■【書評】未来歳時記・バイオの黙示録 諸星大二郎。これぞ諸星ワールドなのだ。
「バイオ」なんて安っぽいタイトルと、ワケのわからないこの表紙。
本屋でこの漫画を買う人って、たぶん諸星大二郎フリークだけなんだろうな。何か見た目で損してるよな・・・、面白いのに。
なぁ、みんな!食わず嫌いはイケないよ!

■未来歳時記・バイオの黙示録 諸星大二郎 著
■11の短編によって構築される悪夢的未来の世界感。
コメディあり、ハードボイルドあり、ホラーありの独立した作品たちが次第につながっていって、この世界の本当の姿が見えてくる、その圧倒的な構成力に思わずうなる。
初期の傑作短編「生物都市」、’おらといっしょに、ぱらいそさ、いくだ!!’の妖怪ハンター「生命の木」。
未来歳時記・バイオの黙示録は、そういった諸星大二郎お得意の奇妙に捻じ曲がったユートピア論であり、久しぶりに作家の本領を味わった。
■諸星大二郎を読んだぞー!!という満足感なのだ。
その点、最近発表されている作品の中でもピカイチだろう。
ファンならば絶対読むべし、だし、不可思議な世界に迷い込むのが好きな人にも是非ともお薦めしたいマンガなのである。
■■■■■■以下、少しネタバレあり■■■■■■
■とさかのついたアタマがあって、コッコッコッなんて鳴きながら隣に植わっているレタスを食い荒らしてしまうチキン風味の「キャベツ」。
美しい女の艶かしい姿で若い農夫を虜にしてしまう「雑草」。
オバサン口調でかしましく人間の言葉でおしゃべりをする養鶏場の「ニワトリ」たち。
■遺伝子操作の技術の行き過ぎが、ニワトリなのかキャベツなのか、雑草なのかヒトなのか、その境界があやふやになってしまっていて、それでも「日常」は、あくまでもこれはキャベツ、美しい女の姿をしていてもこれは雑草、というふうに黒々と明確な境界線を引き、何事もない日々が流れていくかに見える。
だが、読みすすめるうちに、その背景に戦争があったこと。その戦争ではバイオの技術が投入され、それによって世界全体が汚染されていることが明らかになっていく。
■最後の一篇のタイトルは、「風が吹くとき」。
レーガンとブレジネフの時代。
核戦争が起きればお互いの報復攻撃で世界は滅ぶ、そういう危機が目の前の現実として真剣に議論されていた時代があった。
「風が吹くとき(When the Wind Blows)」は、その冷戦のさなかイギリスで出版された本で、後にアニメーション化され、独特の絵本のような優しいタッチで絶望を描き上げ、世界的に有名になった作品である。
■あれから25年くらい経つうちに強固であった冷戦構造は崩れ去り、全面核戦争の恐怖は薄らいでしまった。
ローカルにはまだその危機はあるのだけれど地球全体が危ういという事態はどうやら無くなってしまったようだ。
それに代わる「恐怖」は今のところ地球温暖化なワケだが、いや、それよりも恐ろしい破滅が我々を待ち受けているのかもしれない。
その破滅的な未来のヴィジョンを描いてみせるのが諸星版’風が吹くとき’、「バイオの黙示録」なのである。
■遺伝子操作の恐ろしさは、対象が一体何者なのか、さらに言えば自分自身が何者なのかが分からなくなる原初的な恐怖である。(「シンジュク埠頭」のラヴクラフト的恐怖を見よ!!)
そんな大袈裟な、という見方はあるし、今のところ恐れるほどではないのも事実だろう。
■けれど、ひとつの生命に別の生きものの特徴を組み込むということが一度行われはじめたならば、
「ひとつの系の中では、全体は常に無秩序に向かっていく」
という熱力学第二法則(エントロピー増大の原理)に従って、個々の生命の遺伝子が混ざり合い、いったいそれが何かが分からなくなっていく、というのも方向性としては道理である。
■その混沌がどういうカタチで現れてくるのか、我々凡夫には想像を絶する世界なのだが、日常の薄皮一枚はさんだ向こうに広がる異界があって、その奇妙な世界を日常の延長線上に描かせたら天下に比類するもの無し、なのが諸星大二郎であって、もちろんその期待を裏切られることは無い。
そして、「風」が吹いたあとに、そのままの姿でひとり残ったアンドロイドのサトル君をもってくるラストシーン。この後味がまた格別なのである。
いやー、諸星大二郎って本当に素晴らしいですね!
<2009.03.31 記>
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■未来歳時記・バイオの黙示録
■諸星大二郎 著 集英社 (2008/7/18)

■風が吹くとき
■レイモンド ブリッグズ 著 さくまゆみこ 訳 あすなろ書房 (1998/09)
(英国初版:1982年)

■ ユリイカ 2009年3月号 特集=諸星大二郎 ■この年になってユリイカを買うとは思わなかった(笑)。
「諸星は’AKIRA’の大友克洋と双璧をなす漫画界の雄である」、というとビックリする若い人もいるだろう。
あやふやな線によって漂うその画風は大友克洋のカッチリと隅々まで描き込む画風とは対極で、だからこそ描ける作品がある。唯一無二、それが諸星大二郎の魅力なのである。
本書は諸星を愛してやまない作家や評論家による諸星論がうなっていて、いちいちヒザを打ちながらうんうんとうなづいてしまう。それがまた愉しい。
その上、デビュー時の幻の短編も掲載されていて、
マニア垂涎の一冊なのである。
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