■『古代文明と気候大変動―人類の運命を変えた二万年史 』 ブライアン・フェイガン。巨大なシステムが崩壊するとき。
地球温暖化による気候変動は社会問題としてようやく世の中に定着してきたが、どうやらそれは、何も現代になって初めて我々人類が直面する事態ではないようだ。
遠く1万8千年前のクロマニヨン人の時代からずーっと我々は気候の変動に晒され続け、その後に築き上げた文明の盛衰も、その気候変動に大きく左右されてきたのである。

■古代文明と気候大変動―人類の運命を変えた二万年史
ブライアン・フェイガン 著
■南極大陸ボストーク湖の氷床コアを調べると、約42万年前からだいたい10万年の周期で氷期と温暖期が繰り返されてきたことが分かる。
現代は、そこから4回の氷期を越え、約1万5千年前に始まった温暖期にあたる。
■温暖期の初め。しばらく気候は安定せず、あたかも呼吸をするかのように寒冷な地域が広がったり狭まったりする状態が続いていた。
その「呼吸」に合わせて行ったり来たりの移動を繰り返しながら人類の生息域は拡がっていき、アフリカから出発した人類は約1万4千年前に南米チリにまで到達する。
この時代の人類は狩猟によって生活をしており、食料となる獲物とともに移動し続けることで激変する気候に適応していたのである。
■ところが約1万年前になると地球をとりまく海流の大きな流れが安定し、気候の変動が小さくなった。
すると人々は河のほとりに拡がる森林の縁での採集生活から、小麦などの作物の栽培をするようになり、そこで必要となる脱穀などの重労働は「移動する生活」から「一つの場所に定住する」という新たな生活スタイルを生み出した。
農耕の進歩とともに小さな村落は地縁、血縁や宗教的つながりが強化され発展し、街となり、都市となった。
■けれど、比較的安定した、とは言っても気候の変動が全く無くなったわけではなく、相変わらず人類はその影響を受け続けた。
けれど移動する能力を失ってしまった人類にとって、気候変動は時として致命的なものとなる。
約1万2000年前、カナダの氷床の大規模な融解がメキシコ湾に流れ込み、「大規模な海流」を動かすポンプ機能が弱まったこと(ヤンガー・ドライアス・イベント)で引き起こされた旱魃はシリアのユーフラテス川沿いに生まれた「初めての定住集落」を散り散りにさせ、
約6000年前、地球の自転軸が変化したことで日射量が増加して1000年以上続いた大規模な旱魃はメソポタミアの世界最古の都市を崩壊に導き、
約1000年前の欧州に温暖化をもたらし文明を復興させた海流の変化は、地球の裏側の南米西岸では乾燥化を進行させ、マヤ文明を衰退させた。
■文明が進むにつれ、都市の規模拡大は気候変動に対応して移動する能力を奪い、都市生活における職業の分化は、荒野へ分散して自活する力を個人から剥ぎ取っていった。
狩猟、採集によって移動し続けた時代に我々が持っていた環境対応能力は失われ、旱魃などの気候変動によって大量の餓死者を生み出すことになった。
そして、都市の規模や人口が拡大していくにしたがって、その被害はさらに甚大なものになっていくのだ。
■地球温暖化問題を解決すべくCO2排出量を削減しようという世界的な動きは、気候変動のスピードと規模をやわらげるハタラキが得られるかも知れず、それはそれで大切なことだと思う。
けれど、CO2を削減したところで気候変動は確実に大きな波としてやってくる。
産業革命以降のCO2濃度の上昇は恐ろしいスピードで進んでいるが、先に挙げたように、それ以前にも地球レベルでの大規模な気候変動は何度となく我々を襲っている。
それは避けられないことなのだ。
■この危機の本質はマスコミが煽り立てるような「氷が溶けてシロクマが困る」ということには無い。
現実として直視すべきなのは、目前に迫った我ら同胞の「大量餓死」なのである。
食糧は今や完全にグローバル経済に取り込まれ、一部の国の大規模農業に集約されてしまった。
しかも、CO2削減はバイオ燃料の「成長」を予測させ、投機マネーが食糧相場を不当に跳吊り上げて穀物の世界的な流通が滞るという皮肉まで発生している。
■そんな状況の中で、われわれが肌身に感じているように、気候変動の波は大きく振れ始めている。
それは水害や熱波などの直接的被害をもたらすだけではなく、いままで安定的な収穫を約束されてきた農作物の生産に大きなダメージを与えることになる。
集約化された穀物生産がかかえるリスクは大きく、このまま座していれば世界的な「飢饉」が我々を襲う可能性だって否定できないのだ。
■アフリカや東南アジアでは、今、この瞬間にも子供たちが飢えと栄養失調で亡くなっていく。
世界的な食糧不足の犠牲になるのは、グローバル経済によって穀物生産能力を奪われ、高騰した穀物を購入する資金のない貧しい国の人々である。
CO2削減に盛り上がるのいいけれど、気候変動の結果として確実に発生するであろう悲劇に対して何らかの対策を考えておくべきだろう。
■それは単なるヒューマニズムの問題ではない。
21世紀に入って帝国間の抗争が終焉を迎え、9.11の狼煙とともにその引き潮の中から現れてきた新たな矛盾。
それは「ゲームの勝者」と「ゲームに参加できない者」、或いは「ゲームに参加することを拒む者」とのあいだに生じる軋轢であり、21世紀の新たな戦争のカタチである。
そして気候変動による大規模な食糧危機と「持つ者」と「持たざる者」との格差の拡大は、その軋轢をさらに強化していくだろう。
だから、子供たちや孫たちが安心して生きていける世の中を維持していくためにも、必要な準備はあるのだと思う。
<2008.10.21 記>
■古代文明と気候大変動―人類の運命を変えた二万年史
ブライアン・フェイガン 著 (単行本2005/6月 文庫2008/6月)
■単行本を買って積読しているうちに文庫版が出てしまった・・・(涙;)。
■ 参考 ■
NHKスペシャル 2008.10.19(日)放送
世界同時食糧危機(2)食糧争奪戦 ~輸入大国・日本の苦闘~
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