■ドラマ・銭ゲバ、最終回。テレビドラマという虚構の世界を突き破る試み。
いい意味で期待を裏切ってくれる最終回であった。
■前回の第8話で、あちゃー、と思ったのが正直なところ。
予想もしなかった茜の自殺で何かがぽっかりと抜け落ちていく、そのダメージによって今まで求めてきたものはいったい何だったのか、という疑念が風太郎のなかにうまれてくる。
■そんな不安定な風太郎に追い討ちをかけるように多額の借金を前にして豹変する定食屋一家。
銭だけが力を持つと信じて生きてきた気持ちの奥底で、愛を求め、人の優しさを求め、そうじゃないと否定してくれるものを求めていた、その大切なものが風太郎の両手のうちからすっ、と消えていってしまったのだ。
■で、絶望の淵に立たされた風太郎はダイナマイト自殺を果たすべく、見届け人として緑さんを助手席に乗せ、故郷のつらい思い出がつまった廃屋へと向かう。
その打ち捨てられた漁師小屋の柱には、かつて最初の殺人を犯した幼い風太郎が世間に対する怨嗟の気持ちをこめて彫り込んだ、銭をつかんで幸福になってやる、という決意が刻まれている。
彼の原点がそこにある。
風太郎は身動きが出来ないように自分を椅子に縛り上げ、その幸福の二文字を見つめながら導火線に火をつけるのであった。
と、いうのが前回のお話。
■って、そうじゃないだろう、岡田惠和!
貧乏であるが故に、金さえあれば死ぬことのなかった母親の命を奪い去られた絶望、それが漁師小屋の柱に刻まれた決意ではなかったのか。
その決意とは、金を持たなければ人として生きていくことすら許されない、そんな不条理と欺瞞に充ちたこの世の中に対する復讐ではなかったのか。
愛だとか、優しさだとかがすべて枯れ果ててしまった、金が無ければそういったものはあっさりと逃げていく、幼い瞳に焼き付けられたその真実の残酷さ、それ故の殺人ではなかったのか。
■それを、何をいまさら。
もし、この世に銭金に左右されない真実の愛、真実の優しさがあるのだったら、あのときの風太郎を救ってやれよ、ということだ。
しかも、鬼畜生の類であったはずの父親が、風太郎くん、お金がいっぱいありすぎるのも虚しいもんだね、なんて10億円を返しに来て、悟りきったような口を利くに及んでは、もうあきれ果てるしかない。
■我々が信じて疑わない愛や優しさというものは、実は絶対的なものではないのだ、と常識を覆してみせる、それだけが風太郎に残された道であったはずなのに、それだから風太郎も人であることを捨てて鬼畜の道を選んだはずなのに、その孤立無援の決死の革命を放棄して何の銭ゲバか。
だから、最終回はもうダメだろう、と初めからタカを括っていたのである。
■前置きが少々長すぎた。
さて、最終回である。
導火線につけられた火がどんどん近づいてくる恐怖に次第に耐えられなくなって泣き喚く風太郎。
こんな情けない風太郎をみても、もう驚きやしない。
■そこでCMが入って、ああ、爆発の場面を通りこして後日談に入るのだなという予測はピタリと当たって、
と思っていたら何だかどうも様子がおかしい。
風太郎の人生の回想シーンのようなのだけれども、そこに赤貧のどん底は無く、つつましやかではあるけれど平凡で、それゆえに幸せに充ちた「もし」の世界が語られていく。
そこに鉈の一振りのごとく、実際の忌まわしい過去がザクリと残酷に差し挟まれ、その悪夢が短くなっていく導火線と重なりあって、身動きのとれない風太郎をさらに追い込んでいく。
■これにはやられた。
何しろ第9話、最終回60分のすべてが、この風太郎を追い込む演出に投入されるのだ。
凄い、さすが岡田惠和。
この圧倒的な緊張感を前にして、先にくどくど述べた御託は跡形も無く吹き飛んでしまった。
ああ、ドラマは理屈じゃないな、としみじみ思う。
■極限まで追い込まれた風太郎の救いを求める願いも空しく、漁師小屋は炸裂したダイナマイトによって木っ端微塵に砕かれる。
燃え上がる紅蓮の炎が、それを見届けようとする緑の瞳にゆらゆらと映し出され、まるで本編のような美しさを醸し出す。
蒲郡風太郎という反逆者が確かにこの世に存在したのだと、その事実を胸に刻んで生きていく三國 緑という語り部がいて、そこに観る者は心を重ね、何かを感じ取るのである。
■それだけに最後のセリフを風太郎自身に語らせるラストが残念でならない。
本来そのセリフは蒲郡風太郎という存在を見届けた緑のセリフのはずなのだ。
そこがどうもクドくて後味の悪さが残ってしまう。
墓参りをする緑のシーンで、残されていた風太郎の遺書というカタチでそれを語らせればもう少しすっきりしたのにな、とも思う。
■フィルムの逆回しで爆死直前の風太郎のシーンに戻るアイデアは斬新で素晴らしい。
実際、見ていて意表を突かれ、また一本とられたな、という感じだ。
そこで風太郎に御託を並べさせるのではなく、極限まで追い込まれた風太郎が’一線’を越えて高笑いする、その松山ケンイチの超絶演技に期待する。
そういった語り過ぎない終わらせ方もあったのじゃないか、
ということだ。
■もし岡田惠和の狙いが、テレビドラマという虚構の世界を突き破り、現実に生きる我々に向けて風太郎が直接挑戦状を叩きつける、そこにあったとするならば、この後味の悪さこそが実はその成功の証しなのかもしれない。
いずれにしても、いろいろ考えさせられるへヴィーな最終回であった。
<2009.03.15 記>
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■【原作】
■ 銭ゲバ 上
ジョージ秋山 著 幻冬舎文庫(上/下)
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■STAFF■
原作 : ジョージ秋山『銭ゲバ』(幻冬舎文庫)
脚本 : 岡田惠和
演出 : 大谷太郎、狩山俊輔
音楽 : 金子隆博
主題歌 : かりゆし58 「さよなら」
プロデューサー : 河野英裕、難波利昭
制作 : 日本テレビ
■CAST■
蒲郡風太郎 : 松山ケンイチ
: 齋藤隆成(幼少期)
三國緑(三國家長女): ミムラ
: 森迫永依(幼少期)
三國茜(三國家次女): 木南晴夏
三國譲次(三國造船社長): 山本圭
桑田春子(三國家の家政婦): 志保
荻野聡(刑事) : 宮川大輔
菅田純(刑事) : 鈴木裕樹
蒲郡桃子(風太郎の母): 奥貫薫
蒲郡健蔵(風太郎の父): 椎名桔平
野々村保彦(伊豆屋店主): 光石研
野々村祥子(保彦の妻) : りょう
野々村晴香(保彦の妹) : たくませいこ
野々村香(保彦の姪) : 石橋杏奈
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