■NHKドラマスペシャル 白洲次郎。矛盾に満ちたこの世の中で真っ直ぐ生きるということ。
90分3本勝負を半日かけて一気に見た。
後半にむけてぐいぐい引っ張られる感じがして、やっぱりいいね、大友啓史。
■白洲次郎というと、GHQに対して卑屈にならずにモノを申すことが出来た気骨の人であって、一本筋の通ったカッコいい人なのである。
だから作品としては、彼をいくらでも「カッコよく」切り取ることはできるし、実際、このドラマでもため息が出るくらいカッコよく描かれていたと思う。
■けれども、それだけでないのが大友啓史風味で、白洲次郎が真っ直ぐ生きれば生きるほどにそこに生まれてしまう矛盾をはっきりと描き出す。
世の中はそんなに単純に出来ているわけではないのだ。
そこに苦悩、というものがあって、だからこそ、単なるヒーローではない、生身の人間として白洲次郎を浮かび上がらせることに成功したのだと思う。
■売却話で対立する製鉄会社の役員と殴りあうシーン。
そこで’鉄屋’の男が言う。
お前は何者だ。
そこがこの物語のカギになる部分だと思う。
白洲はいう、俺は何者でもない。
戦後政治の中枢にいて占領下の日本を独立にまで導いた立役者がそう言うのだ。
■人には天命、というものがある。
多分、白洲はそれを意識していたのだろう。
己に何ができるのか。
己にしか出来ないことは何か。
自分が何者でもない、とまっすぐ言えてしまうということは、常に、その瞬間瞬間においてその問いを自らに投げかけ続けていたということだろう。
常人にはとても出来ないことである。
■白洲の妻、正子もまた、己が何者であるかについて苦しみ抜いた人だ。
ある種のスーパーマンの傍にいて、どうしても自分の姿と比べてしまう。
それは常人であり、かつ、自己実現を熱望する理想の高さを持つ故に悲劇的である。
その正子がこの物語の語り手であることに意味がある。
何しろテレビのこちら側にいる我々も常人なのだから。
■それがラストになって効いて来る。
西行法師に重ねて白洲次郎の生き様を語るシーンがあって、こういう比喩的表現も粋だなあ、なんて感じていたのであるが、最後のさいごに正子を演じる中谷美紀がふと顔をあげてカメラ目線でこちらをじっと見つめている。
これには参った。
総計270分かけて繰り広げられたドラマが画面のコチラ側にいきなり侵入してくる。あなたはどう生きているのかと問いかけてくる。
ひさしぶりにドラマでぞくぞく感を味わった。
■演出で言えば、写真と音楽で’語らずして語る’手法も見事。
さらりとしていて、それでいて艶っぽい。
いやあ、粋だねぇ。ホント。
白洲の名前に恥じない素晴らしく濃密でスタイリッシュな作品なのでありました。
<2009.09.26 記>
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■STAFF■
原案: 北康利 「白洲次郎 占領を背負った男 (講談社文庫)」
牧山桂子 「 次郎と正子―娘が語る素顔の白洲家」
制作統括 : 鈴木圭
脚本・演出 : 大友啓史
音楽 : 大友良英
美術 : 都築雄二
スチル : 若木信吾
■CAST■
白洲次郎 : 伊勢谷友介(少年:高良健吾 晩年:神山繁)
白洲正子 (妻) : 中谷美紀
白洲文平 (父) : 奥田瑛二
白洲芳子 (母) : 原田美枝子
ミヨシ (白洲家宮大工): 塩見三省
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吉田茂 : 原田芳雄
近衞文麿 : 岸部一徳
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マッカーサー :ティモシー・ハリス
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牛場友彦 (幼馴染) : 石丸幹二
辰巳栄一 (駐英武官) : 高橋克実
河上徹太郎 (文芸・音楽評論家) : 田中哲司
青山二郎 (骨董の目利き) : 市川亀治郎
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ロビン (留学時代の親友):ED SPELEERS
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