■【映画評】『容疑者Xの献身』。’生きる’ことは私には余りにも眩し過ぎて。
これは、「ガリレオ」ではない。
主演・堤真一渾身の、孤独な魂のドラマなのである。
●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
No.26 『容疑者Xの献身』
監督 : 西谷弘、原作 : 東野圭吾、脚本 : 福田靖 公開:2008年10月
出演: 堤真一、 福山雅治、 松雪泰子、他
■初っ端、本編とまったく関係の無いエピソードでガリレオの活躍が描かれるのだけれども、それ以降、例の数式書きなぐりの儀式もなくて、見せ場の再現実験も行わない。
かといって、つまらん映画かといったら全く逆で、孤独な天才数学者・石神という役柄にこれ以上ないっていうくらい堤真一がはまっていて、抑制された演技の奥に灯る純粋なこころの叫びに震えるのだ。
■編集がいい。というのも強く感じた。
場面場面のテンポが抜群にいいのだ。
死体が発見されて警察が調査を始める現場のシーンのようなアップテンポも小気味いいのだけれども、映画の冒頭で描かれる石神の朝の毎日のような淡々としたシーンにその上手さが光る。
■目覚ましが鳴り、アパートの薄い壁を通して隣の母娘の楽しげな朝のやり取りが聞こえてくる。ベッドでまどろみながら、それを愛おしむように味わう石神がヨシ、と起き上がる。
アパートを出て、いつものように川沿いの道を歩き、橋を渡り、いつもの時間にいつもの店でいつもの日替わり弁当を買う。
その弁当屋は隣りの部屋の母親(松雪泰子)の店で、その明るい笑顔を目当てに石神が毎日通っているのだな、と分かる。
■当たり前の、すべてが決まりきった朝の風景。
ラストまで見終わったあとに改めてこのシーンを見ると、この、何てことのない淡々とした一連のシーンが観る者のこころを揺さぶり、何かがぐっと込みあげてくるのだ。
派手さは無い。
けれども、それだからこそ沁みるものがある。
それを支えたのが絶妙の編集によるテンポの良さなのだ。
■ストーリー■
惨殺死体が発見され、内海(柴咲コウ)は本庁の先輩刑事・草薙(北村一輝)と事件の捜査に乗り出す。捜査を進めていくうちに、被害者の元妻・靖子(松雪泰子)の隣人である石神(堤真一)が、ガリレオこと物理学者・湯川(福山雅治)の大学時代の友人であることが判明。内海から事件の相談を受けた湯川は、石神が事件の裏にいるのではないかと推理するが……。(シネマトゥデイ、一部編集)
■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■
■完全に騙された。
鋭利な知能で愛する松雪さんを殺人の嫌疑から守ってやる。そのことによって堤真一は彼女を自分の支配下に置くカタチとなる。
そこに現れるダンカン扮する気のいいオジサン。
ホステス時代から入れ込んでいたようなのだが、どうやら本気になってしまったようである。
■それを無下に出来ない松雪は、影からひっそりとその様子を窺う堤真一の存在が次第に恐ろしくなってくる。
「あの男から逃れたって、今度はそれが石神さんに変わっただけじゃないの!!」
松雪さんじゃなくたって追い詰められてしまう真に迫った堤真一のストーカー振りは、こりゃ’素’なんじゃないかと思うくらいなのだ。
■でも、結局それも天才・石神の計画の内だったんだよな。
始めっから自分が罪を被るつもりで、その自分に対して同情させない為には、あいつはストーカーであると思わさざるを得なかった。
■それでも松雪さんへの手紙に心情を吐露してしまう堤真一。
その詰めの甘さが、ラストシーンの松雪さんの行動につながってしまうのだけれども、その詰めの甘さ、天才数学者の完璧な計画にほころびをもたらしたものこそが、松雪さん親子の’生活’、ただ生きていることの素晴らしさ、によって彼の中に始めて生まれた’人間らしさ’なのである。
■どうして・・・?どうしてぇぇ!!
私も償いたい、と現れた松雪さんを前に泣き崩れる堤真一。
自分以外のすべての人間を騙しつくして計画を推し進めるならば、まったく余計な動きである。論理的ではない。(福山雅治っぽく。)
松雪がどんな証言をしようと今や証拠は何も無く、いや例え後になって’夫’の死体が海から上がったとしても、この時点では確率論的に白を切り通すのが筋である。
が、ただ居てくれる、その明るい生活を感じさせてくれるだけでいい。それでもこの自分には眩し過ぎるくらいだというのに、彼女は我が身を投げ出してこんな自分を助けようとしてくれている。
それに耐え切れなかったのである。
■ここまで切ない想いを掻き立てられたのは久しぶりだ。
それも、それ泣け、やれ泣け、という仕掛けにのるではなくて、うっかりすると聞き漏らしてしまいそうなボソボソとした声で語られるそういうトーンの中で盛り上がってくるものなだけに、その湧き上がる切なさに磨きがかかるのである。
■いやー、正直ここまで期待していなかった。
とくに堤真一には完敗だ。
アクの強すぎるイロモノだと思っていたのだけれど、実はいい役者さんだったんだねー。いや、降参、降参。
<2008.05.23 記>
■STAFF■
監督 - 西谷弘
原作 - 東野圭吾 「容疑者Xの献身」
脚本 - 福田靖
音楽 - 福山雅治、菅野祐悟
撮影 - 山本英夫
照明 - 小野晃
美術 - 部谷京子
編集 - 山本正明
製作 - 亀山千広
企画 - 大多亮
制作- シネバザール
配給 - 東宝
■CAST■
湯川学 - 福山雅治
内海薫 - 柴咲コウ
草薙俊平 - 北村一輝
栗林宏美 - 渡辺いっけい
弓削志郎 - 品川祐
城ノ内桜子 - 真矢みき
工藤邦明 - ダンカン
富樫慎二 - 長塚圭史
花岡美里 - 金澤美穂
葛城修二郎 - 益岡徹
柿本純一 - 林泰文
* * *
花岡靖子 - 松雪泰子
石神哲哉 - 堤真一
■関連記事■
■スペシャルドラマ 『ガリレオΦ』。これが本来のガリレオか!
■過去記事■
■【映画評】名画座・キネマ電気羊 <目次>へ
■トラックバックさせていただきます■
■’映画鑑賞★日記’ さんの「容疑者Xの献身」
■ Amazon.co.jp ■
■【書籍】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【書籍】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■
■【DVD】 最新ベストセラー情報 (1時間ごとに更新)■
■【DVD】 ↑ 売上上昇率 ↑ 最新ランキング■
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント