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2008年12月

2008年12月29日 (月)

■『クローバーフィールド/HAKISHA』、訳の分からない異常な事態に上書きされていく日常、理不尽な「災厄」。

「あるジャンルの映画」が好きな人間にとってはニヤリとするところが多くて実に楽しめる映画なのだ。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
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No.21  『クローバーフィールド/HAKISHA』
           原題: Cloverfield
           監督: マット・リーヴス  製作; J・J・エイブラムス 
     公開:2008年4月

■ストーリー■
ある夜、日本への栄転が決まったロブを祝うため、サプライズ・パーティが開かれていた。その最中、突如として不気味な爆音が鳴り響く。外の様子を見に屋上へ向かった彼らは、そこで炎に包まれたニューヨーク市街を目撃する。

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■「何か」がマンハッタンに襲いかかる。

高層ビル街に突如として現れる火球。破壊されるビルの谷間に沿って火砕流のように襲ってくる噴煙。瓦礫の街に舞う紙切れ。

訳がわからないままに日常が音を立てて崩壊していくその情景は’9.11’をイヤでも想起させる。

■いわゆる巻きこまれ系のパニック映画なのだけれども、’9.11’をたどることでその非現実にリアリティを与えると同時に、家庭用小型デジタルビデオカメラで撮影されたという設定が全編通して徹底されていて小気味よく、その個人の視点が巻きこまれ感を強調している。

■主人公のロブと彼女のベスとのデートを記録したテープに上書きされていく非現実。

再生される異常な状況の間に時々顔を出す昨日までの平和な日々の映像が実に効果的で、期待し過ぎなければ楽しめる映画だとおもう。

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■さて、怪獣映画としてのクローバーフィールドについて、である。

ハリウッド映画における怪獣映画というのは実はそれほどメジャーではない。

1933年の「キング・コング」がその走りなのだが、その後は巨大怪獣という方向性というよりは’不気味な生物’という方向に流れていく。

そのキング・コングにしても体長7メートルほどでさして驚異的な巨大さ、というわけではない。

それはむしろ正当な設定であって、地球の重力場において50メートルも60メートルもある怪獣が生きものとしての成立するかという以前に、映画として出演者の視点で見たときの怪物のサイズがその肉体をものさしとして実感できる大きさの限界というものがあって、恐怖を醸し出すのであれば人間とさほど変わらない大きさの怪物に収斂していくというのはとても分かりやすい。

その’等身大の恐怖’の進化の頂点に輝くのが、生理的恐怖を醸し出した1979年の「エイリアン」ということになるだろう。

■その一方で、「キング・コング」を祖先としながらも50メートル以上もの巨大化を果たしたのが1954年の「ゴジラ」であり、日本をその生息地として現在に至るまでそのフォーマットを維持しながら生き延びてきた怪獣映画なのである。

50メートルというその巨大さは、当時の高層ビルのサイズから設定されたと記憶しているが、ともかく大きく見上げるサイズであるというのがその意味するところである。

仰ぎ見るその存在は、我々の日常に侵入してくる未知の怪物、というよりは不可避のものとして襲い掛かる災厄であって、その根底には人類の科学技術の過信に対する自然(=神)による天罰というテーマが潜んでいる。

ビキニ環礁における水爆実験による第五福竜丸の被爆事件の延長上に1954年の「ゴジラ」がある、というそこである。

■このクローバーフィールドは、そのエンドロールで流されたテーマ曲を聴くまでも無く「ゴジラ」をリスペクトした怪獣映画である。

1998年の「GODZILLA」(いわゆるハリウッド・ゴジラ)なんていう珍妙な巨大トカゲ映画があったけれども、ハリウッド的感覚で怪獣映画を作ろうとしてもそこに魂は宿らないといういい例である。

それに対してクローバーフィールドは怪獣映画であることに成功しており、その意味で正統にゴジラを継ぐものである。

■高層ビルが破壊されるその様が9.11のテロを思い起こさせるのは必然だ。

9.11をアメリカ的なものをグローバル化という名の下に押し付けるアメリカの傲慢に対する反撃と見るとき、それが決して正当化させるものではないにしろ、安穏としたアメリカの日常を「破壊」したという意味でそれは「ゴジラ」そのものなのだ。

■何故そこに現れたのか、それは一体何ものなのか、

ハッドが構えるビデオカメラに映された’現在進行形’だけに徹底的に情報を制限された作品からは、それは語られることはない。

しかも、ロブとベスの二人が’そこにいた’というメッセージを残そうとしたところで、無情にも大規模爆撃の熱風が彼らを吹き飛ばし、記録はそこで途絶えてしまう。

怪獣が一体どうなったのか、という結末すら明かさずに、ビデオは非日常による上書きを免れた極めて日常的な幸せを映すのみである。

■ここで「原因」とか「理由」をそぎ落としたことによって、むしろそのリアリティが保証されているのかもしれない。

思い返してみれば、9.11テロの生中継をテレビで眺めていたその時点では、一体何が起きているのか、その原因も、理由も全く分からなかったわけで、市民が突然の「災厄」に巻き込まれる状況とはそうしたものなのだろう。

「災厄」とは理不尽なものなのであって、被害者となった市民には何の落ち度があるわけではない。

その割り切れない想いこそが、もしかすると「怪獣映画」の本質なのかもしれない。

     

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                           <2008.12.29 記>

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■もう一つのエンディングというのも気になるが・・・。
 

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■永遠に記憶されるであろうラストシーンには、確かに「割り切れない想い」が込められている。
   

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■平成ガメラ3部作は「怪獣映画」の頂点であり奇跡である。
    

    
■過去記事■

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■STAFF■
監督:マット・リーヴス
脚本:ドリュー・ゴダード
撮影:マイケル・ボンヴィレイン
編集:ケヴィン・スティット
美術デザイン:マーティン・ホイスト
美術監督:ダグ・J・ミーディンク
   
アニマトロニクス:アンディ・クレメント
特殊効果監修:ジョン・ハキアン
視覚効果:ダブル・ネガティブ、ティペット・スタジオ
CG監修:デヴィッド・ヴィッケリー
   
製作:J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク
    バッド・ロボット、パラマウント映画
  


■CAST■
ロブ                : マイケル・スタール=デヴィッド
ジェイソン(ロブの兄)      : マイク・ヴォーゲル
ハッド  (ロブの親友、撮影者): T・J・ミラー
ベス    (ロブの恋人)   : オデット・ユーストマン
マリーナ (ハッドの憧れの人): リジー・キャプラン
リリー   (ジェイソンの恋人) : ジェシカ・ルーカス

       
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2008年12月28日 (日)

■ドラマ 『あの戦争はなんだったのか 日米開戦と東条英機』、昭和も歴史になりにけり。

日米開戦に至るまで、日本の中枢で何が起きていたかを東条英機に焦点をあてて描いたドラマなのだけれども、これがなかなか予想以上に見せる作品であった。

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■東条英機をビートたけしが演じたのだけれども、どこからどうみてもビートたけしであって、ハゲのづらをかぶって軍服を着た日にゃ、もうコントにしか見えなくて笑いをかみ殺していたのだけれども、ドラマが進むに連れてすっかり東条英機に見えてしまうのだから、たけしはやっぱりスゴイ人である。

■陸軍は昭和12年の盧溝橋事件に始まる中国進出の拡大から抜き差しならない状況に自ら嵌まり込んでいき、昭和16年7月の南部仏印進駐が英米の虎の尾を踏み、資源供給を止められた日本は、英米の言いなりとなる’4等国’への後退か、対米開戦かの選択を迫られる状況に追い込まれる。

その究極の状況の中で、戦争回避を望む昭和天皇の意を受け、外交による解決の道を探ろうとする東条英機の苦悩が描かれる。

■それに対して、状況打開のために対米英開戦を早めたい陸軍と、陸軍の尻拭いのための開戦に積極的でない海軍と、米国に裏を見透かされ打つ手が無い外務省。

外交の継続による状況打開か、開戦かの議論は紛糾するも、英米の資源封鎖によって既に開戦が避けられない状況に追い込まれていたわけで、東条英機の苦悩はある意味、昭和天皇に戦争が避けられないと伝える、その帝の意志に反する上奏をせざるを得ないその内的な苦しみにあったといえる。

■その真面目で器の小さな東条英機の人間っぽさをうまく醸し出していたビートたけしの演技のそこが、実にしっくりときたのである。

そして東条英機の人間的側面に光をあてたその点が、開戦に至る道を描く幾多の作品と一線を画するところであったように思うのだ。

■その為には東条英機が向き合う昭和天皇を描かねばならない。

今まで日本の映画やドラマで、裕仁・天皇陛下を役者が演ずるものとしてハッキリと描いた作品はほとんど無かったのではないだろうか。

陛下を画面に出すにしてもその後姿であったりして、ハッキリ正面から言葉を発する作品は記憶には無い。

それを描いた。

■実は、何よりもそこが衝撃的であった。

戦後生まれにとっても「天皇陛下」は特別なものであって、俗世にさらすべからざる存在であったという自分の中の意識に改めて気付いた、その気付きがまた衝撃であったのだ。

崩御があり、平成の世になって20年。

本当の意味で’戦後’が終わったのだ、

’昭和’が歴史になったのだ。

その現実が心に染み渡ったのである。

■戦前と戦後をつなぐ’昭和’という時代は’裕仁’という存在抜きには語れない。

今上天皇にはその特別さは無く、明らかな断層がそこに横たわっていたのだと今になって気付く寂しさといった感情があって、平成20年の暮れを味わってみるのである。
  

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                          <2008.12.28 記>

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■開戦、東條英機が泣いた―昭和史の大河を往く〈第2集〉
保阪正康 著 (2007/06)

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■STAFF■
演出 : 鴨下信一
脚本 : 池端俊策
オリジナルテキスト : 保阪正康
プロデューサー : 八木康夫 堤 慶太 那須田 淳
制作 : TBSテレビ ドラマ制作センター・報道局

  
■CAST■
東条英機(総理大臣・陸軍大臣)ビートたけし
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東郷茂徳(外務大臣) 橋爪 功
近衛文麿(前総理大臣) 山口祐一郎
木戸幸一(内大臣) 風間杜夫
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武藤 章(陸軍省軍務局長) 高橋克実
佐藤賢了(陸軍省軍務局軍務課長) 木村祐一
石井秋穂(陸軍省軍務局軍務課高級課員)阿部 寛
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杉山 元(参謀総長) 平野忠彦 塚田 攻(参謀次長) 目黒祐樹
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嶋田繁太郎(海軍大臣) 伊武雅刀
永野修身(軍令部総長) 六平直政
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賀屋興宣(大蔵大臣) 益岡 徹
鈴木貞一(企画院総裁) 大杉 漣
豊田貞次郎(前外務大臣) 平泉 成
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石井キヨ子(石井秋穂 妻) 檀れい
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昭和天皇 野村萬斎

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吉原政一(東都新聞記者) 高橋克典
徳富蘇峰 西田敏行
 
■物語にさしこまれる高橋克典の新聞記者と徳富蘇峰の二人のシーンはかたはらいたく、まさに蛇足であった。変なことしなきゃいいのに・・・。
  

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2008年12月25日 (木)

■鈍く暗い色をした曇天も、いつか。

2008_12_16_02

生きていく糧と 住む家を追われ

絶望の冷たい風に震えながら この寒空を見上げるとき
  

頭上を覆いつくす 鈍く暗い色をした雲が

たしかに流れていると気が付くことができるならば、

かならず いつか

あたたかい光明が差してくる

     
ただ生き続けていれば それだけでいい

それが一番大切で 実は一番困難なことだとしても

明日を考えることさえ出来れば

一日いちにちを 生きていくことさえ 諦めなければ

朝は必ずやってきて あなたを照らし

その笑顔を取り戻すことができるだろう
    

その笑顔はきっと 

あなたを大切に思ってくれている人の

笑顔をも取り戻すことができるだろう
      

今 自分に出来る一歩を

あきらめないことだと思う

自分の為に というのはもちろん

あなたを大切に思ってくれている人の為に
    

メリー クリスマス!

                     <2008.12.25 記>      

 
■■■ 空の写真 ■■■  
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2008年12月24日 (水)

■NHK 時代劇スペシャル、『花の誇り』。待てばいつか拓ける時が来る。

たまには時代劇もいいもんだ。

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■NHK 時代劇スペシャル「花の誇り」 2008年12月20日午後9時放映

■原作は藤沢周平の短編「榎屋敷宵の春月」、脚本は「電脳コイル」の宮村優子。

これはなかなか面白そうだと見始めたのだけれども、すっかり引き込まれてしまった。

■主人公の田鶴(瀬戸朝香)は三弥(酒井美紀)と幼馴染であったが、十数年前、三弥に振られたことに耐え切れず最愛の義兄が自害してしまい、そのことが田鶴を縛り、三弥を怨むようになる。

現在はお互い夫を持つ身になり、今度は老中職をめぐる旦那の出世競争でライバル関係に。優秀な三弥の夫に負けまいと婿の織之助(田辺誠一)の尻を叩くのだが、釣り道楽の昼行灯になかなか火をつけられず不満を抱えている。

そんな折り、田鶴は旅の侍が刺客に襲われていたのを得意の小太刀で助けたのだが、それが死んだ兄の新十郎(山口馬木也)と瓜二つ。傷の手当をしてあげながら、田鶴はその侍に少ずつ義兄への想いを重ねていく。

結局、その男は藩政を欲しい侭にする筆頭老中(石橋蓮司)の手の者の罠にはまり、殺害されてしまう。彼は筆頭老中の不正を告発すべく江戸屋敷からの密書を携えていたのだ。

その非道を捨ておけない田鶴は、なだめる夫のことばを容れず、実行犯の浪人者に敵討ちを挑もうとするのだが・・・、というお話。

■筆頭老中役の石橋蓮司がはまっていた。

老中候補に挙がったことで挨拶にきた織之助に

カネが欲しい男に見えるか?人を殺めた男に見えるか?

と、含みを持たせた意地の悪い言い方でなぶる。俺はただの悪徳老中じゃないよ、俺に意のままにならなければ出世どころの話じゃないぞ、と座敷犬を抱えながら不敵な笑みを浮かべるいやらしさは石橋蓮司ならではのものである。

■物語の本筋は、養女に貰われてきた田鶴が義兄を慕っていて、それ故に、義兄を袖にして自害にまで追い込んだ幼馴染の三弥が許せない。その想いがほどけていく心の動きにある。

義兄を失ったことで出来た心の洞穴を未だに埋めることが出来ず、三弥を怨み、婿の織之助には義兄の成し得なかった出世を熱望し、義兄に重ねた関根友三郎を殺めた浪人を捨ててはおけぬと勝負を挑む。

田鶴の胸には十数年前に亡くなった義兄の存在が大きくあって、そこを通してしか生きていくことが出来なくなっているのだ。

■夜、浪人を成敗せんと道を急ぐ田鶴の前に三弥が立ちはだかる、その押し問答の末に、三弥は、幼いときから聡明で何でもできる田鶴を慕っていて、その想いが強くて強くて、田鶴に振り向いて欲しいその一心で、その心の裏返しとして「嫌い」という言葉が出ていたのだと告白する。

すべてを悟った田鶴の胸のわだかまりは消え去り、かつて行儀見習いで三弥の粗相をかばってあげていた頃の心が蘇る。

男子校で育った私には、女が女を慕うその感情は量りかねるものではあるが、それでも、三弥の深い想いでお互いのわだかまりが解けていくこの場面は、ドキドキするほど色っぽくもあり深く引き寄せられたシーンである。

■そして関根を斬った浪人者との真剣勝負。

この浪人者も面白い男で、相手が小太刀の使い手と知っていながら長刀に不利な竹林を勝負の場所として選ぶ。

田鶴を女として侮っているのではなく、真剣勝負を楽しんでいるのだ。

状況の不利をものともせず田鶴を追い込む浪人者。

懸命にかわし、ひたすら凌ぎ続ける田鶴。

そして、竹を盾にして浪人と向き合ったその瞬間、さきに抜き取っていた相手の脇差しの鞘で相手の腕を極める。そこへ左手に持ち替えていた小太刀でぐさり。さらに浪人の体勢が崩れたところを逆手で袈裟懸けにずばり。

瀬戸朝香の立ち回りはお世辞にも小太刀の免状持ちとは言いがたいへなへなしたものだったけれど、この最後の決めはさすがにさまになっていてカッコいい。

藤沢周平といえば、「たそがれ清兵衛」も小太刀の使い手で、屋内での戦闘における優位さを描いていたけれど、小太刀が好きなのかね。

情感を味わう類の時代劇といえども、やはり緊張感が張り詰める真剣勝負の場面のレベルの高さが重要で、その緊張感ゆえに、その後の物語に厚みが出るというものだ。

瀬戸朝香、最後のところだけは何度も繰り返し練習させられたんだろうな(笑)。

■結局、筆頭老中の悪行のシッポをつかもうと内密に動いていた改革派の老中がいて、筆頭老中と三弥の夫を含むその取り巻きは失脚し、タナからぼた餅、田鶴の婿・織之助に老中のお鉢が回ってくる。

釣りの極意は?と聞かれた織之助が答えるに、

ただひたすら待つことです。

という伏線が初めの方にあって、田鶴の心を占領していた義兄の存在もまた、静かに落ち着いたものになっている。

■出世したいとか、相手が憎いとか、そういった感情の激流に飲まれず、静かに淡々と時がくるを待つ。

そこがテーマなのだろう、理屈ではなく、織之助の生き様としてそれが語られたからこそ、見るものの胸に響くのだろう。

昔の仲を取り戻した田鶴と三弥が山道を登っていく。

そのさきには見事な桜の木がぽつんとひとつだけあって、季節は晩秋なのだけれども、薄っすらと褐色へと色づいていく様にもまた風情がある、というそれを眺めに登っていくのだ。
  

なにも春を誇る花だけが桜ではない。

  
田鶴と三弥のふたりも、

このドラマを通してその苦しさを見ていた我々も、

既に、そのことは知っている。

      

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                         <2008.12.23 記>

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Photo_3■【文庫】 麦屋町昼下がり
藤沢 周平 著、原作「榎屋敷宵の春月」収録。

Photo■【DVD】 たそがれ清兵衛 \,2198
監督: 山田洋次 出演: 真田広之, 宮沢りえ

   
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■STAFF■
【原作】 藤沢周平「榎屋敷宵の春月」(「麦屋町昼下がり」所収)
【脚本】 宮村優子
【音楽】 遠藤幹雄
【演出】 吉村芳之 (NHKエンタープライズ)

  
■CAST■
■寺井田鶴(30才・ 瀬戸朝香 )…織之助の妻。小太刀の使い手。
■寺井織之助(35才・ 田辺誠一 )…寺井家の婿養子。生きがいは釣りと竿作り。
■寺井新十郎(22才で自決・ 山口馬木也 )…田鶴の義兄。
■寺井仁八郎(62才・ 大谷亮介 )…田鶴の養父。
       
■宗方三弥(30才・ 酒井美紀 )…惣兵衛の妻。田鶴の幼馴染であり、ライバル。
■宗方惣兵衛(35才・ 葛山信吾 )…三弥の夫。差立筆頭御番頭、330石。
     
■関根友三郎(23才・ 山口馬木也、二役)…江戸藩邸の密使。
■小谷三樹之丞( 遠藤憲一 )…藩主側室の兄。藩政の陰の実力者。
   
■平岐 権左衛門( 石橋蓮司 )…筆頭家老。藩政の実質的支配者。
  
田鶴の叔母を演じた松金よね子もいい味を出していた。婿殿に向かって小言をいうその姿は、必殺シリーズで中村主水を’ムコ殿!’と叱りつける菅井きんの雰囲気があって、松金よね子も義母上様役をやれるかもしれませんね(笑)。

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2008年12月22日 (月)

■ドラマ 『ブラッディ・マンデイ』、最終回。さらば、セクシー・マヤ!

最終回、想像以上に盛り上がったね。

こういう期待の裏切り方はいいよな~。

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■第9話で、’ブラッディ・マンデイ’、即ち、BLOODY-Xによる首都多発感染計画は高木藤丸(三浦春馬)の活躍によりそのすべてが阻止された。

って、終わりじゃん。あと2話どうつなぐのサ?

なんてがっかりしてたんだけど、最終回でこう来るか!

いやー、ドラマ「SP」みたいなドッチラケを心配してたんだけど、良かった、良かった。

■Kの正体が音弥(佐藤 健)だなんて、どこの「デビルマン」の飛鳥了だよ!という突っ込みは見事にかわされるわ、ほんとの’ブラッディ・マンデイ’は最近その名も聞かなくなった残虐兵器だわ、残り3分で藤丸の手に首都圏1、200万人の命が託されることになるわで、最後まで十分堪能いたしました。

宗方さんはウイルス学者のくせになんで核攻撃による被害予測に詳しいの!とか、Kは何でひとりきりであの場所にいたのか、教祖さまだったらふつう周辺にガードが付くだろ!とか、1分前に駆けつけた霧島(吉沢 悠)よ、いきなり主犯の急所を撃ち抜くかよ!とか、もろもろ突っ込みどころは満載なんだけれども、展開が速いから、ま、いいかと許せてしまう。

ほんとに濃密な最終回でありました。

■それは基本的に原作のプロットの良さだったり、演出の良さだったりするのだろうけれど、脇役陣の名演が光ったよな、と思う。

それぞれが、それぞれに良かったんだけれども、目立ったところ3人を挙げてみると、

まずは、松重 豊。

この人の雰囲気が好きなんだよな。現場命、行動命の警察官っていう役柄に上手くはまってた。カッコいいよね。変な色気がないところがまたたまらない。

■意外だったのは’J’役の成宮寛貴。

はじめの方は、なんだこの甘っちょろいヤツは!と思ってたんだけど、その複雑な人格が描きこまれてくるにしたがって、どんどん深みを増していった。

最後の藤丸へのメッセージは如何にも’少年マンガ’って感じで、いかがなものかというところだったけど、ふわりと風の中に溶け込んでいく去り方は決まってた。

それは不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫のようにつかみどころ無い雰囲気を丁寧に作り上げてきたからこそ’決まった’のだと思う。いい役者だ。

■で、最後はやっぱり折原マヤ役の吉瀬美智子。

ちょっと、たどたどしいところがまたたまらなくいい。

あんな危険でセクシーな女のひとに流し目されたら、たぶん即死だな。

成田から海外へ飛ぼうとする折原マヤの後ろのパピヨンの刺青の女がいて、その後の彼女に起こることを暗示させるのだけれども、あの少しわざとらしい微笑を浮かべながら2代目パピヨンを返り討ちにするシーンを想像して、うーん、やっぱりいいよな、セクシー・マヤ。なのである。
   

ところで、法務大臣のゴリさん。

あのひとが一番の悪者だった、てことかね。

何か思わせぶりで気になるんだよな。

もしかしてCXに倣って、TBSも映画化路線を行こうってハラか?

・・・まさかね。

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                            <2008.12.22 記>

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Dvd
■ブラッディ・マンデイ DVD-BOX I

■ブラッディ・マンデイ DVD-BOX II
   

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■「ブラッディ・マンデイ」 オリジナル・サウンドトラック

Bloody_monday_2
■【原作】 BLOODY MONDAY 1
龍門諒・作 恵広史・画 (講談社 2007年8月初版)

   

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■CAST■
【高木家】
高木藤丸(主人公、天才ハッカー)     : 三浦春馬

高木遙   (藤丸の妹)             : 川島海荷
高木竜之介(警察庁課長補佐、藤丸の父): 田中哲司
 
【テロリスト集団】
神島紫門  (宗教団体の教祖)      : 嶋田久作
J 神崎潤 (集団の参謀、紫門の息子) : 成宮寛貴
K  (神島紫門の後継者、Jの妹) 
折原マヤ(プロのテロリスト)       : 吉瀬美智子
出門丈一(プロのテロリスト)        : TET
安藤健(ブルーバード、組織のハッカー): 山口龍人
宝生小百合(THIRD-i に潜入したスパイ
): 片瀬那奈
   
【警察庁秘密組織 THIRD-i 】
霧島悟郎(特殊班情報班チーフ)      : 吉沢悠
工藤明(特殊班情報分析官)            : 久保田将至
澤北美姫(特殊班情報分析官)        : 阿南敦子
中川沙織(霧島の婚約者 死亡)        : 原田佳奈
    
加納生馬 (特殊班現場捜査班チーフ): 松重豊
南海かおる(特殊班捜査官)             : 芦名星
   
苑麻孝雄(警察庁警備局局長)         : 中原丈雄
沖田耕一(警察庁課長、死亡)          : 工藤俊作
鎌田淳一郎 (沖田の後任の課長)  : 斉藤 歩
   
九条彰彦(法務大臣、音弥の祖父)  :竜 雷太   
    
【弥生高校新聞部】
九条音弥(藤丸の級友、新聞部長) : 佐藤 健
朝田あおい(藤丸の級友)              : 藤井美菜
安斎真子(藤丸の級友 kANZAkI)     : 徳永えり
立川英(藤丸の級友 死亡)              : 久野雅弘
   
【その他】

船木勘助(警視庁捜査一課刑事)      : 蛍雪次朗
伊庭刑事(舟木の相棒刑事)            : 尾崎右宗
    
敷村壮介(ウイルス学者 死亡)          : 神保悟志
宗方瞳 (敷島の助手)         : 村岡希美 


   
 
■STAFF■
プロデューサー   :蒔田光治、神戸明、樋口優香
脚本         :蒔田光治、渡辺雄介
演出         :平野俊一、波多野貴文、宮下健作
               * * * * * * * * * * * *
音楽         :井筒昭雄
音楽プロデュース :志田博英  
主題歌  : flumpool 『Over the rain ~ひかりの橋~』
               * * * * * * * * * * * * 
特殊メイク      :松井祐一  
アクションコーディネイター :田渕景也
製作         :東宝、TBS 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

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2008年12月21日 (日)

■金曜ドラマ 『流星の絆』、最終回。二宮和也、いいねぇ。

オープニング・テーマでいつもジワりと来ちゃうんだよな。

Photo_2

■このドラマ、何といっても有明功一役の二宮和也だ。

てなことをいうと、彼のことを’ニノ’なんて呼んでるコアなファンから何を今さらと言われてしまいそうだけれども、確かに彼の演技は抜群に上手かった。

錦戸 亮もラスト・フレンズでのDV臭をすっかり拭い去り、戸田恵梨香もいい表情を見せていたんだけれども、それは’自分だけ先に可哀想になっちゃう雰囲気’を醸し出す二宮の芝居に引っ張られた部分も大きかったんじゃないだろうか。

■さらに二宮が輝くのは柏原刑事役、三浦友和と向かい合う場面だ。

そこには、ふたりがお互いの気持ちを確かめ合いつつも探り合うという身震いするような心理的に深い緊張感が生み出されていて、特に最終回とその前の回のふたりのやりとりには思わずうなってしまった。

それが災いしてか、最終回の予告編を見たときに「あんたが犯人なんだろ!!」という二宮のこちら側に対峙している人物が三浦友和だと直感的に分かってしまって悲しい思いをしたのだけれど、それくらいにあのふたりのシーンは特別だったということだ。

■クドカンの脚本は初回のときの印象を裏切るどころか、ますます強力になっていったように思う。

ジョージさん(尾美としのり)のカレーショップにくると人柄が変わってしまう戸神亭御曹司の要潤とか、まったく意味がわからない’マユ無し’こと中島美嘉とか、年末スペシャルまでやってしまった『妄想係長 高山久伸 シリーズ』とか、クドカン的なフェイントが上手く機能していて、逆にそのコントラストが、やるせない東野節を味わい深いものにすることに成功していた。

さすが、と言わざるを得ない。

■が、最後の最後でもったいないことになってしまった。

柏原刑事が有明兄妹の父、母を殺害に及ぶシーン。

ここに、どうしても説得力が感じられないのだ。

息子の手術の為にまとまったカネが要るんだ。というのは分かる。

けど、それで人を殺すところまで行くか。

しかも柏原は現役の刑事なのだ。

■なんとかこの200万をくれ、と寺島進に頼み込むその流れから衝動的に殺害に及ぶ、というよりは、ノミ屋(死語?)でコトの次第を知った柏原が自らの意志で計画的に殺害を行った、という方がまだ分かりがいいし、その冷酷さと息子への愛情との対比が強調されて、柏原という人物にさらに厚みが出たのではないか。

この場面はドラマの基点となるシーンであって、そこで説得力がなくなるとせっかくここまで組み上がってきた3兄妹の複雑な感情がワヤになってしまう。

けれどそれでも、そんな宙ぶらりんの気持ちのままに迎えたラストシーンはやっぱりクドカン的なホンワカとした味わいがあって、ま、いいか、と許せてしまうのだ。

そういういい加減さがクドカンの魅力なんだよな。

  

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                         <2008.12.21 記>

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Photo ■【原作】 流星の絆 東野圭吾 著 (2008年3月初版)

Dvdbox ■【DVD-BOX】 流星の絆

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■STAFF■
原作  : 東野圭吾 「流星の絆」脚本   : 宮藤官九郎
演出 : 金子文紀、石井康晴
プロデューサー : 那須田淳、磯山晶
音楽 : 河野伸

■主題歌 : 『 Beautiful days 』 嵐
● Beautiful days ●

♪空に輝くよよキラリ~、星がじわり~、にじんでくよ~
【動画】 嵐 Beautiful days
 
 
■挿入歌 : 『 ORION 』 中島美嘉

Orion ● ORION ●
 
♪泣いたのは、僕だった~

【動画】ORION - 中島美嘉

      
■CAST■
有明 功一(3兄妹・長男)  : 二宮和也 (嵐)
                  (幼少時代:齋藤隆成)
有明 泰輔(3兄妹・次男)   : 錦戸亮 (NEWS/関ジャニ∞)
                  (幼少時代:嘉数一星)
有明 静奈(3兄妹・末の妹) : 戸田恵梨香
                  (幼少時代:熊田聖亜)
  * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
有明 塔子 (3兄妹の母)   : りょう
有明 幸博 (3兄妹の父)   : 寺島進
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林 ジョージ(カレー店店長、元孤児院の院長)  : 尾美としのり
柏原 康孝(強盗殺害事件を担当した刑事)    : 三浦友和
萩村 信二 (柏原の相棒の若手刑事)     : 設楽統 (バナナマン)
  * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
矢崎 信郎 (静奈の実父) : 国広富之
矢崎 秀子 (信郎の妻)   : 麻生祐未
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戸神 政行  (『とがみ亭』経営者)     : 柄本明
戸神 貴美子 (政行の妻)         : 森下愛子
戸神 行成  (『とがみ亭』の御曹司)   : 要潤
  * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
高山 久伸 (静奈の元上司、妄想係長) : 桐谷健太
サギ (謎の女、功一に惚れている)   : 中島美嘉

・・・ 第7話、刑事ドラマ『おはぎさん』で、「おい、めん棒!ぐずぐずするな!」って呼ばれてた坊主アタマの痩せた若いのが笑えた。確かにめん棒!(爆)。あの人、役者さんじゃなくてADさんかなんかかもな。

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■金曜ドラマ 『流星の絆』 第1話。思い出したくない過去を明るい日常に埋没させようとする努力は、かえって不幸を重く際立たせてしまうのだ。

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2008年12月17日 (水)

■雨上がりに透きとおる、青。

冬の雨はイヤなもんです。

明日は晴れますかね。

2008_12_16_03

                            <2008.12.17 記>

 
■■■ 空の写真 ■■■  
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2008年12月16日 (火)

■「巨匠ピカソ 愛と創造の軌跡」、国立新美術館。ピカソの左目は何を見る。

巨匠、パブロ・ピカソの91年の生涯を約170点の作品によってたどる大回顧展、と銘打つだけあってお腹いっぱいピカソを堪能した午後であった。

1926
■画家とモデル、1926年(45歳)

■・・・のだけれども、正直、ピカソは難しい。

1908年後半以降のキュビズムといわれる作品から受ける印象は混乱ばかりで、ああ、ここに感動を覚えたのだな、と心を寄せる取っ掛かりが見つからない。

そこにあるはずの気持ちを捉えることが出来ないのである。

■「マンドリンを持つ男」(1911年、30歳)の音声ガイドで紹介されていたピカソのコメントが印象深い。

曰く、
  

抽象表現など無いのだ。

常に何かあるものから始めねばならない。

その上で、現実の外観を取り除くことができるのだ。

   
その言葉を何度も繰り返し聞きながら怒涛のような作品群と向かい合ったのだけれども、そのピカソが捉えた現実の’あるもの’が、なかなか見えてこない。

■そんな中で、やっとピカソが私の視界に降りてきた気がしたのが、1937年(56歳)に描かれた「ドラ・マールの肖像」と「マリー=テレーズの肖像」の2点のところだ。

1937_2
■「ドラ・マールの肖像」1937年11月23日パリ

1937_3
■「マリー=テレーズの肖像」1937年12月4日パリ

■妻、オルガとポールという息子がありながら、ピカソは46歳のときに17歳のマリー=テレーズに古代ギリシャ的な美を見つけ、彼女の意志とは関係なく半ば強引に愛人関係に持ち込んでしまう。

54歳のときにマリーとの間に娘・マイアが生まれるその翌年の1936年に、ピカソは写真家でシュルレアリスムの画家でもあるドラ・マールと関係を持ち始める。

その1年後、幼子を抱いたマリー=テレーズとドラ・マールの間にピカソをめぐる確執が高まる状況の中で描かれたのが、この2枚の作品なのである。

■頬に右手の人差し指をあてる同じポーズの作品なのだけれども、受ける印象はまったく違う。

ドラ・マールのしっかりと安定した、意志と知性にあふれるエネルギッシュな感じに比べ、マリー=テレーズは不安定で、繊細で複雑な感情を湛(たた)えている。

それは、「ドラ・マールの肖像」の背景に見える直線と強い暖色系のコントラストによって与えられ、分割された表情の双方に強い意志と知性と情熱を与えられたバランスのよさによって醸し出されるものだ。

一方、「マリー=テレーズの肖像」の背景はグレーにゆがみ、不安定な床から滑り落ちてしまいそうな印象を与え、分割された表情は、不安や悲しみを湛えた右目と、その後ろに控えた女の強さを感じさせる左目によって構成されている。

■次々と自然と沸き起こる感覚を分離し、純化させ、それらを再度コラージュさせたのがキュビズムなのだと思っていたが、この2枚の作品から受けた印象は、

’計算づくなのか!’

という驚きなのである。

一旦そう感じてしまうと、周りの作品たちからも、意図的で冷徹に計算しつくされた「観察者」としてのパブロ・ピカソが浮かび上がってくる。

そこにいるピカソは、好色で高慢でエネルギッシュな’濃い’男などではなく、人間らしい情感をも実験や観察の対象としてしまってそれをよしとする、’世界’を捉える目を手にするために絵画の悪魔に魂を売り払ってしまった男の姿なのである。

■そこで170点の作品を遡り、会場の入り口正面に飾られた「ラ・セレスティーナ」(1904年、23歳)と改めて対峙する。

1904
■「ラ・セレスティーナ」(1904年、23歳)

■20歳のとき、親友カザジェマスを自殺で失ったところから始まる「青の時代」。

片目の老女を描いた「ラ・セレスティーナ」は、その「青の時代」終盤の作品である。

シッカリとこちらを見据える右目とギュッと閉じられた口もと。それに対して白内障なのだろうかどんよりとにごった左目は力なく宙をただよう。

そこには「生」と「死」が混在している。

人生の裏側まで見尽くしてしまったのであろう老女の姿を借りて、生と死が決して切り離すことの出来ないものだという避けられない現実を、鋭く突きつけているのだ。

■始まりにおいてそんな世界の真相にたどり着いてしまった画家が歩む人生とは何か。

喜びがあれば、美しさがあれば、

そこには必ず暗い青色をした死が忍び寄っている。

どれだけ美を見つめ、無意識をもって意味を分解し、その影を消し去ろうとしても、画家がこちら側にいる限りそこから逃れることは出来ないのだ。

■絵画を眺めることは、そこに自らを見つけ出すことに他ならない。

所詮、自らが味わってきた人生の幅を超えて作品を捉えることなど不可能なのだ。

だから、

滲み出てくる「死」との格闘した結果として意味を分解再構成するキュビズムにたどりついた天才が、「生」そのものも分析の対象としてしまうことでかえって幸せから遠ざかってしまう、

というその皮肉は、もはやパブロ・ピカソの人生を離れ、170点の作品群からそれを感じた私自身が背負っているものなのかもしれないし、多分きっとそうなのだろう。

■ただ、91年の生涯を閉じようとしている晩年のピカソが描いた作品からは、そういった’冷たさ’がすっかり影を潜め、無邪気な、子供のような、絵そのものに幸せを感じる素朴があって、最後にそのあたたかさを抱きながら会場を後にすることで救われる気がしたのも確かである。

それは40歳、妻子持ちのサラリーマンの不確かな未来像に対して、あたたかな希望を与えてくれるものだったのだ。

                         <2008.12.16 記>

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2008年12月14日 (日)

■NHKドラマ8 『七瀬ふたたび』最終回。その悲しく透明な美しさ。

透明な光が美しかった。

Photo

■物語の展開に物足りなさを感じるのは、サスペンスものを見すぎた影響なのだろう。

素直なこころで見ていれば、もう少し入り込めたのかもしれない。

それでも最終回まで見続けたのは蓮佛美沙子の透き通るような魅力に惹きつけられたからである。

■決して芝居が上手いとは言えない。

なのに、そこにいるだけで見るものを引きよせる。

これはきっと天性のもので、

さすが大林宣彦をして

「10年に一度の逸材」

と、言わせしめた少女である。

■いわゆる清純。

確かに大林宣彦が好みそうなタイプである。

デビュー当時の原田知世と同じ雰囲気をまとっていて

そう考えると、今はおぼつかない演技であっても

将来的に大きく開化する可能性を秘めているともいえるだろう。

■そこまで書いておきながら、昨年、大林宣彦が蓮佛美沙子主演で新たに撮り直した

 転校生-さよなら あなた- (’07年公開)

を知らなかったというのも実に恥ずかしい話で、穴があったら入りたいくらいなのだけれども、尾美としのりと小林聡美の『転校生』は懐かしく、蓮佛版と合わせて(そのうち)見ようかと、ここは誤魔化しておこう。

■そのうちまた見ようといえば、『ブルークリスマス』。

岡本喜八 監督、倉本聰 脚本、1978年公開の異色のSF映画なんだけれども、今回の「七瀬ふたたび」のラストシーンの美しさが『ブルークリスマス』のやるせないラストを胸に蘇らせたのである。

『ブルークリスマス』のラストシーンにおいて雪の白さの純粋さが重要なファクターになっていたのと同じように、「七瀬ふたたび」のラストシーンの木漏れ日の清々しさが悲劇のなかに救いをもたらしている、その複雑な心情が震わせるのだ。

人間の失われてしまった能力の悲しみといった大きなテーマよりむしろ、ああ「七瀬」はメロドラマだったのだな、と思う。

そういう終わらせ方は結構好きだ。

                               

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                            <2008.12.14 記>

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Photo_2 [DVD] ブルークリスマス

Dvd [DVD] 転校生 さよなら あなた 特別版

Photo_3
NHKドラマ8「七瀬ふたたび」オリジナル・サウンドトラック

[DVD] 七瀬ふたたび (蓮佛美沙子、塩谷瞬 出演)

   
■原作 筒井康隆 七瀬 3部作

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家族八景         七瀬ふたたび     エディプスの恋人

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

■STAFF■
脚本     : 伴一彦
演出     : 笠原友愛、吉川邦夫、松浦善之助、陸田元一
制作統括  : 谷口卓敬、遠藤理史
音楽     : 川井憲次
制作         : NHK、NHKエンタープライズ


  
■CAST■
田中(火田)七瀬   : 蓮佛美沙子
                             奥森皐月(少女時代:)
田中    静子(七瀬の母) : 中村久美 
火田精一郎(七瀬の父) : 小日向文世
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
岩渕恒介(予知能力者)  : 塩谷瞬
ヘンリー(念動力者)       : 郭智博
広瀬朗(テレパスの少年): 宮坂健太
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
真弓瑠璃(七瀬の親友)  : 柳原可奈子
増田(マジックバー店長)  : 北村総一朗
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
漁藤子(未知能力研究者): 水野美紀
高村刑事                       : 市川亀治郎 ・・・この人の違和感は凄かった!
江藤刑事                      : 載寧龍二
佐倉尚吾(パクス・シエンティアの男) :光石 研
西尾正人(透視能力者) :今井朋彦
                 ・・・どうしても、消臭プラグのCMのちょんまげが。

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2008年12月11日 (木)

■ダイオウイカと果て無き空想。 『爆笑問題のニッポンの教養』 海洋生物学、窪寺恒己。

今回のテーマは、海洋生物学。

Photo_3
■ 爆問学問 『爆笑問題のニッポンの教養』(番組HPより)
FILE057:「謎の巨大イカを追え!」 2008.12.09放送
国立科学博物館動物研究部海生無脊椎動物研究グループ長
海洋生物学、窪寺恒己(くぼでらつねみ)。

■船乗りになりたくて、でも目を悪くしてなれなくて、それでも七つの海を渡り歩く人生にあこがれて海洋生物学者になった窪寺先生は、イカ一筋30年の一途な海の男なのである。

そんな華麗なるイカ野郎である窪寺恒己の心を捉えて放さないのが謎の巨大生物ダイオウイカなのだ。

Photo_2
■鳥取県立博物館のダイオウイカ 全長7.3m、胴長1.3m。

■大きいもので胴長が1.8メートル、腕まで含めた全長は6.5メートルにもなるという。

頭巾の大きさが自分の身長くらいで、今いる部屋いっぱいに足を拡げて呼吸をしている、そんなイカと想像すると、ちと怖い。

眼球の真ん中がタテに割れたその頭足類特有の瞳孔で、じっと凝視されようものなら金縛りになって動けなくなるに違いない。

■これまでマッコウクジラの胃袋の中や浜に打ち上げられた死骸でしか人間の目に触れることの無かった深海生物ゆえに、ダイオウイカは我々の好奇心と想像力をかきたてる。

さらにはヨーロッパで全長20メートルにも及ぶダイオウイカが発見されたことがある、なんていうのだから、この海原の底には一体どれだけデカイやつが潜んでいるのかと窪寺先生がハマるのも無理はない。

Photo_4
■海の怪物 『クラーケン』。
 船の全長を50メートルとすると、胴長20メートル、全長80メートルくらいはありそうだ。 

■で、窪寺先生は、ついに生きたダイオウイカを撮影、捕獲することに成功したのである。

   
■【動画】小笠原沖、水深650mから釣り上げられたダイオウイカ

   
確かにデカイ。しかも生きてる!!

なんだけど、

釣り上げられてしまうってのはバケモノとして、どうだろうか。

ということである。

■先生には悪いけれども、

あ、ダイオウイカだ!!スゴイ、スゴイ!!

とその瞬間、別の方向から、ドン!と突然何か大きな力で船が揺さぶられ、デッキに叩きつけられ横倒しになったカメラの前を巨大な触腕がぬるーっ、と横切る。ミシ、ミシ、バキッと船体が砕かれるいやな音、ウアア!!という絶叫とともに被さる波飛沫があって、映像はそこで途切れる。

   
奇跡的に全員無事でしたが・・・

と、ノイズだけになった画面からゆっくりとこちらに顔を向ける窪寺先生の握りこぶしは震えていて、エイハブ船長とダブって見えた。

くらいであって欲しいのである。

■要するに、知りたい、というその一方で、想像力の余地を残して欲しいという矛盾した気持ちを抑えることが出来ないのだ。

知れば知るほど分からないことが増えていって、その正体がつかめなくなっていく。

それが知的好奇心の駆動力であって、今回の映像はその駆動力を断ち切ってしまう、そういうあっけなさを含んでいたと思うのだ。

■北欧の伝承に残る海の怪物クラーケン、19世紀にアフリカ南部のアンゴラ沖に出没し、船乗りたちに恐れられた謎の巨大生物。

それは種としてダイオウイカに近いものではあっても、圧倒的にスケールの違うものであって欲しい。

北極海には体長3メートルにもなるオヒョウというカレイの一種がいるくらいだから、もしかすると極地の深海にはそれこそ体長50メートル級のダイオウイカが潜んでいる、

なんていう空想を無理やり引きずり出しては、何とか好奇心の灯りが途絶えないようにと試みるのである。

                             <2008.12.11 記>

      

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Photo
■『 フューチャー・イズ・ワイルド 』
ドゥーガル・ディクソン、ジョン・アダムス 著 ダイヤモンド社 (2004/1/8) 
■2億年後の地上を支配するのは進化したイカなのであった。

  
   
   
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2008年12月10日 (水)

■ガチャピン、ヒマラヤを行く。

いつのまにやら、ガチャピンがヒマラヤ登頂を達成させていた。

20081127_
■「ガチャピン日記」より

■最高峰エベレストの8,848mと比べてはいけない。

ラヤピークの標高5,520mといえば富士山の1.5倍ほども高いわけで、しかもロッククライムまで必要な難関を自力で登りきったというのだから、バケモノのような体力である。(あ、バケモノだっけ?)

ぬいぐるみ着てるだけでも息苦しいだろうに、

■ところで、わたしがご幼少のみぎりには、ガチャピンはムックと同じく、ただの「なかよしさん」だったと記憶しているのだけど、いつの間に、こんなアクティブな性格になってしまったのだろう(笑)。

この盛り上がりを純粋な幼児期に体験できる今のこどもらがうらやましい。

とにかく、やってみよう!

という姿勢が素晴らしく、いい記憶として胸に残るに違いない。

■さて、次は何に挑戦してくれるのだろうか?

・・・うーん、残るは深海か、いや南極、かな。

そのときは、ペンギンによろしく。

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Photo
■【DVD】ポンキッキーズ21 30周年記念
■         ガチャピン チャレンジ シリーズ

                            <2008.12.10 記>

※12月22日(月)に『Beポンキッキ』(BSフジ)で放送するそうです。
  けど、ウチ、BS見れないんだよな・・・(トホホ)。

    

■【動画】ガチャピン ヒマラヤ ラヤピーク(5520m)登頂

     
■ ガチャピン日記

「登頂~~~!」(2008.11.16)

「応援ありがとう!」(2008.11.22)

      

■関連記事■ ▼けっこう、シビアです▼
■『男が人生の忘れ物に決着をつける時。』 標高8848mの世界。 野口健、チョモランマ登頂。

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2008年12月 9日 (火)

■【書評】『日本語の歴史』。生きていることば。生きている文章への手がかり。

一見、題名はぶっきらぼうでチョット難しそうな感じなのだけれども、著者の人柄によるものなのか、とても分かりやすく、楽しめる本である。

Photo_2
■『日本語の歴史』 山口 仲美 著

■だいたいにおいて、高校時代に勉強した「古文」、「漢文」なるものは苦手であった。

意味のよく分からないひらがなだらけのもじのられつと、これまた意味の良くわからない漢字ばかりの文字の羅列。

部分的に分かりそうで結局分からない、そのフラストレーションが嫌だったのである。

■けれども、この本を読んでいくと、移りゆく日本の時代の流れに沿って「ことば」が展開していく様子が、その時代の現在進行形として、しみじみと伝わってくる。

といって、「古文」、「漢文」が読めるようになるわけではないのだけれども、少なくとも、そこに生きた人たちに興味が湧いてくるということは、決して悪いことではないだろう。

その意味で、高校一年生くらいのときに、この本を読んでいればなあ、という勿体無さを感じた次第である。

■記録として「やまとことば」に漢字を割り当てた奈良時代、ゆるりとした平安貴族文化を匂わせる’かな’の時代、論理と簡潔さを重んじた鎌倉以降の武家言葉、近代のことばがほぼ形作られた江戸のことば。

歴史を学ぶ、ということは、今の我々が生きている「現代」を歴史に連なるものとして理解したときに、今という時代が、完了し確定されたものなんかじゃなく、その文脈の上に新しい歴史を展開している真っ最中なのだという、そこに気付くことなのだと思う。

過去に生きた人々の想いが、我々の「今」のなかに断片的に残っていて、そこに気持ちを向けてやれば、まだそれが生きていることに気がつくことが出来る。

今の言葉もまた、500年後の読み手に感じさせる何かを残しているに違いない、

その感動なのである。

  
■それはそれとして、もうひとつ感じたことがある。

はじめの方で、著者が

時間軸にそって展開していく「ことば」というものは、「絵画」とは別の表現手段なのである。

という意味のことを語っている部分があるのだけれど、

これに、ドン、と突かれたのだ。

■絵画は、そこに描かれたこころの動きを、見るもののペースで探っていき、感じることが出来る。

それに対して、ことばの表現というものは、「語り」であれ、「文章」であれ、それ自体のテンポというものがあって、聞くもの、読むものはそのペースに合わせることで、やっとその意味にたどり着くことが出来る。

■いや、確かに文章を読むことについていえば、途中で止まることも、戻ることも可能なのだけれども、それは書き手が本来意図した「こころの動き」が展開していくのを疎外するもので、たとえばDVDで映画を見るときに分からないからといって一旦停止や巻き戻しをすることで失われるものが確実にあるのと同じことである。

理解すること、と 味わうこと、は違うのだ。

■「書き言葉」と「はなしことば」の言文一致を目指した明治時代以降の苦闘の部分が、その難しさを強調している。

日本語のややこしいところは、表音文字と表意文字が組み合わさった「漢字かなまじり」であるところにあって、「はなしことば」に合わせて「ひらがな」で書けばよろしい、とした時に失われる情報、ニュアンスがあって、それは絶望的なまでに本質に関わる部分なのである。

■「はなしことば」を発するとき、それを聞き取るとき、「漢字」があって初めて、生きたことばになる。

落語の語り口を文章に起こしたときに、「ひらがな」ばっかりじゃあ格好がつかないし、調子が悪い。

その漢字も含めた広い意味でのリズム感が大切で、それが’すべて’といっても過言ではないだろう。

理屈では説明できないのだけれど、活きのいい文章を生み出すコツのその手がかりが、ちょっと見えたような気がして、それだけでも大満足な本なのであった。
   

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                           <2008.12.09 記>

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■『日本語の歴史』 山口 仲美 著 岩波新書(2006/05)
  

   

■関連記事■
■日本語は時代の空気を映し出して変化する「生きもの」なのだ。『爆笑問題のニッポンの教養』 日本語学、山口仲美。

           

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2008年12月 6日 (土)

■銀杏並木。

20081130_
■イチョウ(銀杏・公孫樹)裸子植物門イチョウ綱の中で唯一の現存種

低い日差しが銀杏並木に陰影を与えている。
     

慣れ親しんだ校舎や食堂が

立ち入り禁止のひもで閉じられ 打ち捨てられていても、

泥酔のまま なだれ込んだ学生寮が

見知らぬ よそよそしい匂いを放つ 

清潔な校舎に塗り変えられていても、

変わらない景色というものがあって、
    

それがある限り、

永遠である。

                          <2008.12.07 記>

 
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2008年12月 4日 (木)

■師走の紅葉。

2008_12_04__02

赤が眩しい。

                            <2008.12.04 記>

 
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■ヴィルヘルム・ハンマースホイ展 ―静かなる詩情―。抑え、取り去ることで浮かび上がる緩やかな感情、反射する光への憧憬。

絵と向き合ったときに感じる画家自身の主観が、心地良く自分の気持ちの中で再生される。

緩やかで、けれども確かな感情。

極めて個人的な感覚を刺激する、魅力あふれる作品たちであった。

20081203_3
■上野 国立西洋美術館 
ヴィルヘルム・ハンマースホイ展 ―静かなる詩情―(2008.9.30~12.07)

■光に魅せられたひとなのだと思う。

デンマークという光に欠しい土地柄が反映されていると断定するのはいい過ぎだけれども、ハンマースホイの室内画に差し込む陽の光が常に角度をもっている、それが豊かな陰影を作り出し、情感を刺激するのは確かなことである。

そのハンマースホイの光へのこだわりは、20歳頃の作品と40歳頃の熟成された作品におけるテーマが全くぶれない、その純粋さに現れている。

1885
■「若い女性の肖像、画家の妹アナ・ハンマースホイ」1885年(21歳)

1904
■「背を向けた若い女性のいる室内」1904頃(40歳)

■若い頃の作品は’カタチを線で捉えること’に対して頑なに拒絶するかのようにぼやけてみえるのに対して、熟成期の作品は、その拒絶を維持しながらも、くっきりと焦点を結んでいる。

それが、ハンマースホイが20年をかけた、’光’に対するアプローチの結実であり、その底流に流れる気持ち、感情といったものは、感動を覚えるほどに変わらないのである。

■ハンマースホイの自宅における’光’に対するこだわりに登場する人物は視線をこちらに投げかけず、ついには後ろを向いてしまう。

それは、’顔’というものの持つ情報の多さを切り捨て、ひとつだけ残された女性のうなじに反射する光へと、見るものの意識を集中させる効果を生み出している。

意識の集中という意味では「室内、ストランゲーゼ30番地」で見ることの出来る、直線や影の向きが生み出す’集中線’のような効果や、家具の脚を省略してしまう大胆な技法と同一線上にあるテクニックなのだろう。

301901
■「室内、ストランゲーゼ30番地」1901年(37歳)

■音声ガイドでは、その登場人物について、何を考え、何をしようとしているか判別することが出来ない、という主旨のことを解説していたのだけれど、私の受けた印象は全く正反対のものであった。

客観的に分析しようとすれば、確かに判らない、ということになるのかもしれない。

けれど、ハンマースホイの作品と向き合ったときに’わたし’の中で浮き上がってくる感情は、我が家での’静かな幸福感’といった個人的なものであって、そのとき、イーダの後姿に感じるのは、多くのことばを必要しない、家族ならではのあたたかな愛情なのである。

■ついにハンマースホイの室内画からは人物までが消えてしまう。

けれど、そこには我が家に対するあたたかい感情が確かに存在し、それは家族の存在抜きではあり得ないものである。

1906
■「陽光習作」1906年(42歳)

■「陽光習作」。

中庭から差し込む光のやわらかさ、あたたかさは、ここに於いて家庭のあたたかさと完全に一致する。

人物の表情や仕草が生み出すメッセージは、ハンマースホイの繊細さに対してあまりにも強すぎる。

彼が抱く、そして彼の絵と向き合ったときに’わたし’の中に生まれる感情は、表現を抑制し、取り去ることによって、むしろありありと感じることができるものなのだ。

■ハンマースホイに対するその捉え方は、’わたし’の個人的なものである。

だからこそ孤高の画家との心の響きあいが、うれしい、心地いい。

そこに導いてくれたのは、多分に展示方法、構成の妙によるものである。

100点にものぼる作品群が生み出す流れ自体が、ひとつの作品だといっても過言では無いだろう。

画家との長くおだやかな語らいの最後に措かれた一枚を「中庭の眺め・ストランゲーゼ30番地」とした、そのセンス。

開け放たれた小さな窓の光の向こうに、照れくさそうにさよならを告げる影がみえる。

それが、美術館を去るわたしの中に幸せな気分を生み出してくれた。

1899
■「中庭の眺め・ストランゲーゼ30番地」1899年(35歳)

                          <2008.12.04 記>

      

_
Hammershoi i Dreyer

  

20081203
■作品と向き合ううちにあっという間に時間が流れ、外はとっぷりと暮れていて、敷地内を彩るイルミネーションがまた美しかった。

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■【公式HP】ヴィルヘルム・ハンマースホイ展 ―静かなる詩情―

■トラックバックさせていただきます■
’弐代目・青い日記帳’ さんの「ハンマースホイ展」
 

■過去記事■ 文化・芸術など

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2008年12月 3日 (水)

■語座、霜月会。対面と、同化と、考える’わたし’。

「霜月会」と題した、語座の勉強会を観させてもらった。

20081130_
■場所は井の頭線、駒場東大前の閑静な住宅街。ふつうの高級住宅っぽいお宅の地下に作られた超ミニ・コンサートホール「ムジク・ピアフォーヌ」。面白い空間でした。

■勉強会とはいっても、木戸銭1,000円也のミニ公演といった試みで、内輪の勉強会から外に飛び出して是非とも一般の人に聞いてもらいたい、という主旨のようである。

読み手は4人。

小さなステージに置かれたスタンドに本を開き、それぞれ15分ほどの短い物語を「読み」、「語る」。

それぞれの語りを聞いて素直に感じたことを短く書きとめておこう。

■『ストーカー』 作・森江 賢二 語人・宮垣 静佳

しつこくつきまとわれていると相談に現れた女が、その状況を語るうちに・・・。という話なのだけれども、世界が入れ替わる場面がきれいに展開された。

それだけに転調の後の余韻に不安定さが残ってしまう。

そのあたり、ひどく難しい題材であったようにも思える。

■『父の手』    作・石田 衣良 語人・西田 貴史

仕事をやめる決意をこころに帰郷した男と、それを迎える父親の深い思いの人情話。

目を閉じて聞いていると情景が自然と湧き上がり、男を追いかけてきた女の、そのまた違った色調のあたたかさが彩りを添える。

響きのいい、けれど少しクセのある声色が印象的であった。

■『ボディチェックが終わらない』 

          作・高松 永佐 語人・稲垣 文子

旅行先で病気に倒れた妻を迎えにいく、という父親をひとりで行かせるのが心配で付き添った世話焼きの娘を待ち受ける悪夢の話。

母親が待っている旅先というイメージをポンとおいていながら、一向に前に進まない。

というか、あっちこっちに引きずり回されて、いったいどこに流れていくのか分からない居心地の悪さ。

あ、この不安な感覚を伝えたかったのか、と気付いたときに

いつの間にやら落ち着くところに納まってしまう。

予測不可能の不安感と、その落ち着きどころの感情の質的ギャップをしかと味あわせて頂いた。

間の取り方も、予測を半歩ずらされた感じで効果的であった。

■『旅する本』  作・角田 光代 語人・栗田 圭

古本屋で売り払った本にまつわる不思議な話。

手放した本が10年、20年の時間をおいて異国の古本屋で待ち構えているなんていう、とてもアリエナイ話なのだけれど、そこを上手く引き込む手錬である。

語り手は、聞いている’わたし’に対面して何かを伝えようというのではなく、語り手と’わたし’が同じ方向を向いて歩んでいる。

その感覚が心地いい。

■さて、締めて4つのお話を聞き終えた。

と思ったら、今回の案内人・語座 座長、槇 大輔さん自ら、読み語りを聞かせてくれた。

いわゆる「取り」、というヤツでしょうか。

■『車坂』    作・宮部みゆき 語人・槇 大輔

「芸」っていうのはこういうものなのか。

語り手はありありとそこに在るのだけれど、感じない。

考える’わたし’は最早そこには無く、物語の世界に漂っている。

「落ち」の瞬間に、ふと我に返る。この爽快感。

いや、もうこれ以上 語れません。

    
ごちそうさまでした。

                          <2008.12.03 記>

       

Photo
ミステリー傑作選・特別編〈6〉自選ショート・ミステリー(2) (講談社文庫)
宮部みゆき 「車坂」収録

   
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■語座(Katari-Za)  

          

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2008年12月 1日 (月)

■銀杏(いちょう)のある空。

20081130_

晴天に 黄色く透明な 銀杏の葉が映える。

    

20081130_2

いい天気だ。

                            <2008.12.01 記>

 
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■「プロ魂」 王貞治。シッカリとした手応えのある人生は、あまりにも魅力的すぎるから。

王さん最後の一年の特集、これには思いっきり引き込まれた。

Photo
■「プロ魂」―王貞治の言葉― NHK総合 2008.11.29放送

「プロは基本的に失敗しちゃいけないんですよ、

’人間は失敗するもの’なんて言う人はミスをするんですよ、

また、それも多いんですよ。」

   
■厳しい言葉である。

自分が「人間は失敗するもの」なんて言う方なもんだから、

いきなりガツンとどやしつけられた感じである。

何しろ、あの王さんが言うのだからグーの音も出ない。

■15年。無我夢中でがむしゃらに突き進んだ結果、絶望的な壁にぶち当たり、あえなく失速。

自分の情けなさを認め、むしろ肩の力を抜いて、ゆるりとした構えに活路を見出そうとしている、この現在。

それだけに、

「この一球は二度とない」

とか、

「『終わり』まであきらめるな」

というシッカリとした手応えのある言葉を聞くと、ついその魅惑に引きずり戻されてしまいそうになるのである。

■けれども何かを変えなければ同じことの繰り返し。

王さんの語る道が自分の考える「情熱」とか「覚悟」といったものと重なって見えるうちは戻るべきではないとも思う。

■だから今は、いま見えかけている道をまっすぐ向いて、王さんの言葉は引き出しの中に埋めてしまおう。

いつかそこから何かが芽生えてくるかもしれないその時に、王さんの言葉の意味が違うカタチで見えてくる。

        
この際、自然と湧き上がるその期待も一緒に埋めてしまおう。

今の自分にはあまりにも魅力的すぎるのだ。

                         <2008.11.30 記>

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