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2010年8月 6日 (金)

■【書評】『 夕凪の街 桜の国 』 こうの史代。普通な、あまりに普通な幸せに。

たった35ページ。

だが、当たり前の幸せについて考えるとき、こころに深く突き刺さる物語なのだ。

Photo ■ 夕凪の街桜の国 こうの史代

■なぜ、生き残ったものが不幸を背負いこまねばならぬのか。

生き延びてしまった、という負い目を重く内に秘めながら、幸せを避けて歩かねばならないのか。

あの日から十年経った平和な日常のなかで、ごく普通の幸せを感じようとするとき、するすると形容のしようもない黒い影がまた忍び込んできては、再びこころをくもらせる。

そんな毎日を七波は生きている。

■「死ねばいい」、

と誰かに思われたと七波は考えるのだが、

原爆を投下したエノラ・ゲイの搭乗員たち、いや、それを指示したアメリカ指導部の者たちに果たしてそういうメンタリティがあったのか。

ひとつ、ひとつの命に対して、そういう思いがあったのか。

十年経ったこの日に、

「やった! またひとり殺せた」

と、誰かが思ってくれるのか。

物語全体のトーンがやわらかいだけに、その強いメッセージがさらに鋭く迫ってくる。

■65年目の夏。

「死ねばいい」と思われた人たちの存在がゆっくりと薄らいでいくなかで、やはり、その思いを風化させてはいけないのだと思う。

その意味で、「夕凪の街」は市井の人たちの思いを語り継ぐということに成功した、われわれ日本人にとって大切な物語なのである。

                        <2010.08.06 記>

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