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2009年1月18日 (日)

■【書評】『ジョーカー・ゲーム』、柳 広司。影なき男たちのヒロイズム。

スパイものの連作集なのだけれども、これは面白い。一気に読んだ。

Photo_2 ■ ジョーカー・ゲーム

■太平洋戦争前夜。謎の多い男、結城中佐が発足させたスパイ養成学校”D機関”。

天皇の赤子として喜んで戦地に果てる陸軍の信条を、その内部機関でありながらも非合理的と切り捨てる結城中佐。そのもとで肉体的、精神的に鍛え抜かれた若き精鋭たち。

騙し騙され、誰が敵か味方かも分からない諜報の世界で、決して誰にも知られることの無い静かな戦いを繰り広げる’姿なき’男たちの物語。

■そう聴いて誰もが想像するとおり、本作は陸軍中野学校がモデルになっている。

少し調べてみる限り、長髪、背広姿に、天皇の存在意義を議論する、とても陸軍の組織とは考えられない中野学校の校風がうまく再現されているようだ。

■さて、その中身であるが、5つの短編による連作として構成されている。

結城中佐とD機関の異様さを浮かび上がらせる「ジョーカー・ゲーム」、要人暗殺テロの計画の真偽を確かめるべく英国総領事のもとに潜り込む「幽霊(ゴースト)」、敵地で囚われの身になる「ロビンソン」、上海共同租界に跋扈する魑魅魍魎を描く「魔都」、D機関の卒業試験として独ソの二重スパイの正体に迫る「XX(ダブル・クロス)」。

いずれもスピーディーで淀みが無く、緊張感を途切れさせない良質のサスペンスである。

■それぞれの主人公は、D機関の人間であったり、そこに関わる陸軍の人間であり、それを描くことで「魔人」(というよりスパイマスター)結城中佐の人物像を多面的に描いていく。

結城中佐の口ぐせは「自死や殺人はスパイとしては最悪の選択肢だ」であるのだけれど、それは人道的な考えとは真逆のもので、スパイは人の目についてはいけないという観点から、周辺の耳目をいやでも集めてしまう「死」というものを出来るだけ遠ざけよ、ということである。

■人にその存在を知られてしまう、いや疑いを持たれた時点でスパイ活動は失敗となる。

10年、20年、たった一人で敵地に身を沈め、ごく当たり前の一市民の仮面をかぶりながら、密かに本国に情報を送り続け、一瞬の気の緩みも許されない。

その人生は常にフェイクであり、そこで得た家族も友人も偽りのものであり、その仮面の下の「自己」を表に出すことはなく、その本当の目的を誰に知られることもなく静かに消える。

■そんな男たちが、極めて優秀な知性と能力を持ちながらも「見えない存在」であることに徹し、自己を表現することも認められることもなく、どうやって「自分」を維持して生きていけるのか。

この作品集のテーマは、その点にある。

精神的、肉体的限界を超え、拷問を受けることですら「苦痛には限界があり、それ以上の苦痛は失神に至る」と相対化してしまう男たち。

一生誰も愛さず、何ものも信じないで生きていく。

それを可能にするのは、結局のところ「この程度のことが俺に出来ないはずがない」という恐ろしい程の自負心だけである。

と作中では語られる。

■けれども、そんな非人間的な存在として描かれる結城中佐とD機関の男たちなのであるが、「XX(ダブル・クロス)」という最後の一篇において’ジョーカー・ゲーム’から降りた人間に対する抑えがたい優しさが垣間見えて、「甘い」という見方もあるだろうけれども、やはりホッとしてしまう自分がいる。

それは、そうあって欲しい、という願いが生み出した錯覚なのかもしれないが、その高みに無縁の存在にとってするならば、それでいいのだとおもう。

この続編を是非とも期待したい。

       

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                          <2009.01.18 記>

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Photo_3 ■ ジョーカー・ゲーム
■柳広司 著  角川書店 2008/8/29刊
2008年の「このミス」で2位、「文春ベスト」で3位にランクイン。
   

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コメント

はじめまして、こんにちは。
七生子と申します。
TBいただいたのに遅くなりまして申し訳ありませんでした。

私も同様に続編希望です。
結城中佐の過去のこと、D機関の活躍のみならずぜひその終焉まで読ませて欲しいと切に願っています。
「このミス」での上位ランキングはもとより、吉川英治文学賞新人賞も受賞されたことだし、そう遠くないうちに読めるものと信じています。

投稿: 七生子 | 2009年3月15日 (日) 19時46分

七生子さん、こんばんは。

>結城中佐の過去のこと、D機関の活躍のみならずぜひその終焉まで読ませて欲しい

まったく同感です。
終戦前後のD機関の動きが気になりますね。

投稿: 電気羊 | 2009年3月16日 (月) 23時36分

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