■ヴィルヘルム・ハンマースホイ展 ―静かなる詩情―。抑え、取り去ることで浮かび上がる緩やかな感情、反射する光への憧憬。
絵と向き合ったときに感じる画家自身の主観が、心地良く自分の気持ちの中で再生される。
緩やかで、けれども確かな感情。
極めて個人的な感覚を刺激する、魅力あふれる作品たちであった。
■上野 国立西洋美術館
ヴィルヘルム・ハンマースホイ展 ―静かなる詩情―(2008.9.30~12.07)
■光に魅せられたひとなのだと思う。
デンマークという光に欠しい土地柄が反映されていると断定するのはいい過ぎだけれども、ハンマースホイの室内画に差し込む陽の光が常に角度をもっている、それが豊かな陰影を作り出し、情感を刺激するのは確かなことである。
そのハンマースホイの光へのこだわりは、20歳頃の作品と40歳頃の熟成された作品におけるテーマが全くぶれない、その純粋さに現れている。
■「若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ」1885年(21歳)
■若い頃の作品は’カタチを線で捉えること’に対して頑なに拒絶するかのようにぼやけてみえるのに対して、熟成期の作品は、その拒絶を維持しながらも、くっきりと焦点を結んでいる。
それが、ハンマースホイが20年をかけた、’光’に対するアプローチの結実であり、その底流に流れる気持ち、感情といったものは、感動を覚えるほどに変わらないのである。
■ハンマースホイの自宅における’光’に対するこだわりに登場する人物は視線をこちらに投げかけず、ついには後ろを向いてしまう。
それは、’顔’というものの持つ情報の多さを切り捨て、ひとつだけ残された女性のうなじに反射する光へと、見るものの意識を集中させる効果を生み出している。
意識の集中という意味では「室内、ストランゲーゼ30番地」で見ることの出来る、直線や影の向きが生み出す’集中線’のような効果や、家具の脚を省略してしまう大胆な技法と同一線上にあるテクニックなのだろう。
■音声ガイドでは、その登場人物について、何を考え、何をしようとしているか判別することが出来ない、という主旨のことを解説していたのだけれど、私の受けた印象は全く正反対のものであった。
客観的に分析しようとすれば、確かに判らない、ということになるのかもしれない。
けれど、ハンマースホイの作品と向き合ったときに’わたし’の中で浮き上がってくる感情は、我が家での’静かな幸福感’といった個人的なものであって、そのとき、イーダの後姿に感じるのは、多くのことばを必要しない、家族ならではのあたたかな愛情なのである。
■ついにハンマースホイの室内画からは人物までが消えてしまう。
けれど、そこには我が家に対するあたたかい感情が確かに存在し、それは家族の存在抜きではあり得ないものである。
■「陽光習作」。
中庭から差し込む光のやわらかさ、あたたかさは、ここに於いて家庭のあたたかさと完全に一致する。
人物の表情や仕草が生み出すメッセージは、ハンマースホイの繊細さに対してあまりにも強すぎる。
彼が抱く、そして彼の絵と向き合ったときに’わたし’の中に生まれる感情は、表現を抑制し、取り去ることによって、むしろありありと感じることができるものなのだ。
■ハンマースホイに対するその捉え方は、’わたし’の個人的なものである。
だからこそ孤高の画家との心の響きあいが、うれしい、心地いい。
そこに導いてくれたのは、多分に展示方法、構成の妙によるものである。
100点にものぼる作品群が生み出す流れ自体が、ひとつの作品だといっても過言では無いだろう。
画家との長くおだやかな語らいの最後に措かれた一枚を「中庭の眺め・ストランゲーゼ30番地」とした、そのセンス。
開け放たれた小さな窓の光の向こうに、照れくさそうにさよならを告げる影がみえる。
それが、美術館を去るわたしの中に幸せな気分を生み出してくれた。
■「中庭の眺め・ストランゲーゼ30番地」1899年(35歳)
<2008.12.04 記>
■作品と向き合ううちにあっという間に時間が流れ、外はとっぷりと暮れていて、敷地内を彩るイルミネーションがまた美しかった。
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■【公式HP】ヴィルヘルム・ハンマースホイ展 ―静かなる詩情―
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コメント
こんにちは。
TBありがとうございました。
何かと騒がしい現代において
こういう作家さんと向き合うことが
いかに大切か痛感させられます。
今日が最終日ですね。
投稿: Tak | 2008年12月 7日 (日) 11時07分
Takさん、
コメントどうもありがとうございます。
いい絵画に触れるほど、美術についてもまだまだ勉強することがやまほどあると実感する次第で、これからも時々お邪魔させていただきます。よろしくお願い致します。
投稿: 電気羊 | 2008年12月 8日 (月) 18時41分