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2008年11月21日 (金)

■NHKスペシャル「微笑と虐待 ~証言 アブグレイブ刑務所事件~」。あらわにされたアメリカの暗黒面。

衝撃的なドキュメンタリーであった。

Photo
■NHKスペシャル「微笑と虐待 ~証言 アブグレイブ刑務所事件~」
   2008.11.17放送

■2004年5月初め、一枚の写真が世界中に駆け巡った。

タバコを咥えてニヤリと笑う米軍女性兵士が指差す先には、全裸のイラク人捕虜たちが情けない姿で整列させられている。

イラク、バクダッドの西32kmにあるアブグレイブ刑務所で起きた捕虜拷問事件である。

■心理学にアイヒマン テスト(ミルグラム実験)やスタンフォード監獄実験といった有名な実験がある。これらは、権威に対する人間の弱さ、或いは外部から閉ざされた状況下で弱い立場の人間を虐待してしまう人間の心の弱さを見せつける恐るべき実験である。

こういう実験で示されたものが実際にはどのように起こるのか。

Nスペでアブグレイブ刑務所の話をやると聞いて興味を持ったのはそこである。

■だがその期待はいい意味で裏切られた。

件(くだん)の写真で微笑みを見せていたリンディ・イングランド元上等兵や、それを指示したグレイナー伍長、それを告発し、その後家族とともに身を隠さざるを得なくなってしまった元兵士、刑務所の監督者であったジャニス・カーピンスキー元准将といった、あの事件に関わった面々とのインタビューで構成された番組は、「そこで起きたこと」を多面的に浮かび上がらせる。

そこに現れてきたのは「捕虜虐待」という単なる事件ではなく、「如何に効率的に捕虜に情報を吐き出させるか」を実践する、軍による計画的な作戦(オペレーション)だ。

哀れなリンディーは冷酷な「虐待の女王」などではなく、実は「イラク人の捕虜を辱めろ」という命令に従った末端の一兵士に過ぎなかったという意外な構図なのである。

■この作戦の中心人物はミラー少将という尋問の専門家。

キューバ東南部にあるグアンタナモ米軍基地は、アルカイダやタリバンなどのテロリストとして多数の容疑者が収容されており、そこでは人権を無視した激しい拷問・虐待が行われているとして悪名が高い。

ミラー少将はそのグアンタナモから来た男であり、その目的はアブグレイブ刑務所を「グアンタナモ」にすることだったのだ。

■にもかかわらず、例の写真が公開され世界中に非難の声が広がった後に始まった軍法会議で処分されたのは虐待写真に写った人物及びそれを撮影した人物のみ。

命令を遂行した者だけが罪を問われる、明らかなトカゲのシッポ切りである。

その一方で、ミラー少将に権限を奪われたカーピンスキー元准将の口からは、この事件の背景としてブッシュ(大統領)、チェイニー(副大統領)、ラムズフェルド(国防長官)といった名が挙げられた。

この虐待が始まった2003年10月頃は、米軍が血眼になってサダム・フセインの居場所を探していた時期である。そこに強い関係性を想像するのは素直な考え方であろう。

つまりは「国家による犯罪」だったというわけだ。

(そして12月にサダム・フセインは米軍によって逮捕されることになる。)

■さて、ここで気になるのはNHKは何故今頃になってあの事件の特集を放映したのか、ということだ。

本件を多面的なインタビューで構成するためには欠くことのできない「虐待の女王」の仮出所を待ったということだろうか。

それにしてもオバマ新大統領が確定してからの放映というのはタイミングが良すぎる気がするのである。

ブッシュ、チェイニー、ラムズフェルドを「犯罪」の黒幕として名指しで告発しているようにも捉えることが出来るこの特集。

「政治的配慮」があったとしても不思議ではない。

■それはさておき、この特集で語られたことが事実だとして、アメリカの正義感の裏に潜む「暗黒面」やネオコン(新保守主義)を批判するのは非常にたやすいことである。

この時期なら尚更だ。

けれど所詮、戦争なんていうものは(神に?)許され、正当化された大量虐殺なのであって、キレイもキタナイもないのである。

し、「イラク人に対しては何の感情もなかった」と証言するリンディーと、テロリストとおぼしきイラク人に向けて何のためらいもなく引き金を引く前線の兵士との差は極めて小さい。

■そういう意味では、むしろ利権がらみの「ブッシュの戦争」は分かりやすい分だけまだマシで、それを引き継ぐオバマ新大統領が「正義」とか「救う」とか言い出したとしたら、その方が泥沼の事態を引き起こしたりして厄介なことになるのかもしれない。

「対話」だ。とオバマさんはいうけれど、我々人類が紀元前の昔から止めることが出来ない戦争をなくすということに対してはわたしはとても悲観的で、ただただ変なことにならないように祈るのみなのである。

                           <2008.11.20 記>
     

■関連記事■
■NHKスペシャル『戦場 心の傷 兵士はどう戦わされてきたか/ママはイラクへ行った』。敵から守るはずだった幸福に見放される矛盾。

   
■参考記事■

■イラク虐待写真をめぐる権力闘争  田中 宇 (2004.5.11)   

   
■NHKスペシャル「微笑と虐待 ~証言 アブグレイブ刑務所事件~」

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コメント

こんにちわ。NHKスペシャル「微笑みと虐待」をキーワードに、こちらに来ました。
私はNスペは大体毎週見るようにしているのですが、アブグレイブ刑務所を描いた、このNスペは、今年のNスペでも秀逸の1本だと思いました。そして、あなたの批評も秀逸です・・。

確かに、何故今放送??というのは、考えてもいい要素かも知れません。目からウロコでした。

国家の犯罪・・確かにそうですね・・。
それを、多面的にインタビューで浮かび上がらせていました。
しかも、僕は、最後のインタビューで
「撮られた事が罪なんだ」という言葉に
背筋がゾクゾクとなりました。
(ちなみに、今週の日曜は、戦時中の日本の戦争犯罪をドラマでやるみたいですが・・
そちらはどうなんでしょうか?とは思っていますが)

何故今??という疑問は残るものの、証言で描ききった力作だと思います・。

又、やってきます・・。
秀逸な批評続けて下さい!

投稿: Nスペファン | 2008年12月 2日 (火) 22時56分

Nスペファンさんへ

気に入って頂けてとてもうれしいです。
Nスペ、面白いですよね。
これからもぼちぼち書いくつもりですので、気が向いたときにでも眺めにいらしてくださいネ。いつでも歓迎です。

投稿: 電気羊 | 2008年12月 3日 (水) 07時14分

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