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2015年6月 7日 (日)

■【映画評】『キル・ビル』。明るいおバカと悪の哲学。

たまにはおバカ映画も悪くない。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.78  『キル・ビル vol.1』/『キル・ビル vol.2』
           原題: Edward Scissorhands
          監督: クエンティン・タランティーノ 公開:vol.1 2003年10月/vol.2 2004年4月
       出演: ユマ・サーマン 他

 

■ストーリー■
妊娠を機に殺し屋稼業から足を洗ったザ・ブライドは結婚式のリハーサルの最中、属していた組織のボスであるビルとその配下である4人の殺し屋から襲撃を受ける。婚約者である夫を殺され、妊娠していた彼女も凄惨なリンチにより、4年間の昏睡状態に陥るほどの重傷を負わされる。昏睡から目覚めたザ・ブライドは、ビルと4人の殺し屋への復讐に向けて動き始める。

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■Vo1.1はアクション活劇まんが。Vol.2はねじまがった愛のかたち。ひとつの物語でありながら大きな変局があり、そこを楽しむ上で、やはり一気に鑑賞した方が面白い。

Vol.1は昏睡から目覚めたザ・ブライドが動かない身体をなんとか蘇生させ、沖縄にいる伝説の刀鍛冶・服部半蔵から譲り受けた名刀を手に、東京でオーレン石井率いる組織に立ち向かうという筋立て。

教会で無慈悲な殺戮を行ったビルと毒蛇暗殺団の4人のメンバー(ナイフの達人ヴァニータ・グリーン、毒殺者エル・ドライバー、日本刀の使い手オーレン石井、ビルの弟バド)がザ・ブライドの復讐のターゲットとなる。

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オープニングで戦うのはヴァニータ・グリーン。これは、時系列的にはVo.1,とVo.2の間に位置すると思われるが、テンポの関係で初めに持ってこられたのだろう。

4年の間にヴァニータは家族を作り、子供をもうけている。その家に乗り込み、大立ち回りをするのだが、そこにヴァニータの娘が帰ってくる。

ここで一時休戦。

本来ならば、このヴァニータの幸せな姿こそが、ブライドが得ようとしていたものであり、それを守ろうとするヴァニータを倒すブライドの復讐は己をも切り刻む地獄の決意である。

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このオープニングをはじめに持ってきたのは実に意味が深いのであるが、このあとに続くおバカ展開のせいですっかり忘れてしまう。4人衆のなかで一番影が薄くなってしまったヴァニータさん、残念!

なお、昏睡中にブライドの命を狙うエル・ドライバーのシーンも結構そそる。いかにエル・ドライバーがブライドを憎んでいるか、なぜエル・ドライバーは片目なのか、それはVo.2のお楽しみ。

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■昏睡から覚めたブライドは沖縄に向かう。彼女の目的は、かつての凄腕暗殺者で刀鍛冶の服部半蔵(千葉真一)。

このあたりには千葉真一へのタランテイーノの愛が溢れている。それ故に、タランティーノの目は曇ってしまったのではないだろうか。

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まずい寿司屋の主人に収まっている服部半蔵には影が無い。おばかな寿司屋の主人の裏にある狂気を感じられない。何ゆえに人を殺すことを止めたのか、人を殺す道具を作ることを止めたのか、それが無い限り、ブライドに刀を与えた意味の深さが定義できない。

きっとタランティーノはそれを定義しているはずである。1カットでもいい。それをにおわせるシーンがあるだけで千葉真一はもっと生きたはずである。それが残念でならない。

ところで、なぜ沖縄なんだろうね。

それもヒントかな。

■そしてブライドはオーレン石井の待つ東京へ。

タランテイーノはオーレン石井に対しては、行き過ぎなくらいに描きこみを行う。

彼女が如何にして暗殺者になったのかを語る長尺のアニメーションは攻殻機動隊のProduction I.G。質、高過ぎでしょう。

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また組長顔合わせの場で國村準の頭を切り落とすシーンにオーレン石井の意思と残虐性を見せつける。

しかし、まあやり過ぎだよね。見せないことによる深みを失わせている感が強い。このエネルギーの1割でも千葉真一に振り向けてくれたらと本当に残念。

■とはいえ、オーレン石井のキャラクターは固まった。あとはどう対決するか。

まずはクレイジー88。

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いくらなんでも、こんなにいっぱい一人でやっつけるなんてありえねーべ。いくら伝説の名刀でも刃こぼれするわ、脂がまわるわで斬れなくなる。『七人の侍』をちゃんと見てないのか?

なーんて理屈はどうでもいい。

ばったばったと斬り倒す。首はちょん切れ、体はまっぷたつ!!

どんだけ~???

と、大うけしながら鑑賞するのが正しい観方なのである。僕らはこれまで、こんな時代劇や特撮番組をみて育ってきたのだから、そのフォーマットとして素直に楽しむべきなのである。

■ラスボスの前には強敵が立ちはだかるものである。

GoGo夕張こと栗山千明のお出ましだ。

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ブレザー、ミニスカの女子高生スタイルから繰り出される鉄球がヤバい。ヤバすぎる。

太ももも露わにエイ!と蹴りだされる鉄球の質量がブライドを襲う!!

世界中のオトコたちがたまんねー!と身悶えする。

これがネオテニー(幼形成熟)的エロスを源泉とする’ジャパン’文化の本質なのだ。その意味でオタク映画『キル・ビル』の価値はここに集約されるといっても過言ではない。

栗山千明、いい仕事しました。

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■一方、オーレン石井との対決は、ふすまの向こうの雪景色のなかで繰り広げられる。それは、どこかで見た任侠映画の風景であって、どこか郷愁をそそる美しさなのである。

その底流にながれる恨み節。

このあまりに濃すぎる感情を、いまの日本社会は押し殺してしまっているように思える。恨んで恨んで、耐えて耐えて、そしてその先にあるカタルシスのフォーマット。そこに没入できない心は不幸である。

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暗くて重い感情を抱きながらも、それを軽妙なオブラートにつつみ、表面だけ明るく振る舞う現代の日本の空気を打破するためにも、この恨み節のフォーマットを再発見することが、社会のこころの健康を保つためにも良いのではないかと、強く思う次第なのである。


 

■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■オーレンを倒したあと、拷問のあと解放されるソフィーのシーンで終わる。

そこでビルの口からブライドの娘が生きていることが匂わされたところでVo.1閉幕。Vol.1でオタク心を十分に解放したタランテイーノは、Vo.2で本題の愛の姿に立ち戻る。

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■残るターゲットは、ビル、バド、エル・ドライバー。

だが、その前にブライドの中国拳法の師匠パイ・メイについての物語。

このパートはVo.1のノリを少し残していて、カンフー映画に向けた愛が描かれる。

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単調で苦しい修行の先に奥義がある、というフォーマットそのものだが、もう画面からあふれる空気そのものが、カンフー映画のそれであって、思わずクスリとしてしまう。

Vol.1からの流れで見なければ、なんのこっちゃ、という違和感溢れるエピソードで、そういう意味でも、やはり、Vol.1とVo.2は合わせてみたいところだ。

■さて、ビルの弟、バド。 この男、極めて魅力的なのである。

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ブライドが狙っている、というビルの忠告に対し、自分のやったことを考えればブライドに殺す権利がある。俺は殺されてもいいと思っている。と、なにやらしおらしい。

用心棒をやっている酒場のボスには低くみられ、便所掃除に精をだす。 こんなしょぼくれた男が、実はものすごく強いのだ。

忍び寄るブライドを、岩塩を仕込んだショットガンで一撃。睡眠薬の注射を手慣れた感じで打つそのしぐさ。しびれます。

プロフェッショナルなワルなのである。

そんな自分がきっと嫌なのだろう。

物語の中では語られないが、きっとバドをそういう状態に追い込んだ事件があるはずで、そこに思いを馳せる余地のなかに、この男の魅力があるのである。

■ブライドを墓穴の中に生き埋めにし、ブライドの持っていた服部半蔵の名刀をエル・ドライバーに売りつけようとするバド。

その金で、どこか遠くの世界での隠遁を夢見ていたのだろうか。

だが、エル・ドライバーの策略にはまり、毒蛇に噛まれて無残にも落命してしまう。

えー、もっとバドのかっこいい姿をみたかったのに、という観客の思いに対してタランティーノは意地悪だ。あまりにも、あっけない。

魂を悪に売り渡した男は、いくら後悔しようとも、決して幸せにはなれない。みじめに、ぼろ雑巾のように死んでいくのである。

これがタランテイーノの美学なのかもしれない。

■一方、土中の棺桶の中に閉じ込められたブライド。

バドは何故か、ブライドに懐中電灯を持たせている。明かに、脱出してみせろよ!というメッセージだ。

手足を縛られた絶望の中で、ブライドは師匠パイ・メイの教えを思い出し、指で図った棺桶の天板にこぶしを当て続ける。

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■バドのトレーラーハウスで、バド殺害に成功したエル・ドライバーのもとに、墓中から脱出したブライドが現れる。

自分の獲物をバドに横取りされたと思い込んでいたエル・ドライバーは嬉々としてブライドに襲い掛かる。

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ビルの愛を独り占めにした気に入らない女。

ブライドはパイ・メイに可愛がられ、そのパイ・メイは私の片目を抉り取った。

何故?

だから、あのジジイに毒をもって殺してやったのさ。

完全なサイコである。

■死闘の末にブライドはエルを倒し、残った片目を抉り出す。

敢えてトドメはささない。

お前は、死にすら値しない。

ブライドの背中から、そんなセリフが湧いてくる。うーん、かっこいい。

■メキシコでビルの居所をつかんだブライドは、単身そこに乗り込む。

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だが、そこに待っていたのは、4歳になる自分の娘。憎むべきビルと楽しそうに遊んでいるその無邪気。

ここまでブライドを駆動してきた復讐の根幹が、ガラガラと崩れていく。

なすすべもなく、家族、というかたちに取り込まれるブライド。やはり子供は最強だ。

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■殺しの作戦の途中で、自分が妊娠したことに慄き、人を殺すことが出来なくなった。そんな自分を殺しに来た刺客の女も、妊娠したならしかたない、グッド・ラックと去っていく。ホンマかいな!!

それが女の摂理なのか。

子供に血なまぐさい世界で育ってほしくない。その一心で姿をくらまし、牙をかくして普通の幸せに潜り込もうとしたベアトリクス・キドー=ブライド。

ブライドは死んだと思い、一度は悲しみにくれたビルも、ブライドが生きていることを察知し、その裏切りを許せずに皆殺しに至る。

そして、今、目の前にビルとビルとの間の愛おしい子供がいる。

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■だが、金魚を踏み潰して殺してしまうB.B.の姿に、やはりビルのもとでは子供はまともには育たない。育つはずがない。これが、私の恐れていたこと。。。。

この冷酷で、人を信じることを知らない、誠実な対話よりも、自白剤を選ぶ男。ビル。

ビルも、そのことを十分に理解している。

だから、裏切りなのだ。

パイ・メイ秘伝の五点掌爆心拳でビルを仕留めるベアトリクス。

ビルは、これを待っていたのかもしれない。

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■ベアトリクスは、血塗られた殺人者でありながら、愛を育んでいけるのか?

これが、残されたテーマである。

バスルームにうずくまり号泣しながら、感謝をささげるベアトリクスに未来はあるのか。

修羅の道に堕ちた女の先に何が待ち受けているのか。

ヴァニータ、エル・ドライバー、オーレン石井、バド、そしてビル。

すべてはベアトリクス=ブライド=ブラック・マンバを映した鏡。

あの教会での虐殺は、逃れようとした自分の過去そのものが引き寄せたものなのだ。

だから、ビルと毒蛇暗殺団が消えても、ベアトリクスの血塗られた両手から死のにおいは消え去りはしない。

ベアトリクスの孤独な逃走劇はここから始まるのだ。

 

                      <2015.06.07 記>

■STAFF■
監督 クエンティン・タランティーノ
脚本 クエンティン・タランティーノ
製作 ローレンス・ベンダー
音楽 RZA ラーズ・ウルリッヒ
撮影 ロバート・リチャードソン
編集 サリー・メンケ

■CAST■
ベアトリクス・キドー / ザ・ブライド /ブラック・マンバ:ユマ・サーマン
ビル / スネークチャーマー:デビッド・キャラダイン
エル・ドライバー / カリフォルニア・マウンテン・スネーク: ダリル・ハンナ
バド / サイドワインダー:マイケル・マドセン

キャスト (Vol.1)
オーレン石井 / コットンマウス:ルーシー・リュー
ヴァニータ・グリーン / コッパーヘッド / ジーニー・ベル:ヴィヴィカ・A・フォックス
服部半蔵:千葉真一
GOGO夕張:栗山千明
ジョニー・モー:ゴードン・ラウ
ソフィ・ファタール:ジュリー・ドレフュス
田中親分:國村隼
クレイジー88構成員
島口哲朗、田中要次、真瀬樹里、高橋一生、北村一輝(小路親分と2役)、クエンティン・タランティーノ
青葉屋の女主人:風祭ゆき
チャーリー・ブラウン(サキチ):佐藤佐吉
アニメパート/子供時代のオーレン石井(声優):前田愛
アニメパート/松本親分(声優):楠見尚己
アニメパート/プリティ・リキ(声優):緑川光

キャスト (Vol.2)
B・B:パーラ・ヘイニー=ジャーディン
パイ・メイ(白眉):ゴードン・ラウ
エステバン・ヴィハイオ:マイケル・パークス

 

●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

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