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2009年8月22日 (土)

■【書評】『しのびよる破局 ― 生体の悲鳴が聞こえるか』、辺見庸。人間の尊厳の恢復は我々一人ひとりの中に。

人間とはいったいなにか。

人間とはいったいどうあるべきなのか。

著者の切々たる想いが込められた本である。

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■しのびよる破局―生体の悲鳴が聞こえるか
辺見 庸 著 大月書店 (2009/04)
※2009年2月1日に放映されたNHK・ETV特集「作家・辺見庸 しのびよる破局のなかで」を基に再構成、大幅補充をしたもの。

■今、我々は複合的な破局に対峙している。

世界同時多発テロ、地球温暖化による気象災害、世界金融恐慌、格差の拡大、新型インフルエンザの流行。

それは決して単独であるものではなく、人間が人間らしさを喪失した、それがすべてをつなぐ伏流水として流れているのだと辺見庸は読む。

■キーワードは’マチエール(身体で実際に感じる質感)’と’慣れ’である。

テロにしても、異常気象にしても、格差の拡大にしても、身体で感じ取ることができない。テレビの、或いはパソコンの画面の中でしか接することができないが故に常に空虚であり、実感がない。

毎年3万人以上が自殺し、その何倍もの数の自殺未遂者がいる異常事態に対して何も感じることができない。

そして、そういった破局の中にあって、すべてのことがらに慣れてしまい、日常の中に消えていってしまう。

それは秋葉原事件を起こした青年の、パソコンや携帯を通してしか世界とつながることが出来なかった空虚さと同質のものなのである。

■その背景には、行き過ぎた資本主義、合理主義、グローバリゼーションが、ある。

「多様化な生き方を可能にする」という名目で改正された派遣労働法がいい例である。

口先ではかっこいいことをいいつつも、結局は人間を景気動向に対する調節弁としてしまった。そうでなければ企業はグローバルな過当競争を生き抜くことが出来ない、企業がつぶれてしまっては元も子もないでしょうと開き直る。

当時、人材を大切にする日本的経営を維持していくとカッコよく唱えた某巨大自動車メーカーが秋葉原事件と無関係ではなかったことの、この皮肉。

■100年に一度の大恐慌といいながら、あれから一年も経たぬうちに景気も底を打ったなどと浮かれた記事を目にしたりする。

もしかすると景気の回復は本当に近いのかもしれない。

けれど辺見さんはいう。

 
 本当に取りもどさなければならないのは、経済の繁栄ではないのではないのかとぼくはおもうのです。人間的な諸価値、いろいろな価値の問いなおしが必要なのではないか。でなければ、絶対悪のパンデミックは、いったん終息してもまたかならずやってくるだろう。もっとひどいかたちでくるかもしれない。(P74)
 

と、同時に

 
 誠実とか愛とか尊厳ということばを、商品世界のコマーシャルのみたいな次元に全部うばわれている、つまり悪は悪の顔をしていないというときに、やっぱり本来のマチエール、愛にせよ誠実にせよ人間の尊厳にせよ、言語の実質、実感というものを取りもどすことだとおもいます。(P117)
  

と語る。

まったく同感である。

そんな中で、

 
「私はかつておまえだった。おまえはやがて私になるだろう。」
 

という警句が、ひときわ響くのである。

 

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                          <2009.08.22 記>

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■しのびよる破局―生体の悲鳴が聞こえるか
辺見 庸 著 大月書店 (2009/04)

   

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■もの食う人びと
辺見 庸 著 角川文庫  (1997/06)

    

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