■【書評】『PLUTO プルートウ』 浦沢 直樹/長崎尚志 著。大風呂敷はとりあえず置いておこうじゃないか。
プルートウ、完結。
これまで引っ張ってきた謎が明らかにされ、一気に物語がつながっていく。

■ PLUTO 8 浦沢 直樹 著 ビッグコミックス (2009/6/30)
■原作は手塚治虫の鉄腕アトム。
そのなかでも特に人気の高い「地上最大のロボット」を現代風にアレンジして物語をおおきく膨らませたのがこの作品。
浦沢 直樹と長崎尚志のアトムに対する敬意と愛情がそこここに滲む良作である。
■実際、面白かった。
ゲジヒトの失われた記憶、アトムの再生、ボラーの正体。
単行本1冊分の原作を8冊にまで膨らませたにも関わらず、スピードとサスペンスと謎が連鎖的に拡大し、飽きることが無い。
が、この最終巻で明らかになった謎を組み合わせて全体像を眺めるとき、どうもしっくりこない部分が残ってしまうのだ。
■テーマは、敵に対する憎悪とそこから引き起こされる戦争。
具体的には、9.11テロとそこから引き起こされたイラク戦争、そして現在までつながる憎悪の連鎖を下敷きにしている。
今、という時代をもっとも強く映す、キャッチーなテーマだ。
そこに、少し乗り切れない部分が出てしまったのである。
■そこのところ、手塚治虫版の原作は至ってシンプル。
誰が一番強いロボットか。
それだけなのである。
そんなことの為に戦うなんて不毛なことはやめようよ、といいつつも人質になったお茶の水博士を救うためにアトムは天馬博士の手を借りて100万馬力を手に入れる。
この矛盾。
それ故のラストシーンの侘びしさ。
その読後感がこの作品の傑作たる所以なのだと思う。
■原作と比べるのはどうかという話もあるが、「プルートウ」は話を膨らませるに当たって、テーマを具体化し過ぎたように感じる。
特に、「ペルシア国」と「トラキア合衆国」の対立の構図は作品の現代化を図る上で必須だという判断なのかもしれないが、いかにも余計である。
9.11とかイラク戦争のニオイが漂うたびに、ダリウス14世にフセインの、トラキア国大統領にブッシュのニオイを嗅ぐたびに、我々は作品世界から引き剥がされ、現実の世界へと放り出されてしまうのだ。
■余計、といえば、トラキア国のマザーコンピューター。
これが何のメタファーかは置いておくにしても、こいつが一番の悪者で、プルートウとアトムの、アラブの王様とお茶の水博士の対立における矛盾を引き受けてしまう、その安直さが許せない。
はっきりと言おう、
長崎尚志は、そこに踏み込むべきではなかった。
■それでも私がこの作品をブックオフに売っ払ってしまおうと思えないのは、ゲジヒト、ゲジヒトの奥さん、ノース2号、エプシロン、サハドといったロボットの面々それぞれの物語が強烈に私を惹きつけるからだ。
特にノース2号の物語は何度読み返してもウルウルきてしまう。
だから、この作品の楽しみ方としては、全体のテーマがどうこう、というところから大きく離れて、オムニバス的に展開するひとつひとつの物語を味わう、というのに尽きると思う。
そこだけが浦沢 直樹/長崎尚志のオリジナルであり、唯一、天才・手塚治虫を超えている部分なのである。
そして、いつだってそれこそが彼らの作品の魅力なのだ。
<2009.07.02 記>
■Amazon.co.jp■へのリンク
■ PLUTO 8 浦沢 直樹 著 ビッグコミックス (2009/6/30)

■鉄腕アトム (13) (「地上最大のロボットの巻」収録)手塚 治虫 著 講談社 手塚治虫漫画全集 (233)
■関連記事■
■漫画一本、真剣勝負。
『プロフェショナル・仕事の流儀』漫画編集者・原作者 長崎尚志。
(2007.11.13 記)
■過去記事■
■【書評】ひつじの本棚 <バックナンバー>
*********************************************
■ Amazon.co.jp ■
■【書籍】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【書籍】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■
■【DVD】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【DVD】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■
| 固定リンク
« ■【書評】『武装解除 ―紛争屋が見た世界―』 伊勢崎賢治 著。平和は正義を曲げてでも手に入れる価値のあるものなのだ。 | トップページ | ■ああ、アメリカよ。『爆笑問題のニッポンの教養』 日米関係史、阿川尚之。 »




















コメント
はじめましてモトミチです。
私も『PLUTO(プルート)』を読みました。
読み終わったあと『PLUTO(プルート)』が
終わってしまった。。。と少し寂しい気がしますが。
いやぁ~この作品、最後まで面白かったです!
初めてちゃんと読む浦沢直樹さん作品でしたが
この人の凄さがよくわかりました。
これからもちょくちょく覗きに来ますので
今後とも、色んな感想をお願いします。
そして、情報などがありましたらお願いします。
ではまた。
投稿: モトミチ | 2009年7月 3日 (金) 13時45分
モトミチさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
記事では色々難癖をつけてしまいましたが、この作品、面白かったことに変わりはありません。
マスターキートンは版権の話がこじれてるようで入手は難しい状況のようですが、モンスターは比較的手に入りやすいと思います。
おすすめですよ。
ではまた。
気兼ねなくまた遊びにきてくださいね。
投稿: 電気羊 | 2009年7月 5日 (日) 04時41分