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2012年8月

2012年8月28日 (火)

■【映画評】『プロメテウス』。新たなる物語の序章。

エイリアンの前日譚としては期待を裏切らない、が、映画作品としてはどうだろう・・・。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.58  『プロメテウス
           原題: Prometheus
          監督: リドリー・スコット 公開:2012年 8月
       出演: ノオミ・ラパス マイケル・ファスベンダー他

Photo
 

■ストーリー■
人類の起源にかかわる重大な手掛かりを発見した科学者チームが、謎を解明するために宇宙船プロメテウス号に乗り組み、未知の惑星に向かう・・・。

■人類最大の謎、それは≪人類の起源≫。

なんてキャッチコピーで売っているわけだが、実際は、あの『エイリアン』の前日譚である。

なぜ配給元はエイリアンに関わる映画であると宣伝しないのか、それこそ最大の謎だ。

人類の起源に挑む、壮大なSFロマンを期待して見に来たお客さんは、後半のホラーな展開に腰を抜かすことになる。

■まあ、それはそれとして、映画としての『プロメテウス』の評価はどうかというと、これまた微妙なのである。

映像美は抜群。

大自然の空撮も素晴らしいが、何と言っても息を呑むのは3D映像を生かした「エンジニア」(異星人)の宇宙航海図の場面。

さすが、リドリー・スコットと頭を垂れるばかりである。

Photo_2

■では、何が問題なのかというと、人物造形の薄さ、なのではないだろうか。

今回の探検隊は人数が多すぎるし展開が速すぎて感情移入が追い付かない。人物造形が定まらないままだから、物語を展開していけばいくほど発散する感じなのだ。

その人物造形を一番深く描かれていたのはアンドロイドのデヴィッドだという皮肉。アンドロイドでありながら、その表と裏の表情、そしてその意思を駆動する飽くなき好奇心。

それ故に、彼が出るシーンはそれなりに締まっている。

主人公のエリザベスも描けているといえば、まあまあなのだが、

それに比べて、他のメンバーの空虚たること。

始めの犠牲者となる二人はもちろん、準主役であるチャーリーも薄い。圧倒的に薄い。

彼らの心理描写が薄く、或いは一貫性がないことで観る者の感情移入を拒むのだ。
  


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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■その感情移入を拒む荒さは、後半に至っても収束しない。

実は、プロメテウス号に乗り込んでました、というウェイランドのじいさんも、「永遠の命が欲しい」という俗物根性丸出しで、その意気込みや良しなのだが、何故、その考えに至ったのか(「エンジニア」=神であり、不死の存在であるという宗教的確信)がまず描かれない。

そして、なんとか「エンジニア」とコンタクトを試みるのだが、あっさりと殺されてしまう。

あっさりと。

■本来なら感涙ものの、キャプテン・ヤネックの特攻シーンも、そこに至る彼の感情を描かないから、そしてこのシーンに至るまでの彼の人間性を描かないから唐突に映る。

ウェイランドの娘だと発覚したメレディスも、いい味を出しかけていたのに、ごろごろ転がる宇宙船につぶされて一巻の終わり。

・・・そう、あっさり過ぎるのだ。

リドリー・スコットも年老いてねちっこさが無くなってしまったのか。『エイリアン』の、『ブラック・レイン』のねちこさはどこへ行ってしまったのだろうか。

それが、ぞくりとする彼のサスペンス、恐怖にとっての必須要素だったのだと思うのだが・・・。

■というわけで、映画としての評価はいまひとつなわけだけれども、それでも楽しめるのは、エイリアン・ファンだから。

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Prometheus_spacejockey


何と言っても、スペース・ジョッキーの人が動いてる!!

しかも、砲台かなにかだと思っていたあの機械はこの宇宙船の操縦席だったのだ!!

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うーん、でもスペース・ジョッキーはもっとでっかかったよな。

今回の惑星はLV-223なのだけれども、エイリアンでの惑星はLV-426と、実は別の惑星なわけで、これも何かのネタがあるのか、単にやり過ごしておくべきなのか、少し迷うところではある。

Prometheus_alien

■そして、トドメのエイリアン。

ラストで、イカのような巨大なファイスハガーに襲われた「エンジニア」の肉体を破って誕生したヤツ。

LV-223に残った彼は続編で何らかの活躍を見せるのか?

いや、単なるファンサービスなのか?

うーん、私は後者だと思います。

■ところで、話は戻って≪人類の起源≫。

オープニングの「エンジニア」は自らの体を分解して、太古の海に生命の種を注いだ。多分、この後も「エンジニア」たちは地球を訪れて、その生命進化を観察、修正し、ついには自らと同じDNAをもつ≪人類≫を生み出した。

それは何故か?

 

アンドロイドのデヴィッドに問われたチャーリーは、

「それが可能だったから」

と答える。

なぜ、人間はアンドロイドを作ったのか、という問いに対する答えである。

 

実にシニカルだ。

■「エンジニア」たちが≪人類≫を作った理由は、本編では明かされない。

そして、何故、生物兵器をもって滅ぼそうとしたのかも。

その答えを求めて、エリザベスとデヴィッドは「エンジニア」の母星を目指す。

『プロメテウス』は、『エイリアン』という豪華な土台を用いた、単なる序章に過ぎないのかもしれない。

続編『パラダイス』(仮)に向けた壮大な序章。

そして物語はエイリアンから華麗なる離脱を遂げ、新たな伝説を生むのである。

(と、あって欲しい!!)

                        <2012.08.28 記>

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■STAFF■
監督     リドリー・スコット
脚本     デイモン・リンデロフ
        ジョン・スパイツ
製作     リドリー・スコット
        トニー・スコット
        デヴィッド・ガイラー
         ウォルター・ヒル
音楽     マルク・ストライテンフェルト
撮影     ダリウス・ウォルスキー
編集     ピエトロ・スカリア
製作会社  スコット・フリー・プロダクションズ
        ブランディーワイン・プロダクションズ

■CAST■
エリザベス・ショウ     ノオミ・ラパス
若い頃のショウ       ルーシー・ハッチンソン
メレディス・ヴィッカーズ  シャーリーズ・セロン
キャプテン・ヤネック   イドリス・エルバ
デヴィッド         マイケル・ファスベンダー
ピーター・ウィーランド  ガイ・ピアース
チャーリー・ホロウェイ ローガン・マーシャル=グリーン
フォード          ケイト・ディッキー
フィフィールド       ショーン・ハリス
チャンス         エミュ・エリオット
ラヴェル         ベネディクト・ウォン
ミルバーン        レイフ・スポール
ショウの父親      パトリック・ウィルソン

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2012年8月21日 (火)

■『館長 庵野秀明 特撮博物館』に行く。特撮オジサンたちの熱さは未だ健在なのだ。

東京都現代美術館に『特撮博物館』を見に行った。

Poster

■CG全盛の現在、’特撮’という技がすたれ、忘れ去られていくことを危惧して庵野秀明が企画した展覧会である。

展示物は、まず轟天号やら、メーサー殺獣光線車やら、東宝系特撮映画の兵器のミニチュアがずらり。

よくも集めた、というか残っていたものである。

その中でメカゴジラのスーツが燦然と輝いていた。

古い東宝系特撮は世代的につらいところもあるのが正直なところなのだけれども、これなら追い付ける。

宇宙人の兵器なのに腕に’MG2’というマークが入っているのがご愛嬌。

Photo(ニュース画像から拝借)

■思い入れのないマイティジャックのコーナーをすり抜けて、ウルトラシリーズのコーナーへ。

そこで成田亨の原画に出会う。

画集でしか見たことのないウルトラセブンの決定稿やら、キングジョーの初期案とか。

青森の美術館から借りてきたのか、いやー、これはうれしかった。

その他、ウルトラシリーズの航空機のミニチュア、ウルトラマンの飛行人形、マスクとか、お宝がずらり。

■続いて、その他のヒーローのマスクたち。ライオン丸やら、スペクトルマンやら、ファイヤーマンやら、トリプルファイターやら。

もう、懐かしいったらありゃしない。

そこを通過すると平成ガメラのコーナーへ。

ここに鎮座するのはガメラのスーツ。

これはうれしい。写真が撮れないのが残念でなりません。

特に顔のディテールの見事なこと・・・。

しばし見とれておりました。

Photo
(↑ネットで拾いました。)

■そして一大イベントの短編映画『巨神兵東京に現わる』。

企画:庵野秀明、監督:樋口正嗣、制作:スタジオジブリ。

コンセプトは「CG禁止」!!

古典的手法に、新しいアイデアを織り込んで見事に巨神兵が降臨するわけであります。

今の画質でCG無しでは、ちょっとこれは、というところが出てしまうのが正直なところなのだけれども、そこは手作りの味わい、ということで許せてしまうのだ。

メイキング映像もまた面白く、新しいことに挑戦しようとするオジさん達の熱さをズドンと感じる。ああ、これが’特撮映画’なのだと、40年、50年前の先人たちも、こういう熱さで映画作りをしていたのだとしみじみするのです。

■特撮倉庫、撮影技術、なつかしの映像集を抜け、今回の目玉の体験コーナー。実際に市街のミニチュアセットの中に入って撮影もできる。

1/8計画ならぬ、1/25計画の世界を楽しめるのだ。

Img_9674

ミニチュアはどこまで正確につくるかがカギである、ということを実感させる精密さにほれぼれします。

Img_9679_2

この他、部屋の中から街を望み、そこに巨大生物(参加者自身)が現れる、という趣向のセットもあって、子供もよろこんでおりました。

■さて、最後はおみやげコーナーなのだけれども、そこで売っているカプセル・ガチャポンフィギュア「巨神兵東京に現わるヴィネット」が曲者であった。

何度まわしても同じのが出てくる。次こそは、と思うのだけれど、また同じのが出てくる地獄にはまってしまったのだ。

なんとか3種そろったのだが、いくら注ぎ込んだかは内緒である。

 

まずは、「巨神兵現わる」。

Img_9696

鳥居越しに立ち上がる巨神兵の情景です。

お次は、「プロトンビーム発射」。

Img_9692_4

風の谷のナウシカのシーンを思い出させます。あれは溶けかけてたけど・・・。

で、最後は、「焦土」。

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これがなかなか出なかった。

これは今回の巨神兵のオリジナル造形を作った竹谷隆之さんの作品で、どうしてもこれが欲しかったのであります。

本当は、これを7体くらいずらりと並べてみたいのだけれども、1体を手にするのがやっとなのでありました。

■まあ、そんなこんなで楽しいひと時を過ごすことができ、庵野秀明さんに感謝、感謝。

それと同時に、日本の特撮もまだまだ健在なのだと胸をなでおろしたのでありました。

Img_9640

                       <2012.08.21 記>

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2012年8月20日 (月)

■【映画評】『おおかみこどもの雨と雪』。胸を締め付ける仮想世界のリアリティ。

子供は、いつか自分の意思で道を選び、親から巣立っていく。けれど、それで孤独になるというわけではない。しっかり生きて!という願いは必ず伝わるものだから。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.57  『おおかみこどもの雨と雪』
           監督: 細田守    公開:2012年 7月
        出演: 宮崎あおい 
大沢たかお 他

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■ストーリー■

女子大生の花(はな)は大学でとある男と出会い、恋に落ちる。その男は自分がニホンオオカミの血を引く「おおかみおとこ」であることを告白する。花はそれを受け入れ、「雪」と「雨」というふたりの子供を授かるが、男は不慮の事故で死んでしまう。

花はふたりの「おおかみこども」をひとりで育てることを決意するのだが、興奮するとすぐに狼になってしまう子供たちを都会で育てるのは難しく、人里離れた古民家に住むことにする。

苦労の連続の中でも花は笑顔を絶やさずにふたりを育てていく。そして・・・。

 

■アニメーションであることを忘れさせる美しい画面にほれぼれしてしまう。背景を磨きこむ細田マジックも、感心を通り越して感動の領域に入ってしまった。

CGはリアルで実写と見まごうばかり。山奥の自然は自然としてそこにある。それでいてセル画然とした人物と絶妙な具合で融合している。それだけで一見の価値あり。

003

■だが、ドラマとしても実に深い。

「おおかみおとこ」との出会い、別れ。

あどけない子供たち。それを見守る花の姿。

そして、子供たちの成長の瞬間。

セリフや人物の表情だけでなく、シーン全体が「想い」を伝えてくる。

アニメーションを見ているのを忘れてしまうのは背景の美しさだけではなく、ドラマ自体のリアリティによるものなのだと、ここで気づくのだ。

■その意味では、頑固ジジイの韮崎を演じる菅原文太の存在感が素晴らしい。画面に登場しているのは菅原文太そのものである。

農業の厳しさを体現する存在として花の前に立ち、しかし、その背中に優しさがにじみ出る。

実写だって、ここまで深く撮るのは難しいのではないか。

たぶん、監督の細田守の菅原文太への想いがあって、それがこのマジックを生んでいるのだろう。

そして、そのリアルを踏み台にして我々は、花と、雪と、雨のリアルに入っていくのである。

002_2
 

   
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■この物語は、成長した姉の雪の語りで進行していく。

主人公は母の花。途中までは・・・。

というのは、母親のそばであたたかく育っているあいだの雪と雨は、花と一体であり、母の物語として一本の道筋をたどっていく。

だが、花の知らない成長の瞬間というものがあって、そこから雪と雨、それぞれが独自の物語を紡ぎ始めていくからだ。

■雪にとっての事件は、草平の前で狼の姿を見せてしまったこと。

それが彼ら家族にとってどれだけ危険なことか理解している雪は、無邪気な子供であることをやめ、人間として生きていく覚悟を決める。

それは誰にも言えない覚悟であって、2年後の嵐の夜、草平に自らの姿を告白し、彼に受け入れてもらうことでやっと解放される。

そのとき雪はひとりの少女となるのだ。

■一方、お転婆で活発な雪に対して、病弱で引っ込み思案の雨にも転機が訪れる。

初めての大雪のとき、姉と雪の中を駆け回り、そして小川でヤマセミを見つける。夢中で飛び掛かる雨。

初めての狩りは失敗し、川に転落して溺れかけるが雨の興奮は納まらない。

なんでもできるような気がした。

そうつぶやく雨の輝きは、自然への目覚めである。

■その後、雨は小学校に馴染めず、山に入り浸るようになるが、決してそれは子供の社会から排除されたからではない。

狼の血がそうさせるのだ。

花は、自分から離れていってしまう気配を感じて、雨を家に留めようとする。

豪雨の中、山へ走った雨を追いかける花にとって息子はまだ弱々しい庇護すべき存在であって、その自立を認めたくない。

だが、崖から滑り落ちて意識を失った自分を助け、そして去っていく姿を見て、花はやっと悟るのだ。

雨はもう、大人なのだと。

■そこに至って、花は「しっかり生きて!」と雪に、雨に心の中で呼びかける。

それは子供の成長を認めた母親の親としての成長の瞬間である。

子離れできない親が数多くいる現代において、花は理想的すぎるのかもしれない。それは細田守の希望なのかもしれない。

けれども、この映画に共感する親の胸にはたぶんその種があって、きっと、胸を締め付けられるその瞬間を乗り越えさせてくれるだろう。

エンディングロールで流れる回想シーンを眺めながら、「おかあさんの唄」の歌詞を噛み締めながら、しみじみと感動している自分がいた。

                            <2012.08.20 記>

Photo_2 ■おおかみこどもの雨と雪 (角川文庫)

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■STAFF■
原作・監督: 細田守
脚本:     細田守、奥寺佐渡子
キャラクターデザイン: 貞本義行
作画監督: 山下高明
美術監督: 大野広司
音楽 :    高木正勝
主題歌:   アン・サリー 「おかあさんの唄」
色彩設計:  三笠修
CGディレクター: 堀部亮
美術設定:  上條安里
衣装:    伊賀大介
劇中画 :  森本千絵
編集:    西山茂
録音:    小原吉男
音響効果: 今野康之
企画・制作: スタジオ地図

■CAST■
花(はな):  宮崎あおい
彼(おおかみおとこ): 大沢たかお
雪(ゆき): 黒木華
        大野百花(幼少期)
雨(あめ):  西井幸人
        加部亜門(幼少期)
草平(そうへい): 平岡拓真
草平の母: 林原めぐみ
韮崎:     菅原文太

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2012年8月18日 (土)

■【映画評】『遊星からの物体X』。特撮オタクの為の古き良きSFX映画。

CG全盛の現在では作りえない生の感覚があふれている。アナログSFX(スペシャル・エフェクト:特殊効果)の頂点を極めた記念碑的作品である。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.56  『遊星からの物体X
           原題:The Thing
          監督 ジョン・カーペンター 公開:1982年6月
       出演: カート・ラッセル 他

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■ストーリー■
南極。ノルウェー隊のヘリが一匹の犬を追いかけている。犬はアメリカ基地に逃げ込み、ヘリは事故で爆発。搭乗者も銃を乱射したためにアメリカ隊に射殺される。

一体、何が起こったのかとノルウェー基地の調査に行くが生存者なし。そこで人間のカタチをとどめていない、おぞましい遺体を発見し、基地に持ち帰る。

夜。ノルウェー隊に追われていた犬が、犬小屋の中で突如、変態を始め、周りの犬たちを襲う。’それ’は隊員たちによって火炎放射器で焼かれ絶命したが、遺体を調査してみると、’それ’は犬に擬態し始めていたことが分かる。

一方、基地に運び込まれた遺体が溶けだし、隊員を襲う。窓から逃げ出した’それ’は、その隊員に擬態しかかった姿で発見される。’それ’は人間そっくりの姿に擬態できるのだ。

嵐の中で閉ざされた南極基地。その中の隊員たちの中にすでに擬態した’それ’が紛れ込んでいる可能性がある。

果たして誰が本当の人間で、誰が偽物なのか。そして、彼らは生き残ることが出来るのか・・・。

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■1979年。リドリー・スコットの『エイリアン』が公開され、SFホラーのジャンルがメジャー映画として確立された。

その成功を受けて、企画が通った作品である。

だが、本作品は『エイリアン』の二番煎じではない。映画として『エイリアン』を超えることはないが、SFホラー作品として独自の輝きを放つ。

ひとつは、クリーチャーの特撮が極めて独特のイマジネーションにあふれ、かつ完成度が高いこと。

もうひとつは、誰が怪物か分からないという心理劇の要素が組み込まれていることだ。

Photo

■クリーチャーに関しては、変態途中の人間の遺体、変態する犬、最後に登場する巨大な’それ’、といくつも登場するのであるが、何と言っても心臓麻痺をおこした隊員が電気ショックを受けて変態するシーンだろう。

お腹がバカリと空いて、医者の腕を食いちぎる。そして火炎放射器で焼かれた遺体から首がもげて床に落ち、そのアタマから蜘蛛のような足が生えて、こそこそと逃げようとするシーンだ。

ここに至っては、怖い、というよりむしろ’かわいい’の領域に入ってしまっている。

全般に言えることだが、この映画のクリーチャー達は決して恐怖を生むことはない。あるのは、おぞましさ、生理的嫌悪、というところだろうか。

そこに一抹の物足りなさが残ってしまうのが残念なところでもある。

■一方の心理劇的側面の中心は’血液テスト’のシーンだ。

仲間を全員椅子に縛り付けて、その血液を採取。熱した針金をその血液につけて’それ’を見分けようとする。

ひとつひとつ、シャーレに溜まった血液に針金をつけていく。

くるぞ、くるぞ、というロシアン・ルーレット的ドキドキ感がある。

■けれども、怖さ、という意味ではそれまで。

『エイリアン』のような身の毛もよだつ恐怖というものはそこにはない。

閉鎖空間での怪物との対峙、というシチュエーションは同じなのに、何故こうも違うのか。

そこはやはりリドリー・スコットとジョン・カーペンターの実力の違いなのだろう。基本的に見せ方、いや見せなさ加減が違うのだ。

物体Xは目の前でこれでもかこれでもかとその異様な姿をさらす、むしろそこにこの映画の特徴がある。

要するに見世物小屋的なのだ。

真の恐怖は、姿の見えないものに対して生まれてくる。

原作のアイデアも、SFXも抜群であるがために、そこのところが非常に惜しまれる作品である。

                           <2012.08.18 記>

■STAFF■
製作総指揮: ウィルバー・スターク
製作: デイヴィッド・フォスター、ローレンス・ターマン、スチュアート・コーエン
監督: ジョン・カーペンター
脚本: ビル・ランカスター
原作: ジョン・W・キャンベル Jr.(『影が行く』早川書房刊)
撮影: ディーン・カンディ
音楽: エンニオ・モリコーネ
特撮: アルバート・J・ウィットロック、ロイ・アーボガスト、
           リロイ・ルートリー、ミッチェル・A・クリフォード
メイクアップ: ロブ・ボッティン
追加モンスター(ドッグモンスター)製作 :  スタン・ウィンストン

■CAST■
R・J・マクレディ ヘリ操縦士 : カート・ラッセル
ブレア 主任生物学者 : A・ウィルフォード・ブリムリー
ドクター・コッパー 医師 : リチャード・ダイサート
ギャリー 隊長 : ドナルド・モファット
ノールス 調理係 : T・K・カーター
パーマー 第2ヘリ操縦士 機械技師 : デイヴィッド・クレノン
チャイルズ 機械技師 : キース・デイヴィッド
ヴァンス・ノリス 地球物理学者 : チャールズ・ハラハン
ジョージ・ベニングス 気象学者 : ピーター・マローニー
クラーク 犬飼育係 : リチャード・メイサー
フュークス 生物学助手 : ジョエル・ポリス
ウィンドウズ 無線通信技師 : トーマス・G・ウェイツ

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■【映画評】『フロム・ダスク・ティル・ドーン』。超ド級の変化球も見慣れてしまえば・・・。

20年くらい前に見て衝撃を受けたのだけれども、タイトルを失念。ネットで探ってようやくたどり着いた次第。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.55  『フロム・ダスク・ティル・ドーン
           原題: From Dusk Till Dawn
           監督 ロバート・ロドリゲス 脚本 クエンティン・タランティーノ
             公開:1996年1月
       出演: ジョージ・クルーニー   クエンティン・タランティーノ 他

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■ストーリー■

強盗殺人犯ゲッコー兄弟は逃亡の途中のモーテルで出くわした元牧師の一家を脅し、そのキャンピングカーに隠れることで、まんまとメキシコへの逃亡に成功する。現地の犯罪組織と落ち合う場所として指定されたのは、とあるナイトクラブ。だが、そこはただのナイトクラブではなく・・・。

■画期的作品だ。

何が画期的かというとネタバレになってしまうので後述とするが、ともかく予備知識なしで見たのが幸いしてか初見のときは拍手喝采、もろにツボにはまってしまった。

なかなかこういう体験は出来ないものである。

決してお上品な映画ではないので、万人へのおすすめは出来ないが、B級映画好きであれば一度は見ておきたい作品である。

   
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■前半、ゲッコー兄弟の逃亡劇が丁寧に描かれているのが効いている。

タランティーノ自らが演じているリッチ―の狂気。これだけで一本の映画として押していける濃密さがある。

性的倒錯者であるリッチ―がフラー一家の娘に向ける目線。ああ、このあと彼女はどうなってしまうのか。

メキシコへの逃亡が成功したあとの展開が気になるところである。

■だが、それも例のナイトクラブに到着した途端にどうでもよくなってしまうのが素晴らしい。

何しろ、そのナイトクラブはバンパイアの巣窟で、真っ先にリッチ―が殺られてしまうのだから。

一風変わった犯罪映画と思いきや、あっさりとバンパイア映画に切り替わってしまうのである。

強盗も人質も関係なくなって、ともかく目の前の異変、襲いくるバンパイア達に追い詰められながらも撃退していく。

なんじゃこりゃ、という驚き。

それがこの映画のすべてである。

■その感覚をもう一度味わいたくて再見した訳なのだけれども、どうも乗り切れない。やっぱりビックリ箱に二度目は無いのである。

どんでん返しの映画は数多くあり、その結果を知っていても、やっぱり何度でも楽しめる。そういう映画がある中でいうと、質的にはイマイチということなのだろうか。

バンパイアに噛まれると、その人間もバンパイアと化してしまう。そのお約束の心理劇もあるにはあるのだが、残念ながら深みが足りない。

そこにドラマとしてもうひねりあると何度でも鑑賞に堪える傑作になったのだが。

前半の犯罪劇の質が高いだけに非常にもったいない映画である。

                       <2012.08.18 記>

■STAFF■
監督 : ロバート・ロドリゲス
脚本 : クエンティン・タランティーノ
製作 : ジャンニ・ヌナリ
      メイア・テペル
製作総指揮 : ロバート・ロドリゲス
          クエンティン・タランティーノ
            ローレンス・ベンダー
音楽 : グレーム・レヴェル
撮影 : ギレルモ・ナヴァロ
編集 : ロバート・ロドリゲス

■CAST■
セス・ゲッコー    : ジョージ・クルーニー
リチャード(リッチー)・ゲッコー : クエンティン・タランティーノ
ジェイコブ・フラー  : ハーヴェイ・カイテル
ケイト・フラー    : ジュリエット・ルイス
スコット・フラー   : アーネスト・リュー
地獄のサンタニコ : サルマ・ハエック
バーテンダー   : ダニー・トレホ
チェット・プッシー、カルロス、国境警備員 : チーチ・マリン(三役)
フロスト       : フレッド・ウィリアムソン
セックスマシーン : トム・サヴィーニ
テキサス・レンジャー、アール・マクグロー :マイケル・パークス(二役)

●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

 

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2012年8月 6日 (月)

■【映画評】『妖怪ハンター ヒルコ / HIRUKO THE GOBLIN』。原作世界を吹っ切ったとき、作品は輝き始める。

塚本晋也、メジャーデビュー作。諸星大二郎の世界をうまく青春ドラマに転化した、隠れた良作といえよう。

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No.54  『妖怪ハンター ヒルコ / HIRUKO THE GOBLIN
          監督: 塚本晋也 原作:諸星大二郎 公開:1991年
      出演: 沢田研二 工藤正貴  上野めぐみ 竹中直人 他

Hirukodvd ■ヒルコ 妖怪ハンター [DVD]

■ストーリー■
異端の考古学者、稗田礼二郎(沢田研二)。彼の義兄である中学校教師の八部高史(竹中直人)から一通の手紙が届く。古代人が悪霊を沈めるために造った古墳を発見したという内容だった。自分の学説が証明されるきっかけを感じた稗田は、八部家を訪ねる。しかし八部は、生徒である月島令子(上野めぐみ)と共に、謎の失踪事件を起こしていた。一方、夏休みでだれもいない学校では、八部の息子のまさお(工藤正貴)が友達を連れだって父親と月島令子の行方を探していた。その陰で何物かが蠢く。間一髪で稗田に助けられるまさおだったが、彼が見たのは月島令子の変わり果てた姿だった。

Photo

■序盤、八部が古墳にもぐりこむ前に挿入される月島令子の自転車のシーンが眩しい。

まさおが憧れてしまうのも仕方のない百点満点の笑顔である。

ここが起点であることを忘れて単なるホラーと捉えてしまってはこの作品を見誤るだろう。

塚本晋也が描きたかったのは、あくまでも青春ドラマなのである。

■原作はマニアをうならす鬼才、諸星大二郎。彼の初期の作品『妖怪ハンター』から、第1話「黒い探究者」を中心に、第2話「赤いくちびる」をブレンドしたもの。

「妖怪ハンター」は、伝承の中に語られる「異者」が現実のもとにあらわれてくる、その場に立ち会う考古学者、稗田礼次郎を主人公とした作品群で、ホラーでありつつも、その背景となる圧倒的な知識の深さと諸星大二郎しか描きえない独特の画風から、深遠なテーマを提示する。

筆者もその虜の一人である。

その諸星ワールドがどのように映像化されるか、いや、到底そんなことは出来ないだろう、と諦めのようなものがあって、この作品からも避けてきたのが事実である。

■だが、実際に見始めてすぐにそんなことは忘れてしまった。

画力がある、というのか、引き込む力が強い。

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冒頭のジュリー演じる稗田礼次郎は、あまりに明るく、とぼけていて実際の稗田礼次郎とは似ても似つかない人物像となっている。

だからといって否定する気にならないのは沢田研二の魅力によるところも大きいが、何と言っても脚本も手掛ける監督の塚本晋也の決断によるものだろう。

■同時代の表現者としてもちろん諸星大二郎を知らぬわけはないし、「鉄男」と「生物都市」を比較された直後であれば、なおさら意識せざるを得ない。

ここで、そのまま諸星大二郎の世界観を映像化してしまうのも一つの道だが、それを知る者はその難しさを十分に理解しているだろう。

この作品のオファーが来た時に、塚本はきっと悩んだに違いない。その悩みの末の「青春ドラマ」だったのだと、私は思う。

そう、吹っ切ったときに、塚本作品としてこの映画は輝きを得ることが出来たのだろう。

そこに迷いは無い。

■さて、青春映画としての『ヒルコ』である。

工藤夕貴の弟、工藤正貴がいい味を出している。

月島令子(上野めぐみ)と共に、青春の甘さを感じさせるオーラを持っている。

中学生のもつ、独特のオーラ。

胸をキュンとさせる何か。

誰もが通過した、あの匂いなのである。

■そんな、まさお(工藤正貴)が思い憧れる月島は、あれよあれよという展開の中で怪物になってしまったのだと理解せざるを得ない状況になるのだが、それでもなお、彼が月島への想いを立ち切れないのは、彼女がその姿を残しているからだ。

人面を中心に据えたクリーチャーの改変は、『遊星からの物体X』のパクリだと言うなかれ。

これが単なるホラーであれば、クスりと笑いをとるところなのだろうが、例えその顔が悪鬼に乗っ取られ、醜くゆがんでいようが月島は月島なのである。

そこには常に切なさが漂い、それを振り切ることは出来ない。

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そして、人面ガニと化してしまった彼女の歌は、さらにその切なさを増幅させる。

それが聞くものを自殺へと追い込む殺人歌だとしても、いやだからこそ、美しく切く響くのだ。

■そして悪夢の一夜が明ける。

ヒルコはもとの闇へと封印された。

ひと夏の想いとともに・・・。

 

と終わらせてもいいのだが、塚本は最後に魂の解放を試みる。

これも賛否が分かれそうなところであるが、いやあ、いいんじゃないでしょうか。暗闇があって、朝が来て、解放がある。

宇宙まで飛んでったのはイマイチ、イケてなかったけれど。

                           <2012.08.06 記>

 

■【追記】ところどころ塚本晋也らしい珍兵器も楽しめるが、何と言ってもキンチョール。これがヒルコに意外と効いてしまうのが笑いを誘う。明らかに「太陽を盗んだ男」へのオマージュである。

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■塚本晋也 COLLECTOR'S BOX [DVD]
現在、ヒルコは単品での入手が困難で、筆者もこれを購入。まだ3本しか見ていませんが、これは楽しめそうです。

■奇談 プレミアム・エディション [DVD]
果たしてこちらはどうなんでしょう・・・。
「ぱらいそさ、いくだ!」のシーン、その為だけにある作品だと思うのですが、うまく映像化できているのかな。怖いもの見たさで借りてみるか・・・。

  

■【原作】妖怪ハンター 地の巻 (集英社文庫)
今、購入できるのはこのバージョン。

■妖怪ハンター (JUMP SUPER COMICS)
オリジナル版は絶版、あの『生物都市』も収録されております。

■STAFF■
監督 塚本晋也 
脚本 塚本晋也 
原作 諸星大二郎  「海竜祭の夜」 
エグゼクティブプロデューサー 長谷川安弘 
企画 堤康二 
製作 中沢敏明
中村俊安
樋口正道 
撮影 岸本正広 
美術 赤塚訓 
ヒルコ造型:織田尚
特殊メイク・造型:江川悦子/ピエール須田/佐和一弘/島崎恭一
音楽 梅垣達志 
挿入歌:「月の夜は」(作詞:浅田有理・作曲:岩崎文紀・歌:上野めぐみ)
録音 影山修 
照明 小中健二郎 
編集 黒岩義民 
助監督 桜田繁 
スチール 松村麻理子


■CAST■
沢田研二 (稗田礼二郎)
工藤正貴 (八部まさお)
上野めぐみ (月島令子)
竹中直人 (八部高史)
室田日出男 (用務員・渡辺) 
朝本千可 (茜)

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