« ■【映画評】『遊星からの物体X』。特撮オタクの為の古き良きSFX映画。 | トップページ | ■『館長 庵野秀明 特撮博物館』に行く。特撮オジサンたちの熱さは未だ健在なのだ。 »

2012年8月20日 (月)

■【映画評】『おおかみこどもの雨と雪』。胸を締め付ける仮想世界のリアリティ。

子供は、いつか自分の意思で道を選び、親から巣立っていく。けれど、それで孤独になるというわけではない。しっかり生きて!という願いは必ず伝わるものだから。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.57  『おおかみこどもの雨と雪』
           監督: 細田守    公開:2012年 7月
        出演: 宮崎あおい 
大沢たかお 他

010
 

■ストーリー■

女子大生の花(はな)は大学でとある男と出会い、恋に落ちる。その男は自分がニホンオオカミの血を引く「おおかみおとこ」であることを告白する。花はそれを受け入れ、「雪」と「雨」というふたりの子供を授かるが、男は不慮の事故で死んでしまう。

花はふたりの「おおかみこども」をひとりで育てることを決意するのだが、興奮するとすぐに狼になってしまう子供たちを都会で育てるのは難しく、人里離れた古民家に住むことにする。

苦労の連続の中でも花は笑顔を絶やさずにふたりを育てていく。そして・・・。

 

■アニメーションであることを忘れさせる美しい画面にほれぼれしてしまう。背景を磨きこむ細田マジックも、感心を通り越して感動の領域に入ってしまった。

CGはリアルで実写と見まごうばかり。山奥の自然は自然としてそこにある。それでいてセル画然とした人物と絶妙な具合で融合している。それだけで一見の価値あり。

003

■だが、ドラマとしても実に深い。

「おおかみおとこ」との出会い、別れ。

あどけない子供たち。それを見守る花の姿。

そして、子供たちの成長の瞬間。

セリフや人物の表情だけでなく、シーン全体が「想い」を伝えてくる。

アニメーションを見ているのを忘れてしまうのは背景の美しさだけではなく、ドラマ自体のリアリティによるものなのだと、ここで気づくのだ。

■その意味では、頑固ジジイの韮崎を演じる菅原文太の存在感が素晴らしい。画面に登場しているのは菅原文太そのものである。

農業の厳しさを体現する存在として花の前に立ち、しかし、その背中に優しさがにじみ出る。

実写だって、ここまで深く撮るのは難しいのではないか。

たぶん、監督の細田守の菅原文太への想いがあって、それがこのマジックを生んでいるのだろう。

そして、そのリアルを踏み台にして我々は、花と、雪と、雨のリアルに入っていくのである。

002_2
 

   
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■この物語は、成長した姉の雪の語りで進行していく。

主人公は母の花。途中までは・・・。

というのは、母親のそばであたたかく育っているあいだの雪と雨は、花と一体であり、母の物語として一本の道筋をたどっていく。

だが、花の知らない成長の瞬間というものがあって、そこから雪と雨、それぞれが独自の物語を紡ぎ始めていくからだ。

■雪にとっての事件は、草平の前で狼の姿を見せてしまったこと。

それが彼ら家族にとってどれだけ危険なことか理解している雪は、無邪気な子供であることをやめ、人間として生きていく覚悟を決める。

それは誰にも言えない覚悟であって、2年後の嵐の夜、草平に自らの姿を告白し、彼に受け入れてもらうことでやっと解放される。

そのとき雪はひとりの少女となるのだ。

■一方、お転婆で活発な雪に対して、病弱で引っ込み思案の雨にも転機が訪れる。

初めての大雪のとき、姉と雪の中を駆け回り、そして小川でヤマセミを見つける。夢中で飛び掛かる雨。

初めての狩りは失敗し、川に転落して溺れかけるが雨の興奮は納まらない。

なんでもできるような気がした。

そうつぶやく雨の輝きは、自然への目覚めである。

■その後、雨は小学校に馴染めず、山に入り浸るようになるが、決してそれは子供の社会から排除されたからではない。

狼の血がそうさせるのだ。

花は、自分から離れていってしまう気配を感じて、雨を家に留めようとする。

豪雨の中、山へ走った雨を追いかける花にとって息子はまだ弱々しい庇護すべき存在であって、その自立を認めたくない。

だが、崖から滑り落ちて意識を失った自分を助け、そして去っていく姿を見て、花はやっと悟るのだ。

雨はもう、大人なのだと。

■そこに至って、花は「しっかり生きて!」と雪に、雨に心の中で呼びかける。

それは子供の成長を認めた母親の親としての成長の瞬間である。

子離れできない親が数多くいる現代において、花は理想的すぎるのかもしれない。それは細田守の希望なのかもしれない。

けれども、この映画に共感する親の胸にはたぶんその種があって、きっと、胸を締め付けられるその瞬間を乗り越えさせてくれるだろう。

エンディングロールで流れる回想シーンを眺めながら、「おかあさんの唄」の歌詞を噛み締めながら、しみじみと感動している自分がいた。

                            <2012.08.20 記>

Photo_2 ■おおかみこどもの雨と雪 (角川文庫)

014

■STAFF■
原作・監督: 細田守
脚本:     細田守、奥寺佐渡子
キャラクターデザイン: 貞本義行
作画監督: 山下高明
美術監督: 大野広司
音楽 :    高木正勝
主題歌:   アン・サリー 「おかあさんの唄」
色彩設計:  三笠修
CGディレクター: 堀部亮
美術設定:  上條安里
衣装:    伊賀大介
劇中画 :  森本千絵
編集:    西山茂
録音:    小原吉男
音響効果: 今野康之
企画・制作: スタジオ地図

■CAST■
花(はな):  宮崎あおい
彼(おおかみおとこ): 大沢たかお
雪(ゆき): 黒木華
        大野百花(幼少期)
雨(あめ):  西井幸人
        加部亜門(幼少期)
草平(そうへい): 平岡拓真
草平の母: 林原めぐみ
韮崎:     菅原文太

●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

|

« ■【映画評】『遊星からの物体X』。特撮オタクの為の古き良きSFX映画。 | トップページ | ■『館長 庵野秀明 特撮博物館』に行く。特撮オジサンたちの熱さは未だ健在なのだ。 »

コメント

はじめまして
花が雨にまだ何もしてあげれてないというような事を言うシーンが印象に残ってます。
後、父の葬儀で笑っていた花は、息子の旅立ちも笑顔で見送っていて、全編通してあまり直接的には花が辛く苦しんでいる場面がなかったことと合わせて、花という人間を表した象徴的な場面であったかなと思いました。
自分の中では宮崎あおいそのままな感じでした。
長文失礼しました。

投稿: おおかみ | 2012年8月21日 (火) 00時28分

おおかみさん
コメントどうもありがとうございます。
 
まだ何もしてあげられてないよ、という花の心の中には、「いや、十分してあげているよ」と支えてくれる、おおかみおとこがいて、だから、花は強くあることができるのだと思います。
 
村の人たちと花の関係の描き方も含めて、
「人間、ひとりでは生きていけない」
それも、この映画のひとつのテーマだったのかもしれませんね。

投稿: 電気羊 | 2012年8月22日 (水) 01時07分

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

投稿: 株の購入 | 2012年8月31日 (金) 15時22分

コメントありがとうございます。
少しずつUPしていきますので、また遊びに来てくださいね。

投稿: 電気羊 | 2012年8月31日 (金) 23時21分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/208704/55463736

この記事へのトラックバック一覧です: ■【映画評】『おおかみこどもの雨と雪』。胸を締め付ける仮想世界のリアリティ。:

« ■【映画評】『遊星からの物体X』。特撮オタクの為の古き良きSFX映画。 | トップページ | ■『館長 庵野秀明 特撮博物館』に行く。特撮オジサンたちの熱さは未だ健在なのだ。 »