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2009年11月24日 (火)

■【書評】『複雑な世界、単純な法則 ―ネットワーク科学の最前線―』、マーク・ブキャナン著。我々を取り巻く複雑なネットワークが持つ、幾つかの特性。

この世は複雑でまったく予測できないような振る舞いをみせるものである。

が、実はそのなかには単純な仕組みが加速度的に折り重なっていくことで生じるものがあって、それ故に、その複雑な振る舞いの性質を知ったり、予測をすることが可能な場合があるのだ。

それは原子でも細胞でも社会でも、その要素に関わり無くその性質が普遍的であるというのだから面白い。

とても面白い話なので、ここでは、書評、というよりは備忘録として書いてみたい。

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■複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線
マーク・ブキャナン著 草思社 (2005/2/25)

■1960年代、’アイヒマンテスト’で有名な心理学者スタンレー・ミルグラムが面白い実験を行った。

アメリカの片田舎の見知らぬ人からボストンの株仲買人へと知り合い伝いに手紙を送ってもらったところ、何度やっても6人前後で目指す相手に手紙が届いたという。

広大な土地に何億もの人が住むアメリカがこんなにも狭いのか、と世界を驚かせた、世にいう「6次の隔たり」である。

■いやいや、数学的に考えれば、一人に50人の知り合いがいれば、50×50=2500、2500×50=125,000、と繰り返し50を掛けていけば50の6乗は156億2500となって、「6次の隔たり」なんて、当ったり前ジャン、

というのは浅はかな考えで、「知り合い」というものは身近にいるもので、50人の知り合い同士が重複してしまうのが実際の世界なのである。

■身近な知り合い同士がひとつの集団を形作る、それを「クラスター」と呼ぶ。

実は、このクラスターが複雑な系における大事な役割りを担っていて、リンクがひとつふたつ切れたところで近傍でつながっているリンクを伝ってすぐに切れたリンクを補完してしまう性質をもっている。

ちょっとやそっとのことでは崩れない、システムの安定性、強さがそこに生まれるのだ。

■「クラスター」については分かった、じゃあ、何で「6次の隔たり」が起きるのか。

それを幾何学的に解いたのがニューヨーク州コーネル大学の数学者ワッツとストロンガッツ、1998年冬のことである。

円周上に1000の点を打ち、ひとつの点から近傍10個の点をつないでみる(クラスターを作る)。そうして今度は遠く離れたクラスター同士をつなぐ線を何本か追加してみるのだ。

すると、遠距離リンクを追加する前の隔たりが約50であったのが、一気に7までに落ちたのである。

■同じように世界人口60億の点もわずか数本の長距離リンク(ショートカット)を追加することで6次に収まることがシミュレーションによって確かめられている。

キモは近傍同志をつないで生じるクラスターの規則性と長距離リンクのランダムさ。

それが世界の60億人を6回でつないでしまう不思議な世界、「スモールワールド・ネットワーク」を生むのである。

■この仕組みは実際の世界にもあって、ホタルの群れの同時点灯、下等動物の神経ネットワーク、巨大な電力供給ネットワークにも見られる構図なのだ。

ひとつの点からのびるリンクの数がほとんど変わらないことから、このモデルを「平等主義ネットワーク」と呼ぶとすると、実はもうひとつスモールワールド・ネットワークのカタチがある。

今、自分が向かっているパソコン。

そこから拡がっていくインターネットのウェブの世界がそれである。

■その特徴は、近傍同士がつながるクラスターという性質はそのままに、そのうち幾つかの点が他より非常に多くの繋がりをもつ、というものである。

その非常に多くの接続をもつ点をハブと呼ぶ。

アマゾンだとか、ヤフーだとか、皆が集中してリンクを張る人気サイトがそれだ。

そのハブの存在によって、インターネットのサイト同士は非常に短い距離で結ばれているのだ。

■このネットワークの面白いところは、自然発生的に生じるというところである。

人気のあるサイトには皆がリンクを張りたがり、ますますリンクの数が増えていく。そうやって極少数の点に多くのリンクがつながっていく構図がある。

その性質から、先の「平等主義ネットワーク」に対して「貴族的ネットワーク」と本書では呼んでいる。

■それはインターネットのウェブサイトが作る世界だけではない。

雨水が流れれば流れるほど地面が削られ流域を拡げていく河川の面積における本流と支流の格差や、金持ちになればなるほど投資する余剰資金が増えていくことで生じる貧富の格差、長い腕ほど多くの氷の粒をつけて伸びていく雪の結晶など、など。

そこにあるのは、金持ちがますます金持ちになるといった(べき乗数に従う)単純な法則であって、一見複雑に見えるけれども、実は簡単な話でなりたっているのである。

■大切なことは、原子、分子や病原菌、歩行者、株の取引から国家に至るまで、その構成要素に関わらず共通の性質を持つ、ということである。

生態系の健全さにおいて最も重要な種は何か、

感染症と戦うにはどんな戦略が有効か、

ウェブのネットワークを守る最善の方法は何か、

企業における業務のネットワークをどのようにすれば、効率的で安定したアウトプットを生む組織を作り出すことができるのか、

そのヒントが、このスモールワールド・ネットワーク共通の性質を知ることで分かってくるのである。

■強靭なネットワークは近傍の集団が強い繋がりで結びついていることにより(クラスター化)、そして世界の広がりを小さくする、効率化するには極少ない要素が多くの弱いつながりを持つ(ハブを持つ)ことである。

逆に言えば、近傍同士のつながりが弱ければシステムは脆弱になり、ハブとなる要素が取りさらわれれば、ネットワークの効率は致命的に弱くなる。

とするならば、先の疑問の答えはおのずと分かってくるだろう。

■もうひとつのポイントは、ハブには物理的限界があるということだ。

最近、羽田空港のからみでハブ空港が話題になっているが、アメリカでは既にハブ空港は管制の限界に至っていて、周囲の中小の空港への分散化が始まっており、一極集中の構図が崩れていっている。

では、その先に何があるかというと、先に示した「平等主義ネットワーク」である。

生物の神経ネットワークや電力供給ネットワークなど、ハブという意味では物理的限界が低いネットワークが平等主義ネットワークに落ち着いているのもうなづける。

■さて、我々を取り巻く複雑なネットワークシステムがもつ特性を幾つか理解したわけだが、これらの知識は何も科学や社会構造の研究の最先端の世界だけに活かせるだけのものではない。

その特性は我々の社会、組織、仕事のやり方にも影響を及ぼしているのであって、実際にそこからいろいろと重要なヒントが得られるのだと思う。

と同時に、実際の世界の丹念な実態調査とコンピューターによる高度なシミュレーションによって初めて分かる部分があるわけで、一般論以上の部分はなかなか素人には手が出せないのも事実だろう。

このあたり、世間に溢れる’予測’と呼ばれるものに対する「正しい見方」を示唆してくれるものなのかもしれない。
 

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■複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線
マーク・ブキャナン著 草思社 (2005/2/25)

  

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