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2012年8月 6日 (月)

■【映画評】『妖怪ハンター ヒルコ / HIRUKO THE GOBLIN』。原作世界を吹っ切ったとき、作品は輝き始める。

塚本晋也、メジャーデビュー作。諸星大二郎の世界をうまく青春ドラマに転化した、隠れた良作といえよう。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
No.54  『妖怪ハンター ヒルコ / HIRUKO THE GOBLIN
          監督: 塚本晋也 原作:諸星大二郎 公開:1991年
      出演: 沢田研二 工藤正貴  上野めぐみ 竹中直人 他

Hirukodvd ■ヒルコ 妖怪ハンター [DVD]

■ストーリー■
異端の考古学者、稗田礼二郎(沢田研二)。彼の義兄である中学校教師の八部高史(竹中直人)から一通の手紙が届く。古代人が悪霊を沈めるために造った古墳を発見したという内容だった。自分の学説が証明されるきっかけを感じた稗田は、八部家を訪ねる。しかし八部は、生徒である月島令子(上野めぐみ)と共に、謎の失踪事件を起こしていた。一方、夏休みでだれもいない学校では、八部の息子のまさお(工藤正貴)が友達を連れだって父親と月島令子の行方を探していた。その陰で何物かが蠢く。間一髪で稗田に助けられるまさおだったが、彼が見たのは月島令子の変わり果てた姿だった。

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■序盤、八部が古墳にもぐりこむ前に挿入される月島令子の自転車のシーンが眩しい。

まさおが憧れてしまうのも仕方のない百点満点の笑顔である。

ここが起点であることを忘れて単なるホラーと捉えてしまってはこの作品を見誤るだろう。

塚本晋也が描きたかったのは、あくまでも青春ドラマなのである。

■原作はマニアをうならす鬼才、諸星大二郎。彼の初期の作品『妖怪ハンター』から、第1話「黒い探究者」を中心に、第2話「赤いくちびる」をブレンドしたもの。

「妖怪ハンター」は、伝承の中に語られる「異者」が現実のもとにあらわれてくる、その場に立ち会う考古学者、稗田礼次郎を主人公とした作品群で、ホラーでありつつも、その背景となる圧倒的な知識の深さと諸星大二郎しか描きえない独特の画風から、深遠なテーマを提示する。

筆者もその虜の一人である。

その諸星ワールドがどのように映像化されるか、いや、到底そんなことは出来ないだろう、と諦めのようなものがあって、この作品からも避けてきたのが事実である。

■だが、実際に見始めてすぐにそんなことは忘れてしまった。

画力がある、というのか、引き込む力が強い。

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冒頭のジュリー演じる稗田礼次郎は、あまりに明るく、とぼけていて実際の稗田礼次郎とは似ても似つかない人物像となっている。

だからといって否定する気にならないのは沢田研二の魅力によるところも大きいが、何と言っても脚本も手掛ける監督の塚本晋也の決断によるものだろう。

■同時代の表現者としてもちろん諸星大二郎を知らぬわけはないし、「鉄男」と「生物都市」を比較された直後であれば、なおさら意識せざるを得ない。

ここで、そのまま諸星大二郎の世界観を映像化してしまうのも一つの道だが、それを知る者はその難しさを十分に理解しているだろう。

この作品のオファーが来た時に、塚本はきっと悩んだに違いない。その悩みの末の「青春ドラマ」だったのだと、私は思う。

そう、吹っ切ったときに、塚本作品としてこの映画は輝きを得ることが出来たのだろう。

そこに迷いは無い。

■さて、青春映画としての『ヒルコ』である。

工藤夕貴の弟、工藤正貴がいい味を出している。

月島令子(上野めぐみ)と共に、青春の甘さを感じさせるオーラを持っている。

中学生のもつ、独特のオーラ。

胸をキュンとさせる何か。

誰もが通過した、あの匂いなのである。

■そんな、まさお(工藤正貴)が思い憧れる月島は、あれよあれよという展開の中で怪物になってしまったのだと理解せざるを得ない状況になるのだが、それでもなお、彼が月島への想いを立ち切れないのは、彼女がその姿を残しているからだ。

人面を中心に据えたクリーチャーの改変は、『遊星からの物体X』のパクリだと言うなかれ。

これが単なるホラーであれば、クスりと笑いをとるところなのだろうが、例えその顔が悪鬼に乗っ取られ、醜くゆがんでいようが月島は月島なのである。

そこには常に切なさが漂い、それを振り切ることは出来ない。

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そして、人面ガニと化してしまった彼女の歌は、さらにその切なさを増幅させる。

それが聞くものを自殺へと追い込む殺人歌だとしても、いやだからこそ、美しく切く響くのだ。

■そして悪夢の一夜が明ける。

ヒルコはもとの闇へと封印された。

ひと夏の想いとともに・・・。

 

と終わらせてもいいのだが、塚本は最後に魂の解放を試みる。

これも賛否が分かれそうなところであるが、いやあ、いいんじゃないでしょうか。暗闇があって、朝が来て、解放がある。

宇宙まで飛んでったのはイマイチ、イケてなかったけれど。

                           <2012.08.06 記>

 

■【追記】ところどころ塚本晋也らしい珍兵器も楽しめるが、何と言ってもキンチョール。これがヒルコに意外と効いてしまうのが笑いを誘う。明らかに「太陽を盗んだ男」へのオマージュである。

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■塚本晋也 COLLECTOR'S BOX [DVD]
現在、ヒルコは単品での入手が困難で、筆者もこれを購入。まだ3本しか見ていませんが、これは楽しめそうです。

■奇談 プレミアム・エディション [DVD]
果たしてこちらはどうなんでしょう・・・。
「ぱらいそさ、いくだ!」のシーン、その為だけにある作品だと思うのですが、うまく映像化できているのかな。怖いもの見たさで借りてみるか・・・。

  

■【原作】妖怪ハンター 地の巻 (集英社文庫)
今、購入できるのはこのバージョン。

■妖怪ハンター (JUMP SUPER COMICS)
オリジナル版は絶版、あの『生物都市』も収録されております。

■STAFF■
監督 塚本晋也 
脚本 塚本晋也 
原作 諸星大二郎  「海竜祭の夜」 
エグゼクティブプロデューサー 長谷川安弘 
企画 堤康二 
製作 中沢敏明
中村俊安
樋口正道 
撮影 岸本正広 
美術 赤塚訓 
ヒルコ造型:織田尚
特殊メイク・造型:江川悦子/ピエール須田/佐和一弘/島崎恭一
音楽 梅垣達志 
挿入歌:「月の夜は」(作詞:浅田有理・作曲:岩崎文紀・歌:上野めぐみ)
録音 影山修 
照明 小中健二郎 
編集 黒岩義民 
助監督 桜田繁 
スチール 松村麻理子


■CAST■
沢田研二 (稗田礼二郎)
工藤正貴 (八部まさお)
上野めぐみ (月島令子)
竹中直人 (八部高史)
室田日出男 (用務員・渡辺) 
朝本千可 (茜)

●●● もくじ 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●

 

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