« ■NHKドラマ『ラジオ』。3.11は忘れてはいけないもの、というだけではなく。 | トップページ | ■【映画評】『パシフィック・リム』。技術の進化と望郷の念。 »

2013年8月10日 (土)

■【映画評】『風立ちぬ』、宮崎駿。限られた10年。あなたの今に、風は吹いているか?

スタジオジブリの映画で泣いてしまったのは初めてかもしれない。(除く、火垂るの墓。)

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.68  『風立ちぬ』
           監督: 宮崎 駿  公開:2013年 7月
       出演: 庵野秀明  瀧本美織 他

__3

■ストーリー■飛行機の設計技師を目指す堀越二郎は、大学に向かう途中の汽車のなかで東京大震災に遭遇する。そこで出会った少女、菜穂子に心惹かれるものがあったが震災の混乱の中で行方知らずとなってしまう。

飛行機設計技師として三菱に入社した二郎は、その努力と才能により29歳にして七試艦上戦闘機の主任設計士となるも、試験飛行に失敗。失意のもと訪れた軽井沢で、菜穂子との奇跡の再会。二人はこころを寄せ合うのだが、菜穂子は結核の病魔に侵されていたのであった。

■名機、零戦を設計した堀越二郎の半生に、同時代を生きた堀辰夫の人生を重ねた宮崎駿のオリジナル作品。

飛行機好きにとっての神様である堀越二郎は分かるけれど、堀辰夫については全く知識ゼロ。風立ちぬ、と聞けば松田聖子が浮かんでしまうくらい無知だった。

正直、軟弱な恋愛物語になってしまうのではと心配であったのだけれど、さにあらず。生きる、ということの意味を問う。深く、心にささる物語なのであった。

Photo

   
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■堀越二郎の声に庵野秀明をあてたことについて、ひどい前評判を聞いていたのだけれども、いやいや、そんなことはない。誠実で、不器用で、芯の通った堀越二郎として違和感なく受け入れることができた。そこに必要であったのは、声優としての技術ではなく、強く、それでいて傷つきやすい、生の人間性であったのだと思う。

この映画のテーマは、生きる、ということ。

設計技師として飛行機にその全身全霊をそそぐ堀越二郎の姿を縦糸に、結核に冒され、残された命を二郎と過ごそうと決意する菜穂子の強さを横糸に紡がれる、昭和初期の苦しい時代を、今、として生きるふたり。

単なる堀越二郎の評伝では語りきれなかったであろうテーマがそこに浮かび上がってくる。

■宮崎駿は、敢えてゼロ戦の物語は描かず、戦争そのものは描かず、菜穂子の死も描かない。

本当の山場はそこにあるはずなのに描かない。

何故か。

それは、必要でなかったから。いや、観る者のこころの動きを縛り付ける、という意味で邪魔であったからではなかろうか。

■この映画は、メッセージである。

この閉塞した時代でも、強く生きよ!

という宮崎駿のメッセージなのである。

観るものそれぞれの人生があって、それぞれの’10年’がある。

ゼロ戦の物語も、菜穂子の死も、東京大空襲も、そこを描いてしまっては、あまりに強烈なその物語は、二郎の、菜穂子のそれとなってしまい、観る者の物語ではなくなってしまう。

Photo_4

■結果、唐突に現れる焼け野原。

そこに立ちすくむ二郎に語りかけるカプローニ。

君の10年はどうだったか、と。

散々でした、という二郎の背後に飛ぶ零戦たち。

あれが君のゼロか。美しい機体だ、というカプローニ。

■カプローニは、二郎にとってのメフィストフェレスなのだと、宮崎駿は語ったという。

それは、このラストシーンに如実に表れている。

美しいものを追い求め、懸命に生きる10年。

例え、それが不幸な終わりを迎えたとしても、そこには確かに輝くものがある。

時として、人は魂を悪魔に売り渡してでも、その美しいものを追いかける。

時間よ止まれ、汝は美しい。

その美しさに胸を締め付けられるのである。

それは、観るもの、それぞれの胸のうちにある。

                       <2013.08.10記>

Photo_2

■STAFF■
原作・脚本・監督      宮崎駿
作画監督                高坂希太郎
美術監督                武重洋二
色彩設計               保田道世
撮影監督               奥井敦
音響演出・整音       笠松広司
編集                     山武司
原作掲載              月刊モデルグラフィックス
音楽                    久石譲
主題歌        「ひこうき雲」作詞・作曲・歌 - 荒井由実
制作                    星野康二 スタジオジブリ
プロデューサー      鈴木敏夫


■CAST■
堀越二郎       庵野秀明
里見菜穂子   瀧本美織
本庄             西島秀俊
黒川             西村雅彦
カストルプ      スティーブン・アルパート
里見             風間杜夫
二郎の母      竹下景子
堀越加代      志田未来
服部             國村隼
黒川夫人      大竹しのぶ
カプローニ    野村萬斎

●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

*********************************************

■ Amazon.co.jp ■
■【書籍】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【書籍】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

■【DVD】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【DVD】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■

|

« ■NHKドラマ『ラジオ』。3.11は忘れてはいけないもの、というだけではなく。 | トップページ | ■【映画評】『パシフィック・リム』。技術の進化と望郷の念。 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/208704/57963610

この記事へのトラックバック一覧です: ■【映画評】『風立ちぬ』、宮崎駿。限られた10年。あなたの今に、風は吹いているか?:

» 【映画/調査】『風立ちぬ』 主人公を演じる庵野秀明さんはアリ37.6%、ナシ62.4%・・・「話題作りの素人起用はやめて欲しい」の声 [芸スポ総合+]
現在公開中のスタジオジブリ・宮崎駿監督作品『風立ちぬ』。なにかと話題になっている作品であるが、主人公の声優を庵野秀明さんが演じているというのもそのうちの一つ。ということで、今回こんなアンケート...... [続きを読む]

受信: 2013年8月10日 (土) 20時00分

« ■NHKドラマ『ラジオ』。3.11は忘れてはいけないもの、というだけではなく。 | トップページ | ■【映画評】『パシフィック・リム』。技術の進化と望郷の念。 »