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2014年3月 4日 (火)

■【書評】『永遠の0』、百田 尚樹。戦争世代の強靭な魂を受け継ぐ使命を、我々は持っているのだ。

映画を先に観たので、これも泣くだろうなぁ、と身構えていたのが悪かったのか、号泣には至らなかった。

泣かせのドラマ、というよりはメッセージ性にこだわった作品なのだと思う。

映画とは似て非なるものなのである。

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■永遠の0 (講談社文庫)

■特攻で死んだという祖父・宮部久蔵の本当の姿を求めて、25歳の司法試験浪人の青年が、祖父を知る戦友たちのもとを訪ね歩く。

一種のオムニバスと考えていいのだろうか。

ひとりひとりの語りが深い。思わず膝を寄せて聞き入ってしまう。絶妙な語り口のせいもあるのだろうが、実に真に迫っているのである。

著者は膨大な資料を漁って、この本を仕上げたのだろうけれども、実際にあの戦争の生き証人たちの声を聴いたのだろう。で、なければこの迫力を出せるはずがない。

■それは一種の使命感なのだと思う。

あの戦争から70年が経とうとしている。当時二十歳だった人は現在90歳近い。もう、この機を逃すと実体験として戦争を語ることの出来る人がいなくなってしまうのだ。

だが、戦争体験者は黙して語らない。

表層的な資料だけが歴史として残っていく。うわべっつらの情報をもとに歪んだ戦争像がひとり歩きしていく。

その危機感。切れば血の出る生々しい本当の戦争というものを伝えなければならない。

その使命感が著者を突き動かしたのだろう。

■ともすると、その使命感が空回りする場面もある。神風特攻隊をイスラムの自爆テロと同義とし、特攻隊員を洗脳されたテロリストと言い切る新聞記者。元特攻要員の実業家がそれを一喝するシーン。帝国海軍の続けざまの失策に官僚組織の弊害を見、それを断罪するシーン。

言いたいことは分かる。そして、事実として伝えなければならないことであることも分かる。だが、戦争の語り部たちが紡ぐ「物語」のリアリティに対し、それは圧倒的に心に響かない。

我々が求めるのは戦争の総括ではない。20代そこそこの本来であれば明るい未来を背負っていたであろう若者たちが、理不尽な世界で喘ぎ、苦しみ、そして死んでいく。その無念。

そこに、この小説の真価があるのだ。

■宮部久蔵は、妻のため、娘のために生きて帰りたいという信念で動く。神業的な飛行技術を持ちながら、生き残ることにのみ執念を燃やす。それは、当時の軍人としてあるまじき態度だ。

それがある者には臆病者、卑怯者に映り、ある者には九死を乗り越えて生き残る勇気を与え、ある者には一生追い付くことできない目標となる。

そこにあるのは峻嶮な対立である。

個人の考えを抑圧する組織の中で、決然と個人を貫く強靭な意志との対立なのである。

生き残った語り部たちは、その宮部との対立の中で何かをつかみ、変化していく。

だが、それは行き過ぎた理想論なのかもしれない。

ここまで徹底して常識を貫く人間が、個人を徹底的に抑圧する組織の中で生きていけるはずもない。

そして、実際に宮部は己が生き残ることと、その為に死んでいく者たちの狭間で切り裂かれていく。

■だが、宮部の強靭な魂は、鉄の残骸の中で消えてしまったわけではない。宮部が接した戦友たちの中に、そして、その魂の姿を探し求めた現代の青年に受け継がれていくのだ。

宮部は実在しない。

だが、宮部は当時を生きた人たちの心の何処かにあった光の凝縮なのである。

その意味で読者である我々もまた、受け継ぐ者なのだ。

その魂を風化させてはならない。

                          <2014.03.04 記>

 

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