まる。現代の日常に裂け目が生じ、未来の悪夢が襲い掛かってくるという前作のフォーマットは完全に放逐されている。

このあたりのスタンスが実はこの作品の本質を映しているように思える。

物語とは何か、ということだ。

ストーリーは説明的に過去へと飛んでいく。ターミネータを思い起こさせる全裸のシュワルツネガーと不良のシーン。そこに現れる我らがシュワちゃん。

どう、面白いでしょ、という制作側のささやきが聞こえてきそうだ。

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■一方、サラを守るために過去に飛んだカイル。すぐさまT-1000に襲われる。イ・ビョンホン。表情がいい。

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T-1000からカイルを救ったのは、なんとサラ・コナー。この世界ではサラはすでに何者かが事前に送り込んだT-800によって守られ、戦闘訓練を施されていたのだ。

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のっけから予定が狂ってしまっている。我々は一体、どこに連れて行かれるのか。教科書的には極めてよくできた脚本だ。

サラはすべてを知っている。だがその未来もまた変質をきたし始めているらしい。

スカイネットが起動し、世界を滅ぼした1997年ではなく、そのあとも平穏な日々の続いた時間軸の先、2017年にサラとカイルは向かう。

二人は1984年から33年間待ち続け、表面の肉体が年老いてしまったT-800と合流し、スカイネットの真の姿であるアプリケーション・ジェネシスの世界へのダウンロード開始を阻止するという筋書き。

いやあ、面白いんだけどね。何か物足りない。。。。

アクションもいい、絵も申し分ない。

たぶん、足りないのは物語なのだと思う。

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■4歳のサラのもとにT-1000が襲い掛かる。それを守り、育てたT-800。サラにとってはT-800父親そのものだ。ロボットであったとしても、そこには捨てがたい愛があって、そこここにその想いが語られる。

それが薄い。圧倒的に薄い。

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死ぬ運命にあるカイルとの出会い。それを語るわけにはいかないサラの想い。その時、そばにいるのは父親の役割りであって、合体したのか?としか聞かないダメな父親だとしても、戦士であるサラにとって唯一、自分の苦しみをみせることができるのがシュワちゃんのはずなのだ。

そこに機械と人間の不思議な愛のカタチがあるはずで、うっすらとは語られているものの、ハイスピードで’説明’を繰り返すストーリーにかき消されてしまう。

■人類の救世主にして、サラの愛する息子ジョンにしてもそうだ。

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スカイネットの策謀によって、ナノマシンによるサイボーグにされてしまったジョン・コナー。彼はすでに人間の心を失っている。

そこで彼の中にわずかに残ったオリジナルの心を登場させ、俺を殺してくれ!みたいなことはしなくて正解なのだけれども、サラにしろ、カイルにしろ、その心中は千々に乱れているはずだ。

そこでも、にっくき ’ストーリー展開’の進行のためになおざりにされてしまう。

敵と化してしまったジョン・コナーは、その強さが最強であればあるほど、単純化され’軽い’存在になってしまう。

どうだ、こんなターミネーターも面白いだろ!

という構想が先行し、そのアタマでだけ考えたプロットには心が通っていない。だから、観る者の心にもぐっと来ない。実に、薄っぺらな作品になってしまったのだ。

唯一の救いはシュワちゃんだ。

彼がいるだけで、’エンターテイメント’になる。それだけで何故か、ま、いいか、という気分になってしまう。

シュワちゃんが出る限り、たぶん、続編も見に行ってしまうのだろう。まだまだ、頑張ってほしいね。

                        <2015.07.21 記>

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■STAFF■
監督 - アラン・テイラー
脚本 - レータ・カログリディス、パトリック・ルシエ
撮影 - クレイマー・モーゲンソー
プロダクション・デザイナー - ニール・スピサック
編集 - ロジャー・バートン
衣装デザイナー - スーザン・マシスン
音楽 - ローン・バルフェ
エグゼクティブ音楽プロデューサー - ハンス・ジマー
原作 ジェームズ・キャメロン、ゲイル・アン・ハード

■CAST■
ガーディアン / T-800 - アーノルド・シュワルツェネッガー
ジョン・コナー / T-3000 - ジェイソン・クラーク
サラ・コナー - エミリア・クラーク
カイル・リース - ジェイ・コートニー
T-1000 - イ・ビョンホン
オブライエン刑事 - J・K・シモンズ
スカイネット / T-5000 - マット・スミス

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2015年7月 8日 (水)

■『ダナエ』、クリムト。恍惚としてエロスに浸る幸福。欲望も悟りをも越えた、人間が最後にたどり着く楽園。

圧倒的なエロスに酔いしれるのである。

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クリムト作、『ダナエ』(1907-08)。

ダナエは、ギリシャ神話の人物。孫に殺されるという神託を信じ、ダナエの父親は男が近寄らないように娘を塔に閉じ込めるが、その美しさを見染めたゼウスが金の雨になって塔に流れ込み、ダナエと交わる。そのシーンである。

 

余計な解説や感想などはいらない。

ただ、ただ、恍惚と、ダナエとの世界に没入する。

それが幸せなのである。

エロスは、人間がたどりつく最後の楽園なのだと思う。

ここでは、一旦『ダナエ』を離れ、エロスについて語ってみよう。

■ここでいうエロスとは、もちろん愛におぼれるエロスを多分に含むが、人間の心の動きとして大きくとらえたとき、すべてを忘れ、恍惚とその世界に浸る幸福という意味で、さらに広い枠組みとして現れる。

それは、娘の寝顔を眺めているときであったり、刻々と変わる夕焼けの空の色彩に引き込まれているときであったり、どんな高級イタリアンレストランでも食べることのできない青春を過ごした喫茶店のペペロンチーノの味を思い出しているときに、私をとらえているものなのだ。

そこでは、社会のしがらみも、欲も、苦悩もすべて消え去り、ただただ、恍惚の世界がある。

それは、株でうまくやって一億円も儲けたり、会社で抜擢され同期の誰よりも早く昇進したことによって得られる幸福感とはまったく性格の異なるものである。

何かを得れば、さらに欲しくなるのが、我々の欲望の本質であり、満足のすぐそばには、強い不満が常に寄りそっている。

そういう、何かを得る、というものではなくて、目の前のもの、そのものを、そのものとして味わい、愛おしみ、恍惚として没入する。それがエロスだ。

そこに幸せの秘密が隠されているのだと、私は確信する。だから、エロスにこだわるのだ。

■今、私たちは、資本主義社会に暮らしている。

資本主義の駆動力は欲望である。もっとお金を稼いで、もっと良い暮らしをしよう。その為にお金を稼ぎ、それを消費する。

貧しい人は、もっと「幸せ」であるべきだ、と資本主義社会にどんどんと組み込まれ、もっと、もっと、幸せに、もっと、もっと、お金を稼ぎ、もっと、もっと消費をしよう。

そうして消費のパイの大きさが、日々成長することを前提に、資本主義社会の「幸せ」は約束されている。

かつて、マルクスは、資本家というものがいて、労働者を搾取するのが、資本主義の本性だ、と批判したが、結局のところ、労働者たちも、もっともっとお金を、もっともっと幸福を、という世界観を選び、組み込まれることから逃れることは出来ず、共産主義の実験は完全に失敗した。

すべての人々が、その欲望の仕組みに取り込まれ、その幸せを維持していくために、さらにその欲望を膨らませていかなければならない。

そこには、資本家も労働者もなく、あるのは、欲望によって駆動される圧倒的に強固なシステムなのである。

■だが、資本主義が欲望のシステムである限り、その欲望が満たされることは無い。

金が欲しい。地位が欲しい。愛が欲しい。

欲しい、欲しい、欲しい。

それが、本当に幸福な世の中ではないと、誰もが薄々感じているのであるのだけれど、今の豊かな生活が、資本主義の仕組みに支えられているのも現実で、それを手放す勇気もない。

だから、常に満たされない欲求を抱えながら、我々は生きていかざるを得ない。

それが、資本主義社会に暮らすものの悲劇である。

■わたしを苦しめる欲なんてものは、幻に過ぎない。

仏教は、そう教える。

目も鼻も口も耳も、

見えるものも、匂うものも、味わうものも、聞こえるものも、

こころに浮かぶものも、感じるものも、

すべては幻、実体のないものである。

「空」という、この仏教の概念は、それらの感覚や感情を徹底的に洗い流そうとする。

欲望、怒り、悲しみ、苦しみ、といったものは「私」から生まれ出たものに過ぎない。「私」がいない世界では、そんな感情や、苦しみは存在しえないのだから。

欲望、怒り、悲しみ、苦しみ、は「私」という洞窟のなかで空しく響く、「こだま」なのである。

だから、その洞穴から去れ、「私」というコダワリから去れ。

というのが仏教の神髄なのだと、私はとらえている。

■だがしかし、そうして何者でもない真っ白な紙のような私は、本当にそうなりたかったのか。

実は、悟りとは、そういうものではないのかもしれない。

一休宗純が、夜のしじまに浮かぶ小舟の中の静寂にいて、それをカラスの声が切り裂いた。

その瞬間、一休を苦しめてきた「私」が消え去り、世界がありありと、その目の前に現れてきたのだという。

真っ白な紙となりたい、という思いもまた、一休の欲であり、「私」そのものであった。

それが木端微塵に打ち砕かれ、「私」というメガネを通さずに、世界が世界としてありのままのものとして、ある。

■そうして、真に「私」を去り、ありありと世界を感じることが出来たとき、アリジゴクのように引き込んで離さない、資本主義の魔の手から、我々は逃れることができるのかもしれない。

それは、ひとつの方法なのだと思う。

爽やかな一陣の風のような、そんな生き方は、極めて、かっこいいと思う。

けれども、それが幸せかと問われれば、何か違うような気もするのである。

人生に対して、どこか一歩引いた、よそよそしさを感じてしまうのだ。

 

目の前にある、そのものをそのものとして、「私」そのものが愛している。

愛おしい、と感じるのは「私」。

そうして、その愛に没入していく過程で、時間も空間も消えていき、「私」が溶けていく感覚。

それがエロスであり、悟りの先にあるものなのではないか、と強く提起したいのだ。

それは、「私」と、それを包み込む「世界」への強い肯定であり、愛である。

エロスは決して、虚無でも、逃避でもなく、

世界に対する、明るく、前向きな姿勢なのである。

この閉塞した、出口の見えない資本主義の地獄のなかで、一条の光を見出す試み、態度こそが、エロスなのだ。

 

改めて、『ダナエ』を見る。

すべてが消え去り、ただ胸をつく感情が漂う。

その瞬間に、幸せがあるのだ。

 

                         <2015.07.08記>

 

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2015年7月 2日 (木)

■【アニメ評】『ガッチャマン クラウズ』。悪って、なんすかね?

7月から続編放送開始。もー、わくわくするー。たのしみだお。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
番外編  『ガッチャマン クラウズ』

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■ストーリー■
人知れず宇宙からの侵略者たちと戦ってきたガッチャマン。女子高生の一ノ瀬はじめは、神秘的存在JJにNOTEを抜かれ、ガッチャマンとなる。自由で素直な心を持つはじめに、他のメンバーは戸惑いながらも影響されていく。そんなとき、コミュニケーションアプリ、ギャラックスを使って世界をアップデートしようと試みる女装の青年と、人の心に付け込む悪魔のような異星人によって、世界は混乱に陥っていく。

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■なんだこりゃ、と思いながら次第にはまっていき、中盤にさしかかるころには、もう病みつき。

何が、いったい私を惹きつけるのか。

WHITE ASHのスピーディーかつスタイリッシュなテーマソング?かわいらしい女装男子でありながら社会変革をめざす理想主義のるいるい?軽妙な2ちゃんねらートークで相手をあおりまくるカッツェさん?

そうであって、そうでない。

もっと根深いところに何かがある。単なる深夜アニメを超えた何かが、このガッチャマンクラウズにはあるのだ。

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■言ってしまおう、それは、哲学である。

哲学とは、すべてを疑いつくし、日常の固い地面をへっぺがしたところにこの生の本質を見つけ出す学問である。

疑う人は、不思議ちゃん的女子高生のはじめちゃんである。

シルバーシートで老人に席を譲らない青年は、ものすごく体調が悪かったのかもしれないし、市街地の細い道をかっとばすクルマの運転手は、出産しそうな奥さんを乗せているのかもしれない。

数年来、ガッチャマンが死闘を繰り広げてきた謎の宇宙生命体メスは、ただ単に、我々に気付いていないだけなのかもしれない。

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■すべてをニュートラルに受け止める力を持つ、はじめちゃん。

まわりのガッチャマンのメンバーは、次第に自らを縛り付けているものと和解し、あるがままの自分を取り戻していく。

己を含めた全世界を憎み、受け入れることのできないベルク・カッツェですら、はじめちゃんの中に、何かを見出そうとしてしまう。

どうしても上手くいかない、いらいらしてしまうこの世界。

けれど、はじめちゃんの瞳の向こうには、決めつけない、決めつけることで縛られない、自由な世界が広がっているのだ。

その世界は、抹香くさい坊さんの諦観とは真逆のものであって、楽しい、うれしいをあきらめない、極めて明るいものなのである。

■その、従来の宗教や、哲学にハマりきらない新たな価値観が、ガッチャマンのメンバーや、るいるい、カッツエを惹きつけるだけでなく、その姿を通して、みるものを新たな気持ちへといざなうのである。

ヒーローって何すかね?なんなんすかね?何すかね?

と、問い続けるはじめちゃんの頭にヒーローの具体的イメージはない。ただ、それは、悪いやつをやっつける、なんていう単純なものではない、ということだけははっきりしている。

遥か40年前、お茶の間を席巻した科学忍者隊ガッチャマンは、己を傷つけながらも悪の化身であるギャラクターをやっつけることで確かにヒーローであった。

けれども、すべての価値観が崩壊し、何が善で、何が悪かがきわめて見えづらくなってしまった今の世の中において、明確なヒーローなんてものはありえない。

ガッチャマンの最終回で、ギャラクターは滅んだが、悪がわれわれの中にいる限り、安心することはできないと喝破した南部博士の言うとおりの世界が今、我々の目の前に広がっている。

我々こそが善であり、同時に、悪であるのだ。

その悪をやっつけることは、我々が我々でなくなることを意味している限りにおいて、正義は絶望的な戦いを強いられることになる。

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■この物語の後半は、ベルク・カッツェに煽られた我々の悪が暴走していく様が描かれている。いや、それは悪と明確に名づける事すらできない、混沌とでもいうべき破壊の種である。

だが、その一方で、状況を楽しみながら、受け入れていく強く健康なこころも、また我々であるのだ。

その楽観主義が、この作品に底抜けな明るさを与え、悪を取り込んだものであるが故の奥行きを与えている。

この物語が、続編のガッチャマンクラウズインサイトにおいて、さらにどう深まっていくのか。。。。

括目してみるべし!

                      <2015. 07. 02 記>

【CAST】
一ノ瀬はじめ:内田真礼

橘 清音:逢坂良太
枇々木 丈:浪川大輔
うつつ:小岩井ことり
パイマン:平野 綾
O・D:細見大輔
爾乃美家 累:村瀬 歩
ベルク・カッツェ:宮野真守
総裁X:丹下 桜
J・J・ロビンソン:森 功至
 
【STAFF】
監督: 中村健治
シリーズ構成:大野敏哉
設定構築:工藤孝雄
キャラクター原案:キナコ
総作画監督:高橋裕一
Gスーツデザイン:中北晃二 安藤賢司
アニメーション制作:タツノコプロ
音響監督:長崎行男
音楽:岩崎 琢

 

 

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