■【書評】『世界の半分が飢えるのはなぜ?』。飢餓を取り巻く構造と、私が生きている世界の構造はつながっているのだ。
父と息子の対話というカタチを通じて、飢餓とその周辺にある問題に対して多面的な見方を示し、育ててくれる、そういう本である。
■ 世界の半分が飢えるのはなぜ?
―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実ジャン ジグレール 著、 たかお まゆみ 訳、勝俣 誠 監訳
■FAO(国連食糧農業機関)の1999年の統計によると、世界で「深刻な飢餓状態(明日、餓死してもおかしくない状態)」の人びとは3000万人。その背後に「慢性的な栄養不良」の人々が8億2800万人いるという。
世界が100人の村だったら、でいえば14人が飢えに苦しんでいるという計算になる。
■これを多い数字ととるか、ふーん、それくらいなのか、ととるかは人によって違うだろう。
それは飢餓が発生している仕組みの理不尽さについてどれくらい知っているか、そして何よりも実際の飢餓をどれくらい肌身でわかっているかによって違ってくるのだろう。
■著者のジャン・ジグレールさんは、1934年生まれのスイスの人で、現場を渡り歩く実証的な社会学者であり欧州でもっとも知られた飢餓問題の専門家だ。
起きている事実を分析し、要因を切り分けて考える論理性がしっかりしていて妙な感情論にばかり流されない。提言も極めて具体的。
その一方で飢餓の問題に横たわる構造的理不尽さ(我々は無関係ではないということだ!)に対して時折みせる剥き出しの感情があって、そこが深い共感を呼び込む。
■そういうジグレールさんの「語りかけ」を聞いているうちに、飢餓に対する意識が確実に変わっていく。
それだけではなく、紛争、市場原理主義、環境破壊といった飢餓の元凶に対してその人なりのモノの見方が生まれてくる。
■飢餓の最前線を歩んできたジグレールさん。
その真実味のある言葉を受けた息子のカリムは、それを自分の言葉に置き換えていくであろう。
その過程でカリム自身のオリジナルのモノの見方が構築されていく。
それが、この本を読み終えた私のなかで今起きていることなのである。
■この本の原著が出版されたのは1999年であって、9.11のテロも、それに続くイラク戦争も起きてはいないし、現在進行している市場原理主義を元凶とした世界同時不況の影もない。
けれども、そういった時間軸でのハンディキャップが気にならないのは、そこに語られているのが’出来事’を’構造化’し、本質に迫ったものであるからだ。
だから、古びない。
いや、むしろ、この本を読んで自分のなかで変化、生成した「世界の捉え方」、その捉え方によってその後の出来事について考えることが、ひとつのテストなのだと思う。
その意味で、若い人に是非とも読んで欲しい本である。
<2009.06.28 記>
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■世界の半分が飢えるのはなぜ?
―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実
ジャン ジグレール 著、 たかお まゆみ 訳、勝俣 誠 監訳
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