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2008年12月29日 (月)

■『クローバーフィールド/HAKISHA』、訳の分からない異常な事態に上書きされていく日常、理不尽な「災厄」。

「あるジャンルの映画」が好きな人間にとってはニヤリとするところが多くて実に楽しめる映画なのだ。

●●● 名画座 『キネマ電気羊』 ●●●
    
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No.21  『クローバーフィールド/HAKISHA』
           原題: Cloverfield
           監督: マット・リーヴス  製作; J・J・エイブラムス 
     公開:2008年4月

■ストーリー■
ある夜、日本への栄転が決まったロブを祝うため、サプライズ・パーティが開かれていた。その最中、突如として不気味な爆音が鳴り響く。外の様子を見に屋上へ向かった彼らは、そこで炎に包まれたニューヨーク市街を目撃する。

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■「何か」がマンハッタンに襲いかかる。

高層ビル街に突如として現れる火球。破壊されるビルの谷間に沿って火砕流のように襲ってくる噴煙。瓦礫の街に舞う紙切れ。

訳がわからないままに日常が音を立てて崩壊していくその情景は’9.11’をイヤでも想起させる。

■いわゆる巻きこまれ系のパニック映画なのだけれども、’9.11’をたどることでその非現実にリアリティを与えると同時に、家庭用小型デジタルビデオカメラで撮影されたという設定が全編通して徹底されていて小気味よく、その個人の視点が巻きこまれ感を強調している。

■主人公のロブと彼女のベスとのデートを記録したテープに上書きされていく非現実。

再生される異常な状況の間に時々顔を出す昨日までの平和な日々の映像が実に効果的で、期待し過ぎなければ楽しめる映画だとおもう。

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■■■ 以下、ネタバレ注意 ■■■

■さて、怪獣映画としてのクローバーフィールドについて、である。

ハリウッド映画における怪獣映画というのは実はそれほどメジャーではない。

1933年の「キング・コング」がその走りなのだが、その後は巨大怪獣という方向性というよりは’不気味な生物’という方向に流れていく。

そのキング・コングにしても体長7メートルほどでさして驚異的な巨大さ、というわけではない。

それはむしろ正当な設定であって、地球の重力場において50メートルも60メートルもある怪獣が生きものとしての成立するかという以前に、映画として出演者の視点で見たときの怪物のサイズがその肉体をものさしとして実感できる大きさの限界というものがあって、恐怖を醸し出すのであれば人間とさほど変わらない大きさの怪物に収斂していくというのはとても分かりやすい。

その’等身大の恐怖’の進化の頂点に輝くのが、生理的恐怖を醸し出した1979年の「エイリアン」ということになるだろう。

■その一方で、「キング・コング」を祖先としながらも50メートル以上もの巨大化を果たしたのが1954年の「ゴジラ」であり、日本をその生息地として現在に至るまでそのフォーマットを維持しながら生き延びてきた怪獣映画なのである。

50メートルというその巨大さは、当時の高層ビルのサイズから設定されたと記憶しているが、ともかく大きく見上げるサイズであるというのがその意味するところである。

仰ぎ見るその存在は、我々の日常に侵入してくる未知の怪物、というよりは不可避のものとして襲い掛かる災厄であって、その根底には人類の科学技術の過信に対する自然(=神)による天罰というテーマが潜んでいる。

ビキニ環礁における水爆実験による第五福竜丸の被爆事件の延長上に1954年の「ゴジラ」がある、というそこである。

■このクローバーフィールドは、そのエンドロールで流されたテーマ曲を聴くまでも無く「ゴジラ」をリスペクトした怪獣映画である。

1998年の「GODZILLA」(いわゆるハリウッド・ゴジラ)なんていう珍妙な巨大トカゲ映画があったけれども、ハリウッド的感覚で怪獣映画を作ろうとしてもそこに魂は宿らないといういい例である。

それに対してクローバーフィールドは怪獣映画であることに成功しており、その意味で正統にゴジラを継ぐものである。

■高層ビルが破壊されるその様が9.11のテロを思い起こさせるのは必然だ。

9.11をアメリカ的なものをグローバル化という名の下に押し付けるアメリカの傲慢に対する反撃と見るとき、それが決して正当化させるものではないにしろ、安穏としたアメリカの日常を「破壊」したという意味でそれは「ゴジラ」そのものなのだ。

■何故そこに現れたのか、それは一体何ものなのか、

ハッドが構えるビデオカメラに映された’現在進行形’だけに徹底的に情報を制限された作品からは、それは語られることはない。

しかも、ロブとベスの二人が’そこにいた’というメッセージを残そうとしたところで、無情にも大規模爆撃の熱風が彼らを吹き飛ばし、記録はそこで途絶えてしまう。

怪獣が一体どうなったのか、という結末すら明かさずに、ビデオは非日常による上書きを免れた極めて日常的な幸せを映すのみである。

■ここで「原因」とか「理由」をそぎ落としたことによって、むしろそのリアリティが保証されているのかもしれない。

思い返してみれば、9.11テロの生中継をテレビで眺めていたその時点では、一体何が起きているのか、その原因も、理由も全く分からなかったわけで、市民が突然の「災厄」に巻き込まれる状況とはそうしたものなのだろう。

「災厄」とは理不尽なものなのであって、被害者となった市民には何の落ち度があるわけではない。

その割り切れない想いこそが、もしかすると「怪獣映画」の本質なのかもしれない。

     

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■過去記事■

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■STAFF■
監督:マット・リーヴス
脚本:ドリュー・ゴダード
撮影:マイケル・ボンヴィレイン
編集:ケヴィン・スティット
美術デザイン:マーティン・ホイスト
美術監督:ダグ・J・ミーディンク
   
アニマトロニクス:アンディ・クレメント
特殊効果監修:ジョン・ハキアン
視覚効果:ダブル・ネガティブ、ティペット・スタジオ
CG監修:デヴィッド・ヴィッケリー
   
製作:J・J・エイブラムス、ブライアン・バーク
    バッド・ロボット、パラマウント映画
  


■CAST■
ロブ                : マイケル・スタール=デヴィッド
ジェイソン(ロブの兄)      : マイク・ヴォーゲル
ハッド  (ロブの親友、撮影者): T・J・ミラー
ベス    (ロブの恋人)   : オデット・ユーストマン
マリーナ (ハッドの憧れの人): リジー・キャプラン
リリー   (ジェイソンの恋人) : ジェシカ・ルーカス

       
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コメント

今年もたくさんの記事で心豊かに過ごさせていただき、
ありがとうございました。
健康で1年過ごせたことに感謝しつつ・・・
良いお年をお迎えください

投稿: 臨床検査技師 | 2008年12月31日 (水) 22時36分

臨床検査技師さん、
あけましておめでとうございます。

今年もボチボチ記事をアップしていきたいと思いますので、
よろしくお願い致します。

投稿: 電気羊 | 2009年1月 3日 (土) 01時54分

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