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2009年4月 1日 (水)

■「ゴリラ先生 ルワンダの森を行く」。マウンテンゴリラはゲタゲタと笑う。

山極寿一先生は本当に味のある人である。

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■NHK特番 2009年3月26日放送 「ゴリラ先生 ルワンダの森を行く」

■ゴリラの群れのリーダーであるシルバーバックは文字通り背中の毛がグレーの成熟したオスである。

通常、群れにシルバーバックは一頭だけなのだが、最近、ルワンダの森に住むマウンテンゴリラの群れに複数のシルバーバックがいるという。

青春をルワンダの森でゴリラたちと過ごし、26年前にこの地を後にした霊長類社会生態学の山極教授がその謎に迫る。

■内戦によって生息域が狭められリーダーになれなかったオスが群れを離れなくなったことが、かえって子供たちが複数のオスに守られて安心できる環境だと認識され、メスが集まってくるようになり新しい群れの形態として定着してきたという仮説。

さらに、それはかつて人類が複数の夫婦による共同生活を形成するようになった、そのはじまりかもしれない、という推察。

そういう学術的な部分も面白かったのだけれども、それよりなにより、どういう気持ちで山極先生がルワンダの森を後にしたのか、そしてかつて一緒に過ごしたゴリラとの26年振りの再会はどういう反応を生むのだろうか、そういった極めて人間くさい部分がじわりと沁みる番組なのであった。

■山極先生のルワンダでの師匠は映画「愛は霧のかなたに」でシガニー・ウィーバーが演じた破天荒な類人猿研究者ダイアン・フォッシーである。

彼女は、愛するゴリラを狩る密猟者たちに敵意をむき出しにして向かっていった激しい人だったのだそうで、結局何者かに暗殺されてしまった。

それが山極先生をこのフィールドから引き離した原因らしく、多くは語らないけれど、ダイアン・フォッシーの墓碑に彼女が好きだったバーボンをかけ自らも酔うその姿から、言葉以上のものが伝わってくる。

■そして26年ぶりのゴリラとの再会である。

かつて子供だったゴリラのタイタスは、もうすっかり背中の白い立派な大人になっていた。

安心してね、’んんー’という唸り声で近くに座る山極さんを見つめ返すタイタスは、明らかにそれがあのミスター・ヤマギワだと覚えている様子だ。

ヤンチャで好奇心旺盛な子供のゴリラくんたちが先生にちょっかいを出したあとに、それを見てなのか、大人になると滅多に笑わないはずのタイタスがゲタゲタと笑った。

ただそれだけのことが、とても幸せな気分を醸し出す。

■感動の再会、とばかりに抱き合ったりすることのない、「わかってるよ」っていう感じの抑えた交流がその静かさゆえに却ってつよい感情を染み渡らせるのだ。

言語と引き換えに、動物としてのヒトが失ってしまった本来のコミュニケーションとは、もしかするとそういうものだったのかもしれない。

そこにはヒトとゴリラを区別する明確な境界線を感じることは出来なかったのである。

                            <2009.03.31 記>

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■ ゴリラ 山極 寿一 著 東京大学出版会 (2005/05)
  

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■霧のなかのゴリラ―マウンテンゴリラとの13年
ダイアン フォッシー 著 平凡社 (2002/04)
映画「愛は霧のかなたに」の原作であり、波乱の生涯をゴリラたちに捧げた類人猿研究者ダイアン・フォッシーの自伝。
  

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■[DVD] 愛は霧のかなたに
1988年作品 監督:マイケル・アプテッド 出演:シガニー・ウィーバー

   
■関連記事■

■「ヒト」を「ヒト」たらしめているもの。『爆笑問題のニッポンの教養』 霊長類社会生態学、山極壽一。

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