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2010年9月19日 (日)

■【書評】『ヒトはどうして死ぬのか ―死の遺伝子の謎』、田沼靖一。死を通して見えてくる新たなる進化のカタチ。

死とは何か?

という根源的な問いについて考えさせてくれる本である。

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■ ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)

■結論から言えば、我々は’死ぬ’からヒトになった。

’死ぬ’という力により生命は複雑な進化の能力を得て、ヒトにまでたどり着いた、ということである。

’死’とは単なる消滅ではなく、全体の中での選別を形作っている。

それを支えているのが我々の細胞の持つ自死、アポトーシスという能力なのである。

■打撲や火傷による損傷で細胞が破壊され死ぬのがネクローシス。

対して、周りの情報や自らのなかの情報から、自分で自分を破壊するのがアポトーシス。

では、アポトーシスがどんなときに起きるのかというと、実は我々の体のなかで日々起きている。

ひとつは新陳代謝というやつで、一日に200グラム、3000億から4000億もの古い細胞が死んで新しい細胞に置き換わっているらしい。

もうひとつは、紫外線やウイルス、発がん性物質などによって変調をきたした細胞が選別され、自ら死んでいくはたらき。

こういうアポトーシスの能力によって、我々の体は日々その中身が入れ替わりながら正常な状態を維持し続けているのである。

■では細胞の入れ替わりはどこまでも続くかというとさにあらず。

「ヘイフリックの限界」といってひとつの細胞が分裂出来るのは我々人間の細胞で約50~60回。遺伝子に組み込まれたテロメアという’回数券’によって「死へのカウント」が行われているのだ。

一方、神経細胞のように分裂、再生をしない細胞ではアポビオーシスという死のプログラムがあって、ある時期が来たら死ぬように作られている。

こういった仕組みによって我々人間の最大寿命は約120歳と期限が切られているのだ。

つまりは個体の「死」である。

■すべての生命は、いつかは死ぬ。

と、思ったら実は違っていて、大腸菌のような単細胞生物は栄養さえあればいつまでも生き続けられる。

不死、なのである。

そこからなぜ死ぬような生物が進化したかというと、そのカギは「性」の誕生にあるのだという。

単純に自分のコピーを作り続ける単細胞生物とは異なり、「性」を持つ生物は子孫を残すときには相手の遺伝子と混じりあい、その子供は絶対に同じ遺伝子とはならない。

それは必ず変化する仕組みなのであって、その膨大な変化の中から環境の変化に対応できる、種として生き残る「解」を探す。

その変化のドライブがかかっているなかで、古い遺伝子はブレーキになる。

だから自ら退場する。

それが「死」である。

■リチャード・ドーキンスは「利己的な遺伝子」のなかで、我々生物は遺伝子の乗り物であって主体は遺伝子にある、と説いたが、田沼はそれにやわらかく反論する。

遺伝子は生き残ろうとする、その一方で、全体のために自らを消し去る、という利他的な側面がある、という。

ここで改めて、「死とは、何か?」と問うとき、そこに主体性、積極性が見えてくる。

全体が変化していくなかで、自ら退場していこう、という意思である。

だが、本当にそうなのだろうか。

■一般に生物は年齢的に性的能力を失った後の寿命は短い。

それが、先の「退場」である。

ところが、人間は性的能力を失った後も突出して長い寿命を保っている。

チンパンジーですら余命は5年しかないのに対して人間の余命は30年以上。

生殖能力という意味では退場しても、なぜ人生から退場することがないのか。

実は、ここに人間の人間たる所以があるのではないかと思う。

■人間は社会的な動物である。

個体としての生物を超えて、「社会」をひとつの生物として捉えることが出来る。

ここにおいて、再びリチャード・ドーキンスに登場願うのだが、彼は「遺伝子」に対して我々は「文化的遺伝子」、ミームを持っている、といった。

大腸菌から性生殖を行う多細胞生物に進化した、その画期的飛躍と同じように、われわれ人類は画期的な進化能力を手に入れたのではないか。

日々変化し、古いものを消し去っていくだけの「フロー」の世界から、知識を蓄えていく「ストック」の世界へ。

それによって人類の「社会的進化」としての「歴史」が誕生したのではないか。

それを可能にしたのが、生殖能力を失ったあとの人生、知識のストックたる存在としての人生なのではないか。

成すべきことがあるからこその80年の人生。

その折り返し地点において、いろいろなことを考えさせられる。

答えはすぐには見つかりそうもないが、ゆったりと構えているうちに、何か見えてくるかもしてない。

意味のない人生などないのだから。

 

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                          <2010.09.19 記>

■ ヒトはどうして死ぬのか―死の遺伝子の謎 (幻冬舎新書)

■ 利己的な遺伝子 <増補新装版>

   

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コメント

素晴らしい書評、ありがとうございます。

投稿: 福ちゃん | 2010年9月19日 (日) 10時03分

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