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2009年9月22日 (火)

■【書評】『悪魔の文化史』、ジョルジュ・ミノワ。異者に対する脅威の感情が「悪魔」を生み出すのだ。

悪魔の出処を知ることはキリスト教文化を知ることでもあるのだ。

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■悪魔の文化史 ジョルジュ ミノワ 著  
文庫クセジュ 白水社 (2004/07)

■悪魔というのはとても魅力的な存在だ。

光り輝く正道は得てしてツマラナイものであって、薄暗い横道からこっちへおいでとささやく声につい、ふらふらっと覗いてみたくなるものなのである。

たぶん、それは万国共通のものであって、得体の知れないものへの好奇心というのは人間が知的な動物である限り避けられないものなのだろう。

■なんていう風に考えながらこの本を開いたわけなのだが、出だしからちょっと様子が違う。

実はこの本は「悪魔」を通してキリスト教社会の本質を掘り下げた文化論なのであった。

そこで展開される一神教の文化というものは、われわれ日本人のような何でも来いの雑食的なものの考え方のイイカゲンな文化とくらべて何やらめんどくさいもののようなのである。

■問題は「善」と「悪」の在り方にある。

ユダヤ教、旧約聖書の神は「善」とか「悪」とかいったものをすべて含んだ存在で、善行を積んだ人に対して不条理と思えるような酷い仕打ちをしたり、疫病を流行らせたりもする存在で、サタンはその「悪」の役回りを実行する神の僕に過ぎない。

それに対して、キリスト教では神は絶対的に「善」の存在で、サタンはそこから弾き飛ばされた「悪」を引き受け、神と対立するものになったのだという。

新興の小さなセクトであったキリスト教の成立過程において、ゾロアスター教、マニ教などの二元論が入り込み、「善」と「悪」の分離が起きたということらしい。

■だが、そこに矛盾が発生する。

神は「善」なるものである、けれどその一方で「すべて」である神に「悪」が含まれないのはおかしいではないか、という神学的問題が発生し、その問題とは「悪」とその化身である「悪魔」は存在するや否や、という問題と同義なのである。

いやー、実にめんどくさい。

■いや、問題はそれだけに止まらない。

キリスト教が「悪魔」を必要としたのは、単に善悪の二元論の影響を受けたというだけでなく、そこに根付いたメンタリティというものがあって、それが重要な理由となるのである。

そのメンタリティとは、

「サタンの支配下にある世界全体が、自分たち少数の選良グループを取り囲み、脅かしている、という追い詰められたセクト主義的な考え方の典型」

からくるものだ。

極初期のキリスト教は、ユダヤ教下にある有象無象の小規模セクトのひとつだったわけで、周囲に対する排他的、防衛・攻撃的メンタリティが「サタン」を必要とした、ということだ。

■そして、そのメンタリティとその構図は、紀元前後のキリスト教誕生のころから、十字軍、魔女狩りの時代を経て現在にまで続いている。

先のイラク戦争を見よ。

先のアフガンを見よ。

合理主義、科学万能的世界観の中心であるはずのアメリカも、一皮剥けば、キリスト教2000年のメンタリティを脈々と引き継いでいるのである。

アメリカ人の心の奥底にあるメンタリティを追求した、マイケル・ムーアの「ボーリング・フォー・コロンバイン」の衝撃的結論を思い出さずにはいられない。

■そして厄介なことに、イスラエルにしても、イスラムにしても、一部のセクト的小規模集団においてはその構造的性格ゆえに、キリスト教原理主義とおなじ排他的、防衛的メンタリティーをその特性として抱え込んでいて、それ故に中東の戦争に終わりは無く、テロ活動にも終止符は打たれない。

当然それだけが理由ではないだろうけれども、彼らのうちにあると思われるそのメンタリティが戦争状態を継続させる心理の背景にあることは間違いないだろう。

■我々日本人にとって、絶対的悪、など存在しない。

だから彼らの心理を理解できないのかもしれない。

「悪魔」の問題は、決して怪奇趣味に止まる問題ではなく、実は異者に対する心理の問題なのである。

文明・文化を越えた相互理解というものはかくも難しいものかと感じた次第である。

  

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                          <2009.09.22 記>

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■悪魔の文化史
ジョルジュ ミノワ 著  文庫クセジュ白水社 (2004/07)

   

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