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2012年9月 1日 (土)

■【映画評】『地獄の黙示録 特別完全版』。戦争。人間性が崩れていく過程において生まれてくる恐怖について。

タイトル曲の『ジ・エンド(The End)』がぐるぐるとまわり続け、アタマから離れない。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.59  『地獄の黙示録 特別完全版』
           原題: Apocalypse Now  REDUX
          監督: フランシス・フォード・コッポラ 
      公開:1980年2月(特別完全版 2001年)
       出演: マーロン・ブランド マーティン・シーン 他

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■ストーリー■
ベトナム戦争の最中、サイゴンで待機中だったウィラード大尉は元グリーンベレーの隊長、カーツ大佐暗殺の極秘任務を受ける。カーツ大佐は軍の命令を無視し、自らの軍隊を組織、カンボジアのジャングルの中に独立王国を築いていたのだ。ウィラード大尉は任務を知らされていない哨戒艇のクルーと共に川を上り、ベトナムの奥地へと足を踏み入れていく。

■表現の難しい映画である。

言葉で語ろうとすると、何かがずれてしまう気がしてなかなか筆がすすまない。そこにあるのはウィラードが体験する断片的情景であって、それが折り重なってひとつの作品を成している。

言葉に置換できない、という意味では、まさに『映画』なのかもしれない。

だが、これを単なる映画体験として終わらせず、一歩踏み込んだ理解にいたるには、やはり言葉によらざるを得ない。

それを試みてみようと思う。

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■まず切り口のひとつとして、キルゴアとカーツの比較があげられるだろう。

ともに戦争を「ワタクシ」している指揮官である。

何故、キルゴアが許され、カーツが裁かれるのか?

違いはどこにあるのか。

■キルゴアは、サーフィンが出来るいい波を得るため、という理由でベトコンの拠点を急襲する。

ヘリの軍団を率い、ワルキューレの騎行を大音量で流しながら、突入。ベトコンの潜むジャングルをナパームで焼き払う。

曰く、「朝のナパーム弾の臭いは格別だ」。

狂気ではあるのだが、圧倒的な明るさと、豪快なエネルギーに満ちている。まさにアメリカを体現している男といっていいだろう。

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■一方のカーツは内側へと沈み込んでいく暗さを宿す。

その存在自体が「恐怖」であり、その心の内を読むことが出来ない「怖さ」で帝国を統べている。

その恐怖は、自らの戦争体験から来るものだ。

彼がグリーンベレーを率いていたとき、村の子供たちに予防接種を受けさせるのだが、ベトコンたちは、その子供たちの腕を切り取り山のように積み上げた。

■号泣するカーツの頭をダイヤモンドの弾丸が貫通する。

彼らは完璧な兵士なのだ、と。

一旦、戦場に入れば、冷徹に作戦を実行する。

そこには情も不平も入り込む余地はない。

眉ひとつ動かさず、子供たちの腕を切り落とす男たち。

それが、今、自分が戦っている相手なのだ、と。

それがここでいう「恐怖」であり、自らが「恐怖」の側の存在にならない限り、その「恐怖」から抜け出すことはできない。

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■その意味でキルゴアは未だ、「恐怖」に直面していない。

「恐怖」の意味さえも分からないだろう。

だから、戦場に居ながら、まだ人間性を失っていないかのような振る舞いをする。

機銃で相手を撃ち、その負傷者の手当をするという欺瞞。

それが「アメリカ」なのだ。

■軍にとって、キルゴアの逸脱は理解の範囲内。だが、カーツの行動はベトコンを理解できない以上に分からない。

単に指揮命令系統から離れて自分の帝国を築いたという以上に、理解できない規範に従って行動するカーツは、軍にとって脅威なのだ。

だから裁かれる。

カーツは戦場の「ルール」を知り、それを実行した。

我々はそれを狂気とみるが、狂った戦場においてはそれが正しい選択であるという矛盾。その矛盾を描き出す、その「恐怖」の源泉である暗闇に分け入ること、それがコッポラのやりたかったことなのではないか、と思う。

■映画の前半部はキルゴアを導入部にして「アメリカの矛盾」を描いているため、非常に解りやすい。

現代において、戦争におけるアメリカの矛盾、欺瞞は既知のものであるから。

だが、終盤のカーツを描いた部分は難解だ。

それは我々が、戦争の狂った現実というものを直視してこなかったからではないか。

■「恐怖」(Terror)は、何もべトナムに限った話ではない。

冷戦終結以降、イデオロギーというフィルターが取り除かれ、戦争の現実が露わになってくる。

ユーゴスラビア、ダルフール、アフガニスタン。

9.11同時多発テロを挟み、世界を埋め尽くす戦争はTerrorそのものだ。

ここにおいて、戦争状態における人間の心の闇を描こうとしたコッポラの先見の明に思い至るのである。

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■旅の果て、カーツの帝国にたどり着いたウィラードはカーツから子供の使い扱いをされる。

それは戦場を潜り抜け、アメリカ軍の欺瞞に気づきつつもなお、ウィラードがまだ人間性を保ったままだったからだ。

だから、カーツは彼に「恐怖」を与える。

縛られた彼の足もとに「シェフ」の首がころがる。

朦朧とした意識の中、彼の平衡が崩れていく。

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■祝祭の夜。

Terrorを身に付けたウィラードは暗殺者となる。

カーツはそれを受け入れ、Terror、Terror、とつぶやきながら息絶える。恐怖の首謀者として君臨していた彼自身、正気と狂気の間でTerrorにおびえ続けていたということか。

任務を成し遂げたウィラードが王国を去る場面で映画は終わる。

■今回の記事を書くまでは、このシーンは親殺しのテーマを描いたものであると思っていた。だから、ウィラードが王国を引き継ぐこともなく去っていく、そこに釈然としないものを感じていた。しっくりこないラストだと。

けれども、カーツとウィラードの対決という見方を捨て、カーツを恐怖から解放しようとするウィラードの物語だとするならば、浮かない倦怠のなか、静かにフェードアウトしていくこのラストこそが似つかわしい。

深い、実に深い、作品である。

                            <2012.09.01 記>

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■今回は、1980年公開のオリジナル版に53分のシーンが追加された特別完全版についてレビューしたのだけれども、結局、「嵐の中のプレイメイトたち」、「フランス入植者たち」という追加された場面に言及することなく終わってしまった。

狂気のなかに放り込まれたプレイメイトたち、かたくなに歴史を守ろうとするフランス人たち、ともにテーマを補強するものではあるのだけれども、本筋から言えば、やはり不要なシーンだったのだろう。

オーロール・クレマン演じる未亡人が魅力的ではあったが・・・。

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■STAFF■
監督    フランシス・フォード・コッポラ
脚本   ジョン・ミリアス
         フランシス・フォード・コッポラ
製作   フランシス・フォード・コッポラ
音楽    カーマイン・コッポラ
          フランシス・フォード・コッポラ
撮影   ヴィットリオ・ストラーロ
編集  リチャード・マークス
         リサ・フラックマン
        ジェラルド・B・グリーンバーグ
        ウォルター・マーチ


■CAST■
ウォルター・E・カーツ大佐          マーロン・ブランド
ベンジャミン・L・ウィラード大尉    マーティン・シーン
ビル・キルゴア中佐            ヘリ部隊司令官    ロバート・デュヴァル
ジェイ・“シェフ”・ニックス       哨戒艇機関士   フレデリック・フォレスト
ランス・B・ジョンソン               哨戒艇艇員     サム・ボトムズ
タイロン・“クリーン”・ミラー      哨戒艇艇員     ラリー・フィッシュバーン
ジョージ・“チーフ”・フィリップス 哨戒艇艇長    アルバート・ホール
ルーカス大佐 情報部将校          ハリソン・フォード
コーマン将軍 情報部将校          G・D・スプラドリン
報道写真家                              デニス・ホッパー
フランス植民農園の主人           クリスチャン・マルカン
フランス植民農園の未亡人         オーロール・クレマン

 

●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

 

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